Uさんが小学校に在籍していた頃、図書室にはマンガとしていくつかの名作集と、お約束で有ったのが怪談本だ。
世紀末だとかと相性が良く、オカルト本が置かれていたらしい。
「大半は『教育に良い』本でしたけどね、それでももっと御高尚な本よりは面白かったですね」
その本を暇つぶしに読んでいたある日、真っ黒な本が一冊挟まっているのを見た。初めて見たときは貸し出した本のスペースに入れる代本板かと思った。しかしどうやらそれはページまで真っ黒な本らしいことが分かった。
興味を惹かれた。真っ黒な表紙に怪談コーナーに置かれている。いかにもな雰囲気が気に入って読んでみることにした。
その本は真っ黒なページに赤いインクで文字が書かれていた。まるで血のようだと思ったが、そもそも血などすぐに絆創膏で傷を塞ぐのであまり目にしない。そんなものだと断言出来るほどの経験はないので気にせず読み進めた。
内容は難しくてよく分からなかったのだが、どうもその本に書かれていたのは呪いのかけ方のようだ。きちんと小学生にも分かるように感じには全てルビが振ってある。今にして思うと芸が細かいなと感心するような出来だった。
その時はこんな本もあるのかと感心して棚に戻したのだが、翌日続きを読んでみようと昼休みに図書室に行くと、その本があったところには代本板が挟まれ、貸し出し中になっていた。続きが気にはなったが貸し出されているものは仕方ない。その代本板に書かれていた名前はクラスの女子のものだった。
二日後、本の貸出期限の日にその子は出席しなかった。どうも家庭の都合で引っ越すことになったといわれた。
Uさんはあの本を借りなくて良かったと本気で思っているそうだ。