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読書メモ⑮

『逆転の大中国史 ユーラシアの視点から』楊 海英(文藝春秋)

 かなり面白かったです。平易な文章で書いてくれてるので読みやすいですし、お薦めです。
 モンゴルのオルドス出身の文化人類学者である著者が日本人の固定観念がこびりついた中国史をひっくり返してくれます。というか、そうだよね~というか。これで中国が理解できるというか。
 本書の中ではシナって呼称が使われてるのですが。英語のチャイナの当て字が「シナ」。それに対して「中国」はあくまで1912年に成立した国家を指す。古代からシナ人が活動していた場所をシナと呼ぶってことで。そうすると、ユーラシア大陸を席捲した遊牧民文化に対して、シナってめっさローカルなのですね。

 現代中国が拗らせてる原因は「中華思想」にあって、「原・中華思想」と「コンプレックスとしての中華思想」に分けられる。「原・中華思想」では古代中原に成立した都市国家には国境という概念が存在しないというのですね。日本なら「この川と山を境に、自分たちが住むムラと、向こう側に別のムラが存在する」って地理的環境に基づいてアイデンティティがうまれるけど、古代シナでは自然的国境がなかった。国境とは人工的なもので、国力が高まれば自由に変更可能なもの。しかも「北方民族に侵略されたという意識はもつが、自分たちがモンゴル平原や新疆(東トルキスタン)に侵入しても、「侵略した」という意識は皆無である」(p20より)なんというジャイアニズム。恐ろしいですね。今問題になってる九段線についても「つぎは当然のように、「マラッカ海峡までが中国だ」と拡張してくるはずである」と。コワイ……。

「敗者のコンプレックスとしての中華思想」はもっとやっかいで、高い文明を自負していただけに遊牧騎馬民族に敗北したときのダメージは大きく、その結果あくまで自分たちの王朝を正統と言い通す。「定南」「定東」「鎮西」「平東」「綏遠」など支配のおよんでいない地域に勝手に名称をつけてヴァーチャルな統治を先行させる。って妄想じゃん(-_-;)
 歴史との向き合い方もそうで、「異民族による征服王朝であることがわかっていながら、「偉大な漢民族にとって隋唐時代がもっとも華やかな王朝であった」とか、「元朝は、中国がもっとも強大な領土を保有した時代だ」と平気で嘘をつく」(p28より)
 そして近代、日本の台頭でさらにコンプレックスを拗らせ、このコンプレックスゆえに「中国はいつまでたってもきちんと近代とむきあい、自分のものとすることができないのだ」と著者はしています。

 と、シナとの関係を絡めつつ、歴史学、考古学の先達たちの研究や豊富なフィールドワークの成果を駆使して、遊牧民の文明・歴史・思想が紹介されてます。

 私が反応してしまったのは、漢の皇帝劉邦が死んだあと、匈奴の冒頓単于が未亡人である呂太后に、お互い独身なんだから契らない? と手紙をだして激怒させた逸話について。「しかし、冒頓単于の振る舞いは、遊牧民としては当然のことであり、「女性に出会えば、口説かないと失礼にあたる」との文化のあらわれである」(p139より)
 ほほう! では『女神墜落』でミマスが女神さまに嫁にくるかとコナかけたのは正解なのですね!(おい) ミマスのモデルはスキタイ人なので、実は。

 終盤では、現在中国が抱える宗教問題と民族問題に触れています。中国の人口は十三億人。そのなかで、キリスト教徒の数は一億三千万人。将来世界最大のキリスト教国になる見方もあるというのに、外国勢力の介入を許さない中国政府はバチカンと断絶している。すごい歪ですよね、これ。
「中国では政権が不安定になると、地下に隠れていた宗教団体が、反乱という形で姿をあらわす。(中略)中国共産党の覇権にほころびが生まれるとすれば、宗教政策の失敗からはじまる可能性が高い、と指摘しておこう」(p297より)

