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じっくり読みこんだ本音感想を書く企画2023【16】〜【26】

【先着30名】じっくり読みこんだ本音感想を書く企画2023
https://kakuyomu.jp/user_events/16817330661249013634

企画専用の近況ノートです。
梶野の感想はこちらに投下します。
感想への質問・返信は以下のノートにお願いします。

じっくり本音感想企画2023 感想用返信ノート
https://kakuyomu.jp/users/kamemushi_kazino/news/16817330661350519496

参加作品:
【16】Vitamin,(箱女)
https://kakuyomu.jp/works/16817330658137844300
【17】神様のいる世界(Elノ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330661293144485
【18】カワリモノマニアック(さにぃ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662568942558
【19】怪物(六花ヒカネ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330654639185690
【20】月光(春野カスミ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662883428561
【21】月光〜ベートーヴェンの、最後の演奏会(春野カスミ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330663214070578
【22】深夜放毒(ゆげ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662283997497
【23】雌雄無色(冬場蚕)
https://kakuyomu.jp/works/16817330659348681604
【24】軍人に絶対なりたくない先住民族が、軍隊で下剋上していくお話(蜂蜜の里)
https://kakuyomu.jp/works/16816927861851827000
【25】二日生きた以上(終楽章)
https://kakuyomu.jp/works/16817330663415040274
【26】夏、君を待つ(なべねこ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330664014785881

以下、企画説明。

初めまして、梶野カメムシです。
普段は長編バトル小説やショートショートを書いております。
小説より漫画の方をよく読んでいます。少年少女関係なく大好きです。
梶野は、感想で本音しか言えない病気です。
オブラートくらいは使いますが、お世辞や追従は言えません。

良い点は良い、悪い点は悪い。
あくまで個人視点の感想であり批評ですが、絶賛以外聞きたくないという作者さんも多いようで、「辛口OK」っぽい作者さんや企画でのみ、感想を言うようにしてきました(もしくは絶賛作品)。

「いっそ自分で作った方が早いか」 
そう考えて去年に「じっくり読みこんだ本音感想を書く企画」を開催し、これが第二回です。
この企画の趣旨は「梶野が参加作品の感想をひたすら書く」です。読み合いではありません。

参加条件:
・先着30名。
 感想を書き終えた時点で終了します。 
 1〜2日で一作の感想を書き、二ヶ月以内に終わります。
・下記の「参加方法」への回答をもって、参加確定となります。
※回答は必須なので、ご注意を。
・一万字以内の短編のみ。短い方が熟読できます。
・関連のない複数作品は不可。
・ジャンル不問。作者の好みの傾向はプロフ参考。 
 よく知らないジャンルは前置きの上、わからないなりの感想を書きます。
・辛口でも泣かない。
 質問、反論は近況ノートにて受け付けます。誤解があれば訂正もします。
 それでも納得できない場合は「所詮一個人の感想」と割り切ってください。

ご注意:
・前回はこんな感じでした。
https://kakuyomu.jp/users/kamemushi_kazino/news/16817330647890943183
・梶野の趣味や傾向が気になる方は、プロフや「小説雑話」をご確認ください。
 いわゆるラノベより、やや一般小説よりです。
・テンプレ的な異世界転生やなろう系は、ほとんど読まないのであしからず。
 それでも読んでもらいたいという野心作なら歓迎です。覚悟してください。
・純文学も専門外なので期待しない方がよいです。
 「お上手だけど面白くはない」とか平気でいうので、それでもよければ。
・星やレビューはお約束しません。内容次第です。
・その他、質問などがあれば、以下の近況ノートまで。
・感想は専用の近況ノートに投下する形式です。
 希望があれば、応援コメントへの感想転載、リンク対応もします。

参加不可:
前回参加者で、完全無反応だった人。

参加方法:
下記ノートにて以下の質問にお答えください。感想は受付順になります。
※回答は必須です。
※登録のみで回答がない場合、三日後にキャンセルとして削除します。

・特に意見が聞きたい部分。
・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
・創作論「カメムシの小説雑話」への転載希望か否か。

じっくり読みこんだ本音感想を書く企画2023 参加・質問・返信用
https://kakuyomu.jp/users/kamemushi_kazino/news/16817330661246499480
カメムシの小説雑話
https://kakuyomu.jp/works/16817330654869504941

感想は以下のノートに投稿します。
【01】〜【05】
https://kakuyomu.jp/users/kamemushi_kazino/news/16817330661247799553

前回からの変更点:
・前回は一日一感想でしたが、大変過ぎたので今回は余裕持たせてます。
 調子よければガンガン書きます。
・前回は「私ならこうする」を提案するスタイルでしたが、今回は原則なしとします。
 自分で考えたい方もいるでしょうし、時間もかかるので。
 改善案を希望される方は、感想着手までに企画用ノートでお伝え下さい。
・作品感想は、私の創作論「カメムシの小説雑話」にて転載したいと思います。
 ささやかですが宣伝になりますし、私以外の感想ももらえるかもしれません。
・「小説雑話」には私なりの「感想の書き方、読み方」もまとめてあります。
 参加前に参考にしていただければ。

感想の書き方
https://kakuyomu.jp/works/16817330654869504941/episodes/16817330655389634198
感想の読み方
https://kakuyomu.jp/works/16817330654869504941/episodes/16817330655435222712

それでは、よろしくお願いします。

22件のコメント

  • 【16】Vitamin,(箱女)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330658137844300
     
    参加者十五人で落ち着いてたので、今回は打ち止めかと思いましたが、滑り込みで新規の方が現れました。
     
    十六回目は箱女さんの作品、「Vitamin,」です。
    ジャンルは恋愛、百合、年の差。
    ううむ、これで三件目の百合ものです。
    私もちょっと興味が出てきました。
    この企画終わったら一度書いてみましょうかね、ガールズラブ。
     
    アンケート回答はこんな感じ。
     
     
    初めまして、箱女と申します。
    ぜひ感想をいただきたいと思い、参加しようと思いました。
     
     
    ・特に意見が欲しい部分。
     全体の雰囲気がラストの余韻までつながっているか。
     また余韻そのものに意味は見いだせるか。
     
    ・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
     目につくような箇所があればもらえると幸いです。
     
    どうぞよろしくお願いいたします。
     
     
    ふむふむ。
    ラストと余韻の感想が気になってるご様子。
    ラストは締めくくり、コースメニューのデザートですからね。
    ここの出来で満足度が決まるといってもいいので、気になるのは当然かと。
    私もラストというゴールが決まらないと書き出せないタイプです。「書くに足る」という自信が、ラストを決めないと見えて来ないんですよね。獲物が見つからないと走り出せない、チーターみたいなタイプなんだと思います。
     
    さてさて、今回はどんな物語でしょうか。
    じっくり感想、始めます。
     
     
    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。
     
     
    >第1話
    サブタイトル放棄はいただけません。
    雰囲気を演出するのに、なかなか使える部分です。
    最大限センスを生かした副題が欲しいところ。
     
    >火曜日の深夜0時。私はビルとアパートの間の細い路地裏を目指す。
     
    時間、場所、目的を簡潔に伝えてて、いい出だしです。
    ビルと路地裏で、舞台がある程度以上は都会なんだろうなと読めるのも好感触。
     
    >そこは一人で通るためとしか思えない道で、向こうから人が歩いてきたらお互いにイヤな思いをするだろう。
     
    ちょっとくどいですね。
    私なら「そこは本当に狭い道で、~」。
     
    >いつでも私が行くときには私だけしかいなかった。でも考えてみれば当たり前のことだ。
     
    この文章はまるまる不要です。
    抜いても意味が通じます。くどくなるだけです。
     
    >路地の中ほどで上を見上げると明かりのついた部屋がある。
     
    ビルの部屋かアパートなのか、ちょっとわかりづらい。
    まあアパートだと思いますが。
    アパートのイメージは人によってかなり違うので、描写が欲しいところです。古い建物とか、生活臭とか。
     
    >誰が真夜中にあんな道を通りたがるだろう。
     
    何故、主人公がこの路地を通ったのか、知りたいところです。
     
    >落下防止の手すりに寄っかかった女の人がいる。
     
    暗く細い路地に面した窓に出る理由って、喫煙くらいしか思いつかないんですが、違いますかね?
    だとすると、下にいる少女は大丈夫なのか。
     
    >いつも似たような、とはいっても私がここに来るのは四回目だ、あいさつを気分良さそうにかけてくれる。
     
    「、」より「──」で繋ぐ方が適切。
     
    >平均的な女性よりも低めな彼女の声
     
    「少し低め」で十分です。
     
    >見上げるとお姉さんのシルエットだけが浮かび上がる。
    違和感。
    「窓際に見えるお姉さんの姿はシルエットだけだ。」
     
    >部屋の明かりで肌と着ているものの縁が照らされている。
     
    とくに服装などの情報もないので、この文も不要。
    「逆光」「ライン」で説明は終わっています。
     
    >光が当たらないせいで顔は見えないけれど、どんな口のかたちをして笑っているのか想像がつく。
     
    お姉さんの語りが少なすぎて、まだキャラが見えていない段階なので、主人公の想像に共感できません。イメージが細かすぎます。
     
    本当にそう見えてるならともかく、この手の描写は、会話がある程度進み、お姉さんの人物が見えてからの方が飲み込みやすいはずです。
     
    >笑っている口だけが残るのはチェシャ猫のイメージだ。
     
    話の内容だけ見ると、マッドハッターの方が近い感じ。
     
    >私は何のためのものなのかもわからないビルに背中を預けて、二階に顔を向ける。
     
    直前に「見上げる」とあるので内容が被っています。
    この主人公には、後に「何かを見上げると眩暈がする」的な設定が出てきますが、これは大丈夫なんでしょうか?
     
    むしろ、ここは上を見ることなく会話だけ続けた方がらしい気がするんですが。設定的にも、二人の距離感を考えても。どのみち顔は見えないんですし。
     
    >視界の上のほうには夜空が入らないこともないけれど、そんなものはどうでもいい。大事なのは私とお姉さんだけが許されているこの空間と時間だ。
     
    言いたいことはわかりますが、もっさり感が先に立ちます。
     
    >「いま体育バスケです。よくわかんなくてつまんない」
    >「あれボール大きいと思わない?」
    >「大きいです。手すごい痛い……」
     
    受け答えはまともなんですね、お姉さん。
    トンデモ回答の方がらしいんじゃ。
     
    >私たちは言葉だけをやり取りしているうちに、それもほんの短いあいだに暗黙のルールを作り上げていた。どうでもいいことだけを話すこと。
     
    ふうむ。
    そういう楽しみがあるのは一定理解しますが、それを特別に思う理由はまるでわかりません。「どうでもいい話」なら誰とでもできるんでは?
     
    >お姉さんは悪い意味で話を聞かせるのが上手かった。嘘を嘘と思わせずに話を進めることができたし、いたずらに話を大きくしては途中でやめたりした。
     
    ここら辺の魅力はわかるんですが、「どうでもいい話」と「ほら話」は全然違うジャンルだと思います。
    なので、受け答えが普通なのを不思議に思ったわけです。
     
    ここは単純に「お姉さんのほら話が好き」だけに絞った方がわかりやすいかと。主人公は聞き手に徹する感じで。
     
    >朝はいつも一方的にやってきて、そのくせ自分の機嫌を気にしない。
     
    「自分」の主体がわかりません。朝?主人公?
     
