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騰蛇の牙 三月分振り返り 及び今月の更新のお知らせについて

 お久しぶりです、裴エンタです。

 リアルで忙しく、しばらく作品と近況ノートの更新が滞ってしまいすみません……。ですが『騰蛇の牙』は私にとっても思い入れのある作品であり、体力の続く限り続けていきたいと思っておりますので、今後は更新が遅れそうな場合は事前に近況ノートの方に告知させていただきます。
 早速ですが、外部に提出する原稿の執筆があり、今月分も更新できそうにありません。来月はどうにか更新しようと思っておりますので、よろしくお願いいたします。



 では。更新の代わりと言っては何ですが、騰蛇の牙、三月の更新分について解説などを……。

 張純の乱編もそろそろ佳境、三月分は匈奴や羌にスポットを当てたエピソードとなりました。なんかもうさすが騎馬民族。行動範囲と文化圏が広すぎィ!って感じで漢書買ったりシルクロードの学術書買ったり東洋美術史の講義取ったり後漢書に手を出してみたり……(いつもお世話になっている翻訳掲載・考察サイト様、ありがとうございます!)資料量がすさまじい。
 まあそうした苦労の甲斐あって、個人的にはそろそろ小説全体のコンセプトというか、やりたいことができ始めてきたかなあと思います。

 紹介文に『人と獣の三国志』なんて書いてますが、ぶっちゃけこの小説をあまり三国志にはしたくないな、という想いがあります。古代にあって成熟した漢という文明。彼らを包囲する数多の民族。それら全てに恵みをもたらし、大陸を繋ぐシルクロード。勇壮にして広大な古代アジアという文明圏。その崩壊の一部始終。岐路に立たされた人々の葛藤——『三国志』という言葉は私自身、本当に好きな表現なのですが。しかし“三国”にクローズアップしたその表現では、数多の国・民族をまたぐこの雄大な構図を語りつくせぬような気がするのです。
 そういう点でこの小説の本当の主役というのは、古代中国に新たな風を吹かせてきた華外民族の人々や、彼らと華内を繋ぐシルクロードという営みそのものであるのでしょう。
 中華文明は技術・宗教・美術など、さまざまな文化において日本文明の原点とも言える存在ですが、その中華文明の原点こそシルクロードにあり、それらを辿ることで私たち日本人もまた自分たちの生活のルーツを知ることができるのではないかと思います。作中でも述べた通り、ゴマやキュウリといったごく身近な食物もシルクロードを伝って中華へ、そして日本へ伝わったものですし、時代は違えど猫やニンジン、ハクサイあたりも同じルートを通って日本に伝わっています。
 で、そうしたシルクロードの恵みを本格的に中華にもたらしたのが、かの有名な前漢の武帝です。彼は匈奴を追討し羌族を退け、二族間のシルクロードを分断し、その恵みを確保することに成功しましたが(漢代は華内でも西域風の有翼獣模様が流行ったりしたそうです)、その軍事費用に圧迫され前漢の財政は傾き、やがて滅びを迎え、のち建った後漢は領土拡大に伴う華外民族との衝突により疲弊していきます。小説内では触れられませんでしたが、後漢では三度にわたる『涼州放棄論』というものがあり、シルクロードの玄関口でありながら民族反乱の絶えず多発するこの地帯は、後漢にとってハイリスクハイリターンな土壌ではあったようです。

 そういう意味で漢というのは、武帝の偉業によって栄え、その代償に滅びを迎えた国家であるのかもしれません。本作において『北の人』とする劉備を、従来通り景帝でなく『自称武帝の末裔』と定めたのも、そうした理由あってのことでもあります。


 まだまだ語りたいことは山ほどありますが、さすがに長くなりすぎてしまったので、今回はこの辺りで失礼したいと思います。亀更新ですがクオリティにはこだわって参りますので、引き続き、『騰蛇の牙』をよろしくお願い申しあげます。

原稿の進捗報告や資料のメモ、ぼちぼち歴史語りなどを行うTwitterのアカウントを作りました。こちらも合わせてよろしくお願いいたします。
→@haienta187

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