• 現代ファンタジー

あの日から今日までの本

違う窓なのにあの日みたい。
違う季節なのに、あの日みたい。
体はもう大人なのにあの日の大きさみたい。
あれは、夏の始まりだった。
民家の二階。古い家で、大きな窓の側で外を眺めながら本を読んでいた。
どんな本だったかな。ただ、ページが白く輝いていたのだけは覚えている。
最初は窓に寄りかかっていたが、ガラスが熱くなり、向こうの木が揺れるのを見て窓を開けた。
穏やかな風が前髪と横の軽い髪だけをそよがせて、決してページを悪戯にめくりはしなかった。
両手でおさえたページはもうどこに行ってしまってもいいと思っていたのに。
手首だけに重みを感じて、あとは暖かさに溶けるようだった。
田んぼに柔らかな波紋を泳がせ、青い稲をなびかせていく。
何匹かの蝶が入れ替わり見え隠れする。
人の足音と話す声がどこかで聞こえる。
もうすぐ季節が変わる。
あの日の本が白くて良かった。
でないと夢追う少女は気づかなかっただろうな。
この日の美しさに。
そして、あの日を私は今日感じた。
今日はまだ本を開いていない。懐かしさの後に切なさと怖さが混じったからだ。

あの日から今日までの本を開いた。

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