    >雲が出ている程度ならまだいいけど、知らん顔をして雨を降らせているのを見ると腹立たしくなってくる。人間はまだ傘や合羽以上の雨具を発明してはいない。
     
    からの
     
    >見上げた空は晴れてはいるけれど
     
    と繋げるのは、意味不明です。
    普通は雨の朝なのだろうと想像します。
     
    >学校というものは思っていた以上にずっと難しい集団生活を強いられる。
     
    この書き方だと、入学したてのように読めます。
    せめて「高校」にすべきかと。
    主人公が中学生か高校生か、それすらわかりませんが。
     
    >四限目の終わりのチャイムが鳴って、一気に教室が解放感に満ちた声でいっぱいになった。
     
    もっさり。
    「四限目の終わりのチャイムが鳴って、解放感に満ちた声が教室に溢れた。」
     
    >どのみちみんなが食べることに意識を向ける。
     
    不要な一文です。
     
    >「いけないね、二個は太るね。私は代わりに受け止める覚悟できてるけど?」
     
    「私は」はない方が歯切れいいはず。
     
     
    >「おかずよこせって言ってるのに人柱ぶるのは面の皮厚すぎない?」
     
    クスッとするいい台詞です。
    私なら「人柱ぶるの、面の皮厚すぎない?」にします。
     
    >「ひーは?」
    >「今日は食堂だって。あいかわらず人気物件なことで」
     
    人気というのは、友人がと言うことですよね? 食堂でなく。
     
    「ひー」という人物は以後出てきませんが、なかなか独特の存在感があります。この話が学校の友人主題だったら、手放しでほめられるところですが……後述。
     
    >最高記録はまるまる一週間も離れていたこともある。
     
    ここら辺は男にはない感覚ですねえ。
     
    >そしてその気楽さを私たちはかけがえのないものとして抱きしめている。
     
    捻り過ぎて、違和感が先に立っています。
    「共有している」くらいで十分だと。
     
    >窓際の席の私は空を望むとほとんど邪魔するものがない。
     
    何が言いたいのかよくわかりません。
    「空がよく見える」のを伝えるなら、教室が何階なのかを書いた方が適切かと。
     
    >窓の外は変わりなく晴れているようだった。
     
    今見ているのに、「ようだった」は変です。
     
    >私は脳の構造がちょっと変わっているのか、それとも首あたりの血管になにかを抱えているのか、
     
    言わんとするところはわかるんですが、上手くない例え。
    むしろ「精神的か肉体的か」の例の方がわかりやすいかと。
     
    >遠くのものを見上げようとすると立ち眩みのような現象に襲われる。
     
    ああ、遠くのものに限定されるなら、お姉さんには無関係なのかな。
    ここ「遠いもの」と「見上げる」どっちに重点がかかってるんでしょう。
    工夫次第でテーマの一助にできそうな気がします。後述。
     
    >いまの流行りやためになるものを教えてくれるテレビよりも、お姉さんとの何にもならない話を私は優先したい。
     
    最近のテレビ、むしろ何にもならない話ばっかですけどねw
    まさに「くだらなくて野放図で、本人が楽しそう」な番組。
     
    >けれどこの子は内緒と言われたら、仕方ないか、で済ませてしまえる器の持ち主だ。大人びている。学校でいちばんいい女かもしれない。
     
    内緒って言われて食い下がる人種と友達になれる気がしません。
    大人びてるとは思いませんが、まあ、これが原因でこじれるような関係も女性的にはあることを考えれば、わからなくもない。
     
    >いつもみたいに重要度に波のある話をして、そうしてお昼休みの終わりを知らせるチャイムを待つ。
     
    ホラ話を抜きにすれば、お姉さんとの関係と大差ない気がします。
     
    >知らないはずのノスタルジーという感情に出会える気がする。
     
    意味がわかりません。文章が適当過ぎます。
     
    >昼休みまでは気にならなかった雲が夕焼けの邪魔をしているせいで今日はそんな気分にはなれないけれど。
     
    仮定をもとに話をされて、肩透かしをくらうパターンが多いですね。
     
    >短期間に集中して楽しみを味わうとすぐに飽きが来てしまうということ。
     
    それで飽きてしまうなら、そういう関係でいい気もしますけどねえ。
    完全に興味がなくなるとかでなければ。
     
    >私が火曜日にだけあの路地裏に行くのもそういう理由だ。
     
    「何故、火曜日限定なのか」の理由になっていません。
    曜日にこだわる必要ないのでは?
     
    >もしかしたら毎日だって飽きないかもしれないと思うこともあるけれど、きっとそれが願望混じりのものだと知ってしまっているからダメ。
     
    悪文。
    「もしかしたら毎日だって飽きないかもしれないけれど、そうじゃない時がこわい。」
     
    >だから私は一週間を生きることができる。火曜日のために。
     
    とくに火曜日に依存する状態に感じません。
    友人にも恵まれていますし。
     
    >乳化したような日。
     
    全然意味が伝わりません。
    空模様という意味なら、「乳化したような空」と書くべきです。
     
    >ぱた、ぱた、と小さく窓を叩く音が聞こえたと思ったら、
     
    なんで窓?と思いましたが、バス通学だからですか。
    ここは「バスの窓」と書いた方が親切。
     
    >雨脚なんて言葉があるけれど、それにならって言うならものすごい駆け足だった。
     
    悪くない表現。
     
    >天気が悪い日に特有の、あの時間と外の暗さの不一致感が漂っていた。
     
    感じはわかりますが、この描写をするなら雨の前にすべきです。
    あと「空を見上げにくい」主人公なのに、やたら空の描写が出てくる違和感が気になります。
     
     >自分の部屋の明かりが白いぶん、空の暗さが際立って孤独な感じがあった。
     
    ここも「家の前まで来た」という説明が事前に欲しいところ。
     
    >言葉にするのはすごく難しい。心の、日常ではしまっているところ。もしかしたら人によっては人生で一度も使わないかもしれないところへの刺激。
     
    正直、ここは伝わってきませんね。
    「そうなんだ」と思うくらいで、共感できません。
    お姉さんとの会話場面をもっと増やし、読者が自然と共感してしまうような展開作りをすべきです。主人公にわからないものを読者にわかってもらおうとするからには、他で埋めるしかありません。

    >色の変わらない夕方が過ぎて夜が深まる。
    悪くない表現。

    >そんな空白をおとなしく宿題をやったり適当に遊んで埋めることにした。いつものことといえばいつものことだ。火曜日以外とも変わらない。

    内容的に不要。
    せめて「いつもの日常をこなしながら、雨を気にしていた」というふうに書けば、意味も出てくるんですが。

    >パチパチに決めていく
    服のこだわりに「パチパチ」って言うもんですかね?
    「バチバチ」とか「ガチガチ」ならわかるんですが。それとも若者言葉?

    >ドアのカギを閉めて傘を開く。
    この娘の親は何してるのか、気になります。
    ここら辺の描写で家の背景が伺える方が、主人公に厚みを与える気がします。

    >いつもの火曜日深夜0時と変わりなく、二階のあの部屋には明かりがついていて、その光がいつものように転落防止の手すりにしなだれかかるお姉さんの体のラインを縁取っている。

    冗長。とくに「転落防止」が顕著です。
    それより雨の降り具合や、どこ視点の描写なのかの説明が欲しいところ。
    この書き出しだと、もう窓の下に来たようにも読めます。

    >路地の向こうの街の明かりが水たまりに反射して、いつもより視界が騒がしかった。

    路地の向こうということは、見える範囲はごくごく限られますよね?
    騒がしいイメージは皆無なんですが。

    >どう頑張っても平らになれないいびつなアスファルト
    面白い比喩ですが、アスファルトには微妙。
    敷かれたばかりのアスファルトは平らで、「どう頑張っても平らになれない」わけじゃありません。私なら「手入れされず、すっかり捻くれて育ったアスファルト」とか。

    >狭い路地だと避けようのないものができてしまうのだ。

    ビルの谷間の路地には雨が降り込まないので、水溜まりはできにくいものです。
    まあこの場合、片方はアパートですし時間も経ってますがw

    >傘は注文でもつけたみたいに
    微妙にわかりづらいです。
    「傘はあつらえたように」

    >「まさかとは思ったけど、今日は雨なのに」
    「、」は「。」の方が。
    ホラ話以外は至って普通ですよね、この人。

    >だからお姉さんもある程度の期待を抱えているんだろう。

    「だからお姉さんもある程度は期待していたんだろう。」

    >そう思うと自然と口角が上がってしまった。
    表現が固いです。
    「口角が上がる」はまず口語で使わないので、一人称だと違和感が先に立ちます。

    >単純だとは思うけど、それでいい状況はたしかにあると私は知っている。

    回りくどい言い回し。
    「単純だとは思うけど、それでいい時もある。今がそうだ。」

    >傘の角度が上を向いてしまったせいで、鼻先と脚に雨粒が落ちるようになった。
    意味は伝わりますが、非直感的。
    「傘を上に向けたせいで、顔に雨粒が落ちてくる。」

    >「いやまあ私も楽しいけど、もし風邪でもひかせたらそれは寝覚めが悪いというか」

    これだけ普通の感覚の持ち主が、何故毎週深夜に人気のない路地を訪れる女の子を注意しないのか謎に思えます。雨どころの問題じゃないのでは?

    >私がそう言うとすこし悩むような間を置いてから、まあいいか、とお姉さんは雨を降らせる空を仰いで呟いた。

    お姉さんは、濡れるの気にならないんで?
    相当降ってるようですが。

    >どうでもいい話をして、下らないと言って笑ったり、ただ聞いたりするのだ。

    えっ、下らないとか言うんです?
    ホラ話も楽しむのだから、御法度だと思ってたんですが。
    うーん、ここに来て二人の関係性が見えなくなってきました。

    >いつもの文字で表すことのできない笑い
    笑いは文字で表せそうな。ここは気持ちとか想いとか。

    >ゆっくりと思い出すようにぽつぽつと語るそのやり方は、安心できる声質との相乗効果で説得力をちょっとだけ増していた。そもそもがほとんど説得力ゼロからのスタートなのだからそれでも大したものだと思う。聞きたいと思わせるのは力に類するものだと私は思う。

    説明的すぎるし、冗長です。
    「ゆっくりと思い出すようにぽつぽつと語る口調は、落ち着いた声質と相まって説得力を増していく。説得力ゼロからのスタートなのに。もはや力に類するものだと私には思えた。」

    >「だよねえ、ちょっと上がってお茶飲んでいきなよ。あ、二〇三号室ね」
    >「あ、なんかすいません。雨なのに来たの私なのに」

    別に普通の反応なんですが、この主人公だと不思議に思えます。
    自ら火曜日限定と定めて通っていたのは、近づきすぎると飽きてしまうからかもで。
    この展開って、どう考えても二人の距離が詰まる方向ですよね?
    結果的に部屋に行くのはいいんですが、葛藤がないのが不自然で、気になります。

    >きっと一晩中ついているアパートの明かりをくぐって私は二階に上がった。雨音が外の雑音に変わって、私は二〇三号室のドアをすぐに見つけた。ネームプレートのところには何も書いていなかった。私はできる限りゆっくり深呼吸をして、ピンポンを押した。
    > チェーンと鍵を外す音がして、待ちかねたようにドアノブが回った。

    ここはよく書けていると思います。リズムも文句なしです。
  • ⬜️全体の感想
    ・タイトルについて
    接種必須の栄養素かなあ……と考えましたが、少なくとも主人公にはそうなんでしょうね。
    無理して主人公のあだ名にする必要はないですが、いいと思います。

