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★2/15 陰キャンプスピンオフNO1『木村 樹』


「よぉ、キムタク久しぶり!」

「だから、そのあだ名はやめてくれっていってるだろ、昔から……」

 ゴールデンウィークのある日、俺は父さんに連れられて、近くのオートキャンプ場でBBQ件キャンプに連れてゆかれる。
どうやら、最近、こちらへ戻ってきた父さんの友達である"木村 拓巳さん"とその一家との合同キャンプらしい。

 で、木村と聞いて、もしかしてと思ったら……

「おっ? この子が例の?」

「もしかすると将来、日本の水泳界を引っ張ってく逸材になるかもしれないぞ」

「お、おとうさん、やめてよ! 僕、泳ぎは好きだけどオリンピックなんて目指してないよぉ……!」

 一人称が"僕"って、こいつはやっぱり男なのか?

 ダボダボの長ズボン、パーカーを着た木村さんの子供の"樹"は、顔を真っ赤っかに染めて、チラッと俺の方を見てくる。

 ああ、なるほど、木村 樹のそばを通ると、いつもプールっぽい匂いがしたのは、そういうことだったのか。

「そういえば樹と葵くんって同じ中学だったよね?」

「あ、あ、えっとぉ……」

「同じ中学で、同じクラスです。な?」

 そう同意を求めると、俺のことが怖いのかなんなのか、木村 樹はお父さんの後ろへ隠れてしまった。

「ごめんね、葵くん。気を悪くしないでくれ。樹はちょっと恥ずかしがり屋でね」

「いや、まぁ……」

 うっかり"学校でもいつもそんな感じなんで"と言いかけたがやめておいた。

 もう俺は中学生なんだから、あけすけにそんなことを言った日にゃ、この場の空気がどうなるかくらいわかっているからだ。

 そんなこんなで挨拶を終えた俺たちは、早速バーベキューの準備に取り掛かる。

「葵、薪お願いできるか?」

「はいよ〜」

 父さんからそう依頼を受けた俺は、防刃手袋を着け、バトニングナイフを手に取る。

 相変わらずバトニングナイフは剣みたいでかっこいいと思う。

 本当はこれを使って、ゲームに出てくる勇者っぽいポーズを取ってみたいんだけど、やったら絶対に父さんに怒られるのでやらないけど……

 さて、そろそろバトニングを始めない!

 俺は父さんに散々仕込まれた方法で、軽快に薪を割って行く。

 そんな中、妙な視線が俺に向けられているような気がした。

「……」

 俺のことを見ていたのは木村 樹だった。

 木村 樹はじぃっと俺のことを、いや、俺がバトニングナイフで割っている薪のことを見つめている。

 こいつもしかして?

「やってみるか?」

「え……?」

「やってみたいんだろ、バトニング」

「で、でもぉ……」

 たぶん木村 樹は俺が持っている剣みたいなバトニングナイフにビビってるんだろう。
確かに俺も、初めて父さんにバトニングを習った時は、こんなふうに怖がっていたっけ。

「大丈夫。俺がちゃんと教えるから。やりたくないんじゃ、別に良いんだけど……」

「やり、たいですっ!」

 なんだ木村 樹って案外、話せてノリのいいやつじゃん、と思った。

 俺は自分の使っていた防刃グローブとバトニングナイフを貸してやる。

「ほれ、やってみ」

「う、うんっ!」

 木村 樹はおっかなびっくりな様子で、薪に当てたバトニングナイフを当て木で叩き始めた。
予想通り、叩き方が弱くて、薪へ全く刃が入ってゆかない。

「もっと強く!」

「こ、こぉ……?」

「もっと……って、ああ、そんな力じゃ逆に危ないって!」

「ーーっ!?」

 見ていられないし、このままじゃ怪我すると思い、俺は木村 樹へ覆い被さった。

 こういうのって口で伝えるのは難しいから、こうやって相手の手を取って、力加減を教えるのがいい。
実際、俺も父さんからはこうやって習ったのだから。

「あ、あの、そのぉ……!」

 なんでコイツ、こんなに震えてるんだ? 変なやつ。

「刃物を持っているときはふざけない! 怪我するぞ!」

「あうぅ……ごめんなさい……」

「良いか、これから俺がお前の腕を動かしてバトニングしてみる。それで力加減を覚えるんだ。いいな?」

「う、うんっ! 分かった……!」

 俺は木村 樹の手を動かして、バトニングの力加減を教えてゆく。
最初はとてもビビっていた木村 樹だったが、だんだんと要領を覚えてきたらしい。
俺が徐々に力を緩めても、自分で薪を割れるようになってゆく。

「良いじゃん、うまいじゃん!」

「……せ、先生が、良かったから……あ、ありがと……」

 先生か。なんだか嬉しい響きだ。誇らしい!

「じゃあ、もうくっついてなくても良いよな」

「あ、うんっ……」

 俺が離れると木村 樹は何故か奇妙なトーンの声を放った。
ちょっと元気が無くなった気がする。やっぱりまだ、1人でやるのは怖いんだろうか?
でも、こういうのは最終的に1人でやらなきゃ意味がない。

「もう大丈夫だって。先生が保証する!」

「分かった……!」

「ふたりで全部やっちゃおうぜ!」

「うんっ!」

 そうして俺と木村 樹は2人で協力して、バトニングをし始める。
するとあっちで食材の準備をしていた木村 樹のお父さんがやってくる。

「おお、樹上手いじゃないか。教えてもらったのか?」

「う、うんっ! えっとぉ、そのぉ……」

 バトニングの手を止めて、チラチラと俺のことを見てくる木村 樹。
なんだよ、コイツ、クラスメイトの名前覚えてないのか?

「香月 葵! 呼び方はなんでも良いよ!」

「あうっ……じゃ、じゃあ……ぁおいくん……?」

 多分、俺の名前を呼んだんだろうが、最初"あ"があまりに小さすぎて"おいくん"に聞こえてしまう。
まぁ、なんでも良いんだけど。

「いいよ、それで。そっちがそう呼ぶんじゃ、俺は"樹"って呼ぶけど良いよな?」

「んっ! 樹、で良いっ!」

 樹はなんだかとても嬉しそうは顔をしていた。
たぶん、中学に入って初めて"友達"ができたのが嬉しいんだと思う。
ちょっと、恥ずかしいけど、こうやって喜ばれるのは悪い気はしない俺だった。

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