思いつき、、バトルなんて微塵もない謎のスローライフものになりそうな気が。
「ほおれ、餌だぞお」
「ぐばば」
「ぐああ」
真っ先に駆け寄ってきて真っ二つに割ったスイカのような瓜のような果物を汚らしく食い散らかすのはアヒルの軍団である。
そこへ狙いすましたようにカモメが降りて来て、一緒になりスイカを突き始めた。
枝の上で様子を見つめるは鮮やかなオレンジ色の大きなクチバシが特徴のオオハシ。名前まんまだよな、うん。
そして、オレサマは果物になんて興味ないんだよ、と魚食性のハシビロコウは突っ立ったまま微動だにしない。
どうして俺がこうして沢山の鳥たちに餌をやっているのか。
正直意味が分からん。説明すると長くはない。短いぞ。
いつものように仕事から帰り、一人暮らしなので誰に迷惑をかけることもなくだらしなくビールをぷしゅっと開け、一息に飲み干した。
んじゃあ、楽しみにしていたアニメの続きを大画面で見るぞ。スマートフォンじゃあ画面が小さいから我慢していたのだ。
んで、ぽちっとテレビの電源を入れたたら画面じゃなく、景色が変わった。
物語の導入部分としては使い古され過ぎ、今時こんな導入はないよ、って話だよ。
だがしかし、現実に起きてしまったら「古い、やり直し!」と叫んでも虚しいだけである。
そんこんなでよくわからない場所に転移した先は古ぼけた小屋の中だった。
小屋はしばらく使われていなかったようで、床はまんべんなくうっすらと埃が重なっている。足跡は俺がつけたものだけだ。
誰もいないのをいいことに小屋を探索し、生活に必要な道具がそれなりに揃っていることが分かった。
電化製品は一切なく、蛇口の代わりに小屋の外に井戸がある。
色々あるが井戸でさえうまく使いこなせるのか、と呆然と井戸を見つめていたら黒い鳥が颯爽と降り立ち「くああ」と鳴いた。
そんで今に至る、と。
え? 飛ばし過ぎて意味が解らないって? ま、まあそうかもしれない。
「おい、肉はねえのか、肉は」
「この口の悪いカラスが、いろいろ教えてくれたんです」
黒い鳥はカラスだったんだ。そいつが何故か喋ってさ、色々教えてくれたんだよね。
「誰に向かって喋ってんだ?」
「痛い、痛い。餌だろ、分かったから」
カラスがコツコツ、いやドスドスと俺の脛を全力で突っついてくるから、痛いのなんのって。
カラスに色々教えてもらいながら、転移した先の小屋で生活をはじめて早一週間。いつのまにやら仲間が増えて餌やりも賑やかになった。
カラスが喋ることから別世界だろうと予想がついたのだけど、最初にいついたのは品種改良された真っ白な羽を持つアヒルだったんだよね。
考えても仕方ない、こいつはそういうもんだと割り切るまで五秒であった。切り替えの早さが俺の売りである。ははは。
そんでまあ、次々と仲間が加わってあっという間に大所帯に。地球だと住んでいる地域もバラバラの鳥たちだ。
そう、鳥たち……集まってくるのは鳥だけ。ま、まあいいんだけどね。
話相手ならカラスがいるし。
「行く、川に行く、だけど、ちょっと待って」
アヒルとカモメたちはスイカを食べ終わり、薄い皮だけが残っている。
親指を立て「頼む」と合図すると、アヒルたちは土を掘り返し畑を整備し始めた。カモメはカモメで器用にクチバシで畑の雑草を抜く。
小屋に保管されていた種を適当にばらまくとオオハシが畑に大きなクチバシで穴をあけ、そこへアヒルが種を脚でぺぺぺと放り込む。
続いてカモメとアヒルが一緒になり穴を塞ぐ。
全ての準備を終えた。さあ、出番だぞ。
鎮座し身じろぎ一つしないハシビロコウがここで動く。大きな枯葉のようなクチバシをパカンと開く。
「グバババババババ」
さすが大きな鳥だけに重低音の鳴き声は迫力がある。
パカンと開いた口から水が噴射され、畑への水やりが行われた。
「みんなありがとう」
川だ、川へ行くぞ。
小屋から歩いて五分くらいで川があるんだ。川は川幅三メートルくらいで流れもはやくなく、川遊びするにちょうどいい。
堤防や川までの道なんてものはなく、今のところ小屋の周囲以外で人工物を見かけていない。小屋の周囲といっても井戸と打ち捨てられた畑だけなんだけどね。
よちよち歩くカラスと威風堂々とのっしのっし進むハシビロコウと並んで川へ向かう。
異様な光景だが、もう慣れた。
ハシビロコウが川の前でも止まることなく進む、川の真ん中でピタリと動きを止める。
微塵たりとも動かぬその姿は一流のハンターそのもの。
狙いすまし、神速のクチバシで水をばしゃーんとやる。
びったんびったん。
水と共に魚も飛び、川岸で跳ねる。
素早くそいつを掴み、籠へ入れる俺。
俺でも魚を獲る方法はあるのだけど、今日はハシビロコウがやる気なので彼に任せるとするか。
食いしん坊カラスは籠から魚を出してさっそく食い散らかしていた。
「果物とって帰ろうか」
ある程度魚がたまったところで、ハシビロコウとカラスには食事をしてもらい俺は俺で動くことにする。
小川に来るまでの間にいくつか果樹があってさ。
スーパーで売っているような品種改良済みバナナとか先ほどアヒルたちが食べていたようなスイカぽいもの、こいつは木に成る果実だ。
なので、ぽいものと表現している。
他には桃やリンゴなんてものもあったり、食材は「異常に」豊富だ。
一体何なんだろうな、この場所は。俺の予想は島だと思っている。もしくは周囲から険しい山とか高い崖に囲まれた盆地とかという線もあるな。
どうしてそう思うのかというと、この場所は『出来過ぎている』から。
喋るカラスに豊富で質も種類も多い食材。古ぼけているが家具や道具が揃った小屋。
誰かが作った『箱庭』に放り込まれたかのような人為的な何かを感じる。もしくは以前誰かが住んでいた整備された箱庭にたまたま俺が転移してきたのかも。
いずれにしてもこの場所は『普通』じゃあない。食材確保も問題ないと分かったし、そろそろ探索に繰り出してみることにするか。