    ・文章について
    雰囲気重視、あるいはそこを目指す文章ですね。
    ところどころセンスも感じられるのですが、それ以上に冗長さが目立ちます。
    語り口に凝ろうとするあまり、同じような説明を何度も重ねたりで、せっかくの良さを打ち消している印象です。油使いすぎの唐揚げみたいな。
    意味不明というところまでは行っていませんが、冗長さは読者をだれさせ、センスによる軽やかさを弱めてしまいます。

    理想解はセンスと読みやすさの融合ですね。 
    文章センスが水準を越えれば、文字数を気にしなくてよくなります(読んで楽しいので)が、そのためにはやはり無駄の排除が必須なので、方向的には大差ありません。必要な情報を漏らさず、不要な情報を削ることです。

    言葉遣いやリズムは、一定評価します。
    このセンスをキープした上で、冗長さをなくすようにしてみてください。
    凝り過ぎないこと。詰め込み過ぎないこと。引き算を考えること。
    この辺りを意識して推敲するようにすれば、グッと違ってくるはずです。

    ・内容について
    「雰囲気小説」ですね。
    私はゲーマーでして、「雰囲気ゲー」というファン用語?をよく耳にします。
    画面作りやグラフィックだけに全力を注ぎ、肝心の面白さが蔑ろにされたゲームへの蔑称ですが、これを小説に見立てたのが雰囲気小説です。私の造語です。

    この小説にも同じ傾向が見られます。
    文章センスや場面設定に力を入れ、ストーリーやテーマはおざなり。
    三読しましたが、ついに最後までこの印象は覆りませんでした。
    まあ私は文学クラスタではないですし、隠されたテーマを読み落としてる可能性もありますが、三回読んで気づかなければ、まあないと言っていいかなと。
    もし具体的にあれば教えていただきたいところです。不明があれば謝罪しますので。

    もちろん、主人公のお姉さんへの憧れなり、二人の時間への執着なりは感じられます。
    でも、それだけです。少なくとも私には、それ以上の何かが伝わってきません。
    凝ってるけど空虚なんです。まさにお姉さんの話のように。

    こう感じる原因の一端は、今作の書き方にもあります。
    この作品は長編の文法で書かれていて、短編のペースではありません。
    短編が原則として起承転結を含む完成品なのに対し、今作は長編の起承転結の「起」を抜き出した不完全品です。「先を想像してエンド」というのは打ち切りエンドのようなものです。物語としてはまったく落ちていませんし、先を想像させるほど話も膨らんでいない。
    まさに「何となくいい雰囲気」を味わうための雰囲気小説です。

    私は別に雰囲気小説を否定しません。そういうプロ作品も多いですし、極まれば純文学と呼べるものでしょうから。私は趣味が違いますが、凄ければ凄いと認めます。
    ただ、今作はそこまでの水準にはなく、物語性は希薄です。
    なので、こういう評価になるのも仕方ない面があります。

    以下、読みながら気になった部分について。

    >遠いものを見上げるのが苦手
    お姉さんとの距離感に絡めるなら、「遠いもの」という設定はなくして、「見上げる」こと自体を苦手にしてもいいかも。
    そうすればシルエット関係なく、お姉さんの顔が見えない理由にもできますし、ラストでようやく顔合わせという部分にも特別な驚きを与えられるかと。

    高いところにあるものって、たいてい高圧的だったり、どうしようもないものが多いですよね。学校で思い浮かぶのは時計とか朝礼の校長とか。太陽や月=時間なんかもそんなイメージ。「見上げるのが苦手」な主人公にとって、高い場所のお姉さんはどういう存在なんでしょう? ……みたいな。

    >学校の友達について
    学校生活の描写そのものは間違っていませんが、それは長編の場合。
    短編である今作では、メインは路地のお姉さんなので、力を入れすぎてはいけません。
    こちらに力が置かれ過ぎて、路地の話と印象が分断され、散漫になっています。

    お姉さんとの時間が大切であることを押し出すなら、学校の描写は最低限にとどめ、友人関係も平凡にした方がいいかと。友人と気安い関係があるなら、そこまでお姉さんに入れ込む理由もないわけですからね。
    「不満はないけど平凡。でもお姉さんは違う」という部分をもっと強く押し出すには、個性的な友人の設定が邪魔になっていると思います。あくまで短編で書くなら、友人はオミットすべきでしょう。勿体無いとは私も思いますが、剪定は必要です。

    昼食部分を最低限まで削り、余った文字数をお姉さんとの踏み込んだ追加シーンや主人公の心象描写に当てた方が、物語としては深くなるはずです。

    >お姉さんについて
    雨に絡んで、お姉さんがどんどん普通の人になっていくのが、奇妙に思えます。
    そういう人なら毎週深夜にやってくる少女を止めそうなものです。こちらが本来の性格なら、その辺りの描写は欲しいところ。

    お姉さんがリアル寄りのキャラなのか、完全にフィクション属性なのかは気になるところなので。別にどっちもありですが、徹底すべきだと。
    逆にフィクションで行くなら、部屋に上げる際も冗談めかして言った方が面白くなるでしょう。その方が主人公の気持ちの揺らぎも書けそうです。「近づきすぎること」への葛藤とか。

    同じく二人の出会いなども、欲しい情報です。多くは語る必要がないですが、路地を通ることになったきっかけくらいは説明があった方が設定を飲み込みやすいはず。

    おっと。言い忘れていましたが、この作品に百合要素は皆無です。
    タグを「思春期」とかにすべきだと思います。ラブではないです。


    ・アドバイス回答について

    >全体の雰囲気がラストの余韻までつながっているか。
    >また余韻そのものに意味は見いだせるか。

    ラストは綺麗に書けていましたよ。
    そこまでに物語がしっかり描き切れていれば、満点で余韻に浸れたと思います。
    残念ながら、そうはなりませんでしたが。

    ということで、前者はイエス、後者はノーというのが私の答えです。


    ⬜️総評
    ・センスは感じるが、冗長さで相殺。
    ・雰囲気小説。テーマ的には空疎。
    ・長編の一部ではなく、短編として書く意識を。

    雰囲気小説と断じましたが、逆を言えば雰囲気は書けてるとも言えます。

    雰囲気小説というのは、例えれば「映え」です。
    スイーツの写真映えがいくらよくても、味がまずければ意味がありません。
    いくら食前酒が旨くても、メインディッシュが不味ければ星はやれないというのが私個人の認識です。逆の方がまだましなくらいです。

    センスや雰囲気と、テーマやストーリーは矛盾しません。
    両方を兼ね備えるのが重要で、一方だけ突き詰めても片手落ちです。
    そしてテーマを含ませるなら、こんな悠長な書き方はしていられないはず。
    あるいは今作を「起」とする長編にするか。どちらかでしょう。

    どんな作風を選ぶかは箱娘さん次第ですが、願わくば中身を兼ね備えた「雰囲気小説」を読みたいと私は思います。
     
  • 【17】神様のいる世界(Elノ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330661293144485


    さて、第十七回はElノさんの作品、「神様のいる世界」です。
    ざっくり拝見した感じ、ライトファンタジーという感じ。
    なろう系というほどテンプレではないかな?
    その方が私はアドバイスしやすいですかね。テンプレ知らないので。

    ただ、題材がちょっと壮大。
    なんせ「神とは」ですからね。それも宗教メインの。
    うーん、考えただけで手に余りそうなテーマですが、まあ私なりに解釈してやっていきましょうか。

    Elノさんの回答はこちら。


    初めまして 勢いで書いた部分があったので是非感想を頂きたいなと思ったので参加させていただきました。

    ・特に意見が欲しい部分
     後半での問答の部分です。具体的に何処かは読んだらわかると思います。

    ・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
     是非頂きたいです

    すみません。お願いしたいことを追加で書かせていただきます。
    今回拙作はカクヨム甲子園の短編部門に応募しているのですが、元々5000字ほどの短編を圧縮しまくって3994字に収めているので、読み取りずらい部分と消しちゃっていい部分を指摘して下さると助かります。
    失礼いたしました。


    ──ふむふむ。
    Elノさんは高校生とのことで、そこら辺は配慮しましょう。
    その上で、話(問答)の整合性と無駄な部分の指摘、ですかね。
    毎回やってることですので、こっちは心配いらないかな。
    文字数を削る意識があるなら、冗長さは気にされてるでしょうし。

    それでは、読みながら感想、始めます。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。

    >短編
    サブタイトルが「とりあえずつけといた」って感じです。
    読者が確実に読むところなので、ここも作品の一部。
    タイトル同様、考えて書いた方がよいです。
    無難なところなら、タイトルと同じにしておきましょう。

    >位は枢機卿。上から二番目に偉い事になるが、
    説明があるのはいいですね。

    >──笑えねえか
    「。」が抜けています。
    この前に空行がかなり入りますが、入れ過ぎです。
    場面転換でもないただの強調なので、私なら二行だけにします。

    >「状況は聞いてますね?伝令によると村の周りを多数の魔物が囲んでいる様です。一刻も早く救助が必要な状況です」
    >「了解です!」
    >「今日は馬の調子もいいですしかなり早く着けるんじゃないですか?」
    >「そうしたら後はフェルネン枢機卿の独断場ですね!」
    >「魔物なんてどんなに強いのがどれだけ居ようともフェルネン様には敵わないでしょう」

    進行中の戦いと独白が交互にくる構成はいいと思います。
    ただ、回想に合わせて数を稼いだせいか、村に向かうまでの描写が冗長。
    村に行くまでの話とか強行突破とかいりません。
    例えばここで必要な情報は、「村を魔物が囲んでいる」「一刻も早い救助が必要」「フェルネン枢機卿がいる」だけです。馬とか独壇場とかは要りません。独壇場なのはバトル時に回せばいいので。

    何でそう言うかって?そりゃあ身をもって不幸を体験してるからだ。

    最初に思ったのは、不幸な過去から神はいない」と思ってる男が、何故神職についたり枢機卿でいるのか、という疑問ですね。普通は遠ざかる気がしますが。

    >ソースは俺。
    なろう系ぽいネット常套句ですが、ここでしか使われていないので違和感しかありません。
    物語全体をそういう口調で通すのでなければ、「経験談だ」など通常の表現にすべきです。

    >何でも俺の生まれが近かったが、同時にその年は一部地域で酷い不作だったから早急に食料を運ぶ必要があり、結果として産婆を同行させたらしい。

    暗号レベルの悪文。「結果として」が意味不明です。
    「その年は酷い不作で、早急に食糧を運ぶ必要があった。
     身重の母親も仕事を休めず、産婆を同行させ、旅先で俺を産んだらしい」

    >だが俺は思わずして、その名をもう一度被ることになる。

    「思わずして」が聞き慣れず調べてみましたが、ネットでは用例が出てきません。
    間違いとは断言できませんが、ポピュラーな言い回しではなさそうなので、意味的に大差がない「期せずして」か「望まずして」の方が確実かと。

    「フェルネン様!2時の方向に中級魔物3匹、接近してきます!」
    「ユリスとダリアで対応してください。残りは無視して突っ切ります。今は時間が勝負です」

    フェルネン=主人公が答えていると読めますが、独白と並行して書くと、こう考えながら指示を出してるように見えます。まあ内心に悩みを抱えつつ、冷静に戦局に応じてるとも取れるので悪いわけではないのですが、「悩んでいる」と感じ取れる部分を味方の台詞中に含むのも演出的にありかなと。

