★俺は長ズボンを履いた不思議な女の子『木村 樹』と友達になる。
入学式を終え、俺『香月 葵』は晴れて中学生となった。
とはいえ、小学校からの付き合いのやつも多く、ただ校舎と着るものが変わっただけ、というのが正直な感想だ。
でもそんな中に、1人だけ違和感を覚えるやつがいる。
ーーそいつの名前は『木村 樹』
自己紹介の時、すんごくちっちゃな声で「中学入学を機に引っ越してきました……」といっていたやつだ。
髪は他の女子と比べて長くはないけど、男子ほど短くもない。
顔つきは女っぽい気もするし、男っぽい気もする。
どっちにしてもちょっと目を引く、整った顔立ちはしていると思う。
男か女か、俺の中ではっきりしない、不思議なやつ。
たぶん、俺が木村 樹へこんな曖昧な印象を抱いてしまうのは、こいつが他の女子とは違ってスカートではなく、1人だけ長ズボンを履いているからだろう。
「……」
そして木村 樹は態度も変わっている。
中学に入ってからもう一週間も経つが、いつも誰とも喋らず、席についたままぼぉーっとしていることが多いのだ。
給食の時は決まりで近くのやつと机をくっつけて食べているけど、それでも喋らず、おとなしくしているだけ。
しかも、放課後になると、まるで逃げ出すように、すごい速さで教室から出て行く。
たぶん、クラスのみんなは、そんな木村 樹へ近寄りがたい印象を持っているのだろう。
正直、俺もみんなと同じ感想で、木村 樹とは入学以来一言も話したことはない。
でも、なんとなくいつも目で追ってしまうのは、どういうことだろうか?
と、そんな風に、木村と話さず、1ヶ月を過ごした、その年のゴールデンウィークでのことーー