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深く考えてはいけない

 昨日の仕事はアルバイト仕事なので、月に数万円しか貰っていない。まあチリも積もれば山となるの精神でやってるのだが、その仕事の一環で職場のプリンタのトナーカートリッジを発注した。そしたら、まあ「インク商法」なんてな言葉があるくらいだから分かっちゃあいたが、トナーカートリッジが高い高い。一式買うとこのバイト仕事での月給の倍になる計算で、最初俺はこう思った。

「ケッ、トナーカートリッジの分際で、俺より高給取りとは生意気な」

 で、その気持ちを抱いたまま発注に移ろうとして、ふっと思った。今俺はトナーカートリッジが俺より高給取りであることに不満を抱いたが、果たして俺とトナーカートリッジ、どっちが有能なのか?

 で良く良く考えてみると、トナーカートリッジは書類を印刷できる。まあ単独ではできないけど、書類印刷の主要な部分を担っていると言える。俺は書類を渡されてもそれを複製できないし、「いいから黙って同じ文言を書け」みたいな仕事もロクにできない。なんなら、50枚の紙にハンコを捺す、みたいな作業を1日かけてやって、で、「フー今日は働いたナー」みたいに思ったりもする。こんなのプリンタに任せれば数分である。おや?

 しかも、ウェブサイトの記述が正しければ、俺の2ヶ月分の給与でこのトナーカートリッジくんは6000pもの紙を刷り出すことができるらしく、6000pってあなた。俺は都合10pの紙を埋める仕事を、10pに収めることすらできず、26pくらいにしてしまった挙句終わらないし終わらないから削りもできないみたいな感じで、かれこれ3ヶ月ぶっちぎっている。こないだ、「1月にはその紙を刷るんだから、いい加減まともにやらねえとお前に明日はないと思え」と言われて、「おっじゃあ後1ヶ月あんじゃん、余裕」みたいになっている。トナーカートリッジくんはそんなこと思わない。今刷ってね、と言われたら今刷る。俺の仕事量で換算すると、30ヶ月分くらいの分量の紙をわずか2ヶ月分の給与で刷り出すことができる。実際はそんな刷ることもないので、どんなに無理やり使っても半年は保つ。……おやおや?

 負けてないすか? 明らかに。

 それでもっと考えてみた。明日俺が突然いなくなったとする。周りの人は、そらちょっとは心配するだろうし、どうしたんかな、くらいは思うだろうが、多分1週間くらいは放置するだろうし、別に誰も困らない。
 ところが、トナーカートリッジの場合、なくなった即日でみんな困るし、困るからすぐに対処しなくてはとなる。つまり、人心の捉え方というか、なくなった時の困り度で言っても、明らかトナーカートリッジの方が上なのである。

 これは……むしろ安いなトナーカートリッジ。これ以上トナーカートリッジに安売りされたら、「トナーカートリッジの方が有能で、かつ安価で雇える(?)んだから、アイツ馘にしちゃお」ってことにもなりかねないので、これ以上安くなられると困るほどだ。それほど安い。今改めて考えると。

 ってことに気づいて深く納得し、適正どころか安い! この価格設定! と思いながら発注したんですが、なんだかわからないけど頰が濡れている。悲しいことなんて何もないはずなのに。こういうのは見つめ直さない方がいいなと思いました。

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