    >「フェルネン様!2時の方向に中級魔物3匹、接近してきます!」

    教会と言うより軍隊みたいな会話ですね。
    まあそういう世界観なら、それはそれでいアリかと。

    >今は時間が勝負です」
    時間「との」勝負です」

    >当時の俺が5歳。行商の旅で山道を通っている時だった。大規模な落石があった。

    この短さで文を分ける必要はないです。
    「俺が5歳の時、行商の旅で山道を通過中に、大規模な落石にあった。」

    >直径1~3m級の巨大な岩が
    サイズはいりません。「巨大な岩」で十分。

    だが俺は、二つの巨大な岩の間に挟まり、その上からさらに大きな岩が蓋をすることで潰されずに済んだ。

    蓋まで説明する必要はないでしょう。
    およそ何故助かったかは通じます。
    「だが俺は、二つの大岩の間に挟まり、潰されずに済んだ。」

    「巨大な岩」は二度出てるので変えています。

    >半日経ち、後続の商人達の通報でやって来た教会の聖職者達に救助された俺はまたもや「奇跡の子」と呼ばれることになった。

    「救助された俺は、」で読点が欲しいところ。
    やや冗長なので商人の情報は削ってもいいかも。

    >──ハッハッハ、奇跡だなんてよォ、人様の気持ちも知らないで……

    これは今の心境か、当時少年だった頃の気持かどっちでしょう?
    というか、この事件の時点で「神はいない」と思う方が自然な気も。

    >「日が暮れてきましたね」
    >「ここら辺は山に囲まれていますからね。分かっていた事です」
    >「どうされますか?闇の中での行軍は少々の危険を伴いますが──」
    >「無論、強行突破でしょう」

    大した内容ではないので丸ごと削っていいかと。
    とにかく状況描写を挟んでおきたい作者の都合が読み取れます。
    どうせ挟むなら、もっと緊迫感の維持を考えるべきです。

    >その後の俺は神聖帝国の帝都にある教会の孤児院に預けられた。
    >最初は馴染めなかったが、孤児院の皆は優しく、俺にも積極的に絡んできてくれたから一年経つころには皆に交じって遊べるようになっていた。

    これだけなら不要なエピソードです。
    最初から師匠のいる孤児院に入っても問題は何もないので。

    >嘗ては枢機卿カーディナルも務めたという孤児院の院長。聖人君子で、助けを求める人には見返り無しでそれに応じる、まるで神様みたいな人だった。

    聖職者の誉め言葉に「聖人君子」は微妙な気がします。
    というか「まるで神様」と後であるので、「聖人君子」は不要かと。

    >この人は当時反抗期で尖りだしていた俺に嫌な顔一つせず聖光術の師匠になってくれた。

    「聖光術」の説明が皆無なのが気になります。
    テンプレ通りだとしたら、いわゆる僧侶の奇跡とか神聖魔法ですよねこれ。
    定番だと神への信仰を元に神から与えられる能力なわけで、現時点でガンガン聖光術を使ってる主人公が「神はいない」とか言ってるのは意味不明に思えます。聖光術こそ神がいる証拠じゃないですか。

    そうではなく、テンプレ以外の設定があるなら、その説明をあらかじめしておく必要がある。というかこの話では必須だと思います。後述。

    >「よく見て下さい。分かりにくいですが、右端の二体は上級です。右半分は私で対応します。残り半分を貴方達で対応してください」

    さっきはクロックポジションだったのに、いきなり大雑把になりました。

    >師匠の下で鍛錬し、終わったら皆と遊ぶ。

    孤児院で最優先されるのは雑務や家事で、その後に勉学や鍛錬でしょうね。年上になればなおのことです。

    >いつも通り師匠と魔の森へ出かけていた俺は、上級の魔物に出くわした。

    RPGのエンカウントみたいな安さがあります。
    上級の強そうなイメージが一気に下がるので、レア感が欲しいところ。

    >熊ほどの大きさの黒い体の半分が口で、パックリ開いた口からは白くて尖った牙が姿をのぞかせている。足は短い割に太く、手が無い代わりに細くて長い触手が鞭のようにしなっている。

    魔物の外見をちゃんと描写しているのは個人的には好感を持ちますが、今作だとここだけで、他は「中級」「上級」 しか使われていないので違和感があります。

    回想の独白という点を見ても、ここは詳細を説明するより事件をざっくり描くべき部分なので、描写は「上級魔物」に絞った方が、逆にすっきりすると思います。
    私も普段なら、「手抜きせず描写しろ」派なんですが、これは短編ですしスピード感を出す意味でも、こだわるべき部分ではないかな、と。

    >初手で俺の使える内の最速の聖光術をぶっ放し、それに続けて目くらまし、拘束技を放った。それらがきちんと機能していることを確認した俺は、止めと言わんばかりに扱える最高位の聖光術を放った。

    この程度の描写なら、ない方がすっきりします。
    「最高位の聖光術をありったけ打ち込んだ」で十分です。

    > ──勝った!

    ここから続く師匠の死まで、全部冗長です。
    ここまで過去語りは巻きで語って来たのですから、ここも可能な限り簡略して書くべきところ。

    感動の場面なので詳細まで書いてしまったのだと思いますが、むしろ逆効果。過去の悲劇は淡々と書いた方が胸を抉るものです。
    特にいきなり台詞や擬音が入るとかもっての外。必要なのは師匠の遺言だけで、それさえも最後に一言、抑えめに書いた方が悲劇が強調されます。そこまで表現を抑え、一度も台詞を使わないことが、最後の遺言を輝かせるんです。

    >「凄い!」
    >「あれがフェルネン枢機卿のお力」
    >「初めて見るが、あれが最年少で枢機卿に至った方か……凄まじいな」

    強さは伝わりますが、ドラマティックでは全くないですね。
    ただ強いというだけです。

    >その頃から神の存在を疑っていた俺

    むしろここの説明こそ必要でしょう。
    師匠は何を教えていたんですか?
    というかこの時点で「神はいない」と確信した人間が、何故に枢機卿になった(なれた)んです?

    > ──神様はいない

    無駄に行を開けすぎです。
    効果より読みづらさが先に立ちます。
    あとこの期に及んで「様」をつける意味が分かりません。


    >神様はいないのに、救われたと勘違いする偶然ばかり起こる

    ここから続く詩みたいなのが、勢いで書いた部分ですかね?
    徹夜ハイで書いたポエムみたいな青臭さがあります。
    悪いことは言わないので、冷静な気持ちで書き直すべきです。
    段差をつける演出もマイナス効果です。

    別に内容的に言いたいことはわかるので、それを伝わるように平易に、抑えて書くだけで十分です。その方がどう考えても効果的。
    普段の私なら、この詩が出た時点で読むのをやめてるところです。

    私が書くなら、そうですねえ。

    「奇跡は偶然。だから神はいない。
     救済は一握り。だから神はいない。
     教会は偶像。だから神はいない。」

    くらいにしますね。これでも若干ポエムですが。

    >◆◇◆◇◆
    あれ。戦闘シーン、あれで終わり?

    >霊峰の頂上に建てられた静謐な空間。

    こんなとこまで報告に来るとか、何日かかるんだって感じです。
    現実感が皆無なので、もうちょっと行きやすい場所にすべきでは。
    聖女が出てくる場所として必須でもないですし。

    服も髪も肌も目も白いこの美しい少女は教会で聖女と呼ばれる、ちょっと特殊な立場にいる少女だ。

    >彼女を見ると俺と彼女は違う種族なんじゃないかと思うぐらいに圧倒される。彼女はこの建物と同系色なのに、その強い存在感で輪郭を明確にしている。かといって、さっきみたいに気配を完璧に殺して知らない内に近づかれていることもある。

    何故、聖女だけ描写が細かいのかわかりません。
    さして必要な情報もないので、二行もあれば雰囲気を出せるはず。
    ここまでを見れば、描写なしでもいいくらいです。

    > ──不思議な少女だ

    ダッシュ(──)の後でも句点(。)は必要ですよ。

    >「お聞きしました。昨日は大変なご活躍だったそうですね」

    昨日???

    >私の働きなど聖女様のそれに比べたら
    「私の働きなど聖女様に比べたら」

    >「謙遜しなくても宜しいのですよ?村を囲っていた狂乱状態の魔物を20匹以上討伐した上怪我人も全員治癒したそうではありませんか。立派な活躍です」

    ここら辺の説明も、聞いても「ふーん」くらいの内容なので割愛していいです。大した内容じゃなりません。
    私なら「謙遜しなくても宜しいのですよ?」で済ませます。


    >本当にどうして知ってんのか気になる。俺はたった今教皇様に報告したばっかなのに、もうそれ以上の詳細をその口から語っている。

    「知っている」被りを避けたせいでしょうが、「もうそれ以上の~」以降の文章がまともに繋がっていません。

    「本当にどうして知ってんのか気になる。俺はたった今教皇様に報告したばっかなのに。」で十分。

    >「私にも伝手はあるのですよ」
    > 聞いても無いのに答えてくれた。

    不要な説明。
    かえって聖女のイメージを損ないます。

    >相変わらずの満面の笑み。だが今なら分かる。これは額面通り受け取ってはいけない笑みだ。

    なんで異端審問みたいになってるんですかね。
    聖女が何者で、どういう立場で、「神はいない」と思ってるとバレたらどうなるのか、全然説明がないので、展開についていけません。

    >でも彼女の質問にはきちんと考えなければいけないという様な、不思議な義務感が俺に湧き上がった。

    わけがわかりません。
    とりあえず、聖女がまるで油断ならない相手というイメージだけ浮かびます。

    >「神様とは、何だと思いますか?」

    別に言ってることはそう間違っていないですが、主人公の疑問に完全に答えてるとは思えません。ここは後述。

    それより、聖女に無用な怪しいイメージを与えていることの方が問題ですね。笑顔とか口ぶりを見れば、主人公のみならず読者でも眉に唾をつけたくなります。作者自ら問答の説得力を落としにかかっているようなものです。それこそ典型的な聖女キャラの方が、少なくとも説得力のマイナスにはなっていないはずです。

    >「それが”教会”という組織ですから」

    締めとしては悪くない台詞ですが、交互に組んだ構成は完全に死んでいて勿体ない。途中のバトルとか何だったんだ、という気分です。
    このテーマをより突き詰めるなら、村の討伐を全カットすべきですが、私はエンタメ派なので両獲り案を考えました。後述。

  • ⬜️全体の感想
    ・タイトルについて
    うーん。平凡。明日には忘れていそう。
    テーマに一本筋が通っていれば、他に案も思いつきそうなんですが、現時点では……やはりまず内容の改善からですね。

    ・文章について
    高校生ならこんなもんかな? という感じ。
    表現力はまだまだですが、褒められる部分はあります。

    モンスターの描写など、テンプレに頼らず考えて書こうとしてる点は、私は評価します。固有名詞頼りでは類似作に埋もれます。
    まあ今回はそれを推しませんでしたが、長編を書く際にはその姿勢を大事にしてください。モンスターに限らず、ファンタジーは創造と想像が最重要です。

    あと、村の討伐場面と回想を交互に入れ込む構成は褒められます。
    台詞のみにして一目してわかりやすくしてある点も高評価。
    モンスター描写が無理なので「中級」とかなんだろうなと推察します。
    ただ、あの攻勢を生かし切るなら、最後まで貫くべきでした。
    主人公の懊悩とバトルの現場。双方が接近し、最後に統一されて終わる展開の方が、百倍燃えるし面白いはずです。ここは私案として後述します。

