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虫愛ずるJK

 この小説を思いついたのは、もちろん(一部で)有名な堤中納言物語を読んだことによるが、いわゆるJKすなわち現代の女子高生が時代を超えてこの時代に行くという設定で小説の主人公にしたのにはそれなりに理由がある。
 この主人公である姫君、実に現代的な性格をしている。
 まず、理屈っぽい。「人は実あり、本地を尋ねたることこそ、心映えおかしけれ」(人間というものは、真実が存在する、物事の根本を探るというのが、正しい思考方法である)などと(たいていの今のJKよりも)理屈っぽいことを言う。そしてオタクのように髪を耳に挟んで、虫を見続ける。
 貴賤を問わず子供たちを集めて虫を取らせる、というのはなかなかな行動力である。今の女子高校生、方向はともかく行動力にあふれているではないか。
眉は抜かず(当時は眉毛を抜くという風習があった。不思議かもしれないが当時の人にしてみれば今の腋毛のお手入れの方が不思議な風習かもしれない)、鉄漿は「うるさし、穢し」(うざいし、きもい)と言って拒否する。自己主張の激しさは現代の女の子に引けを取らない。そして独自のファッションを作り出していく。
 親が注意しても「聞こゆる事は深くさからひたまえば」(注意しても全く言うことを聞かず)周りを当惑させる。いやいや、もう高校の先生には頭が下がる思いがする。

 まあ、ある意味空気を全く読まないという点ではこの姫君、あっぱれであるが、読んだ直後の感想は「なんだか現代の女の子が昔話の中に登場したな」というものであった。平安時代の「とんでもない女の子」が現代の女の子に通じるというのはちょっと面白い。ならば現代の女の子がタイムスリップをしたという設定も成り立つのではないか、というのが発想の原点である。

 安倍晴明を同じくタイムスリップした者、として登場させたのは、彼の事績は平安時代では奇跡ではあるが現代の文明ではたいていのものに説明がつく、という・・・これはまあ、当たり前と言えばいえるのだけど、その意味で調和しやすいからである。この時代、奇跡は安倍晴明か空海が起こすものと相場は決まっていて、両人ともなかなか忙しいのであるが、やはり百鬼夜行といった趣のあるエピソードとなれば、安倍晴明がプロジェクトマッピングをした方が説得力はありそうである。式神はドローンかもしれないし、人型ロボットやペット型ロボットかもしれない。彼らは天候を占ったとされているが、気象予報士でなくても気圧計があればかなりの天候は予測可能であろう。

 閑話休題。一応、「虫愛ずる姫君」にはモデルがあると言われていて藤原宗輔の娘とされているが、藤原宗輔が11世紀の人だから、そうだとすると安倍晴明とは時代は合わない。だが、モデルといってもそもそも信頼度の低い話であり、彼女も「変わった娘」であったかもしれないが、この娘のお父さんも変人であったらしいので、ストーリーとしては齟齬があるわけで、(虫愛ずる姫君の父はごくまともな人間である)こだわることはないだろう。

 そうやって想像力を膨らましていったら、中国や古代フェニキアあたりまで話が行ってしまい、「マルティプル ワールド」の話まで少々とっ散らかした感はあるが、興味があったら読んでくださいな。

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