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「比翼」コミカライズ第4話掲載&単話版第3話配信記念SS 【桃三李四】

本日発売「コミックライドアイビーvol.32 」にコミカライズ版「比翼は連理を望まない」第4話が掲載されております。加えて各電子書籍サイト様で単話版第3話も配信開始になりました!

今後は雑誌掲載と同時にひと月遅れで単話版も更新されていくようです。ライコミ様では1話を大体3分割して、毎週火曜日に更新がかかります(現在は第2話①までが無料公開中です)

皆様、お好みの媒体で無理なく末永く推していただければ幸いです。

さて、今回は「4話掲載&単話版3話配信開始」ということで、こちらのSSをどうぞ!

会話内容的に恐らくweb版3部時間軸、氷柳さん&慈雲さんの前翼組です。


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【桃三李四】


「お前さ、イラッときたりしなかったの?」

 唐突に隣から聞こえてきた声に、涼麗は視線を声の主へ向けた。

「お前が出会った当初の黄季って、文字通りに『落ちこぼれ』だったわけだろ?」

『退魔術の行使って分野じゃお前、苦労したことねぇだろ』と続けた慈雲の視線は、涼麗ではなく鍛錬に励む新人達に向けられていた。その面々の中には、話題の渦中にいる黄季も混じっている。

 二人して長官室に籠って書類仕事に明け暮れていたのだが、そろそろ集中力が切れてきたのを感じた頃合いだった。『気分転換がてら新人どもの様子でも見に行くか』という話になり、部屋を出てきたところである。

「別に私もまったく苦労をしたことがない、というわけではないのだが」

 中堅どころの先輩達を相手に、今は攻撃呪の鍛錬が行われているようだった。

 そんな中にいる黄季は、一際明るい色目の装束に袖を通していながら、やはりイマイチ攻撃呪のデキはよろしくない。本人は真面目に取り組んでいるようだが、的役を引き受けている先輩からも、周囲の同期達からも叱咤の声が飛んでいる。

『あれでも随分成長したんだが』とも『黄季の場合は直接武器を取って斬り掛かった方が勝算が高いくらいかもしれない』とも思いながら、涼麗はゆったりと慈雲に答える言葉を口にする。

「あれが初めて屋敷で退魔術を行使した時、術が成るように手助けをしてやった。その時の感触で、ある程度はできる余地があるということは分かっていた」
「でもお前、人に関わることも苦手じゃねぇか」

『そんなお前が、わざわざ根気良く、基礎の基礎から指導してやるなんてなぁ』とうそぶく慈雲は、涼麗を揶揄しているようにも、理由を深掘りしようとしているようにも見えた。

 そんな慈雲に一度呆れの視線を注いだ涼麗は、視線を己の弟子であり相方である雛鳥へ向ける。

 鍛錬に集中している黄季は、壁に背中を預けるようにして立つ涼麗達に気付いていないようだった。そのひたむきな横顔は、涼麗が自邸で稽古をつけていた当初と変わっていない。

【俺、戦いたくない人は戦わなくてもいい世界を、創りたいんです】

 そう言い放った声を、今でも鮮明に覚えている。

 その後の自分の人生をガラリと変えることになった、その始まりの声を。

【だったら、貴方が戦わなくてもいいように、俺が戦います】

 この雛鳥ならば手を取ってやってもいいと、……守ってやってもいいと思わせた、あの光を帯びた光景を。

 ──あの景色を『光』と認識している時点で、きっと私は。

 もはやあれと関わらないという選択肢を取ることは、きっとできなかったのだろう。

 今は、そう思う。そうなっていて良かったと、心の底から思っている。

「桃三李四、という言葉があるだろうが」

 いい加減慈雲の視線が鬱陶しくなってきた涼麗は、壁から背を離すと前へ踏み出した。

 背を預けていた壁が作り出す影から抜け出し、光の中へ、自らの足で進んでいく。

「あれは、実ることができる木だ。私はそれを知っていた」

 そんな涼麗を、慈雲はすぐには追ってこない。涼麗の言葉の真意を測るかのように、慈雲は壁に背中を預けたまま涼麗の背中を見つめている。

「実るまで待つことくらい、私にだってできる」
「待つ、ねぇ?」
「待つのは得意だ」

 何せ八年間も、帰ってこないと分かりきっている人間を待ち続けられたくらいなのだから。

 そんなことを思いながら、涼麗は途中で慈雲を振り返る。涼麗が距離を詰めたことで、鍛錬中の黄季も涼麗と慈雲の登場に気付いたのだろう。黄季が驚きとともに声を上げたことにより、場に集っていた人間達の間にもザワリと驚きの波が広がっていく。

「黄季との関わりは、『待つ』だけじゃなかっただろうに」
「『実るのを待つ』という意味では『待つ』だろう」

 むしろそれまでの八年よりも、短くもずっと有意義な『待つ』だった。

 そんな思いを言外に滲ませながら、今度こそ涼麗は黄季の方へ足を進めた。


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・コミカライズ公式HP
https://www.ivy.comicride.jp/detail/hiyoku/

・角川ビーンズ文庫特設ページ(第1話の冒頭が試し読みできます)
https://beans.kadokawa.co.jp/blog/infomation/entry-5854.html

・ライコミ様作品ページ(現在は第2話①まで無料!)
https://comicride.jp/series/de1f0152b002d

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