「真夜中」
真夜中があるなら、偽夜中があるのも当然のことである。
偽夜中には、
・薄明るい
・眠くならない
・youtubeとかを見たい気持ちにならない
・カップヌードルとかが特段美味しくない
といった特徴があり、基本的には無害だが、あまり長居していると自分自身も偽物になっていくという特徴がある。
偽自分には、
・他人から好かれたいと思っているが、自分自身は自分を批判的にみてしまう
・言いたいことがあっても、相手の気持ちを慮って黙ってしまうことがある
・他人には友好的に接するが、実際には内向的である
といった特徴があり、基本的には無害だが、あまり長い間偽自分をやっていると、真自分に戻るのは極めて困難になる。真自分に戻りたいのであれば、偽自分からは脱却するのが良いし、そのためには偽夜中に滞在するのは不適切だ。
偽夜中と真夜中を見分ける方法は簡単で、(最近はひょっとすると見かける機会が少ないかもしれないが)アナログ時計の針が回る方向を確認すれば良い。偽夜中には時計が反時計回りに進む――とは言っても、「時計の通りに回るから時計回り」なのであって、これは何を定義したことにもならない。
太陽は東から昇って西に沈む。あなたが北を向いている場合には、極めて単純化すると、太陽は右から昇って左に沈む。
すると影——もっとも原初的な時計、すなわち「日時計」の「針」に相当するもの——は、最初に西、すなわち、今北を向いているあなたにとっては左を向いている。次に、太陽はだんだん高く上がるので、影はあなたにとって下側に延びる。最後に、西に沈んだ太陽が伸ばす影は、東、すなわち、あなたにとって右側に延びる。夜の時間にはこの「針」は見えないが、残り半分を同じようにめぐっていくはずである。
アナログ時計もこの動きを模している。
したがって、真夜中のアナログ時計の針は、「真」夜中を起点とした場合には、まず見ているあなたの視点に対して左側(いわゆる、「向かって左」)を回り、下を通過して、右側を通って最初の点に戻る。これが「時計回り」である。文章で書くとくどくどしくなるので、現在——というのは、午前1時を回った現在——の私の腕時計の写真に基づき、矢印を引いておいた。
小学生でも知っていることを話していると思うのは、あなたがある年齢以上であることを示している。最近、アナログ時計というのはすっかり姿を消しており、デジタル時計以外見たことがないという人も増えているのだ。
とにかく、もしあなたが今アナログ時計を見ることができて、その時計の針の動き方が「反時計回り」であったのなら――あなたは今、真夜中ではなく、偽夜中にいる(もしかしたら、偽昼間かもしれないが)。
とはいえ心配はいらない。元の真夜中に戻るのは簡単だ。
誰かを代わりに捧げればいい。それだけだ。
あなたが今いる偽夜中を、本当の真夜中だと信じさせればいいのだ。いや、信じさせなくてもいい。ちらとでも、今いる真夜中が本当に真夜中か、自分自身が「本当に」この時間にいるのか、疑わせればそれで十分だ。それで偽夜中はあなたからその人に「移る」。あなたは真夜中に戻り、本当の自分を取り戻す。
誰でもいい。
誰かに、
ほんの少しだけでも、
「今は真夜中ではないのかも」
と、疑わせればいい。
それだけだ。