本編のオマケです。ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの馴れ初めを気が向いたらこちらにアップしていきます。
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ドリッチとレーダを連れて森から帰ると、既に全員が食堂に集まって俺達を待っていた。
全員揃ったのを確認すると、親父から状況の説明があり、教会がこっちに向かってることを知ったグリエが不安そうな表情で言う。
「やはり、私を連れ戻しにきたのでしょうか」
まあ、そうだろうな。
なんたってこいつは教会の新しい長だ。
経緯はどうあれ、それを攫ってきてからだいぶ長くなっちまってるし、とうとう痺れ切らしたってとこだろう。
俺がそう言うと、グリエが頬に手を当てながら首を振る。
「既にヘッセリンクへの嫁入り秒読みという段階で古巣に迎えに来られても困ってしまうのですが……」
その言葉に、一斉に歓声を上げる家来衆達。
口々に若奥様若奥様ってまあうるせえことうるせえこと。
「囃し立てんなお前ら。いつも言ってるが、てめえもこいつらに餌与えるような発言慎めっての。本当に嫁入りする羽目になっても知らねえぞ?」
「嫁入りできるなら喜んで餌をばら撒きますが? それはもう悪徳貴族が賄賂をばら撒くように大胆に」
何かをばら撒く仕草をしながら笑うグリエに、再び歓声が上がる。
そう長くもねえ時間でうちのイかれた連中にこんだけ好かれてるんだから立派なもんだが、このままじゃ話が進まねえ。
「今日日そんな分かりやすすぎる悪徳貴族いやしねえよ。で? どうすんだよ親父。カイサドルからの話じゃ教会の奴ら、きっちり武装してるらしいけど?」
わかりやすく話を変えた俺に不満げな顔を向けるグリエを無視しながら親父に尋ねる。
「そうですね。まずは、お前の意見を聞きましょう。ジダ、今回の件、どうしたいですか?」
珍しいこともあるもんだ。
普段は独断専行の権化みたいな生き物の癖に、今回に限って俺の意見を聞きたいなんざ、雪でも降るか?
まあ、答えは一つしかねえんだから単純に確認のつもりかもしれねえが。
「そりゃあんた。きっちりわからせてやるんだろ?」
俺が答えると、親父が身を乗り出してくる。
「ほう。教会にきっちりわからせてやる。本当にその方針で構わないんですね? 可愛い息子よ」
「当然だろ。何とち狂ってるか知らねえが、わざわざこんな西の果てまで来てくれたんだ。丁寧におもてなししてやろうじゃねえか」
「男に二言はないですね?」
しつけえな。
まさか、話し合って仲直りなんて選択肢ねえよな?
ドリッチ達家来衆に視線を向けても意味ありげに微笑み返されるだけで何も言わねえし。
「親父、さっきから何の確認だよ。さっさと撃って出て、ヘッセリンクに手ぇ出したらどうなるか教えてやればいいだろうがよ」
「よく言いました!! それでこそヘッセリンクの男です!!」
突然立ち上がった親父は、満面の笑みを浮かべながら俺の横まで来ると、がっしりと肩を組んでくる。
なんだよ、怖えよ!
「皆、聞きましたね? 我が息子、ジダ・ヘッセリンクがついに覚悟を決めたようです。ついては、可及的速やかに教会の腐れ騎士どもを排除し、息子夫婦の式を執り行います!」
今日一番の歓声に屋敷が揺れる。
ドリッチとレーダに至っては泣きながら雄叫び上げてやがるが、意味わかんねえから!
「待て待て待て待て! 教会の奴らしばくのはいいけど、その後の式ってのはなんだよ」
「お前とグリエ殿の結婚式に決まってるでしょう?」
「何がどうなったらそうなる!?」
本当に意味がわからず親父の腕を振り解いて立ち上がると、往生際が悪いとかなんとか言いながら偽聖者が深々とため息をつく。
「ドリッチ。照れ屋な息子に説明を」
「はっ! ジダ様は先程こう仰いました。『教会にグリエが誰のものかきっちりわからせてやる』、『俺の女に手え出したらどうなるか教えてやるだけだ』と。若奥様をお守りしようという強い決意表明にこの爺や。不覚にも涙が溢れるのを止められませんでした」
「言ってねえけど!?」
いや、近いことは言ったが、なんで俺の女がどうとか勝手に足すんだよふざけんな!
「良かったですねえ、若奥様。ジダ様はほんの少し口が悪いところがありますが、心根のお優しい方です。きっと幸せにしてくださいますとも」
レーダ!
てめえ誰の味方だ……っつってもこの状況見りゃ俺の味方ではねえわな。
「というわけで、諸君。これからの予定が決まりました。こちらに向かっている愚か者どもに仕置きを与えた後、全員で教会本部を急襲し、解体。その後、教会本部の瓦礫の上で、息子夫婦の結婚式と洒落込もうじゃありませんか!!」
親父の宣言を受けた家来衆達が、それぞれの仕事に取り掛かるため、次々と食堂を出ていく。
仕事になりゃあこんなに信頼できるやつらもいねえんだが、いかんせん悪ノリが過ぎるんだよなあ。
「おい。てめえはいいのか? このままだと、生まれ育った古巣が瓦礫に変わっちまうぞ?」
全員いなくなったあと、ただ一人食堂に残ったグリエにそう尋ねると、思い詰めたような悲壮な表情……など一切見せず、頬を染め、どこか興奮気味にこう言った。
「瓦礫と化した教会本部の前でジダ様と誓いの口付け……ああ! 想像しただけで鼻血が出そうです!」
よし、今日も話通じねえや。
とりあえず、俺も仕事の準備に取り掛かるかあ。