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「助手席の礼儀作法」について

 僕は自分の思考をよく言語化するので、投稿する小説の数に比べて近況ノートの数の方が多くなっている。これが僕と言う人間の性だと思っているので、別にどうこうするつもりもないわけだが……。

 ともあれ、最近2つの小説を投稿した。たまには小説について触れておかねばならない。そもそも近況ノートは創作活動や読書日記を書く場所なのだから、たまには本来の使い方をすべきだろう。

 というわけで、「助手席の礼儀作法」について少し語るとしよう。前提として僕は自転車を使って日本中を走り回る人間だということを知っておいてほしい。南は鹿児島、東は東京が僕の行動範囲である。当然旅行資金は自分でバイトをして貯めるわけだ。ごく一部の例外を除き、赤の他人からの施しは受け付けていない。さて、僕自身の説明はこれくらいにして、作品執筆の元になった体験について話をしよう。

 ある日、僕はバイト仲間と雑談をしていた。取り立てて仲が良いわけではなかったが、暇な仕事だったので退屈しのぎに言葉を交わすくらいはしていた。話の流れは忘れてしまったが、そのバイト仲間がヒッチハイクで北海道から鹿児島まで行ったことがあると言ったのだ。この時の僕は歓喜したね。旅をする人は仲間だ。彼も旅人ならば、話に花も咲くことだろう。僕は自分の旅のこと(この時は確か愛媛県について)を軽く話した。そして、彼の話しも聞いてみたいと思って訊いてみた。

「旅をしてて一番楽しかったのはどこですか?」

「……」

 おかしいな。返事がない。

「じゃあ、質問を変えてみます。具体的な場所についてだったら答えやすいでしょう。本州から北海道へはどのようにわたりましたか?」

「覚えていないですね」

「覚えていない?」

「寝ていたんで」

 これには絶句した。寝ていてどうやって北海道に渡るのか。掘り下げてみると、どうも乗せてもらった車の中で寝ていて、勝手に連れて行ってもらったからよくわからないと言うのだ。

 なんだそれは。

 僕からしたら、それはあり得ないことだった。本州から北海道に行く方法は、当時ならいくつか存在する。車で行ったのであれば、青森や大間から函館に行く船か、八戸から苫小牧に行く船に乗ったということである。岩手県の宮古からも船が出ていた気もするが、記憶が定かではない。とにかく、いくつかあるルートの内、どこを通ったのかわからないというのは旅人として致命的問題を抱えているということを意味する。現在地を把握していない旅人が、どうしてゴールにたどり着くことができようか。

 僕はさらに質問を重ねた。

「北海道ではどこに行きましたか?」

「海鮮を食べに行きました」

「函館? 小樽? それとも別の場所?」

「……」

 ど う し て わ か ら な い ん だ ?

 僕は恐る恐る最後の質問をした。

「この旅で、〇〇さんが得たものって何ですか?」

「感謝する心ですかね」

 うーん、小学生かな?

 あまり聞こえは良くないかもしれないが、日本を縦断して得たものがたったそれだけのことと言うのは驚愕ものだ。もしかしたら彼の成長にとっては重要なターニングポイントだったのかもしれないわけだから、あまりネガティブに言うわけにもいかないが、とにかく衝撃だった。

 さて、本題に戻ろう。「助手席の礼儀作法」は、この時の僕の怒りにも似た感情を処理するために書いた作品である。だから、読んだ人の感想が「説教臭い」になるのは想定内だ。すでにこの作品についての批判的な声が上がっているような気がするが、まあ仕方がない。

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