推理小説における通報の分類

 しれっと更新していきます(今見たらだいぶ文章が変わっていますが、本人です)
 今回は通報に関する分類ということで警察組織への通報について考察していこうと思います。
 そもそも、現代において「電波が届かない場所」というのはどれほどあるのでしょうか。相当な僻地であっても基地局が整備されているご時世では、推理小説で散見される「警察に通報ができない」という実例は皆無に等しいといえます。推理小説においてはレガシーのように残っているクローズドサークルなわけですが、これはその矛盾の最たる例といえるでしょう。
 私はどちらかといえば「現実にそぐわないものを現実のように取り扱うことを否定する」立場を取るので、この手の問題を今なお『お約束』として触れないことには些かの抵抗があります。宇宙をはじめSF的な特殊環境下での事件を扱った作品が増えているのも無縁ではないでしょう。もしかしたら、これは純粋な論理空間を求めた結果の発露であるといえるのかもしれません。
 では、現代においてはこの通報問題——はどのように処理されるのでしょうか。

①警察を呼ぶ
 A-協力する
  a-役に立つ
  b-役に立たない→能力もの、道具化
 B-協力しない(警察と対立)
  →シリーズものの初期、探偵役が年少
 C-自分自身が警察
  ・警察小説
  ・独自捜査

②警察を呼ばない
 A-場の偉い人の指示
 B-事件性の有無から検証
 C-日常の謎
 D-過去の再検証、時効、無罪確定
 E-呼ばない(環境)
 F-呼ばない(当事者)
 G-安楽椅子型

 さて、私のまとめた限りでは以上のように分類されます。
 ①については警察を呼ぶ事例であるため駆け足で行きますが、やはり特筆すべきは①-A-aの「役に立たない」事例でしょう。
 ここで道具化と述べているのは、あくまで存在はするものの鑑識業務など探偵が担えない部分について補助する役割程度の認識で考えていただければ差し支えないです。ゆえに証拠の鑑別などの探偵をお膳立てする存在にすぎず、昨今の警察が登場する——そしてなおかつ探偵が主役である推理小説では主流といえるでしょう。
 では②の事例について検討していきます。
 2-Aは言うまでもなく、クローズドサークルにおける館主など場における長者の指示が想定されます。これは以前から主流ではありますが、昨今の携帯の普及率を鑑みるに「個々人の行動としての通報」を完全に統制下におくことは甚だ難しいと言わざるを得ないでしょう。
 無論、積極的に通報しない意味は存在しないため、現代においては「あえて通報しない」という行動を再考するに読者の支持を得るのは難しいと結論付けられます。
 その点、2-Bは有望株であるといえるでしょう。
 事件性の有無から検討というのは、所謂陰謀などに分類されるものであり、あくまで個人的に捜査をしていくという探偵のスタイルに合致します。組織の陰謀を探ったり、不吉な伝承を辿っていくうちに死体が登場するという例であれば用例も多いように思われるので、行動型の探偵であれば問題がないと言えるでしょう。
 2-Cについては言うまでもないでしょう。日常の謎は死体を想定しないため、(用例として死体を扱ったものがないわけではないですが)ここでは省略します。
 2-Dは一見説得力を持つようにみえますが、個人的には疑問符がつきます。というのも、過去の事件と対比して現在の事件を扱うという用例が膨大であるため単独で過去の事件のみをつぶさに考察するという例は多くないと思われるからです。むしろ、過去の事件の登場人物の行動が原因となって怨恨や復讐から実行された殺人の方が多いかもしれません。
 そう考えると、単独の事例として取り上げるのは難しいように思われました。また2-Gでも取り上げるのですが、安楽椅子探偵は厳密な結論を出すには向かない探偵であるといえます。
 断定的な結論を放棄したうえで、一考察として尤もらしい論を見出す(そして作中ではそれ以外を取り上げないので結論として扱われる)というのがスタイルなのを考えれば当然ではあるのですが、やはり時限的な証拠が不可欠である殺人事件には応用が難しいといえるでしょう。
 次に2-Eと2-Fについてまとめて考察していきます。
 2-Eはいうまでもなくクローズドサークルです。一方2-Fというのは、私が散々に否定してきた「当事者が積極的に通報しない」スタイルといえます。つまり、通報しないことに倫理観を差し引いても多大なメリットがある場合であり、なおかつその合意が容易に形成されている場合でもあります。
 事例としては多くないですが、例えば任侠ものであれば、わざわざ警察に助けを求めることはないでしょう。このように特殊な事例ではありますが、事例さえ成立させれば犯人と探偵の利害が奇妙に一致しているという点で最もポテンシャルを秘めているケースであるといえます。
 最後に2-Gですが、安楽椅子探偵も警察を必要としない例でしょう。科学的知見を排したうえで尤もらしい結論を述べるという点では先ほども述べた通りですが、いうならば警察側が相性が悪い探偵ともいえます。また、再考という点では2-Dにも分類されうるようにも思われるので、このあたりになると厳密な分類というのも難しいのかもしれません。
 以上、拙文ではありますが当座の結論としてはこのようなものでしょうか。不備等あれば、ご指摘いただけるとありがたいです。
 個人的には常々「推理小説も『お約束』で済ませずに現実に見合った改変をしていかなければならない」と考えているので、その思考の一端をささやかながら共有できれば幸いです。

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