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「視線」 初期稿

ショートショートのなる木(https://kakuyomu.jp/works/16817330654849646944 )十三話の「視線」の初期稿です。

2016年7月に書いたものでした。終わりのあたりが結構変わっています。語り掛ける系から一人称に変わりました。当時はめっちゃ語り掛ける系主人公を書いていたみたいです。

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「人違い」


 俺は心霊体験っていうのはしたことがないんだけど、ちょっと聞いてくれる?

 小さい頃に親の手を掴んだと思ったら知らない人だったって話なんだけど。



 人ゴミが嫌いだった俺は「早くおうち帰ろう」って言ったわけ。
「そうね。早く帰りましょうね」
 そこで初めて知らない人に話しかけたのに気付いた。
 おばさん、っていってもそれなりに若いんだけど。その人すげぇ美人なのね。
 で、そのおばさんはニッコリ笑って俺の手を掴んだ。
 このまま知らないところに連れていかれる!!
 って思って、小さかったから周りも気にせずギャン泣きした。
「泣かないで~」
 そういっておばさんは俺をあやし始めた。周りから見たらきっと親子に見えただろうね。
 誰も助けてくれなかった。
 でも泣いていたからか、親が見つけてくれた。
 
 それから買い物に行ったときとかにそのおばさんを見かけることがあった。
 幼稚園の送り迎えとかさ小学校の行事とかさ、そういうところにもやってくるわけ。
 さすがに親も焦ってたよ。
 俺は「警察に助けてもらおう」って言ったんだけど、かわいそうな人だからダメだってさ。


 なんでも昔に子供がいなくなっちゃったんだって。海でさ。
 死体が見つかってなくてさ、おばさんそれからちょっと変になったらしいんだ。

 で俺はその子供に少し似てるらしい。
 親は誘拐されるかもって心配して、おばさんの家族に相談した。おばさんの父親だ。常識があって真面目を絵に描いたような人で、相談すると「すみません。注意しておきます」って頭下げてくれた。
 そしたらいつも感じてたおばさんの視線がぱったりなくなったよ。




 一週間くらいして俺はおばさんの家に行った。
 おばさんの父親が「娘が謝りたいと言っている。来てもらえないか」って言うんだよ。


 で、その時の事は覚えてないって言ってるんだけど、本当は覚えてる。
 座敷に通されて、おじさんは二階にいった。
 今思うとバカだけど、キッチンを見たりトイレを見たり。人の家って面白くってさ。で、風呂場を見てたときに閉まってた蓋がバタンって浮いたんだ。
 気になって蓋をあけたらおばさんがアザだらけになって縛られてるの。もうガムテープだらけ。
 俺は急いでガムテープをはずした。
「おばさん大丈夫?」
「ぼく、早くお家に帰りなさい!」
 けがしてるおばさんを放っておけないじゃない。救急車呼ばないと!って玄関のあたりにあった電話のところに行ったんだよ。
 電話って機種によってボタンを押すとわりと音、響くんだよね。
 階段を下りてくる足音がして、おばさんも俺の方に向かって走ってくるわけ。
「はやく逃げて!!」
 怒鳴られてさ。
 気づいたら玄関の扉に激突してて、おじさんに思いっきり蹴り飛ばされたらしいんだ。蹴り飛ばされたってわかったのはおじさんの足が蹴った感じで止まってたから。
「何で殺したのに戻ってくるんだ!」
 言いながらおじさんは受話器を戻した。
 おばさんがおじさんを止めている。
「ぼく、早くお家に帰りなさい!!」
 そう言われても痛いわなんだで、結局逃げられずにおじさんに殴られた。
 何度も殴るからさ、もう死ぬかと思ったよ。
 おばさんが怖い顔で「もう限界です」っておじさんに抱きついた。
 そのままおじさんは動かないし、おばさんはどんどん強く抱き着いてるし。
 俺は外に飛び出した。
 そして公衆電話探して救急車を呼んだ。
 サイレンが聞こえてきたときにおばさんが外に出てきたんだ。なんか赤くなってた。
「ぼく。今日の事は何も覚えていないって言うのよ」
 おばさんは変な人だから捕まらないんだって。
 俺のことをかばったから正当防衛なんだってさ。


 あれから何年も経って、俺はタバコも酒も大好きな大人になった。
 今でもたまにおばさんの視線を感じることがある。
 俺が約束を守っているかどうか気になるんじゃないかな。
 
 
 親に、おばさん元気かなって言ったら「死んじゃったでしょ」って言うんだよ。
 じゃあ俺が感じた視線は気のせいなのかな。って言ってる今さ、すごい視線を感じるんだよね。


 俺の後ろに女の人立ってたりする?
 あー、……分かった。何人かいるんだね?

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