 うーむ、どうなるんだろう。と、遊牧民の文明について勉強したくて手に取ったのに、中国の現在に思いを馳せてしまう一冊なのでした。
 で、結びはこう。
「最後に、梅貞忠夫氏はその名著『文明の生態史観』のなかで、「現代的課題」はなにかというと、生活水準の向上である、と将来に向けてユニークな発言をしていた。ソ連消滅後の「孤独な中国的特色のある専制主義」だけがのこる現在、格差解消などやはり文明論的にくらしの改善について、考えなければならないだろう」

 これって限られた分野、国の話はないですね。日本としても、世界規模でも。格差をなくす。外交問題や社会福祉的なことは政治家に任せなければなりませんが(任せられる人を選挙で選ぶの、大事!)、私たちにもできることは何か。
 大きな視野で見れば、できることはたくさんあります。食品ロスをなくすために過剰な買い物はしない、まだ食べられる食品を廃棄しない。あるいは、医療負担を軽減するために、自分自身の健康管理をしっかりする、など。
 どんな小さなことでも大きなことにつながるという希望を持って、ひとりひとりが考え、行動する必要があると感じます。


 長くなってしまったので一旦区切ります。近々また読書メモやります。

8件のコメント

  • こんにちは~(*´▽`*)
    奈月様の最後の文章が心にささりまして。

    食品ロスの問題も、医療費の問題も、自分一人だけの努力じゃどうせ変わらない、って思いがちですけど、どんな小さな一歩、小さな工夫だって、しないよりはずっとずっといいと思います(*´▽`*)

    とある本で読みましたけれど、1.01を365乗したら37.8になって、0.99を365乗したら0.03だそうです。
    ほんの0.01でもここまで違うのですから、自分でささいなことだと思っていても、よりよくする行動を続けてほしい、自分も続けたいなと思います(*´▽`*)

    すみません、急に。お邪魔しました……(*ノωノ)
  • 完全に偏見なんですけど、教職についてる人である程度上の年代の方(はっきり言うとおじいちゃん先生)は中国のことをシナっていうイメージがあります。
    私に中国哲学を教えてくれた人もそんな言い方をしてましたね。

    中国の伝統としては祖霊信仰が強いんでしょうから、外部の一神を崇める宗教は為政者からすれば邪魔くさいですかね。
    でも、キリスト教信者がそんなに増えてるとは知りませんでした。
    へえ~。(゜-゜)


    食品ロスはね~。
    飲食店でバイトしたことあるんですけど、暗憺たる気持ちになりますね。
    誰がどれだけ声高に食品ロス問題を叫ぼうと、日本のサービス業の精神の前にはまるで響いてないんだろうな、と。

    どっぼどぼ捨てるんですよ、野菜のパックとか。
    そりゃロス率なんか下がるわけないよな、って思っちゃいました。
  • 綾束様

     ありがとうございます(/_;)
     私もお母さんなので、子どもたちが大人になる頃にはどんな世の中になってるんだろうって考えちゃいます。無責任な親世代のせいでって失望されないよう、できることをやらないとって思います。
     そうなのですよね。ひとりの力は小さいけど、みんなでやれば大きな力になる。その意識をもってより良い行動を心掛けたいですね。子どもたちに恥ずかしくないように。子どもたちにもそうなってほしいですし。


    lagerさま

     第二次世界大戦後、GHQの命令と「支那」は差別用語じゃないかって過度に自粛したことで、すべて「中国」って言い換えられるようになったとかって。
     近代以前の中国を指すならシナが正しいのだよね。さすが先生。

     そうなんですよねー。道教。中国人がどうして他の宗教を恐れるのかっていうと、道教の世界観は「天帝思想」で天帝に命じられた皇帝が現世をおさめる。なので他の宗教を見るとき指導者が「皇帝」、教団幹部が「大臣」、信者は「兵隊」と置き換えるんですって(;^ω^) 「宗教団体がおおくの信者をあつめるということは、かれらの発想では、反対勢力が革命の準備をおこなっているようなものなのである」なんですって。んな馬鹿なって思うけど、これがマジなのが中華思想ゆえらしいです。
     道教教団が貧民層に秘密結社として広がって反乱を起こすってことが歴史上何度となくあったからかなーとも。
     何しろ人口が多いから……何が怖いってそこだよね。

