ーー週末となり、俺と樹は駅前にいた蔵前たちと合流し、シャトルバスにて、フォレストワールドに向かう。
そのバスの中での出来事ーー
「おい、樹」
「な、なぁに……?」
「せっかくだから蔵前と席変わってやろうか?」
「い、良いよべつに……隣、おいくんで……」
"で"とはなんだ。
"が"だったら嬉しいものの……と思うも、その点は突っ込まないことにしておいた
ただいま、俺は窓側、樹は通路側といった順でバスの席に座っている。
通路を挟んだ向こう側には蔵前としーちゃんさん。その後ろには、男子2人。
まぁ、即席の遊びチームなのだから、こうなるのは仕方ない。
でも、たぶん、樹は現場についたらおそらく"覚醒"するだろう。
ーーそして俺のその予想は見事に的中!
「わぁー! おいくん、ここ凄い! バギーとか、アスレチックとか色々、あるっ!」
「よし、樹、片っ端から制覇して行くぞ!」
「んっ!」
ーーこの間のキャンプの時といい、ゲームの時といい、木村 樹というやつは、こういう"遊び"が大好きなのだ。
そしてこういう場面で、樹はまるで人が変わったかのように、その遊びを楽しみ始める。
すると、
「いいね、そういうノリ! じゃあやっちゃおうか、木村さん!」
小学校の頃からいっつもノリノリな蔵前も樹に同調しーー蔵前がそうするなら仲良しのしーちゃんさんもーーなら、男子2人も付き合わないと……的なノリで、一緒に動いて行く。
この時の樹は、学校の様子から想像もできないほど、よく笑って、よく遊んで。
時折、樹は俺の存在なんてすっかり忘れて、蔵前やしーちゃんさんと話していたり。
「よぉし、決めた! 木村さんのことは、これからいっちゃんって呼ぶけどおーけー?」
「う、うん! 良いよ……?」
「じゃあ、私はしーちゃんで! よろしくねいっちゃん!」
すっかり樹は蔵前としーちゃんさんと仲良くなっていた。
ほんと、女子って仲良くなるのが早いと思う。
「香月、フレンド登録しようぜ!」
「俺も俺も!」
「おう!」
男子は男子でゲームを通じて友情を深めるのだった。
こうして楽しいフォレストワールドの1日が終わって、家に帰ると、不意にちょっとした寂しさが込み上げてきた。
たぶん、今日のことを通じて、樹は蔵前やしーちゃんさんと"友達"になるだろう。
入学の時からずっと孤立していた樹にとって、友達が増えることはいいことだ。
だけどそうなると、たとえ席が隣とはいえ、俺と遊んだり話したりする時間は減ってしまう。
それがなんとなく寂しいような、そんな気分。
と、そんな中、突然スマホがブルブル震えだす。
知らない番号からだった。
もしかして、最近ちまたで噂われている詐欺電話か何かだろうかと思い、ドキドキしながら出てみると……
『おいくんの、お電話ですかぁ……?』
「お? 樹! もしかして……!」
「んっ! スマホ、買ってもらえた! 家に帰ったらお父さんがくれた!」
『良かったな!』
「んっ!」
『蔵前たちにはもう電話したか?』
「んーん……」
何故か、電話の向こうの樹は黙り込む。
どうしたんだろうかと、俺が思っていると……
『おいくん、は僕の最初の友達だから……だから、一番最初に、電話したかったから……!』
一番最初の友達……そう言われて、俺の胸に不思議な熱さとドキドキが過ぎる。
でも、それがなんなのか、俺にはよくわからなかった。
ーーそしてそこから学校での樹の立場は、徐々に良いものへと変わっていった。
人気者の蔵前と知り合ったことで、樹の周りには人が自然と集まるようになったのだ。
樹自身も慣れてくれば、ちゃんと話せて。いろんな人と関わりを持つようになって。
しかもスポーツが得意だから、球技大会で大活躍をして。
そのおかげで、樹は一躍、学校での有名人となって。
4月頃の孤立なんて、まるで嘘みたいに、今、樹は蔵前をはじめとした人の輪の中心にいることが多い。
俺はそんな樹をみていたら、嬉しい反面、どこか遠くにいっちゃうんじゃないかと思ったんだけど……
『おいくん、一緒に帰ろ!』
樹はタイミングを見計っては、俺と一緒に下校するようになった。
『もしもし、おいくん? ちょっとお話しいいかなぁ?』
夜な夜なよく電話をしてきて、ゲームとかバカな話ばかりして。お互い通話料が凄いことになって、怒られたり……
樹は状況が変わっても、俺のことを"一番最初の友達"として接してくれて。
それが俺は嬉しくて。やっぱり樹は最高の友達だと思って。
『あ、あのさ、おいくん……今度、くーちゃん達と湖上祭に行くんだけど……い、一緒にどうかな!?』
樹に誘われ、結構な大所帯で湖上祭の花火を見物して。
珍しく浴衣なんかをきた、樹にちょっとだけドキドキしてしまったり。
楽しい、本当に楽しい樹との日々が続いてゆく。
そして俺も、樹も、成長期のためか、どんどん色々なところが変わっていって。
そうして季節は目まぐるしく巡って行き、そろそろ二年に上がる直前の、春休みでのできごとーー