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★7/15 陰キャンプスピンオフNO1『木村 樹』


ーー週末となり、俺と樹は駅前にいた蔵前たちと合流し、シャトルバスにて、フォレストワールドに向かう。

そのバスの中での出来事ーー

「おい、樹」

「な、なぁに……?」

「せっかくだから蔵前と席変わってやろうか?」

「い、良いよべつに……隣、おいくんで……」

 "で"とはなんだ。
"が"だったら嬉しいものの……と思うも、その点は突っ込まないことにしておいた

ただいま、俺は窓側、樹は通路側といった順でバスの席に座っている。
通路を挟んだ向こう側には蔵前としーちゃんさん。その後ろには、男子2人。

まぁ、即席の遊びチームなのだから、こうなるのは仕方ない。

でも、たぶん、樹は現場についたらおそらく"覚醒"するだろう。

ーーそして俺のその予想は見事に的中!

「わぁー! おいくん、ここ凄い! バギーとか、アスレチックとか色々、あるっ!」

「よし、樹、片っ端から制覇して行くぞ!」

「んっ!」

ーーこの間のキャンプの時といい、ゲームの時といい、木村 樹というやつは、こういう"遊び"が大好きなのだ。
そしてこういう場面で、樹はまるで人が変わったかのように、その遊びを楽しみ始める。
すると、

「いいね、そういうノリ! じゃあやっちゃおうか、木村さん!」

 小学校の頃からいっつもノリノリな蔵前も樹に同調しーー蔵前がそうするなら仲良しのしーちゃんさんもーーなら、男子2人も付き合わないと……的なノリで、一緒に動いて行く。

 この時の樹は、学校の様子から想像もできないほど、よく笑って、よく遊んで。
時折、樹は俺の存在なんてすっかり忘れて、蔵前やしーちゃんさんと話していたり。

「よぉし、決めた! 木村さんのことは、これからいっちゃんって呼ぶけどおーけー?」

「う、うん! 良いよ……?」

「じゃあ、私はしーちゃんで! よろしくねいっちゃん!」

 すっかり樹は蔵前としーちゃんさんと仲良くなっていた。
ほんと、女子って仲良くなるのが早いと思う。

「香月、フレンド登録しようぜ!」

「俺も俺も!」

「おう!」

 男子は男子でゲームを通じて友情を深めるのだった。

 こうして楽しいフォレストワールドの1日が終わって、家に帰ると、不意にちょっとした寂しさが込み上げてきた。

 たぶん、今日のことを通じて、樹は蔵前やしーちゃんさんと"友達"になるだろう。
入学の時からずっと孤立していた樹にとって、友達が増えることはいいことだ。

 だけどそうなると、たとえ席が隣とはいえ、俺と遊んだり話したりする時間は減ってしまう。

 それがなんとなく寂しいような、そんな気分。

 と、そんな中、突然スマホがブルブル震えだす。

 知らない番号からだった。

 もしかして、最近ちまたで噂われている詐欺電話か何かだろうかと思い、ドキドキしながら出てみると……

『おいくんの、お電話ですかぁ……?』

「お? 樹! もしかして……!」

「んっ! スマホ、買ってもらえた! 家に帰ったらお父さんがくれた!」

『良かったな!』

「んっ!」

『蔵前たちにはもう電話したか?』

「んーん……」

 何故か、電話の向こうの樹は黙り込む。

 どうしたんだろうかと、俺が思っていると……

『おいくん、は僕の最初の友達だから……だから、一番最初に、電話したかったから……!』

 一番最初の友達……そう言われて、俺の胸に不思議な熱さとドキドキが過ぎる。

 でも、それがなんなのか、俺にはよくわからなかった。


ーーそしてそこから学校での樹の立場は、徐々に良いものへと変わっていった。

 人気者の蔵前と知り合ったことで、樹の周りには人が自然と集まるようになったのだ。

 樹自身も慣れてくれば、ちゃんと話せて。いろんな人と関わりを持つようになって。

 しかもスポーツが得意だから、球技大会で大活躍をして。

 そのおかげで、樹は一躍、学校での有名人となって。

 4月頃の孤立なんて、まるで嘘みたいに、今、樹は蔵前をはじめとした人の輪の中心にいることが多い。

 俺はそんな樹をみていたら、嬉しい反面、どこか遠くにいっちゃうんじゃないかと思ったんだけど……


『おいくん、一緒に帰ろ!』

 樹はタイミングを見計っては、俺と一緒に下校するようになった。

『もしもし、おいくん? ちょっとお話しいいかなぁ?』

 夜な夜なよく電話をしてきて、ゲームとかバカな話ばかりして。お互い通話料が凄いことになって、怒られたり……

 樹は状況が変わっても、俺のことを"一番最初の友達"として接してくれて。

 それが俺は嬉しくて。やっぱり樹は最高の友達だと思って。

『あ、あのさ、おいくん……今度、くーちゃん達と湖上祭に行くんだけど……い、一緒にどうかな!?』

 樹に誘われ、結構な大所帯で湖上祭の花火を見物して。

 珍しく浴衣なんかをきた、樹にちょっとだけドキドキしてしまったり。

 楽しい、本当に楽しい樹との日々が続いてゆく。

 そして俺も、樹も、成長期のためか、どんどん色々なところが変わっていって。

 そうして季節は目まぐるしく巡って行き、そろそろ二年に上がる直前の、春休みでのできごとーー

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