     私もケーキ屋でバイトしてた時クリスマスの翌日の光景に「うわあー」ってなりました。日本のサービス過多、ダメダメだよね。
     でも過剰包装の問題も、今ではレジバッグやリサイクル回収が根付いたし、消費者が意識を変えていくことで少しずつでも変わるといいなーと願ってます。
  •  中国の歴史、面白いですよね。

     冒頓単于と言えば、僕は自分の愛馬や妻妾に矢を射かけさせて忠誠心を試した逸話が刺激的でしたね。それでためらった人間にどれほど重要な忠臣がいたかもわからないのに、ひとつの目的のためだけに断行できる狂気にも近い凄さ。
     でも、これでさえ当時の冒頓単于には狂気ではなく冷静な判断だったのでしょうね。

     漢帝国が恐れたというのも、わかる気がします……。
  •  ちょっとだけ。
     食品ロスはですね、儲け主義の世の中ではどうしようもないのですよ。
     大量に作って売る。で、余ったものの処理費用は儲けの微々たるもの。
     足りないと言われないように用意するんです。余る事を見越しているんです。捨てる事が前提なんです。
     でね、でね、売れ残りを安く売るのは一部お店なんです。
     一度安く売ったら、消費者がそれを狙ってくるから。
     だったら捨てた方が儲かるんです。
     農家もそうだって言ってました。安く売らないって。
     味が変わらなければ、見てくれが悪くても買いますよね。安いならなおさらです。それを消費者に狙われてしまうと、儲からなくなってしまうんです。
     その程度で済めばいいですが、生活ができなくなってしまうって言ってました。
     だから程度の悪い野菜とかは、自分の家で食べるか、近所にあげるか、捨てるしかないと。
     恵方巻とか、クリスマスケーキとかの影に隠れて、農作物も山のように捨てられているんです。生活する為に。

     難しいですよね。捨てられる前提で作られている訳ですし、消費者も安い方を買いたいですから。
  • 油布さま

     そこまでして権力を握りたかった冒頓も部族の長たちに承認されなければ軍事力を行使できなかったのですよね。代表ってだけで独裁ではない。
     そこも皇帝だけに権力が集中するシナ国家と遊牧民との違いでおもしろいなと。


    えーきちさま

     棄てた方が儲かるはバブル末期の考え方だと思うのです。売り切った方が良いのです。
     ケーキ屋さんの話ですが、ここだけの話、ケーキを大量に処分した年配の店長は移動になって、次に来た若い店長は、そもそも予約以外の仕入れの数をセーブしたし、それでも売れ残ったのは従業員に配ったり、ホールケーキをカットしてトッピングを代えて、セール価格にして売り切りました。
     今思うと、会社のマニュアル的にどっちが正しかったんだろうって。そもそもマニュアルがなかったから現場の対応がここまで真逆になったのかもですが。
     これも二十年前の話なので、今はクリスマスケーキは予約販売が主流だし恵方巻もそうなるみたいですね。
     値引きタブーだったコンビニも「売り切った方が良い」に舵きりを始めました。
     https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44932010X10C19A5SHB000/
     日経新聞の記事です。

     食品ロス法成立に関して日本農業新聞にも記事がありました。
     https://www.agrinews.co.jp/p47655.html

    「意識改革主導を」ってありますね。
     農家さんについては、意識が足りてないって問題が本当に大きいのではないでしょうか。経営のノウハウがなく取り残されてる人たちがいるって問題です。守られすぎちゃっていて考えることをしてこなかったから。
     後継者問題なども絡んで行動できる人、できない人の差もあるでしょう。でもサポートを求めることはできると思うのです。そこでまた情報格差の問題があるのですが……。
     高齢の方には身近な人が教えてあげられれば良いのですけど。でも、だからって言うとおりにしてくれるわけじゃないですしね……
  •  いい動きが始まっているのですね。
     私なんか、安ければ買っちゃいますけど(笑
     そう、イベントものなんかは予約販売でいいんですよ。
  •  私も安ければいいので見切り品ばかり買っちゃいます……
     賞味期限が少し過ぎたくらい気にしませんし~。ダンナも以前は「捨てろ」なんて言ってたけど、最近は「じゃあそれ俺が食う」とかって慣れてくれました。くっくっく。
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