    反対に、直すべき部分は、まず無駄に行数のある空白部分。
    大きく取れば感動できると思っているなら大間違いです。
    「!」の文字を100個に増やせば、100倍興奮しますか?
    しませんよね。見づらいし、頭悪く見えるだけです。

    過剰な空白も同じです。適切な空行で十分。
    むしろ普段から抑えておいて、ここぞという時だけ使えば、二行の空白でも十分にインパクトを与えられます。

    後は、文章の全体バランスですね。
    過去語りや聖女の場面だけ、無駄に描写が多かったり、長編のようにやりとりするのは、バランスを欠いていますし、不自然です。
    あえてそれをする必要性があればいざ知らず、聖女の外見描写や表情なんて物語にまったく寄与しません。今回は阻害してるくらいです。
    台詞だけで聖女の個性を伝えるくらいの気持ちで書きましょう。

    師匠の場面も同じです。いきなり師匠がしゃべり始めて、むしろ冷めてしまったくらいです。独白なのに台詞が普通にある時点でおかしいですから。主人公が全部自分の声で再現してると思えば、おかしさに気付くはずです。あそこも最小限に抑えた方がバランスよく、かつ効果的に悲劇を伝えられたはずです。

    ・内容について

    一番の問題は、「テーマが重すぎる」でしょうね。
    宗教、神、教会。素人が手を出すべきテーマでは本来ありません。

    これが宗教抜きの個人的な視点であれば、ありなんです。神の」捉え方なんて千差万別だし、それぞれが出した答えに一定の意味があれば、読者は納得しますから。

    ですが宗教と教会を絡めると、話は果てしなくややこしくなります。
    まず教会の設定、神の設定が必要ですよね。
    ライトファンタジーで適当に書いていますが、仮にも教会と聖職者の話で、そこ抜きに神談義とかシャリ抜きで寿司を握るような暴挙です。私なら絶対に避けます。踏み込みすぎです。

    例えば、テンプレ的なファタジーの僧侶だと、だいたいキリスト教的な設定ですが、一方でファンタジーなので、神の声を聞いたり力の加護を承けたり、何なら神を呼び出したりする世界観もあり得るわけで。

    そこの説明がないまま、「神はいない」とか聖職者が言い出したらわけがわからないし、聖女の説明も「それよりこの世界の宗教設定を教えてくれ」ってなります。

    代表的な問題が、「聖光術」と「聖女」ですね。
    テンプレに従えば、「どちらも神への信仰あってこそ」存在が許されるものと設定されがちです。聖女なんて神に選ばれた女だったり、神の声を伝えたりするイメージですし。

    この設定通りなら、主人公の「神はいない」という問いは「聖光術や聖女がいるなら、いるだろ」で一蹴されてしまいます。現実の宗教と違って、聖光術や聖女は確実に存在してるんですから、当然神もいるだろって話です。クーラーつけながら電気の存在を疑う人間はいません。

    なので、このストーリーを成立させるには、最低限、
    ・神を見たものはいない。
    ・聖光術も聖女も、じつは神や信仰とは関係ない。

    この二つは、独白などで説明しておく必要があります。

    >主人公の悩みについて
    主人公が「神はいない」と断じるのは師匠の死後ですが、そもそもまず両親が死んだ時点で疑うものではないか、という疑問が一つ。
    そして「神はいない」と信じた15歳から何年後かは知りませんが、特に問題もなくそのまま枢機卿になってるのは何故?という疑問がります。

    とくに後者はまず、信仰がおろそかになりそうなのに、トップ2になってる点が謎過ぎます。聖光術がスゴイ!だけでなれるもんじゃないですよ枢機卿。会社で言えば副社長なんですから。レジ打ちが早いだけじゃ店長になれないようなもんです。

    仮にそこら辺は成長してたりごまかせたにせよ、本人のモチベーション的に普通はならないでしょう。教会を離れる方が普通の選択だと思いますし、何年前からうだうだ考えてるのって感じです。聖女の突っ込みも「今更かよ」ってもんでしょう。

    私なら、ここら辺の解決案として、
    ・両親が死んだ時点で「神はいない」と思い、やさぐれた。
    ・だが師匠の慈愛と教えを受け、信じる気になった。
    ・弟子として急成長し、最年少で枢機卿になった。(師匠まだ生きてる)
    ・魔物が孤児院のある村を襲い、子供を守って師匠が死ぬ。
    ・助けられた子供が聞いた遺言は主人公あてに「神はいる」。
    ・打ちのめされた主人公はその言葉が認められず、「神はいない」になる。

    ──という感じの過去にします。
    話の筋書きはこんな感じ。

    ・村を襲う魔物討伐にでる場面では、主人公不在の情報が出る。
    ・「神はいない」ことに絶望した主人公は、教会から姿を消した。
    ・独白はあてどなく魔の森を歩きながら。
    ・一方、魔物討伐組は戦力不足で苦戦。聖女の助けを待つ。
    ・聖女、主人公の前に突如現れる。最後の会話。
    ・魔物討伐組、絶体絶命。
    ・聖女の説得に応じた主人公が魔物討伐組の前に現れる。
     最強の聖光術で魔物を吹っ飛ばし、反撃を開始する。
    ・終わり。

    ──という感じにすると、

    ・両面構成が最後に一つになり、綺麗に終わる。
    ・聖女の説得の結果が、主人公の行動で証明され、すっきりする。
    ・ラストが燃える。

    などの利点が考えられます。

    もちろんこの通りに変える必要はないですが、部分的に採用してもよし、参考にしてもよし、もっといい案を考えるもよし。叩き台として好きに使ってください。

    聖女の説得場面の是非と改善案については、後述します。


    ・アドバイス回答について

    >・特に意見が欲しい部分
    > 後半での問答の部分です。具体的に何処かは読んだらわかると思います。

    聖女との会話ですね。
    ここは消化不良に感じました。

    主人公が「神はいない」と断じた理由は、育て親の孤児院長が魔物に殺されたからです。
    自身の不甲斐なさも一因だったかもしれません。
    わかりやすく言えば「神に仕える者の善良な行いすら、神は救わない」ことで、突き詰めれば超常的な救いがなかったことへの恨みです。
    これ自体はわかりやすく、それなりに納得のいく話です。(枢機卿が言う点には疑問を覚えますが)

    対して聖女の論は、簡潔に言えば「人の善性こそ神である」ですね。
    「ブッダ」(漫画)に、「人の中にこそ神はある」という悟りを得る場面があります。まあこちらは仏教ですが、論そのものが悪いとは思いません。

    ただ、「超常的な神の救いがなかった」から「神はいない」と考えるものに対して、「人の中に神はいますよ」と言われても説得力があるかな?と思います。スイングはいいけど打球はファールな感じ。

    「人の中の神」では全てを救えないのは、孤児院長の死が証明しています。人間の力は限られるからこそ、超常的な存在にすがるわけですから。アンサーとしては不完全なんです。

    私なら、ここの問答はこんな感じにします。

    ・まず「神を見たものはいない」世界を前提にする。
    ・聖光術は、素質があるものを教会が育てているだけで、神の与えた奇跡や加護ではない。
    ・聖女も同様で、特殊な力を持った女性を探し、教会に帰依させ聖女の名を与えているだけ。
    ・さまざまな奇跡も聖人も、神の存在を完全証明するものではない。
    ・枢機卿の主人公は、そういった知られざる教会の裏側も知っており、神の存在に懐疑的だったところに、孤児院長の死が重なり、「神はいない」と結論する。

    で、聖女の言葉。

    「神の姿を見たものは誰もいない。その意味で神はいないのかもしれない。
     それでも神を求める声は止まず、苦難を訴える者は教会に押し寄せる。
     姿なき神に代わって、限られた力を束ねて民を救い、「神はいる」と信じてもらう」
    「それが”教会”という組織ですから」

    ポイントは三つ。
    一つはまず正面から主人公の問いに答えること。
    その上で方向を変えた代案の提示と、「教会の意味」の強調。
    元の聖女の理屈「神は人の善」だと、教会である必要ないですからね。ボランティア集団でもいいって話になります。
    例え虚像でも信仰のシンボルとして、神なり仏なりは必要で求められている。現実でもこれは同じで、そういう視点は大事です。

    >すみません。お願いしたいことを追加で書かせていただきます。
    今回拙作はカクヨム甲子園の短編部門に応募しているのですが、元々5000字ほどの短編を圧縮しまくって3994字に収めているので、読み取りずらい部分と消しちゃっていい部分を指摘して下さると助かります。

    これは「読みながら感想」でしておきました。
    短編として考えると、長編のように書いてる師匠と聖女の場面はゴリゴリ削れますね。その方がまとまりがよくなると、私は思います。


    ⬜️総評
    ・文章は並。構成は攻めていて面白い。
    ・テーマは挑戦しすぎ。細部の穴が多すぎ。
    ・穴を塞ぎ切れば、結構面白くなりそう。

    正直、最初は「なんじゃこりゃ」と思ったんですが、改善案など考えるうちに、案外こういうのもアリかも、という気になりました。
    とはいえ宗教と神は鬼門です。私でも避けて通ります。
    よほど調べまくって自信がつくまでは、手を出すべきではありません。キャラ個人のレベルに留めておくのが吉です。

    とはいえ、ありきたりの作品を書かず、随所に挑戦が感じられる点は評価しておきましょうか。
    粗削りではありますが、若者らしいよい作品だと思います。

  • 【18】カワリモノマニアック(さにぃ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330662568942558


    じっくり感想企画も、ぼちぼち終わりそうな八月末。
    なんだかんだで今年も疲労困憊でして、感想に二日かかってしまいすみません。待ってる方の気持ちを考えると、なるたけ早くせねばと思うんですが。

    ということで、お待たせしました。
    十八回目は、さにぃさんの作品、「カワリモノマニアック」。
    ジャンルはえーと、「異世界転生もの」でいいんですかね。

    じつは今作、長編連載物の第一話で、その時点ではまだ転生してなかったりします。ざっくり読んだところ、転生するところで終わってるというか。

    まあ今回は人も少ないですし、一万字以下なら長編の序盤も読むことにしたのでお引き受けしましたが、この作品の真価という意味では、続きを読まないとわからないのかもしれません。前半だけだと現代ドラマみたいですからね。

    まあ、序盤には序盤の価値が求められますから、そこをチェックしつつ感想を書いていきましょう。

    さにぃさんのアンケート回答はこちらです。


    初めまして。さにぃと申します。

    申し訳ありませんが、参加方法を隅々まで読み切れていなかったようで短編ではない作品で参加しようとしてしまいました。

    失礼とは思いますが、導入部分だけでも感想を頂けないでしょうか?

