2024年も(このノートの投稿日を含めないと)残すところ10日となってきました。ここ最近は久しく何も更新していないだけに、きっと擱筆してしまっていると思われてしまっているのかもしれない。しかし、『エレメンタル・ライフ』の話は充分にストックが溜まっているし、芥川賞候補作も順調に読み進んでいる。決してこのサイトに、私が見放してしまったというわけではない。
さて、まずは連載の『エレメンタル・ライフ』について話そう。あまり伸びてはいないが(あちゃー、しかし宣伝も殆どしていないので当然といえば当然)、私の性としては一度書いたものはどうにか完成に漕ぎ着けたいので、連載は続けます。しかし、最新話の更新は年を越したあとになると思われる。その際は怒涛の連投になると思うのでお楽しみに。
次に、『芥川賞受賞作全作解剖』についてだが、毎度投稿に際して、私は必ず選評も含めて言及しているので、選評が掲載される『文藝春秋』2月中旬に出版されるまで待たねばならぬ。ということで、来年1月15日に受賞作が決定してもすぐには投稿しない。
以上、今年中に連載の更新はないということを留意していただきたい。ただ、何もないというのも虚しいので、ここで第172回芥川賞候補の予想を、感想も併せてしたいと思う。
まず、竹中優子の「ダンス」だが、こちらは受賞が難しいと思われる。本作は新潮新人賞を受賞した、デビューしたてホヤホヤの作家によるもので、言葉遣いや展開は整っているが、物語に於ける斬新さや個性が今ひとつ欠けていて、OLの結婚観を描いた本作を芥川賞でさらに箔が付くことにしっくりこない。
次に永方佑樹の「字滑り」だが、個人的に本作は面白かったように思える。まともに言葉を使えなくなる「字滑り」と呼ばれる世界中で巻き起こる奇妙な現象に立ち向かう男女について描かれた、ある種のSFミステリーを帯びた作風だ。ある種の社会批評性に富んだSFではあるが、むしろだからこそ、果たして芥川賞に相応しいかどうかが非常に悩ましい。円城塔の描くSFに比肩し得るかどうかも怪しい。
安堂ホセの「DTOPIA」は21世紀に入ってから使われるようになった、スピーディな話し言葉を用いた作品だ。恋愛リアリティショーという、おそらく過去には稀な題材を取り扱っている作品で、如何にも2020年代の空気感を捉えた力作とも思えるが、この方はこのテーマで何度か候補作になっていて、一部選考委員にも好評だった。本命ではなさそうだが、隠し玉としてあってもいいのではないか。
本命と謳われている乗代雄介の「二十四五」は、3.11に立ち向かった作品だ。やや無難とでも言うべき執筆態度だが、芥川賞で改めて震災ものを取り上げる必然性について、私は疑問に感じた。
最後に鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」なのだが、小説TRIPPER掲載作だっただけに定期購読している図書館が身近になく、しかも掲載が秋号であり、書店でも既に新刊である冬が並んでいて、入手が困難となっていて、ネット上に上がっている冒頭部分しか読めていない。ただ、冒頭部分だけでも、私は十分本作が受賞し得る作品であると思った。リアリティある日常に於ける細やかでユーモアあるエピソードが並ぶ本作は、同時にSNS社会に於ける我々のコミュニケーションをも反映しているし、先を先を読ませるものだ。
以上、私の予想は「ゲーテはすべてを言った」が本命、もし抱き合わせとなるのであれば「二十四五」と「DTOPIA」(「二十四五」の方が優勢か)、「字滑り」「ダンス」は薄い、だ。