• 現代ファンタジー

春一番

高揚してます。
今日の風に。
風の気配が変わった。
前より力強い。
上を微かに通るわけでもなく、下から湧き上がるわけでもない。
真横に、私よりも遥かに高い背でそのまま突っ走っていく。
障害物なんて壊してでも遠くに行きたい、行こうとする筋力。

まばらに、己のリズムで歩く人達をもろともせず、誰よりも先に、どんな物でも吹き飛ばす勢いで。

一人、二人…

風をこう数えた事があっただろうか。
でも見える、全てを抱えて自分の行かなくてはならない場所に一直線に目指す若き姿が。

その目と背中を見てしまえば私は立ち止まっていられるはずがないだろう。

君に巻き込まれてしまっても良い。
どこに行くのか教えてくれ。

足を踏ん張るなんて勿体ない事はやめた。
どうか、どうか!
手を伸ばしさらって欲しかった。
触れる前に行ってしまう君を何度逃したことか。
私はいつも置いてけぼりで、気付けば花は散ってしまうんだ。

君は一生懸命何に向かっているんだい。
教えて、連れて行って、嘆いて。
悲しい顔をして。
きっと、全てが生まれ変わる瞬間を見に行ってるのではないか?
全てが死んでいく瞬間を見届けに行っているのではないか?
そんな瞬間をひとりで片付けようとしないでもいいんだよ。
私に悲しみを分けて共に味わおうじゃないか、なくなってしまう者たちよ。

目に留まっている涙の意味を教えてくれ。
隠すかの如く去っていかないでくれ。
繰り返される季節は君に何を見せている。
いつだって急いでいるんだ、たまには休んでもいいのに。
でも君には同時に希望も情熱も感じるのだ。

だから止めようにも止められない。
君の魅力を殺いでしまう、そんな気がしてね。
美しさとは、心奪う香りとは、何とも失う物が多いね。
いや、知らなくてはならない事が多いのかな。

君が知りたい。

君の目に何が映り込めば、そんなに美しく輝くんだい?

君に惹かれる私は予感しているのかもしれない。
晴れた日差しの下に桜が咲いてる事を。

春一番、私に見せてはくれないかい。

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