    もし読んでいただけるのであれば、回答は下記のものにさせていただきます。

    ・特に意見が欲しい部分
    →特にありません。

    ・「梶野だったらこう書く」アドバイスが必要か
    →頂けると助かります。

    次回からはこのような失礼な事が無いように気をつけます。


    ──はい。特にチェックポイントはない感じですね。
    それでは、梶野が感じたところを忌憚なく書いていきましょうか。


    じっくり感想、開始します。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。

    >第1話:無力
    内容を読んだ限り、「軽薄」の方が相応しいかと。

    >やぁ、初めまして。俺はユキムラ リキ。

    高校生と言うことで一度だけ言いますが、小説の文法では基本的に文頭は1マス下げます。「ウェブ小説だから好きにする」という方針なら強くは言いませんが。

    >なので、脚色をかなり加えて俺を紹介しよう。
    変わった自己紹介という狙いは悪くないですが、内容的に失敗しています。
    この場合読者が期待するのは「大げさで面白い話」で、そこから「少なくとも話は面白いやつ」という印象を引き出せば合格です。が、自己紹介の内容はごく平凡で、むしろ「盛ってこれか」という印象になっています。ここは大ボラをふくべき場面です。

    >両親はいるし、学校にも通っている。特に虐められることもなく親からの虐待も受けていない。勉強は苦手だが、興味のある事には熱中出来るのが俺の長所だ。それもすぐに飽きるんだけどな。
    >あとはそうだな…趣味は読書とYorTubeだ。
    >最近はラノベにハマっていて、投稿サイトを漁っては名作を拾う毎日だ。YorTubeでは宇宙やらパラドックスやらの難しい話を聞くのが好きで、あれを見ている間は自分も天才になったかのような気分になれて凄くいい。

    別に問題は感じない内容ですが、先述したように「不合格」。
    というか、一読した限り、本当のことしか話していないように見えます。脚色という話はどこにいったんでしょう。

    もしかして、脚色したのは「俺の人生は至って幸福に満ち溢れている。」だけ、とかですかね? だとしたら拍子抜けです。
    本当は不幸のどん底にあるキャラがこう言っているなら、なかなか面白い出だしだと思うところですが、そうも見えませんし。

    >あとはそうだな…趣味は読書とYorTubeだ。

    「…」は「……」にすべきです。

    >やっとつまらない話が終わってほっとしている君

    「この作者、大丈夫かな」とはちょっと思いました。

    >本来会話出来ないはずの相手と会話がしたくてな。

    会話は「言葉のやり取り」なので、読者とするのは無理です。
    「話をする」なら一方的な意味も含むのでわかります。

    >問. 次のうち、人間のあるべき姿はどちらか答えよ。
    >1. 不変
    >2. 無常

    「不変」はともかく「無常」は運命的な意味合いが強いので、「生き方」の説明には不向きです。人生を翻弄する運命が「無常」と呼ばれるので。

    私なら、と考えましたが、いまいち質問の意味が掴めないので代案が浮かびません。とくに漢字二文字で縛る必要がないので、わかりやすく書いていいんでは。こんな意味合いでしょうかね?

    ・変わらないでいること
    ・変わり続けること

    >好きな方を選んで欲しい。正解は無い。何故ならそれは、今俺が痛感し、後悔し、何より迷っているからだ。

    「正解がない」とわかってるなら、迷う必要はないのでは?
    それでも正解を求めるから迷うわけで。
    あと、他はわかりますが「後悔」は意味が分かりません。
    後悔は選択の後に生じるものです。

    >「──なんてな。誰に見られてるってんだ。」

    「脳内で誰かに語るタイプのキャラ」ということですかね。
    まあ二人称はだいたいそんな感じですが、それならその設定を否定する必要もないと思うんですが。
    「二人称を装った出だし」を、あえてする必要がないというか。

    駄文を読まされた気分になって、読む気が一気に減じます。

    >彼と俺は、人類にとって最も重要なとある議題について議論していたのだ。その内容は──
    >性癖についてだ。

    ギャグとしてなら、この引きはアリ。

    >「リキ、お前僕を裏切るのか!?またしても親友の僕を!?」

    別に友人が裏切られたように見えないので、意味不明です。
    主人公の性癖がどう変わろうと、他人の勝手では?
    意気投合してたならいざ知らず。

    >翔は俺の胸ぐらを掴み、鬼の形相で俺の顔を睨んできた。

    ギャグなら許されるテンションですが、どうも本気なのかギャグなのか話が掴めなくて、戸惑いますね。

    >「そうだよ!!お前は、お前はなんなんだ!自分の意思というのが無いのか!?僕は悔しいよ……お前に言われる度、僕は悩みに悩んでいたんだぞ!僕の考えが間違っていたのではないか?僕の性癖は異常性癖で、これから矯正しなければ周囲に迷惑がかかるんじゃないか?ってね!!!」

    自分の意思がないのは友人の方にしか見えません。
    主人公はまあ、執着がなくて飽きっぽいか、統合失調症なんでしょう。

    >「あぁそうだ。お前はその後にこうも言ってたよなぁ!"俺はただ、成長してるだけだ"と!!」

    気が変わるのを成長とは言いませんが、まあギャグなら……でも正直、ここまで全然笑えません。

    >「僕はそれが許せないんだ!お前はあまりに軽薄すぎる!いつもそうだよな!何かに熱中する事はあっても、すぐに飽きて次だ!これまでは我慢してきたけどもう限界だ!殺してやる!」

    なんでこの人、友人やってるんですかね?
    まともなツッコミがいないので、ギャグが成立してない感じ。
    せめて主人公に突っ込ませてみては。

    >「次は絶対に決めるからな?この争いの結論。」
    >「あ、うん。頑張ってくれ。」

    うーん。
    盛り上がりはなく、ギャグとしても面白くない感じ。
    普段ならここで、読むのを止めるところ。

    >ここまでで2時間も待たされたので少し頭が限界になっていたようで、

    状況がよくわかりません。
    相手が二時間遅刻しているということ?

    >今日はシブいな。
    これも何がシブいのか、意味がわかりません。

    >「嘘だ。某位置情報共有アプリ見たけど、リキは2時間前からここにいたじゃん。それに昔から、リキは待ち合わせをすると決まって時間ぴったりに来るしね。」

    私が友人で相手が二時間前から待ってると知ったら、その時点で何かしら連絡しますけどね。時間間違えてるのかと。

    そもそも二時間前から待つ意味がよくわかりません。「いま来たところ」というギャグの為だとしても、長すぎです。せめて愛莉に突っ込んで欲しいところです。

    >どれぐらい某位置情報共有アプリを使っていなかったかと言うと、スマホの機能で勝手に雲マークが付いていたレベルだ。某位置情報共有アプリを入れた当初は使っていて楽しかったのだが、ある日から心底つまらなくなって某位置情報共有アプリを開くことすらなくなってしまった。

    「飽きやすい」という設定の補強はいいですが、説明が長すぎます。

    >フランス人とのクウォーターという事もあり非常に整った顔立ちで、肌が異様に白く、服なんか明るいブラウンのフリルがついたワンピースを着てるからかまるで人形みたいだ。そこには美しさだけでは無く儚さがあるとすら思う。

    この説明から儚さは感じ取れません。
    特徴に何かしら要素が欲しいところです。
    私なら、「色素が薄く、日差しの中に消えてしまいそうだ」とか書くと思います。

    >いや、これは決して恋愛感情では無い。尊敬の念だ。

    何を尊敬してるのかよくわかりません。
    服装や可愛さを普通「尊敬」はしないですから。

    というか、愛梨と主人公の関係がわかりません。単なる親友の彼女なのか、それ抜きで友人なのか。
    愛梨が「昔から」と言ってるので幼馴染みかなとも思えますが、それにしては外見の評価が普通ですし。
    ここは最初に明記したほうが話を読みやすいです。

    >俺といる時もこのレベルという事は、この子の魅力は天然の物なのだろう。

    ここも意味不明です。
    「俺といる時も」ということは服装の話のはずですが、服装は天然ではありません。

    >「中は思ったより綺麗だな。」
    >「でも、なんだか寒いわ。」
    >これを返してくるとは思わなかったな。

    意味がわからないので調べたところ、「青鬼」というノベルのパロディですかね?
    私が知らないだけならともかく、さしてメジャーなネタでもなさそうなので、パロディネタには不向きだと思います。知らないと全然面白くないので。

    >「あっそ、じゃあ白い方にする。」
    >「なんだお前は。」

    初ツッコミですが、甘い。
    私なら「俺の存在意義とは……」とかにしますかね。

    >何故なら、俺が買うのはコ○ドームだ。

    ネタなのかマジなのかわかりません。
    まあネタならアリかなあ。

    >流石に外で待ってもらう事にした。流石に2人で選ぶのは危険である。

    「流石」が被っています。

    >たまたま翔に会ったりしてしまったら、もうあいつとは親友でなくなってしまうだろう。

    絡みの時点で親友感が皆無だったので、今一つ深刻さを感じません。

    >店内は多種多様な商品が並んでいてカラフルだ。人によっては気持ち悪くなる程だ。

    ドンキですかね。

    >俺は彼女がいたことすらない童貞なので、ゴムの善し悪しが分からない。

    あれっ、マジで選んでる?

    >最近では"あの形"の物だけでは無いんだな。いや、それが最近であるかすら俺は知らないけど。

    何が言いたいのかよくわかりません。

    >こういう知識だって、俺は少しでも興味を持てば深い所まで知る事になるのだろう。俺はいわゆる、熱しやすく冷めやすい、ってやつだからだ。

    主人公の性格紹介に使うなら、こう書くべきです。
    「TONGAは以前に興味があって、種類も値段も調べ尽くしたが、今はまるで興味がない。俺は熱しやすく冷めやすいのだ。」

    >愛莉は翔の彼女なのに、まるで今日は俺の彼女かのような感覚がした。

    作中の描写を見る限り、全然そんな感じはしません。

    >いや、こんなことを考えるのは良くないな。

    至って当たり前の発想ですが、主人公にまるで共感できてないので少し安心しました。

    >毎年プレゼントをくれていた愛莉が、何故か今年に限って渡してくれなかったのは今日の為だったようだ。

    二人の関係の説明を先にしておくべきです。

    >そもそも、俺にこの状況を拒否する必要はあるのか?
    俺が購入したバ○フライをひとつだけちょろまかしてはいけない理由はあるのか?

    「バ◯フライ」ではわかりにくいので、普通に「ゴム」でいいかと。

    理由はさっき考えていたはずですが、まあここはこういうキャラということでもいいと思います。共感はしづらいですが。

    >でも、俺は前から思ってたのだ。ヤりたいと。

    性欲は否定しませんが、それなら親友の彼女になったことへの羨望とか複雑な思いとかありそうなものです。買い物時点ではそんな話ゼロでしたよね。

    >高校生にしては十分に発達した胸部、腰のくびれ、猫のように大きな目や紅の薄い唇

    最初の「儚げ」という印象と真逆の描写です。まるて別人。

    >俺は今決して侵してはいけない領域を侵そうおしている。

    侵そう「と」している

    >昨日翔に言われた"軽薄"という言葉は、真に俺の事を形容していたといえるだろう。

    そこよりまず考えるべきことがあると思うんですが。

    >「あ、そうだ!私の部屋紹介するよ。せっかくだしね。」

    部屋は知らないんですか。
    この二人の関係が一気にわからなくなりました。

    >明らかに遮られたな。食い気味だった。あと何がせっかくなのかは分からない。

    ここで一服盛る理由も不明です。
    ギャグにせよ、動機くらいはあるべきでしょう。

    >もう犯しちまっていいんじゃないだろうか。

    「犯る」は犯罪を意味するのでマイルドに言い換えるべきかと。
    主人公の心証を少しでも回復したいなら。

    >さっきから思考が乱れすぎだぞ。落ち着くんだ俺。

    家に来た時点で覚悟完了してましたよね?

    >俺は、また飛び立つのだ、新しい花に。まるで、花園でひらひらと飛ぶ蝶々のように。そしてその蝶々バ○フライは俺の息子にしっかり装備された。始まるのだ、これまでの関係を全て破壊する道が。

    ここは、なかなか面白いです。
    これならバタフライを残す忌がありますかね。なら、ゴムを買う場面で、「バタフライにした」と追記しておきましょう。それで知らない読者にも通じます。

    このくらいのクオリティのギャグノリが、全編に欲しいところ。

    >事を始めようとしたその時、その男はやってきた。翔だ。

    いやいや。わけがわかりません。
    ここ愛梨の部屋ですよね。家の鍵は?呼び鈴は?

