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『万年シルバー』㉜ ニキータ編 ニキータ視点

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 こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922
 の幕間を公開している近況ノートです。

 ニキータ編のネタバレを含みます。
 
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 『………………………………………………………………じゃあ、枕で』

 アン姉が誰かに甘えている姿を初めて見た。
 私が何度言っても大丈夫、大丈夫って繰り返すばかりで聞いてくれなかったアン姉が。

 相手はオトナだ。
 オトナ、だから。

 あっさりと受け入れちゃってさっ。
 あんなすけべそうな顔した奴っ、信用してるとサクッと食べられちゃうんだからなっ。

 だけどソイツは、アタシじゃどうにもならなかった孤児院をあっという間に立て直していって、チビ達からもすぐ好かれるようになっていって。

 なんだよ、前はニキータ、ニキータってさ、鬱陶しいって言っても付いて回ってた奴が。今じゃあすけべ野郎を追いかけてハシャいでやがる。

 孤児院が良くなっていくのは、望む所だ。

 けど、ふっと距離を置いてその景色を眺めた時、そこにアタシの居場所は無いなって思った。

 自分で……勝手に出ていった癖にさ。

 いいさ。
 アタシには聖都での居場所がある。
 ああいうのが良いなら好きにすればいい。
 出ていった奴なんて放っておいて、勝手に楽しくやってなよ。

 …………ちくしょう。

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 洪水があって、
 戦争があって、
 アタシ達の周りは大きく変化していった。

 孤児院が、アイツの作ったギルドに組み込まれたのは、まあいい。

 ただ、知らない奴の増えたあそこに訳知り顔で乗り込むのはやっぱり気が引けてさ。
 だっせえじゃん。
 アタシが孤児院を立て直すんだ、待ってやがれって飛び出して。
 結局何も出来ないまま、ただ生きてただけの奴がさ。
 全部オトナに解決していただいた後で、古参ぶって出ていくなんてさ。

 だっせぇ。

「あぁ、やはりこちらでしたか」

 そんなアタシの所へ、よくよく顔を出す男が一人居る。
 こっちじゃ見ない、南洋の人らしい浅黒い肌の奴で、顔の良い野郎さ。

 こういうのは信用しちゃいけない。

 綺麗に整ったツラで、いつも穏やかそうな奴ほど、内心じゃナニ考えてるか分かったもんじゃないからな。

「……なンだよ」
「いつも通りの質問ですよ。我々は流れ者ですから、どうしてもこの辺りの事情には詳しくないもので」

 ったくしょうがねえな。
 このアフマドって奴は、前からちょくちょくアタシにしつもーん、をしにくる。

 きっといやらしい事考えてるのさ。
 それか、ガキ相手ならテメエの無知無能を誤魔化せると思っているか。

「――――それならきっと、西にある農園で扱ってた筈だよ。少量なら倉庫に種があるかもだけど」
「そうですか。ありがとうございます」

 ガキ相手になよなよしい。
 けどまあ、商売だからな。
 仕方ないけどやってやる。

「では、今回の情報料です。少ないですが」

 随分と前に寄越せと言ったら、言われるまま持ってくるようになった情報料。
 潰れた銅貨一枚か二枚程度の報酬だけど、貧民窟で現金を持てるのは大きなことだからさ。

「別にこのくらい普通だよ。アンタも毎度巻き上げられて不満じゃないのかい。ガキでも分かるハナシを聞いて、コレだって今の状況じゃあ貴重だろうに」
「そうでもありません。ニキータさんのお話は、こちらで調べられること以上に詳しく、繊細です。前回頂いた情報でも一定の儲けを得ることが出来ましたから」
「へぇ……」

 だってコイツ、毎度毎度金を置いていくんだ。
 小話程度、現金貰うほどでもないしさ。

 だから、せめて釣り合うものにしたくて、それとなく次欲しそうな情報を聞き出して、調べたりしてる。
 所詮ガキの話かなんて舐められたくないから、結構ムキになって首突っ込んだりもしてさ。

「まあいいさ。金を払うのはそっちで、値段も特に指定しちゃいない。また欲しけりゃくるといい。こんな……誰も来ないような山の中にさ」

 言われ、アフマドの視線が眼下へ落ちる。
 山の中腹、ひっそりと建てられた小屋の存在を知るのは、アタシを含めて少数さ。

 ムカ付く前の孤児院長とか、油断ならないオトナとかから食料や金目の物を隠すのに使ってきた、元は孤児達で作った遊び場だった所だけど。
 そいつをやった年上の奴らは皆、前孤児院長に連れていかれた。
 どうなったかは、あんまり分かっていない。
 貧民窟で色々調べて、見付けた時には手遅れだった奴も居る。
 来る前の事p−とは言え、こんなこと、アン姉には聞かせられないけどさ。

「…………ここからだと、孤児院が良く見えますね」
「…………うるっさいな」

 木と木の隙間からだろっ。
 向こう側からじゃ見え辛くなってるんだよっ。

「それでは、私はこれで」

 そっぽを向いていたら、アフマドがお行儀良く一礼して去っていく。

 つい、向けられた背中へ何かが飛び出そうになるけど、堪えた。

 信用なんかしない。
 あんな、ぽっと出の奴らなんかに。

 けど、孤児院が助けられてるのも事実で。

 ちゃんと、監視してたから知ってるんだ。

 だから。
 その。

 もう何も出来ることはないんだって思ってた所に、アンタが頼ってきたのは、ちょっとだけ救われるトコロもある……ん、だけど………………。

 安定した歩みで山を下りていく背中が、すっかり見えなくなるのを待ってから。

「ああーっ、もう!! ツラが良すぎるんだって!? あんな顔無遠慮に近づけるんじゃねーよぉ……!! もう!!」

 頭を抱えて、未だに動悸の収まらない胸とどっちを抑えりゃいいんだってくらい動揺して、小屋の中で転げまわった。
 顔、熱い。
 バレてないよな……?

 くそったれの南洋男がっ!!

 別にそういうんじゃねーし!!



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