タイトルのドイツ語その4(25~33話)

おなじみのタイトルや文中のドイツ語や小ネタを明かすコーナーです。
25話~33話までのネタバレを含みますのでご注意ください。


25. weißes Gespenst ヴァイセス・ゲシュペンスト
白い亡霊、幽霊
 構想段階ではGeistって書いてたんですが、Geistは英語のghostに対応するように見えて、実は精神とかそういう意味のほうが重いのを思い出しました。
タイトルを付けるときはいつもドイツの大御所独独辞典、duden.deを使ってチェックしています。多少ドイツ語が読めるならオススメです。


26. soziale Gerechtigkeit ゾツィアーレ・ゲレヒティヒカイト
社会的公正、社会正義
 いつも司令部の中にこもっていて展開に縛りがあるので、外に出て社会の空気を吸う感じの回です。

 大学でドイツの時事問題についてニュースを見ながら学ぶみたいな授業を取っていて、今も関心を持ってドイツのニュースを見ています。そういうこともあって小説にドイツ社会を描いているのですがなかなかうまくいかないものですね。
現状が混沌としているので分かりませんが、一応お話の世界では今と同じくCDU(キリスト教民主同盟)が政権を握っているイメージです。
ゆえに伝統的に対立しているライバルSPD(ドイツ社会民主党)の人間を出してみました。
 ドイツ人は結構政治の話が大好きで、道端で赤の他人とそういう話になることも多いらしいです。もっとも最近の若者はそうじゃないかもしれませんが……。まあ、若者によく支持されている緑の党がかなり躍進していることを見ると、日本ほど政治離れはしていなさそうです。


27. Dialog ディアローク
対話
 ネオナチが彼らのイデオロギーを語ってくれます。

Nationalsozialismus ナツィオナールゾツィアリスムス
いわゆるナチイデオロギー、国民社会主義、民族社会主義
 日本では長らく「国家社会主義」という訳語があてられていましたが、「国家・社会主義」という誤解をしたり、Nationという語は国というより民族とか国民を指すということもあって、最近の歴史学者の間では国民社会主義という訳語を使うらしいです。私は語感にこだわりがあるので、民族社会主義のほうがゴロがいい気がしてこっちにしています。

Verfassungspatriotismus フェアファッスングス・パトリオティスムス
憲法愛国主義
 日本語だとすごく胡散臭いですが、戦後ドイツの思想家ユルゲン・ハーバーマスが提唱した概念で、民族社会主義と相反する考え方です。
 戦後ドイツはナチスの罪を自覚しなければならない時期にあり、当時は非常に「愛国心」というものを自制していたようです。国歌や国旗をすすんで歌ったり掲げたりすることは憚られていました。
憲法愛国主義は愛国心を何を根拠にすべきか?という問題への一つの答えであり、東西に分断されていた事情も踏まえたものでした。つまり、ドイツ人という血統や国籍、文化に依拠するのではなく、憲法(ドイツ基本法)という概念に依拠するという考え方です。
なお、これは○条主義とかではなく、どの条文を愛するとかこの条文の理念を愛するとかいうことではありません。そもそも基本法ってめっちゃ改正されてますから。
 日本語だとめっちゃ胡散臭いんですが、連邦軍人はドイツ基本法に忠誠を誓うものでして、Verfassungstreue(フェアファッスングス・トロイエ、基本法への忠誠心)という言葉もあります。
 つまり、ヘルマンは教科書どおりの模範解答でネオナチに敵対する意思を表現したということです。


28. neues Rathaus ノイエス・ラートハウス
新市庁舎
 ハノーファーの市庁舎です。ググったらすぐ出てくるオシャレな建築物です。展望台を含めて一般に公開されているので、観光でハノーファーに行くことがあればオススメです。


29. Füchsin フュクシン
雌狐
 キツネとオオカミとかクマは同じものを食べる動物同士、縄張り争いをすることが多いらしいですね。才能とフットワークだけでのし上がってきた情報部のひよっこと、混沌とした戦場を渡り歩いてきたプロのスパイとでは馬が合わないようです。さらっとコニーの性別を読者にアウティングしたりして、やりたい放題です。


