人々はそれぞれ、怒ったり、泣いたり、笑ったり、心配したりしていたのです。しかし祭りばやしが始まると、寄せる波が砂の絵を消し去るように、人々の表情がフラットになりました。
横笛の高らかな音色に聞き入る人もあれば、大太鼓の響きに合わせて足踏みする者、てんつくてんつく小太鼓のリズムに乗り揺れる人。それらの陽気な人々が音の出る場所の周りをぐるぐるしながらおおきな一つの円になりました。祭りが始まったのです。
街の喧騒から逃れようと、耳をふさいで逃げ出す人がいます。
家に閉じこもって、窓を閉める人がいます。
何も見ていないふりをして、やり過ごそうとする人がいます。
大声を出して、対抗しようとする人がいます。
祭りが終わったあとの街には、祭りの後には付き物の、例のあれがいっぱい、残されました。それはしばらく街の空気を汚したので、全部片づけられるまでは誰も、街を歩けない有様なのでした。