エピローグ

エピローグ

 その日、タカムラは昼下りの秋の陽射しの中、もうすっかり様相の変わってしまった千年の都を見下ろしていた。


 側で白い猫が心地よさそうに目を細める。


「──満足そうだね、マチ」


 タカムラは面白くもなさそうな顔で、永い付き合いの相棒に訊く。


「いま何を考えていた?」


 猫は素軽く宙を蹴ると、タカムラの目線の位置まで跳んできて、上機嫌に答えた。


「いやー、いいことしたなーあたし、って」


 そんな猫の云い様に、ふんと鼻をならしたタカムラが腕を組む。


「あの手布を手渡した件だけで20年の労役の延長だぞ……」

「またまたそんな細かいことを……」


 人の姿に化身したマチが、愛想のよい苦笑を浮かべて返した。そして正に猫撫声で訊く。


「──今回のこと、全部全部でどれくらいになったの?」

「220年といったところかな」


「……たったそのくらいで……今さら、じゃない?」


 そう言うマチだったが、その声の響きの中に申し訳なさも滲んでもいる。


 マチの、おそるおそる向けている視線の先で、タカムラは観念したように、しかし表情を変えずに応えた。


「まあ、確かに今さらではある……」


 マチは、ふっと和らいだ表情でタカムラを見上げた。


「ね、タカムラ──」 マチはもじもじと云った。「やっぱりタカムラは優しいね」


 今度こそタカムラは、勘弁してくれと云うふうに、そっぽを向いてしまう。

 そんなタカムラにマチは細い身体を、そっと預けて面白そうに微笑んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

修学旅行で出逢った、君と… もってぃ @motty08

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画