30. großer Fisch グローサー・フィッシュ
大きな魚


31. Göttin des Throns ゲッティン・デス・トローンス
玉座の女神
 ドイツ語が読めたらコイツの正体のヒントになる類のボーナスタイトルです。胡散臭い女がまた一人増えてしまいました。筆者が萌えの世界にいるせいで、気付くと変な女キャラばかり増やしてしまっています。

 ヒルデガルトにフォーカスする回では、意図的に不親切な描写をしています。目に映るものや本人の感情、感覚について極力説明を省いています。本人にとって何の疑問もなくそこに存在するものは、意識の中に入ってきませんし説明など必要ないからです。しかしカドケウスのサイボーグプラントでは、彼女は強い関心を持って色んなものを見つめています。
 分かりにくいですが、1話でサイボーグにハッキングした時、彼女が見た「鏡像」とはこのモノリスの女でした。自分に近い何者かがいることを彼女は何となく察知していたので、初めて会ったのに驚かなかったのです。
 ヒルデガルトの意識は多層構造で、自我などを含む表層意識と、OSなどを含む基層意識、さらにその奥にも何らかの意識があることが明かされました。この回で次元装置とかいう謎技術の言及がありましたが、本人にとって多次元技術はそんなに遠いものではないようです。最後の「意識の紐」の描写は、超ひも理論を意識したものですが、にわか知識なのでやっぱりちっとも分からないです。


32. kleiner Schlüssel クライナー・シュリュッセル
小さな鍵
 フランクフルトでヒルデガルトと会い、コニーと会い、今回ヘルマンに会っていちいち自己紹介をしているトモカ・コトハタです。彼女の名前はドイツ人にはちっとも覚えられないでしょうね。
 作中ではWW3のきっかけは極東での核ミサイル攻撃だとサラッと流されていますが、地球の裏側の事件などそういう認識ということです。日本がお隣の国から核ミサイル攻撃を受けて首都が荒廃した、という設定です。自衛隊が日本軍になっているのもドイツ語の便宜上ではなく、組織の改変です。今の陸自の制服は紫紺色ですが、個人的な趣味で濃緑色に戻ってもらいました。


Kernkraftwerk Grohnde ケルンクラフトヴェルク・グローンデ
グローンデ原発
 筆者イチオシ、声に出して読みたいドイツ語です。口蓋垂を震えさせましょう。
 実在する原発ですが、2020年現在、来年内にも廃炉にされるらしいです。地図で見るとハノーファーから車で1時間しか離れていないんですね。長らくハンブルクの軍大学で学んでいたヘルマンにとって、どれほど放射能汚染問題がハノーファー人にとって深刻かあまり実感がわかないかもしれません。


33. natürliche Person ナテュアリヒェ・ペルゾーン
自然人
 法律用語で法人と対応する語の自然人です。生まれながらにして人間であり、法の主体となる人。
機械は法の主体にはならないんですが、機械とどんどん融合していった人間は、ある時点をもって自然人じゃなくなる、という結論がWW3半ばに出されたようです。
 ヒルデガルトのあられもない正体を見てしまうヘルマンの回です。せっかく覚悟を固めたのに、デロデロの美少女なんか見たら覚悟なんて吹っ飛んでしまったんですね。
 創作界隈では人外がいともたやすく受容されているのですが、私のお話では、そういうものが実際に目の前にいたらどうか?と問い直しています。どこまで非人間なのが耐えられるか?というチキンレースかもしれません。ヘルマンは現実的で、弱い人間なのであんまり責めないであげてください。


今回の解説は以上です。溜めてしまって長くなってしまいましたがお疲れさまでした。
政治的な話題も含んでいますが、現実の誰かさんを応援する意図はないです。
もっと頭の良さそうなタイトルを付けたいのですが、筆者のドイツ語ボキャブラリーが低いので悩ましいものです。「大きな魚」とか特に情けない(笑)


何でも感想やご不明なことがあればコメントしていただけるととても嬉しいです。


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