冒頭の文章は、他の部分以上に強い印象を受けやすいと言います。
書く側にすれば全体の文章の一部ですが、読む側にとってはその一行によって物語に入っていくからです。
冒頭を広く俯瞰するように入ったり、はたまた狭く掻きわけるように入ったり、小説の書き出しはいつも悩みどころですね。
★例文
◎鳥瞰するように広く入る
木曽路はすべて山の中である。
(島崎藤村『夜明け前』,1929年)
◎象徴する舞台から入る
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
(川端康成『雪国』,1948年)
ほか、ライトノベルでいえば『涼宮ハルヒの憂鬱』の冒頭はとても印象的です。
サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、(谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』,2003年)
アニメの冒頭でも採用され、キョンのキャラクターを知りつつ、物語にすんなりと入っていけるやさしい冒頭ですね。
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【参考】中村明著『文体トレーニング』株式会社PHP研究所、2012年
中村明著『日本の作家名表現辞典』岩波書店、2014年
中村明著『文章上達事典』東京堂出版、2016年