「お、おはよう! 今年も同じクラスになれて、嬉しい……!」
中二になった初日、樹は教室へ入ってくるなり、俺のところへやってきて嬉しそうにそう言ってくる。
「あ、ああ、そうだな……よろしく……」
俺はできるだけ樹の"顔以外"は見ないようにして、答える。
しかし顔も、この一年でちんちくりんだったものから、やや大人びた骨格に成長している。
特に、瑞々しさを放つ、樹の唇が印象深く頭に残る。
「おいくん? なんかぼぉっとしてるけど、大丈夫……?」
気がつくと樹は俺にグッと顔を寄せて、心配そうに覗き込んでいた。
ふわりと薫ってきた樹の健康的な匂いと、随分立派に膨らんだ胸に怯んでしまった俺は、身を逸らす。
「ち、近い……!」
「あっ、ご、ごめんね! でも、心配で……」
「例の如く、ゲームのしすぎだから……」
「そ、そう……」
「おっはよー、いっちゃん!」
と、絶妙に微妙な空気に陥っていた俺と樹の間に、蔵前の明るい声が割り込んできた。
「お、おはよ、くーちゃん。しーちゃんも」
「またウチらおなクラだねぇ。よろしくねぇ!」
蔵前と同じく、しーちゃんさんこと鹿山さんも、同じクラスとなった。
この2人がいれば、樹が孤立することはもうないだろう。
「よぉ、香月! 今年もよろしくな!」
そう声をかけてきたのは、一年の時一緒にフォレストワールドへ行った男子の片割れの牛黒。
こいつとはなんだかんだ、ずっと付き合いが続いている。
「よろしく。急にまた変な画像送ってくるなよ」
「へっへっへ! 実は、さっそく香月大先生にお見せしたいものがございまして……」
牛黒は自他ともに認めるエロ魔人で、ネット上で拾った画像とかをよく俺へ送りつけてくる。
俺自身、そういうことに興味はあるし、牛黒の目利きは確かなのでありがたい供給源ではある。
「お見せしたいって、学校じゃまずいだろ? お前が送ってくるの結構過激だし」
「まぁまぁそう言わず、見てからいってくれや!」
牛黒は拒否る俺へ無理やり、自分のスマホを見せつけてきた。
その画像を見て、俺の心臓が拍動を強める。
「こ、これって……」
「なっ? 似てるだろ?」
スマホの中ではスクール水着を着た女の子がプールサイドで妖艶なカメラ目線を送っている。
眩しく感じる肉付きの良い太もも、まだ未熟ながら水の裏で膨らんでいる胸の存在。
「木村にめっちゃ似てるよな、この土肥 明根ってモデル!」
髪型はポニーテールで、顔だってよく見てみれば全然違う。
だけど、この土肥 明根とかいうモデルを見た瞬間、俺の頭の中にも樹に重なる部分があった。
「で、どうよ? 本物をいつも拝んでいる香月大先生からしては?」
「ほ、本物ってなんのことだよ?」
「だって、お前いっつも木村と一緒にいるじゃん。だからみたこと……いや、揉んだことくらいあるんだろ!?」
「無いってんなこと! 俺と樹は別にそういうのじゃ……」
「俺知ってるんだぜ? お前が春休み中、木村を自転車に乗せてるところを……」
勝手な言い分に少し苛立ちを覚え始めた時のこと、新しい担任の先生がやってきた。
牛黒は悪びれた様子もなく、そそくさと離れて自分の席へと向かって行く。
そうして真面目に新担任の挨拶を聞いている最中、スマホが震えた。
相手は牛黒で、RINEへ先ほど見せられた"土肥 明根"とかいうモデルの画像が送り付けられていた。