• エッセイ・ノンフィクション
  • 現代ドラマ

KAC20231

 今年の新規書店の開店数は80万軒だそうだ。一年に生まれる子供の数を遥かに超えた本屋が街に蔓延っている。どうしてこうなったのか、それは誰にも分からない。村上春樹の新作長編が出た。有名vTuberが挙って紙書籍を出して転売ヤーが集まった。新型感染症がなぜか読書家、しかも紙媒体のものをよく読む人で軽症だという噂が広まって(一応データはあるらしい)、なんでもいいから活字を読もうというブームが起こった。Chat-GPTにKADOKAWAが相当な額を積んだらしく、一時期あらゆる相談に「本を買え」と回答するようになって、もはやChat-GPTを疑う気持ちがなくなった人たちがそれを信じて悩みが生じるたびに本を買った。辺りが複合的に絡み合って、とにかく本屋が爆増したのだ。

 増えた本屋で本を出さなければならない。そのためカクヨムとか小説家になろうとかテラーノベルとかノべプラとか魔法のiらんどとかで曲がりなりにも文章を書いてる人はほぼ全員書籍化した。ほぼ全員というのは、ダイエット本だけは何をどうしても売れない(読書家が全員メガネのガリガリだからではないか? という説が有力だ)ため、ダイエット・エッセイだけは書籍化されなかったからである。

 街には本屋と本の転売屋(古本屋は居抜きで買われて高額転売専門の闇本屋になった)しかない。俺が小学生の頃は、「森林資源の保護のため、紙を大事にしよう」と言われていたが、次第にその考えは変わって、「プラスチックを使わないように、紙を使おう」となった。今や逆戻りだ。いや逆戻りどころではない。紙ストローも紙袋も、いやそれどころか藁半紙すら超高級品だ。マニュアルや契約書などの必須書類だが「本」ではないものは全て電子化された。「本」を読めない貧困層だけが、投げ売りされたiPadで、ゴミのような値段の電子書籍を読んで暮らしているが、そのうち病に倒れてそんな奴らも減っていく。今や、iPad Pro一台と交換できるのは、その日の朝刊がせいぜいで、日曜版と交換できたら欣喜雀躍というものだ。

 植物の類はあらゆる技術を使って紙にされたので、野菜の出荷量はほとんどなくなった。皮を持つ動物の皮はなめして本にされた。仕方がないのでみんなの皮脂とかでコオロギを育ててすり潰して食べている。


 今日、国内最後の木が切り倒されたらしい。


 『本を読まずにSDGsを達成しよう』
 『本を読んでいる奴、全員バカです』
 『書を捨てよ、街に出よう』
 『電子書籍で大節約のススメ!』

 そんなタイトルの「本」が平積みにされている。そういう「本」が飛ぶように売れていき、増刷がかかる。そんな「本」を買う奴らは、自己矛盾を起こしていることにも気付いていない。

 さっき『華氏451度』を読み終えた。こんな時代にならずに心底良かったと思う。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する