    >翔は手に包丁を持っていた。そして、俺が気づくよりも前にその刃は俺の背中に突き刺さっていた。

    「どっから包丁が出てきたんだ!」とかツッコミが欲しい。

    >まさかお前らかこんな事してるとはなぁ!
    お前ら「が」

    >翔は泣きながら笑っている。何度も、何度も、何度も何度も何度も俺の背中を突き刺して、泣きながら笑っていた。

    背中を刺されながら相手の顔を見るのは無理でしょう。

    >俺はその間、色々なことを考えていた。

    えっ、これ真面目な話だったんです?

    >脚色した所でボロが出るような、ゴミみたいな人生にはならない為に。

    何か脚色してましたっけ?

    >死んでも抱き続けなきゃならないんだ。

    死んだ後前提の発想は流石に違和感あります。

    >あー、蝶々って別にそういう意図があった訳じゃなかったんだけどな──

    ここの意図はあまりよくわかりません。
    死ぬ=羽化みたいな? ちょっと強引ですかねえ。

    >ゆっくりと遠くへ歩いていく
    「遠くにいる」のに遠くへ行くのは変です。
    「ゆっくりと遠ざかっていく」

    >その姿は光を帯びて眩しいと共に、今にも消えてしまいそうなほど儚い。

    眩しいなら「真っ暗」ではないはずです。
    眩しいに対して「儚い」も違和感があります。花火のような意味なら、そう思える説明を。

    >その言葉も虚しく、がむしゃらに走る俺の体からは力が抜け、その場で膝から崩れ落ちた。
    そして、俺の意識は再び遠くなっていった

    さっぱり意味がわからないまま、一話が終わりました。
    まあ転生したんでしょうけど。

    なんというか、この先がどうなるか想像できないというか、面白くなりそうな気がしません。
    全体的に何を書きたいのかわからない話という印象です。後述。


  • ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    内容にあってるかは、まだ序盤なので保留。

    でもタイトルだけなら、なかなかいいセンスだと思います。
    あまり見ない単語の組み合わせで、興味を惹かれました。

    ・文章について
    文法ルール無視ですが、まあ高校生でラノベならそこまで求めません。
    表現力はまだまだ足りませんが、文章の流れを考えて書くことは出来ています。時々意味が繋がっていないことがあるので、そこだけ注意を。

    ギャグシーンでは、大仰な言い回しや気持ちのいい文章テンポ、リズムを求められます。ギャグセンス自体は文章力ではありませんが、文章力なしにはギャグが生まれない面も小説にはあるので、ギャグテイストの作品を書くには、普通のラノベより語彙や表現力を鍛えておく必要があります。

    アクションシーンの書き方の練習もしておくといいと思います。
    オーバーな動きはギャグの幅を広げますし、もちろんバトルを書く際にも役に立ちます。異世界転生でも重宝するはずです。

    ・内容について

    はっきり言いますが、全然面白くないです。

    まず、本作はシリアスなのかギャグなのかの線引きが明確ではありません。

    序盤の主人公の独白はギャグ寄りでしたし、行動も常識外れなので、無軌道な主人公によるギャグものかと思い読んでいましたが、後半はシャレで済まない展開になり、むしろギャグの方がよかったと思うようなオチによって人生を終わらせます。感情移入しようがなく、転生と言われても「好きにして」という気分になりました。

    逆にこの小説がギャグではなく、ギャグテイストの普通の話だと考えれば、ストーリー展開が適当過ぎてついていけません。
    親友の彼女に誘われ、さして悩みもせずホイホイついていき、特に理由もなく彼女に薬を盛られ、ご都合主義に彼氏が登場して刺されて死ぬ。ギャグの方がまだましですね。

    作者がどちらを想定して書いているのか。
    これは私の推測ですが、多分「何も考えていない」のではと。
    その時その時で面白くなりそうなことをただ並べてるだけ、と見ましたがどうでしょう。

    高校生に全体の構成を考えて書けとまではいいませんが、せめて「どういうノリの作品にするか」を考え、それを忘れないようにしながら書きましょう。でないと明後日の方向に話が向かい、読者がついていけません。一話でさえこれなんですから。

    以下、読みながら感じた問題点と改善策をざっくりと。

    >ギャグがつまらない

    ギャグにも好みはありますし、「こうすれば絶対面白い」とは断言できません。私もギャグが得意というほどではありませんし。

    ですが、ここまで面白くないと、言わずにはいられません。
    ほぼほぼ全て滑ってると言っていいです。バタフライのとこだけですね、褒められたのは。

    理由は色々ありますが、とりあえず読めるようにする方法は「ツッコミを入れる」ですね。
    この作品にはツッコミがいません。ボケっぱなしです。
    というかまともな人間がいないので、話はぐちゃぐちゃになるし、ギャグも狙ってるのか天然なのかわからない。笑えない一因です。

    ツッコミ役を作るには、まともなキャラが必要です。
    別に完全にまともである必要はなく、部分部分でまともになり、ツッコミとボケを交代し合うというやり方もあります。ともあれ、誰かが徹底的に突っ込めば、少しは読めるようになるはず。
    もしそれが出来ないなら、そもそも小説を書く以前の問題です。

    >主人公の設定について

    「熱しやすく冷めやすい」という設定自体はよくある性格設定ではありますが、これを極端に徹底すれば、案外個性的なキャラを生み出せる気がします。

    例えば「待ち合わせに二時間前に来る」という場面がありますが、これを「熱しやすく冷めやすい」に沿ってギャグにするなら、「二時間前に待ち合わせ場所に来たが、待つのに飽きて遊びに行き、遅刻するい」みたいな、一周回ってしまう行動にできるかと。

    童貞なのは「ことに至る前につきあいに冷める」ため。
    テストも「初日の教科は高得点だが、後の教科は赤点」とか。

    個性付けに色々考えられると思いません?

    >親友について
    感想でも書きましたが、親友感はゼロですね。
    NTR(寝取られとルビ振った方が親切)についても、主人公が飽きたというだけで、やりとりが無茶苦茶ですし。

    あそこは
    「親友が好きなNTRを主人公に教える。
     熱しやすい主人公は親友以上にハマるがすぐ冷めてしまう。
     親友は落胆するが、主人公の性格を知っているので気にしない」

    くらいがいいと思いますね。

    そういえば、親友のNTR好き設定は、主人公が誘惑された際の言い訳に使えると思っていました。
    「あいつはNTR好きだから、むしろ喜ぶのでは?」みたいな。
    ギャグテイストなら、これくらいのノリでもいけるかと。

    >愛莉の設定
    とにかく雑の一言です。
    主人公との関係が全く説明されておらず、しかも不貞行為に及ぶので、完全に理解不能のモンスターに見えます。せめて行動に至るロジックというか理由付けをして、読者に提示すべきです。「最近親友と上手くいってない」とか「ずっと前から好きだった」とか。

    >転生について
    あらすじなどから何となく、「軽薄なオレだが転生後はまともな人生を」みたいな展開だと思われます。

    うーん。正直、今のところ面白くなる気がしません。
    転生後に性格を変えてしまうなら、前世であるこの一話はまるまる無意味になります。「クソみたいなキャラの改心」で興味を惹けるという計算かもですが、善人になるだけでは、さしたる売りはありませんし。長所を残した上で何を改善するか、を明確にしておく必要があるでしょう。

    引きの弱さについては、「主人公がどう変わる(変わりたい)のか」を、一話のラストで提示することで、解決できるはずです。
    ここで「面白くなりそう」な変化を出せるかが勝負どころでしょう。
    読者に期待させ、話の続きを読ませるアイデアが求められます。

    私なら、そうですねえ。
    さっき書いた「極端に熱しやすく冷めやすい」性格をキープしたまま、「女に弱い」という軽薄さを後悔し、克服しようと決めて転生する……みたいな展開にしますかね。
    熱しやすさ故に色仕掛けに弱く、冷める前にピンチに陥った結果、死んだわけですから。一応整合性はあるはずです。


    ⬜️総評
    ・ギャグとしてはつまらなく、シリアスとしては雑。
    ・「熱しやすく冷めやすい」性格は、突き詰めればアリ。
    ・ギャグにはツッコミを。関係には説明を。

    あくまで転生前の一話目なので全体の評価は出来ませんが、まあこのままだったら、私は確実に読まないでしょうね。

    まずは作者の中でしっかりジャンルを設定してください。似たような傾向の漫画やラノベを基準にしても構いません。その上で読者にできるだけ早く、こういうジャンルだと伝えるようにすれば、かなり読みやすくはなるはずです。


  • 【19】怪物(六花ヒカネ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330654639185690


    九月の延長戦に入りました、じっくり感想企画です。
    八月末で応募者も十八人に留まり、それ以上の参加もなさそうだったので、ひとまず終了宣言をしちゃいましたが、そこに滑り込みでニューチャレンジャーが現れました。もちろん大歓迎です。

    そういうことで十九回目。六花ヒカネさんの「怪物」です。
    ジャンルは現代ファンタジー。
    一話ごとに主人公の変わる短編集のようです。

    そんな六花さんのアンケート回答はこちら。


    初めまして。六花ヒカネと申します。
    感想をいただきたく参加を申請しました。
    短編集「怪物」(現在短編2本のみ、合計7965文字)での参加となりますが大丈夫でしょうか。
    ・特に意見が欲しい部分。
     特にありません。
    ・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
     いただきたいです。

    以上となります。よろしくお願いいたします。


    ふむふむ。特に注文はなしと。
    バトル大好きな私にとっては、どストライクなジャンルです。
    その分、見る目も厳しくなりそうですが、より深くアドバイスができるとも言えるわけで。
    まずはどういう方向性の、どんな物語か見ていきましょうか。

    じっくり感想、始めます。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。

    >Case.赤島瞬二
    視点の主格がサブタイトルにあるのはわかりやすいですね。
    「Case1.赤島瞬二」とナンバーを振る方が主流な気もしますが、まあ同じ人が出ないなら必須ではないかも。

    >あー、突然話しかけてごめんな。
    ここの自己紹介は段落を変えたほうが自然です。

    >ほい、お待たせ。……え? オレがなんでラボに入ったか?

