【あらすじ】
近年稀な冷夏に見舞われたその年の秋は、季節を一月ばかり前倒ししたような寒い日が続いている。
地方都市の郊外にあるマンションで一人暮らしをする一樹は、休日の時間を町で適当に費やした後、自宅へと戻ってきた。
偶然エレベーターを乗り合わせた見知らぬ少女がインターホンのボタンを押したのは、一樹の部屋だった。
少女が彼に手渡した手紙には「一週間だけ娘を預かってください」とだけ書かれており、その下には久しく見ることのなかった、高校・大学時代に5年間付き合っていた元恋人の名前が書かれていた。
【登場人物】
『一樹(かずき)』
大学時代から同じマンションの同じ部屋「504号室」に住む30代の独身男性。
身長177cmで神経質かつ几帳面。
市内駅前のビルに入っている広告代理店勤務だが、現在リモートワークが主流の勤務形態で、出勤するのは週に2日か3日。
登山が趣味の為に年中日焼けしている。
「いい歳」で独身である事を常に意識しており、本質的に大学生の頃とそう変わらない内面を人に見せないように気をつけて生きている。
大学2年時に当時付き合っていた彼女と別れて以来、彼女はいない。
『沙百合(さゆり)』
一樹の元を訪ねてきた10代と思われる少女。
身長は150cmちょっとで痩せ型の体型、耳の少し下まであるサイドバングが特徴的な黒髪のショートヘアー。
つり眉で少しだけ垂れ目。
母親とふたりで数百キロも離れた場所に住んでいる。
料理が得意。
『絵梨花(えりか)』
一樹の元恋人で沙百合の母親。
一樹とは大学時代に別れて以来、一度も連絡を取っていない。
娘を一樹に預けて現在の所在は不明。
見た目は娘と瓜二つだが、髪はロングヘアーだった。
料理と運動が得意。
【作品の舞台】
人口数十万人の地方都市の郊外にあるマンションは、5階20世帯のファミリー向けの2LDKで、504号室はエレベーターホールから見て一番奥の角にある。
田舎ではあるが、車さえあれば半径数キロの移動で生活に必要なものは全て揃う。
すぐ近くに巨大な汽水湖は県内屈指の観光地である。
夏の暑さはそれ程でもないが、冬は北西から季節風が吹き付けるので体感温度は氷点下を下回る日がある。