仮タイトル。
異世界インベーダー
超科学はチートに含まれません。俺はただカレーが食べたい。よってファンタジーな星を自重せず改造することにした。
三話まで書いて、内容練り中でとまっています。
惑星規模で自重せずに超科学を駆使していく。
世界は超困窮しており、このままだと全滅してしまいそうなほど環境が悪くなってきている。
謎の隕石に飛行船を破壊され北極に着陸した主人公は行動を開始。
観測衛星から気候に応じて勝手に線を引き、カレーの材料を揃えるべく動き始める。
主人公はただカレーが食べたいだけなのだが、彼に改造された地域は救われて行く。
終始一貫して、カレーを食べるという欲望のためだけに動き、最終的にみんなが幸せになるような話。
連載開始するとしたら、このまま使うと思いますが、、一話目を下に。
「うまい。やはり一年の始まりはカレーに限る!」
ジャガイモ、ニンジン、そして豚肉。全て均等の大きさに整えられていることが玉に瑕ではあるが、カレーはカレー。
やはり、カレーはいい。
人類が宇宙に進出してから早……ま、まあ結構な時間が経過している。宇宙空間でワープを繰り返していると季節感どころか年月の経過も希薄になるのだ。
人が人であるための知恵と言えばいいのか、ともかく宇宙を旅する人間は皆それぞれ主観時間が一年過ぎるごとに何か特別な食事をとる習慣がある。
俺の場合はそれがカレーってわけさ。
人が美味しく食べているってのに無表情で眺めやがって。見た目はまごうことなき完璧な美少女。年の頃は18歳くらいに設定している(と本人が言っていた)。
彼女はエメラルドグリーンのサラサラの長い髪に体にピタリと張り付く光沢のあるスーツに身を包んでいた。
「何か?」
じっと見つめていたら彼女は無感情に口元だけを動かす。
「スパランツァーニも食べる?」
「必要ありません」
「そう……」
「ご存知の通り、ワタシは経口摂取の必要がありません。ご存知の通り、『口に見える』だけです」
彼女の右手の先がドロリと溶け始め、みるみるうちに右腕が服ごとブヨブヨしたスライム状の塊になり彼女の膝の上に乗る。
「分かった。分かったから、食事中に不定形になるのは止めてくれ」
「仕方ありません。了解しました。マイマスター」
彼女の右腕が元の姿に戻った。
見ての通り彼女は人間ではない。彼女は長く活躍したアンドロイドの次世代型「不定形人工生命体」である。
生命体と称しているものの、アンドロイドのように高度な計算能力を持っていて、あらゆる機器に接続することができ、膨大な知識データベースを備えているのだ。
人間と変わらぬ思考力も持ち、こうして自然に会話をすることだってできる。
「やはり、うまい。カレーは良いな。うんうん」
「中身は同じ培養細胞ですが、違うものですか?」
「本物のカレーを食べてみたいけど、ちょっとなあ……」
「そうでしょうか」
あっけらかんと応えるスパランツァーニ。おいおい、船の中じゃ家畜はいないし、野菜だって育てるスペースなんてない。
彼女が俺たちの今の状況を分かっていないはずがない。意地悪で言っている……可能性もないことはないけど。
一言で俺たちの状況を表現するなら「迷子」である。
重力だか何だかの事故で、天文学的な低確率に巻き込まれてしまってさ。別世界に来てしまったんだ。
どれだけワープを繰り返しても地球と重なることがない別次元の空間と言えばいいのかな。戻る手段もない。
別次元となれば宇宙航路図なんてものも、もちろん無いから……居住可能惑星を闇雲に探している途中なのさ。ずっと宇宙船の中というのも気が滅入る。
「いずれジャガイモを育てることができる星が見つかればいいな」
「ですから」
ブウンという音が鳴り、光だけで構成されたディスプレイが現れた。
そこには一つの星が映し出されている。地球に似た青と雲で覆われた美しい星だ。
一見して地球に似ているからと言って、おいそれと喜ぶ気にはなれない。何度も裏切られているから。
「星……だよな」
「はい。数値を見てください」
「え、お、おお。これって」
「はい。大気組成、気温とも地球と酷似しております。宇宙服無しで呼吸も可能です」
「お、おおお!」
「許可なく不時着することは推奨されません。しかし、未知の惑星に対する許可申請を出すこともかないません」
「だな。まあ、せっかく見つけた星だ。行ってみようじゃないか」
地球やステーションと通信しようにも別世界だもの。どうしようもない。
よって俺には惑星保護条約なんてものも関係ないのだ。一応船内を無菌化をしてから踏み込む予定だし、滅多なことでバイオハザードなんて起きないさ。
ディスプレイに惑星到着までの時間が映し出された。
残りあと23時間42分13秒。
◇◇◇
あっという間に惑星周回軌道に入ったぞ。微妙な調整は全てスパランツァーニ任せである。
いざとなれば座標さえ打ち込むことが出来れば全て自動で運行してくれるけど、航路図が無いのでちょいと俺には難しい。
といっても、彼女が稼働停止するような状況になる前に俺が死亡するから俺一人で何かする、何てことを考える必要はないのだけどね。
「惑星表面は映せる?」
「本船から見える映像でしたら可能です。調査機を射出いたしますか?」
ホログラム映像が二分割され、右手に惑星の様子が映し出される。
「ん、これって。街じゃないか!? さすがに人の姿までは見えないか」
「これ以上の解像度は不可能です。ご指摘の通り人工建造物が多数存在します」
まさか知的生命体がいて、文明を築いていたなんて想定外だぞ!
