「666円です。お支払いは、PASMOですね」
お茶とサンドイッチ、そしてヨーグルトを購入した顧客の手元に視線を向ける。すると変わったデザインの、真鍮(しんちゅう)製の腕時計が視界に入り、ハッとした。針が無い。なおかつデジタル時計でもなく、へこんだ中心に向かって小さな数字が吸い込まれてゆくのが見えた。
「変わった時計ですね」
思わず、目の前にいる顧客に声をかける。すると彼女はにこりともせず、私を見た。
「これは、蟻地獄時計です」
「はあ」
レジに並ぶ人がいない事を確認し、改めてその時計に注目した。
そこには中心がへこんだ円盤があるばかりだ。
「いったいこの時計は、何なんですかね」
「さあ」
顧客はそう答えると、買い物袋を取り、去っていった。
消えた時間は、どこへ行くのだろう。そんな事を考えていると、次の顧客が来たので思考は一時停止された。
「いらっしゃいませ」