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『精霊奇譚』感想

※ファンタジー小説『精霊奇譚』(著:深水千世)の感想。
 ネタバレありなので、読んでいない人は絶対に見ないこと。












 正直、レビューと感想を書くかどうか迷いました。
 ★の数こそ少ないものの、作者さんはいくつもの賞を受賞、作品は書籍化に映画化(!)。カクヨム編集部からもレビューと★3を受けています。
 そこにあえて感想を書く意義が見出せないものの、せっかく読み終えたのでとりあえず書きます。

 物語は三部構成。化物と呼ばれた少女が自らのルーツと愛を求める一部、大きな使命を背負った少女が自らの運命と愛を知る二部、悲劇と暗い宿命の元に生まれた青年が救いと愛を与えられる三部。
 全体を通して、人間とは違う精霊の価値観、人間の業が絡み合う。派手な展開こそないものの、ハイファンタジーの魅力が余すことなく生かされている。
 世界観は語られなかった部分も含めて相当に練られており、文字通り一つの世界として成立している感じがする。キャラクターにはわかりやすい属性がなく、それがむしろ彼らの歴史や宿命を強調しているように思える。
 はっきり言って無料で読めるのが僥倖というレベルの作品。

 ただ、個人的な好みでは嫌いな話でした。
 一部の前半は孤独な少女が初めての愛情を知り、別れを経験し、精霊達との交流を通して世界を広げていく話。精霊奇譚のタイトルのとおりのお話です。
 しかしその後半から三部まで、後はひたすら恋愛の話が続きます。
 精霊同士、人間同士、精霊と人間、などバリエーションは豊富で、それぞれのエピソードも深く切ない良作ではあります。ただ、ここまで恋愛に徹するなら二部からは恋愛カテゴリで投稿した方が良いのではないかと。
 あくまで個人的な感想ですが。
 あと、私の感覚では、いい歳ぶっこいた大人が恋愛で救われたり身を滅ぼしたりというのは軽薄に感じます。傷と価値観は愛なんかで癒されたり変わったりなんかしないと思う。
 この作品は文章からキャラクターまで深みのある大人な雰囲気のため、特に残念な気分になりました。これならまだ少女マンガの方が説得力がある気がします。若気の至り的な意味で。
 あと三部あたりの話、回想シーンの中で更に回想、というのはいかがなものかと。筆力で押し通されて普通に読んじゃいましたが曲芸じみてました。

 ただ何度も強調するとおり、私が個人的に嫌いなだけで、完成度は完全に商業レベルです。全三部で文庫三冊くらいのボリュームだったり、文章力以外の部分でも。
 というか明日にでもダイジェスト化されて番外編置き場に変わってもおかしくないので、タダで読めるうちに読んだ方がいいです。
 最後まで夢中になって読み切りました。ちゃんとしたファンタジーをカクヨムしたい人は必読。

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