こうなれば調査機も出さねばならない。
調査機から映し出される景色に息を飲む。
「人間そっくりだ。城や砦まであるな」
「犬や猫のような耳をした人型の生命体も存在します」
「確かに。こういう物語を読んだことがあるぞ」
「着陸を断念しますか?」
即座に首を横に振る。着陸しないなんて選択肢などないのだ。
せっかくジャガイモやニンジンだけじゃなく、家畜まで育てることができそうな惑星が目の前にあるというのに素通りするなんて有り得ないぜ。
これほど都合の良い惑星なんて二度とお目にかかることはないだろうから。
どうやらこの惑星はいわゆるファンタジーな世界観を持った感じだった。人間や獣人がいて、剣やら鎧やらを装備している。
だったらモンスターもいるのかな、と探そうかとも思ったんだけど、後のお楽しみにとっておくことにした。
これが後の悲劇を生むことになるなど、この時の俺は知る由もない。
「北極か南極はどうだろう?」
「人工建造物は皆無。北極は大地の上に氷となっているようです。南極は海の上に氷が張っているように見受けられます」
「なら北極に行ってみるか。発電にも都合がいい」
「承知いたしました。では、着陸態勢に入ります」
地軸も地球と同じように傾いていて、ちょうど北極が一日中陽射しがある季節だった。
太陽光発電をするに都合がいい。ここを拠点にして活動を開始するとしよう。
スパランツァーニの指示に従い宇宙船が大気圏に突入する。
順調に行くかに見えたその時、突如アラートが鳴り響く!
ブウウン、ブウウン!
「突如、隕石が出現いたしました」
「隕石だって? どこから?」
「進行方向です」
「有り得ん。隕石は上から降って来るものだろおおお」
ディスプレイに「下から上に直進する」岩の塊が映し出された。
何なんだよあれ! 惑星には重力がある。それ故、物体は惑星に引っ張られるのだ。
それが、それが……岩の塊なんて重い物が。
スパランツァーニの無機質な声が響く。
「あと2秒後に衝突します。いかがいたしますか?」
「躱すことは不可能だよな。なるべく多くの機材を護ってくれ。重要度の高いものから順にできる限り」
「承知しました」
スパランツァーニが頭から溶け、不定形のブヨブヨしたスライム状の塊となる。
隙間にスライムが染み込み、この場から姿を消した。
「あ、しまった……」
機材を護れと指示を出したら、俺を護ってくれないじゃないかああ!
マ、マズイ。
ドガアアアアアアン!
隕石が宇宙船に衝突し風穴が空く。内熱機関が炎を上げ宇宙船が墜落し始める。
炎は自動的に消し止められたようだったが、制御系が復活したわけではない。
『|村雲竜彦《むらくもたつひこ》。警告、警告』
「分かってる! 分かってる!」
体内のナノマシンが警告を発する。
対する俺は網膜に映り込んだ警告メッセージと脳内に響くアラートに声を荒げた。
宇宙船が自由落下しているのだ。危ないことは言われなくても分かってるってば。
『警告、警告。危険を感知しました。危機的状況の為、制御を委ねてください』
そうだな。任せよう。
俺の体内には多数のナノマシンとピコマシンが蠢いている。さっきからこいつらが俺に警告を発していた。
意思でスイッチを押すだけで、体内のナノマシンたちが俺の肉体を生かすべく最善の行動をしてくれる。
俺が下手に動くよりはマシだろう……。後は生き残ることを祈るのみ。
すると何故か俺の体が勝手に座席のシートベルトを外す。
『痛覚を遮断します』
そして、衝撃が走った。
真上に投げ出されようとする俺であったが座席に腕を絡め骨の折れる嫌な音が響く。
それでも衝撃を殺すことが出来なかったらしく、両腕が千切れ飛ぶ。
首を前に曲げ、背中が天井に強打。
ゴボッと口から血が溢れ出た。背骨もやったかもしれない。
「スパランツァーニ……」
声を出すが信じられないくらいか細く弱々しい。
ナノマシンを導入する前の人類なら致命傷だ。しかし、現代の技術を舐めちゃいけない。
それでも彼女が来てくれないと、このまま死ぬかも。