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バックパッカー旅行記 フィンランド&イギリス編 ③ロンドンの悲劇 

③ロンドンの悲劇 

さて、スペインに行ったことはあるが、その時はバルセロナにしか行けなかったので、
私はトレドという街にとても憧れを抱いていた。

トレドとの出会いは、以前、働いていた英会話学校で
偶然壁に貼られていたポスターがトレドの夕景だった。
私は仕事場に行く度に、その美し過ぎる景色にずっと心を奪われていた。

アメリカ行きが無理ということは、
トレドが私を呼んでいることだと楽天的に解釈した。
トレドはマドリッドから近い。

とりあえずロンドンーマドリッド往復の航空券を探してもらうと、
何と円計算で5万のチケットがすぐ見つかった。
5万なら決めてしまって良いのではないか?

旅行代理店の人が、この便の座席はどんどん埋まりますよと言ってくる。
私はマドリッド往復のチケットを買うことを決断した。
とにかく、今回は旅の後半にトレドだけでも訪れることが出来れば、もう、それで十分だ。

そして発券された航空券を手に気分はドキドキ高揚しながら、
ジャパン・センターの中をもう少し見て回ることにした。

そうだ、ここには日本語のガイドブックがあるはず!
スペインは予定外なので何も日本からは準備をして来なかった。
まず立ち読みして現地の情報をゲットしなくては。

そこで幾つかのガイドブックを読みだした私はまさかの事態に陥ることになった。
ガイドブックによると、マドリッドの空港は危険極まりないと書かれていたのだ。
(今はまた、どうか分からないが1998年当時)

空港から公共交通を使う旅行者が必ず通る通路があるらしいが、
そこで多くの人が盗難目的で襲われた話が出ているのだ。

ツアーならともかく私は女性の一人旅である。
これって、まずいんじゃないの?

もう皆さんはご存知の通り、私はいつも慎重に慎重に旅をしていた。
いくら夢見たトレドがそこにあっても、
何か事件に巻き込まれてしまったとなれば、元も子もない。

仕方がない、トレドは諦めよう。
縁があったかとも思ったが、それは幻で、現実には縁はなかったのだ。
私は決心し、航空券を払い戻してもらうことにした。
ガイドブックを閉じて棚に戻し、とにかく旅行代理店へ走って戻った。

ところが……私のチケットは格安航空券だったので
払い戻しは出来ないと言われてしまったのだ。
ショック……。

この日の、私の葛藤を想像できますか?
5万あれば別の安全な場所に旅が出来たのにと思ってしまう。
例えばイギリス国内でも良かったんじゃないか?
アイルランドやウェールズにもまだ行っていなかったのに。

当時の私は、自己都合で退職したばかり。
当分、まとまったお金は入ってこない。
だから、この旅に使う金額の上限は決めて出発していた。

それは変えられない。
フィンランドは予定通りだから良いとして、後半、5万のチケットを捨て、
ただ、ロンドンで地味に過ごす旅。
せっかく、ここヨーロッパまで来て、それで良いのか?

でも女子一人旅の鉄則は安全第一である。
どうしようもない。
5万は捨てるしかない。
私はチケットを買う前に下調べをしなかった自分の馬鹿さ加減にあきれながら、
重い心を抱えて旅行社のあるジャパン・センターを後にした。

③ロンドンの悲劇 終わり

※写真はフィンランド・ヘルシンキの駅(もう随分前なので現在の様子は違っているかも。)

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