『スキタイと匈奴 遊牧の文明』林俊雄(講談社学術文庫2390)
考古学からのアプローチで騎馬遊牧民の誕生と文明に迫る一冊。広大なユーラシアの草原で次々発見される古墳の発掘の様子にどきどきわくわくです。
発掘された馬具や装飾品、美術品の意匠について詳しく解説されてるのが面白かったです。スキタイ美術にしか見られない特徴があって、ユーラシアに広く点在してるんです。そんな中でもペルシア風とかギリシア風とか、他地域のモチーフを自分たちのものにしてるのですね。いかに行動・伝播範囲が広く多様な文明だったか分かる。シルクロードにオアシスルートが開かれるはるか以前から草原を行き来していたわけです。
アルタイの奇跡と言われる凍結墓パジリク古墳群からは、絨毯やフェルトの壁掛けなどがほぼ当時のまま出土してるのです、すごい。フェルト製の鞍覆いがなんともおしゃれ。またなんとも可愛いのがフェルトの壁掛けにアップリケで表現された女神と王様。王様が乗った馬とか服装とか、顔のパーツとかが現代だったら子ども部屋に飾られるような素朴なつくりなのです。かわいい~。
埋葬された馬も飾り立ててあったらしいのですが、その復元図が衝撃です。馬が鹿の角の被り物をしてるのです! そんな馬鹿な、とか言ったらいけませんよ(爆) 角が生え変わる鹿は再生を意味する神聖なモチーフですが、鹿に馬具を付けて騎乗することはできない。それで馬に鹿の扮装をさせたのだろうっていうのですが……良きパートナーとして死後のお供までしてるのに、鹿のコスプレをさせられる馬の立場は……。
とまあ、スキタイ美術にやられてしまいました。これほとんどエルミタージュ美術館蔵なのです、むー。日本に展示来ないかなあ。
この凍結墓の遺物のおかげでヘロドトスの王の葬儀に関する記述が合ってることが確認されたりも。発掘で文献の正否が証明されたこともすごいけど、ヘロドトスの観察力、記述力もすごい。
ところで。前の読書メモの『逆転の大中国史 ユーラシアの視点から』では文化としてスルーされていた冒頓から呂后への手紙の件が、こちらではセクハラ事件としてあつかわれてます。ええはい、当人がセクハラと受け止めればセクハラですからね。仕方ないですね。でもセクハラって言われるのが怖くて気軽に口説けなくなっちゃうのも人間学的に…………相手に気があるかないかくらい読み取ってからアプローチしろよってことなんですが…………でもなあ、その学習だって場数を踏まねばならないわけで…………エンドレス
『ユダヤ教の誕生 「一神教」成立の謎』荒井章三(講談社学術文2152)
小家畜飼育者の家長の「神」がどうして世界宗教の唯一神になったのか。聖書を丁寧に紐解きながら神の変化に焦点を当てる一冊。……イマイチかみ砕けてないので、このテーマについては割愛します(おい)
遊牧民ですよ、遊牧民(そこか)
馬が家畜化される前、羊や山羊の行動半径は小さく小家畜飼育者は農村の近くで生活した。だったのが、土地を取得して農業を得て定住すると何が起こるか。富の蓄積による王権の誕生と住民の格差、ですね。そこから王国の崩壊も始まる。
騎馬遊牧民が活躍できたのは馬の機動力と軍事力があったからってことがよく分かります。馬は偉大。コスプレさせちゃかわいそう。