「…なつかしいなぁ」
浦少年は振り返った。
首を傾げる。
「ああいや、なんでもない」
教師は首と手を振った。
いやー、と息まじりに言う。
「高校生って、いつの時代も生き急ぐよなって」
『楠の木町の塾長ちゃん』
Episode.0 『浦 正人』より。
将来の進路について相談した少年、浦正人に教師がアドバイスをした後の一場面。
別に高校生に限らず、若い頃は大きな夢を持つもので、それが実現できるか出来ないかなんて関係ない。
それこそ、それを達成できるのならばどんな手段も使い尽くすなんて覚悟で頑張る。
ひたすら頑張る。
今思い返せば、今までで一番辛かったり悩んだりしたのはこの頃だったかもしれない。
16、17そこらの少年少女は一番多感な時期で、他人の目が気になるし、将来の不安と何処からか降って落ちてくる重圧に揉まれながら、ただ1日1日を過ごしていた時。
後悔と野心と挑戦に満ちたあの日々は誰にとっても大事だった物のはずだ。
「早く大人になりたい」と、学校のルールやらなにやらに嫌気がさして時が過ぎるのをただ待ってた。
大人になれば勝手に変わる気がしていたし、変われる気がした。
でも身勝手でわがまま極まりないことに、いざ卒業が近づいてくると高校生を辞めたく無くなる。
今まで辛いと思ってやらされてきたことは全部、平凡かついつもの日常の一部、二度と戻らないという実感となって跳ね返る。
自然と面倒だったはずの卒業式で感動が湧く。
いざ自由になってみれば実に空虚。
あの頃は誰にでも溢れていたはずの、野心や大きな夢を手放して安定を求めるのが普通になった。
制服姿の学生をみて若いと感じる。
あれだけ嫌だった事が懐かしいと感じる。
高校生の頃って、ぜんぶゼロか百かもしれない。
ひとつ辛い時に思いつく。
それしかないと思い込む。
悩みは意外と小さいって気づけない。
間違いなく「生き急ぐ」。
だから高校時代の終わりは早い。
そんで僕らは言うんだ。
「あの頃こうしておけば…」
あまりにもダッシュで生きていたから。
全てが一択だと思えたから。
もっとゆっくり生きれば良かったって思うんだ。
でも僕らは時代を踏み越えて生きてる。
嫌だった事、楽しかった事、青春だと感じたことの上にしっかり2本の足で立ってる。
立ってしまってる。
いつの間にか。
つまらない人間になってしまった。