春休みのとある日、俺はコンビニへ向かうために自転車を転がしていた。
全く、田舎はコンビニへ行くにも、自転車を使わなきゃならのが面倒臭くて仕方がない。
と、そんな中、スポーツバックを下げ、ロングスカートをバタバタさせながら必死に走っている見知った背中を発見する。
「よっ! バス、乗り過ごしたのか?」
「おいくん! ちょうどいいとこに! 送って!」
俺が許可を出す前に、樹は自転車の荷台に座ろうとしてくる。
「ああ、もう……スカートが引っかかる……!」
樹はスカートへ苛立たしげに、悪態をついていた。
「珍しいな、樹がスカートだなんて」
「ズボン全部洗濯中で、これしかなかったんだよぉ……しかもこれお母さんのだし」
「……そっか。んじゃ、行くぞ」
「ん!」
荷台に横座りした樹はこの一年でだいぶ長くなった細い腕を、俺の腰にキュッと巻きつけて。
俺は樹を振り落とさないよう、慎重にペダルを漕ぎ始めて。
「おいくん、ちょっと太った? お腹ぷにぷにだよ?」
「そ、そうか?」
「そうだよ! 水泳って、いいダイエットになるから、一緒にしない?」
「い、いいよ、俺は……」
「まぁ、そのままのおいくんも、良いけど……もっとシュッとしたら、僕は、か、かっこいいなって……」
「はは! 前向きに検討するよ!」
「もぉ……それ、絶対にしないやつ……」
不意に、春風にのって、樹を思い起こさせる樹の匂いが流れてきた。
途端、ここ最近、よく感じるようになった熱くて、不可思議な感覚にとらわれる。
この調子だと、俺はまた今夜あたり"例のアレ"をしてしまうのだろう。
最近、樹と話すたびにこうなのだから、参ってしまう。