• エッセイ・ノンフィクション
  • 現代ドラマ

運命の赤い糸があるといい

 どこかに自分の片割れ、ベターハーフがあって、俺たちはそういうものを探しながら生きてる。そういうものがあるといい。なんてな話を「そうだよねえウンウン」と素直に頷けるほど純真ではない。

 人間は社会的動物であって、だいたいは孤独に耐えにくいようにできている。それは身体機能的には弱い人間が群れを作るための生存戦略にすぎなくって、余裕ができた俺たちがたまたまそこに「愛」とか「運命」という名前をつけてかわいがっているに過ぎない。突き詰めていえばそんなもの、水がある方に向かって進んで乾いて死んでいくミミズの行動と、めちゃめちゃ差があるとは言えない。

 その程度の、たんなる生存戦略に、俺たちはあとで意味をつけて、あれは運命だ、これは特別だ、そういうことにしている。そう思い込んでいる。そんな風にどこかで思っていた。

 それでも。それでも「片割れがいると信じること」にはどこか甘美な響きがあって、それが確信に転じようものならそれはとても素敵なことで、それを羨むような気持ちがなかったとは言えない。

 そういうある種アンビバレントな気持ちを抱えていた俺は、今日、完全に後者の立場に自らを置くことになった。どこかに片割れは、必ずいる。そして、必ずいると信じることが、とても心を安らかにする。そういうことが今日わかった。



 あれは去年のクリスマスのことだ。仲間内ではくだらないことが盛り上がっていて、俺はそんなの信じていやしなかった。そんなことに価値があるだなんて思ってもいなかった。それでも、そう、俺だって社会的動物なので、迎合、付和雷同、なんだっていいが、アイツらの言う通りに、アイツらの真似をしてみた。

 こんなことに何の意味が? そうは思ったが、でも、まるで誂えたように「ペア」が出来るのには不思議な快感があって、なるほどね、と思ったりもした。その滑らかな肌触りで、少しだけ気持ちが昂ぶったりもした。

 それでも、正直に言おう。頭のどこかでは、それを少しバカにしていた。こんなのは手近な欺瞞的な幸福であって、俺たちはもっと高いところを目指さなきゃあいけないんじゃあないのか。こんなことを「発見」して何になる。そう思わなかった、と言えばウソになる。

 今思えば、それを認めるのが怖かったのかもしれない。片割れがいると信じること。そのことがもたらす安心感。それを認めてしまったら、俺は……。

 ばかばかしい懸念だった。素直にその安心感に身を委ねるべきだった。もっと早くに。運命の赤い糸があるといい。誰かとつながっていると確信できるといい。俺は今強く強く、そう思っている。そのことがもたらす安心感に身を委ねながら。



 あの、クリスマスに勧められて、ユニクロで靴下12足買ったんですよ。で総入れ替えしたんですけどね。そんで洗濯するじゃあないですか。靴下が奇数になるんですよ。今までだったら、ウワア最悪だ、終わった、このペアの見つかんない靴下捨ててやるとか思って捨てて、であとからズボンの中とかから出てきて「あるんかい」ってなったり、じゃあそうなるかもしんないから……って片方しかない靴下がずっとタンスにあったりしたんですけどね。

 全部おんなじ靴下にしたら、まったくどうでもいいんですよ。奇数かー。まあ大丈夫、君の片割れは必ずいるからね。運命の赤い糸、バリバリにつながってるから大丈夫だよ。で無心で干せるんですよ。ペア探しにかかる時間もゼロで、手に取った順にほしてけば誂えたようにペアができていく。まるで魔法のようだ。

 この安心感ったらないですよ。すごいいいわ。教えてもらって良かった。圧倒的感謝💪💪💪💪😂😂

5件のコメント

  • これ、僕は完全に真逆で「同じ靴下が大量にあるとペアが分からなくなるからイヤ」なタイプです
    というか「1回履いた靴下と100回履いた靴下をペアにする」みたいな行為に抵抗がある感じ
  •  そうなんですね! 「1回袖を通した服を2度と着ることは無い」「同じ服を二度着ると思ったら虫酸が走る」だとばかり。

     全自動卓みたいに2種(赤と黄色とか)の靴下を一気に取り揃えて、赤を全部履いたら洗濯というルールにすると、等確率性が担保されるなぁとは思いましたが、だからどうしたという感はあります。

     俺はまず奇数になるところから見直していきたいと思いますね……。

     あと書籍化おめでとうございます!!

  • え?今それ言うの?感ありますけど、ありがとうございます!

    ただそれよりですね……だいぶ前にチラッとtwitterで言及したんですけど……「だいえっと」をやってましてね……実はかなり成功してるんですよ……

    そのうち「普通にダイエットして痩せないデブおるん?」みたいな近況ノートを書く予定なので楽しみに待っていて下さい
  • そんなのわたしはずっとまえからですよ!
    わんこがいると
    靴下を脱ぐ
    わんこが持っていく
    穴だらけになる
    靴下が片方だけになる

    あるいは
    靴下を脱ぐ
    ワンコと取り合いになる
    ぴろーん
    片方だけになる

    ついには
    脱いだ靴下を投げる
    わんこ喜ぶ
    穴だらけの靴下を履いて外出
    ウインウイン
    等ということもありますので
  • 浅原ちゃん

    おーすごい! それはすごいですね、普通にエッセイにしては? ダイエットはビッグチャンスですよ! 楽しみです。
    まあ「ダイエットをする」を継続できりゃあ痩せるんですよね。たぶん。そのへんはちょっとごっちゃになってる感があります。

    上原ちゃん

     マジで「1回履いた靴下は2度履かない」生活になりそうですね。そこだけ聞いたら大富豪。
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する