バトニングを終えて、あとは父さんたち大人が準備をするということで、一気に暇になった。
でも、俺はこの瞬間を狙っていた。
父さんと母さんにごちゃごちゃ言われずゲームができるこの瞬間を!
俺は早速、中学入学祝いに買ってもらったスマートフォンを取り出して、ゲームのアプリを起動させる。
CMで見てずっとやってみたかったアクションRPGだ。
とても人気でサービス期間も長いもので、有名な動画配信者とかは、このゲームに何万円も課金しているとか。
俺も課金をしてはやく強くなりたいんだけど、さすがに今のお小遣いじゃ焼石に水で……なので、今のところ無課金でなんとか頑張っている。
「おいくん……?」
と、俺の傍にひょっこり現れた樹は、俺のスマホへ視線を落とす。
「おう樹。もしかして、このゲーム知ってるのか?」
「待ってて……!」
なんだかとても嬉しそうな樹は木村家のテントから、タブレットパソコンを持ってくる。
そして俺のやっているゲームアプリと同じものを起動する。
「みてっ!」
「ぐおぉ……! も、もしかして樹は重課金者かぁ……!?」
樹が見せてきた持ちキャラの一覧にはレアキャラがずらりと並んでいる。
「課金してない……!」
「じゃあ全部無料で?」
「んっ! んっ!」
樹は誇らしげに頷いてみせた。
くそぉ……これが持つものと持たざるものということかぁ……!
でも、これだけ樹の方にキャラが揃ってるってことは……
「おい、樹、そんなにキャラが揃ってるなら手伝え! 俺はいま来てる、このボスをドロップしたい!」
「んっ! 手伝う! 僕、おいくんのために頑張るっ!」
本当、樹はさっきのバトニングの時といい、すごくノリがいい。
学校でも、もっとそういうのを態度に出しゃ、簡単に友達ができるんじゃないかぁ?
そして樹はキャラが揃っているだけではなくーー
「くっそぉ……ここからどうすれば……!」
「僕に任せて、おいくんっ!」
プレイ自体も無茶苦茶上手かった。
攻略動画でもアップすれば、ちょっとしたお小遣い稼ぎできるんじゃないかと思うくらい。
でも、こういうゲームが上手いやつって、結構マウントを取りたがるというか、自分本位でやるやつが多い印象なんだが、
「おいくん、トドメお願いっ!」
「おっしゃ! これでトドメだぁ!」
樹は上手くて強いにも関わらず偉ぶったりせず、むしろ自然と俺が楽しめるよう色々と気を使ってくれたりしていた。
きっと、本当に上手いやつって、こういうことが自然とできるんだろうな、たぶん。
「おっしゃ、撃破! やったな、樹!」
「う、うんっ!」
俺のハイタッチに、少し恥ずかしそうな顔をしながら、ちょこんと言った感じで応じる樹だった。
そしてチラチラと俺の顔と自分のタブレットを交合に見渡す。
「あ、あの、おいくん……」
「せっかくだからまだやろうぜ!」
「んっ! んっ!」
それから俺と樹はちょこっと大人たちに怒られるまで、延々をゲームをやり続ける。
ここまでゲームに夢中になったり、一緒にやったりするのがここまで楽しいと思ったのは初めてのことだった。
たぶん、そう思ったのは樹が原因だ。
樹はちょっとおどおどしてて、声が小さすぎて聞こえない時もあるけど、実はノリが良くて、ウマも合う。
一緒にいて、すげぇー面白いやつ。
もしかしたらこういうやつのことを"親友"っていうのかもしれないな。