こんにちは、白猫なおです。いつも温かな応援ありがとうございます。皆さまの励ましが創作意欲の源になっております。これからも引き続き応援していただければ嬉しいです。
今日の閑話投稿にて六章は終了となります。明日からは七章 罠 に入ります。楽しいんで頂ければ嬉しいです。今後も白猫なおと魔法使いの子育て奮闘記を宜しくお願いします。(=^・^=)
魔法使いの子育て奮闘記SS【懐かしい思い出】
壊れかけの建物を見ながらアダルヘルムはつい口元が緩んでしまうのを感じた。
ララ様はどこまでアラスター様に似ているのでしょうか……
あれはまだエレノアとアラスターが婚約者だったころの話だ。
ある国の王子が妹を使いエレノアの事を男性抜きの茶会へと呼びだした。
護衛であるアダルヘルムは別室で待機となり、女性たちは楽しそうにお茶会を始めていた。
だが、夕刻になってもお茶会が終わったとの連絡がアダルヘルムには入ってこなかった。流石に変だと気づき近くの使用人に訪ねると、今日は ”お泊まり会” に変更になったのだと教えられた。
不審に思いながらもアダルヘルムは用意された部屋で待機をしていた、するとそこに何時もの様にアラスターとマトヴィルが突然現れたのだった。
「アダルヘルム、遅いのでエレノアを迎えに来たぞ」
突然目の前に転移してアラスターが飛んでくることは何時もの事なので、アダルヘルムは特に驚くことは無かった。
アラスターに事の詳細を伝えると恐ろしいほど冷たい空気が流れた。
「これは……説明を聞く必要があるだろう……」
不敵に微笑むアラスターの指示でアダルヘルムがその手を掴むと、一瞬でエレノアの居る部屋へと転移した。
エレノアはベットに横になっており、近くには見知らぬメイドが付いていた。
メイドは突然目に前に人が現れたことに驚くと、悲鳴を上げて部屋を出て行った。不審者と思ったのだろう、助けを求めに行った様だった。
アラスターは寝ているエレノアにサッと癒しを掛けた。
エレノアは目を覚ますと、そこにアラスターが居る事に一瞬驚きはしたが、直ぐに満面の笑顔で愛しい婚約者に抱き着いた。
「アラスター様、迎えに来てくださったのですね」
アラスターは優しくエレノアの頭を撫でると、何があったのかを聞いた。
どうやら茶会で出たお茶を飲んでからの記憶が無い様だ。きっと薬でも飲まされたのだろうと想像が出来た。
アラスターはエレノアには穏やかな笑みを向けたままだったが、先程の冷たい空気よりもずっと重い物を体に纏っているようにアダルヘルムには見えた。
横ではマトヴィルがそれを見て喜んでいるのが分かった。暴れられるとでも思って居る様だった。
「そなたたち、何者だ! 我が妃に何をしている!」
王子らしき人物が護衛を大勢引き連れて部屋へと飛び込んできた。
アラスターはすぐにエレノアをアダルヘルムに預けると、愚かな王子と向き合った。
その王子は以前からエレノアに婚姻をしつこく申し込んでいた者で、アダルヘルムが要注意としていた者だった。
「エレノアは私の婚約者ですが……いつあなたの妃になったのでしょうか?」
アラスターが威圧を掛けて睨むと王子は「ウッ……」と唸った。だが、これ程の事を起こしてしまった以上途中で諦めるつもりは無い様で、何とか持ちこたえると、愚かにもアラスターに決闘を申し込んできたのだった。
「エレノア様を我が妃にする、私はそなたに決闘を申し込むぞ!」
ここまで愚かな王子とは……この国はこの者が跡を継げば滅びてしまうでしょう……
アダルヘルムが王子の行いに呆れていると、アラスターはニヤリと笑いその決闘を受けた。マトヴィルはワクワクが抑えられないようで、目を輝かせていた。
「ふむ。その決闘受けましょう」
「ハハハッ! 愚か者め! 決闘とは一対一ではない! ここに居る我らすべてとだ! 者どもあの者を始末しろ!」
王子が合図した瞬間、護衛たちはその場にバタリと倒れてしまった。アラスターが全員をのしてしまったことはアダルヘルムにはすぐに分かった。きっと威圧だけで倒してしまったのだろうと、そう思った。
王子は一瞬で自分を守る護衛が倒れてしまった事に腰を抜かすと、その場にしゃがみ込んでしまった。だがアラスターの怒りはこれで収まらなかった。
大切な婚約者であるエレノアに薬を飲ませたのだ。許す気など無い様だった。
アラスターは腰の剣を抜くと、城の壁に向かって一振りした。
すると魔力の剣先が延び、城には大きな切れ目が出来てしまった。
王子は恐怖のあまり粗相をしてしまったようで、尻を引きづりながら後退りしていた。アラスターはそんな王子にわざと転移して近づくと、もう一度話しかけた。
「エレノアは私の婚約者だが、まだ決闘を申し込むのか?」
「ひぃぃぃ! 化け物め!」
「ふむ。まだ分からぬようだな……」
アラスターは城の壁に近づくと今度は勢いよくパンチを入れた。すると、城は音を立てて少しづつ崩れ始めた。
「どうだ? これでもまだ謝る気は無いか?」
王子はアラスターにまた転移で近づかれると今度は泡を吹いて倒れてしまった。
そこに国の王である王子の父親と王妃である母親が血相を変えて部屋へと飛び込んできた。
城が崩れ始めたことで王子のしでかした誘拐事件の事を娘から聞き、慌てて部屋へと飛んできたようだった。
「も、申し訳ございません! ディープウッズ家の婚約者に手を出すなど、恐れ多いことを致しました」
「王よ、私の婚約者だからという事ではなく、誰に対しても権威を振りかざして手に入れようとする行いは許せることではない、王子には良く言い聞かせるように……」
「は、はい! 申し訳ございませんでした」
アラスターは「次は無い」と王たちに言い残すと、皆を連れて転移をしたのだった。それはアダルヘルムにとって懐かしい思い出であった。
アダルヘルムが崩れていく ”スカァルク” という名の店を見つめて居ると、ララらしき人物が男を引きずりながら建物から出てくるのが分かった。
アダルヘルムが急いで近づくと、ララはホッとしたようにその場に倒れ込んだ。
それを慌ててアダルヘルムが抱え上げる。
「アダルヘルム……メグは……無事ですか?」
「ええ、ララ様、ビルとカイの妹は無事でございますよ」
「……ああ……良かったです……」
そう言い残して意識を手放したララをアダルヘルムはギュッと抱きしめた。
弱い物に対して理不尽な要求をするものをアラスターもララも許すことは無い、二人の似通り過ぎている所に頭を痛めながらも、嬉しくて自然と口元が緩むのをアダルヘルムは感じるのだった。