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『万年シルバー』㉞ エレオノーラ編② エレオノーラ視点

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 こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922
 の幕間を公開している近況ノートです。

 エレオノーラ編②のネタバレを含みます。
 
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 「えっ、それで無理矢理ついてく事にしたの? うわぁ、リーダー大変だなぁ」

 私達がまだ南洋の、砦宿から聖都へ向けて出発する前。
 私と、ブリジットと、マリエッタの三人はいつも通りの三人部屋で話し込んでいた。
 既に陽は落ち、寝間着に着替えての雑談だ。
 年下のマリエッタは聞き役になることも多いし、私も延々と話し続けるほどおしゃべりじゃないから、大抵はブリジットが場を取り仕切る。

「あんまり付き纏って鬱陶しがられないようにねー?」

 やや皮肉気な言葉に私は少しむっとする。
 けど慣れてもいた。
 彼女は前々からこんな感じだ。
 明け透けで、無遠慮で、けどちゃんと周囲を見て関係性を調節していたりする。そう気付けたのは随分と経ってからだったけど。

 同じ感想を持っているかは分からないけど、私をつつく言葉にマリエッタが口添えしてくれる。

「センセイはそのように思ったりはしないと思うのですが」
「だからってそこに胡坐掻いて居座って良い理由にはならないよねぇ? リーダーだって、ようやく、ほらっ、リディアさんを堂々と連れ歩けるようになるかもなんだしさっ、二人きりにさせてあげないと~」

 リディアさん。

 神官である私からすると、天の上の存在でもあるあの人は、今でもどう接していけばいいのかが分からないで居る。

 ブリジットのように気安く振舞えばいいのか、マリエッタのようにまっすぐな尊敬を抱いていけばいいのか。分からなくて、ちょっとだけ距離を置いてしまっているかも。

 ただ、つまりこの場でブリジットが私を非難するようなことを言い出したのも、二人の邪魔をしないようにっていう釘刺しが目的、なのかな。

「お邪魔をするつもりはないよ」

「けど付いてくんでしょ? 私らは別行動で、その間にたっぷりと成長してみせるんだからさ。ねっ、マリエッタ?」

「は、はいっ! まだまだ未熟な身の上ですがっ、どうにかしてあの心臓破りの坂道を駆け上がれるようになってみせますっ!」

 枕を抱いて両手をぐっと握ったマリエッタは可愛らしいけど、一人寝台に腰掛けるブリジットは試すような顔で私を見てくる。

「ほらね? それでエレオノーラはどうするんだっけ? 追いかけて、付き纏って、パパー、パパーってやるのかな?」
「そんなんじゃないし。私だってお役に立てるよう成長するし」
「けどそれはさ、冒険者としての成長とは違っちゃうかもしれないんだよね?」

 あまりにも鋭い指摘に言葉が継げない。
 冒険者。
 それは、私にとっては手段だった。

 ママの望んだ、誰からも石を投げられることの無い立派なお仕事。
 光の道を歩みながら、ずっと記憶し続けていたあの人を見付け出して、実際に話をしてみて、やっぱりママの想いも私の希望も間違いじゃなかったんだって思えた。
 だから、嬉しくて、もっと一緒に居たくて。

 けど、あの人は、冒険者で。
 ブリジットも、マリエッタだって、心構えはきっと私より冒険者らしい。

「そのズレはさ、結局リーダーを悩ませるよ。まあ、ギルドを作るって話だから、素直にランク章を返却して受付嬢とかやっちゃうのも手だとは思うけどさ」
「そうなると一緒には居られなくなる」

 そう、そこだ。
 受付嬢では、一緒に冒険をすることが出来なくなる。

 夢を支えることは出来るかもしれない。それは嬉しいし、私向きな手段だとも思う。記憶力には自信があるから、例えば財務担当のフィオさんみたいに立ち回るのだって悪くはない。

 けどやっぱり、そうなると距離は出来る。
 すぐ近くで、あの背中を見ていることが出来なくなる。

 いやだなって思う。

 そんな思いが強くなったのも、南洋へ来てから一度ならず二度までも行方不明になっちゃったからだ。
 一度目はそこのブリジットと一緒に海へ流され。
 二度目は変なスライムと一緒に監獄へ送り込まれて。
 もう、本当にちょっと目を離すと居なくなっちゃう人だったから。
 書類に埋もれて帰りを待つだけなんて駄目。

「一緒に居たいのなら、本当の冒険者になるんだね。その点はもう、マリエッタの方がずっと先を行ってるよ」

「うん。マリエッタは、私よりちゃんと冒険者だから」

「そ、そこまで言われてしまうと焦ってしまうんですけどっ」

 二人でマリエッタを撫でて、気持ちを落ち着かせる。
 照れて焦って、ぷにぷにほっぺを朱に染める彼女を見つつ、私も頷く。

「ねえ、ブリジット」
「うん?」

「教えて。私はどうしたら冒険者になれると思う?」

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 思い出を辿る。
 行動の始まりは、
 今に繋がる過去あってこそ、
 ただ流されて、置いてあったから掴んだだけで無いのなら、
 動き始めた理由は必ず自分の中にある。

 ブリジットの言葉は必ずしも完璧な指針になった訳じゃなかったけど、考えて考えて、私なりの方法を探してきた。

 きっと一つだけに絞るなんて出来なくて、思い出に張り付けた札の言葉に、これで正確なんだろうかって首を傾げたくなったりもするけど、どうしての答えを見付けたいのなら。

 本当は理由があって冒険者になるのに。
 私は冒険者になる為の理由を探してる。

 けど、きっとある。

 順序が逆になったとしても、あの人が夢見る、見続けている、冒険者というものに。
 なってみてからこそ感じられるものを、私だって見て来た筈だから。

 優先順位まで変わってしまうのかは分からないし、ちょっとだけ不安だけど。

 大好きな人の、大好きなことを、理解したいって気持ちはね。

 間違いなく、私の中にあるんだよ。

 考え続けよう。
 積み重ね続けよう。

 二人はそれぞれの道を行き、あの人へ追い付こうとしている。
 私は一緒に居る事で、その道に憧れを見出そうとしている。

 歩み方は違うけど、辿り着く場所が同じなら。

 次は、冒険者じゃないなんて言わせない。




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