俺と樹は隣同士の席となった。
タブレットで、しかもお父さんのアカウントではあるけど、樹とRINEで繋がることもできた。
これから俺と樹はもっと仲良くなって行くことだろう。
そして学校での席が隣同士ということは当然、これからはお昼も一緒に食べることになるわけで。
「おい、樹、好き嫌いはダメだ」
「だ、だって、グリーンピース、嫌いなんだよぉ……」
俺に指摘をされてもなお、樹は給食のピラフからグリーンピースを抜き取る作業をやめようとはしない。
「樹は将来の金メダリストなんだから、そういうのはだめ……」
「金メダル!? なんの話!?」
俺の言葉に食いついてきたのは、小学校から一緒で、クラスのムードメーカー的な女子の蔵前さん。
これは樹にとってもちょうど良い機会だと思い、
「実は樹って、将来を期待された水泳の選手なんだよ!」
「ええ!? それ本当!?」
「あー! 聞いたことある! 最近、この街に水泳ですごい子が引っ越してきたって! もしかしてその人って、木村さんのこと!?」
蔵前さんの隣にいた女子も樹へ興味ありげな視線を向ける。
「あ、あ、えっと……おい、くん……!」
おい、樹よ……問われているのはお前自身で、俺に救いの視線を求めるな……でも、俺も少し急ぎすぎた感はあるかもしれない……と反省し、
「気を悪くないでくれ。樹はすごく恥ずかしがり屋なんだ。だから気長に相手をしてやってくれると嬉しい」
まぁ、俺自身、樹と仲良くなるのにそんなに苦労した感覚はない。
でも、とりあえずこう言っておけば、樹が怖気付いても「まぁ、それじゃ仕方ない」と思って、悪印象は抱かないだろう。
特に蔵前さんはそういう点ではとても信頼できる人なのだから。
「そうなんだ。ごめんね、急におおきな声出しちゃって」
ほらこの通り。
「……僕っ……あっ、えと……わ、私の方こそ、ごめんなさい……」
おおっと! 樹のやつ、自分から蔵前に話しかけたぞ!
しかも俺の言いつけ通り"私"を使っている。
こう誰かが自分の意見を素直に聞いてくれるのはとても嬉しいと思う。
「そういえば、木村さんと香月くんっていつの間に仲良くなったの? まさか昨日からじゃないよね?」
蔵前は俺と樹を見渡しながらそう質問してくる。
「実は俺の父さんと、樹の父さんが友達で、この間キャンプをしてそれでな?」
「そうなんだ。じゃあ、香月くんも一緒にどう?」
「どうって、何が?」
相変わらず蔵前は主語を言わない、せっかちな奴だと呆れ、聞き返す。
「あたしも木村さんと仲良くなりたいからさ! 週末、お母さんの仕事先に遊びに連れてゆきたいなって! だから、香月くんもついでに!」
「え? え? え……?」
樹はあまりに情報過多な蔵前の言葉に混乱している様子。
「蔵前、もうちょっと丁寧に説明してくれ……」
「ああ、ごめん……えっとね、私のお母さん、フォレストワールドってアスレチックとかある施設で働いててフリーパスを割引してくれるの! 三千円のところ、千五百円! で、スポーツ? が得意そうな木村さんなら興味あるかなって。まぁ、週末暇だったらなんだけど……そんで、木村さん1人じゃ不安だろうから、香月くんも一緒にってこと!」
「ぼ……わ、私、今週末は予定ないけど……」
樹は俺へ視線を向けてくる。
もうそれだけで、樹が何を言いたくて、俺にどんな答えを求めているかわかった気がしたのでーー
「わかった、俺も行く」
「わぁ! あ、ありがと……おい、くんっ……!」
「いや、俺はただ同行するだけで、お礼を言うのは蔵前の方じゃね?」
俺の指摘に樹は慌てて蔵前の方を振り向き「ありがと!」と言って頭を下げる。
しかし気のいい蔵前は「別にいいよ!」と笑って樹を許す。
「しーちゃん、はどぉ?」
「うん、いいよぉ〜」
蔵前は隣の女子にもそう投げかけさらに、
「君たちも一緒にどぉ?」
なんと俺の並びにいた別の小学校出身の男子2人へも声をかけたのだ。
その2人ももちろん了承したため、合計6人の大所帯で週末にフォレストワールドへ向かうこととなってしまった!