    展開がちょっと強引に感じます。
    先に「赤島がそばにいて、一緒にコーヒーを飲む」という状況の説明があった方がいいかと。例えば「俺も飲みたかったから」などと添えれば、赤島もコーヒータイムを取り、それで話を振ったんだと伝わります。

    >それからバイトの現場まで行くために、普段は通らない近道の路地裏に入って——それがいけなかった。

    悪夢を見て早起きしたのが、近道をする理由になっていないのが気になります。普通は「遅れそうなので近道する」ものでは。
    悪夢を見る必要性は(先の伏線かもなので)わかりませんが、もし外せないなら、「早く起きたあと二度寝してしまい、バイトに遅刻しかけた」などの説明のほうが理解しやすいはず。

    >硬そうな毛に覆われた、毛むくじゃらの人型。一番近いのは、写真とかでしか見たことないけどヒグマとかかな。あれよりも毛が長い、犬で言うと長毛種か? 体毛の隙間から見える目が爛々と光ってて、生温かそうな息をゆーっくり吐いては吸ってを繰り返している。

    適量ですが、欲しい情報に欠けます。
    この場面で読者がまず欲しいのは「危険かどうか」「どう危険なのか」です。
    そこから見て足りないのは、サイズ(体高)と爪の描写ですね。「ヒグマのような」では大きさのことかわかりません。爪も後から説明が出ますが、ここで描写した方がインパクトがあります。

    >いやー死んだと思ったね。
    >だって明らかにやばい。

    正直、今の説明では、そこまで怖くありません。

    >このままじゃ絶対に死ぬ。そう思って、一か八かその毛むくじゃらの横をすり抜けた。

    意外性より違和感の方が先に立ちます。
    ヒグマと出くわして、脇を抜けようとする人間は普通いないかと。その先すぐに避難先があるとかならわかりますが。

    引き返すと道に迷う展開にならないという問題は、「気が動転して戻り道を間違えた」で解決できると思います。

    >たしか角を右に曲がった後、その先が袋小路だったんだ。

    動転から道を間違えたものと察せますが、説明が欲しいところ。バイト先に向かうと明言してましたしね。

    >あれは危なかった。もう少し深ければ首を斬られてた。

    「斬る」は武器や刃物に用いる表現なので、熊の爪だとやや違和感があります。かと言って「切る」も迫力不足なので、「首が飛んでいた」とかどうでしょう。

    >後ろには壁、目の前には毛むくじゃら。

    進行方向的には前後が逆に思います。
    それか、赤島が振り向く描写を入れるかですね。

    >きっとあの毛むくじゃらの爪。

    こう書くと爪が毛むくじゃらみたいに見えます。

    >あの黄ばんで、なにかがこびりついた爪で

    ここは汚れより、尖さや威力の描写が欲しいところ。

    >そう、黄鷺先輩! 
    黒一色なのに名前は黄色なんですね。謎。
    赤島は炎の剣なので、余計そう思います。

    >毛むくじゃらはいとも簡単に吹っ飛んで袋小路の壁に衝突して、ぐったりと倒れた。

    ちょっとバトルあっさりすぎる気はしますかね。
    叫刀についての設定を、一つくらいチラ見させてもいい感じ。

    >ぐったりと倒れ込んだ毛むくじゃらを、なにかでかい容器に詰めて持っていった。

    人間より大きいだろう怪物を詰められるサイズの容器が出てくるのは違和感があります。小型車くらいありそうなので、「運搬車」とかの方が。人間大なら担架とか遺体袋なんてのも考えられます。

    >途中で冷静になって、これって誘拐? 拉致? って思ったけど

    ここら辺の「普通の感覚」はよく書けています。

    >「叫刀きょうとうが騒ぎ出しました」

    叫刀と黙士。具体的な内容は不明ですが、抑えの効いたネーミングで悪くないと思います。
    若干地味ではあるので、設定や活躍で覆して欲しいところ。

    >「私があなたに接触してからのようです。このことから我々はあなたが、新たな黙士もくしである可能性が高いと考えています」

    設定が開示されていないので確定は出来ませんが、いまいち説得力を感じません。

    「黙士」だとわかるのはいいんです。互いに黙士なので。
    感覚的に通じるものがあるんだろう、とか想像できます。
    でも特定の「叫刀」が、直接接触すらしていないのに叫び出すのは違和感を覚えます。どうやって赤島のことを知ったの?となります。後述。

    >わからないことだらけで、今までの日常には戻れないと思った。

    ここは「予感がした」の方が適切な気がします。

    >久我さんは当時からやっぱり威圧感があってさ。学校の厳しい先生みたいだなって思った。

    一言で人物像が浮かんで、いい描写だと思います。

    >「叫刀がうるさくてかなわない。さっさと黙らせてくれ。

    ドラマティックな展開。ナイスですね。

    >とんでもない絶叫で満たされてた。
    ちょっと口語から離れすぎ。小説ぽくなっています。
    「とんでもない絶叫で耳が痛くなった」

    >一般的にイメージされる日本刀と、ほとんど変わらない見た目をしてた。けど、わかるかな、刀の柄、鍔、鞘にかけて、銀色の小さい機械で覆われてたんだ。

    「見た目」じゃなくて「形」ですね。
    見た目はどう見ても変わってますから。

    >じいっと見て、多分「握って」と言ってるんだと思った。刀の方指差してたし。

    ここは「握る」というジェスチャーの方がいいかと。
    指さして「握れ」だとは思えませんから。

    >絶叫はまだ続いてた。あんなの、人間の肺活量じゃ無理だと思う。

    耳から手を離したので、その驚きと苦痛の描写が欲しいところ。

    > 黄鷺先輩が呟いたのが、声の止んだ部屋にやけに大きく響いたのを覚えてる。

    場面の締めくくりとして、なかなかのセンスだと。

    >灼赫
    炎系の刀なんだな、とわかりやすいネーミングで好感。

    >久我さんからスイカ食べる擬音みたいな言葉が出てくると

    これ自体は面白いネタですが、いじるのが長すぎに思います。
    もっと短く流した方が効果的なはず。

    >「叫びが止まったなら君は黙士で間違いないだろう。——怪物が出た。仕事をしてもらう」

    急展開ですが、まあテンポ考えればアリかな。

    >どうも叫刀が叫ぶと、怪物が寄ってくる……らしいんだ。

    ちゃんと説明がされてるのはグッド。

    >オレも研修とか欲しかった。

    ここら辺、読者の疑問に応えてる感じでいいですね。

    > 黄鷺先輩から、
    >「叫刀は誰でも扱えるものではありません。まず選ばれなければなりませんから。しかし、あなたは黙士として選ばれたのですから大丈夫でしょう」
    > って、励まされたけど。オレパンピーだったんだけど。

    言いたいことはわかりますが、文章のつなぎはイマイチ。
    私なら、

    「オレパンピーだったんだけど、黄鷺先輩から、
     「叫刀は誰でも扱えるものではありません。まず選ばれなければなりませんから。しかし、あなたは黙士として選ばれたのですから大丈夫でしょう」
     って、励まされてさ」

    >連れてこられたのは郊外の森みたいなところで

    ラボがどこにあるのか書かれていませんが、多分東京のどこかなんだろうと想像されます。
    なので「怪物が寄ってくる」のに「郊外の森」というのは違和感を感じます。もっと都会にある無人の場所でいいのでは。

    >ともかく爬虫類もどきはゆっくりとこっちに顔を向けて、低く唸り始めたんだ。姿勢もどんどん低くなって、まさに臨戦態勢って感じ。怖かった。

    これだけ読むと犬みたいな反応ですが、二足で立ってるのか四つ足なのか気になります。

    >その怪物は黄鷺先輩には目もくれず、オレめがけて襲ってきた!

    これだけアクションを書くなら、「どう襲ってきたか」も具体的に書いた方がいいかと。攻撃方法が見えないとピンチが伝わらないので。

    >そいつはそのまま転びそうになりながらもこっちを向いて、

    文頭1マス下げを忘れています。

    >「当然です。叫刀には通常ロックがかかっています。解除した状態でなければ抜けませんよ」

    先輩、天然なの?

    >「あのすいませんやばいんで! 刀を抜けるようにしてください! パパっと! このままだと死ぬんで! お願いしますほんっとに!」

    ちょっと面白い。初めてだとこうなりそう。

    >何せ素人だったから、かっこよく居合! みたいなことはできなかった。

    ここら辺もリアリティがあっていいですね。

    >間合が届かなかったんだ……!
    「間合いが遠かった」か「刀が届かなかった」かと。

    >そしたら、すごいな叫刀・灼赫。こいつ火ぃ吹くんだよ文字通り。

    まあ想像通りの能力。
    捻りがないので、欲を言えば想像以上が欲しいところ。

    >締まらないしかっこよくもない初仕事を終えて、オレはラボに所属することになったんだ。

    バトル自体はさして盛り上がりませんが、まあ一人称だし初仕事なので、こんなものでしょう。
    ベテランである黄鷺との違いに触れるのもいいかも。

    >最初は慣れないと思うぜ

    ここから続く段落を、最後に持ってきた方が綺麗に締まると思います。隊員が研修に向かうなら、何でも繋げられますし。

    >怪物なんてそうそう見るもんじゃないし、見たとしても危ない目にも合うし。

    記憶を消されるので、怪物を見た者はほぼいないのでは?

    >……ところでこれはちょっと素朴な疑問なんだけど

    話の流れ的にやや唐突感。
    倒した怪物の回収場面から繋いだ方がスムーズですかね。

    >防護服の人たちが色々撤収しに来てるけどさ。

    「撤収」は意味合い的に変です。
    「片付け」「後始末」などの方が。

    >回収できると判断された怪物はそのまま研究所にまわされるらしいじゃん? 結局、それ以外ってどうしてるんだろうな。

    むしろ回収された怪物がどうなってるのかの方が気になりますね。
    一話目に謎を含んで終わるのは引きとしていいと思います。


    >Case.永山和樹

    >玄関を開けた先
    玄関を開けてすぐ見えるのは普通玄関なので、この後テーブルが出てきて混乱します。仮にワンルームなら、最初に描写すべきです。

    >赤の海に座り込んでいる

    後に「赤い水溜まり」とあるので、海は比喩として大きすぎます。
    私なら「赤い池」くらいに留めます。

    >永山和樹ながやまかずきは衝撃を受けた。

    あれ、この話は三人称なんですね。
    てっきり一人称の視点変更形式だと思っていました。

    >赤に座り込んだまま、理由を探している。
    ここは「言い訳を」の方が。

    >放っておいたら警察が来るかもしれない。その場合、真っ先に疑われるのは彼女だ。和樹の心は決まっていた。

    彼女が怪物と知っているかどうかで反応が違う場面ですよね。
    この感じだと、知ってると読めます。
    普通はまず「彼女が殺したのか?」と思うところですから。

    >「逃げよう」
    冷静に考えると、逃げた方が不味そうなものです。
    死体を隠匿した方が確実のような。
    まあ咄嗟に逃げてしまうのはわからなくもないですが。

    >彼女の手を取った時はじめて、赤い水が血液だと気づいた。

    ここは流石に無理があります。目の前に死体(明言されてませんが)が、それも真っ赤に染まったのがあるんですから。
    ましてや彼女の正体を知っているなら、何が起こったのかわかっているはず。血を連想しないわけがありません。

    >けれどそれは、手を離す理由にはならなかった。

    この繋ぎは綺麗ですが、血とわかっていても使えるはずです。

    >もっと丈が長ければ、彼女の服に染み込んだ血の赤も隠せたのに、と和樹は思う。

    むしろ着替えて出て来なかったのが驚きです。
    そろいのマグカップは同棲していたと読めるので、着替えくらいありますよね? 逃げるにしても準備くらいはするものかと。

    >「そうそう、スマホ。忘れてったよ」
    >「あ、ありがとう……」
    > 当初の目的だったスマートフォンを彼女に渡した。

    ここの文意がよくわかりません。
    後から家を出た主人公が、彼女の忘れたスマホを発見し、手渡したとも読めますが、「当初の目的」が意味不明です。ジャケットを着せるにかかっているんですかね?

    ここまでしてスマホを話に出す目的も謎です。
    この後、スマホが話に絡みもしませんし。

    特段の意味合いがないなら、この部分は丸ごと削っていいくらいです。

    >じわじわと包囲網が狭まって行くような予感がした。

    ここは「予感」より「感覚」の方が。

    「じわじわと包囲網が狭まって行く感覚があった。」

    >肩を押されたのだと理解し、何とか腕で体を支えて、肩を押した張本人である彼女を見上げた。

    肩を押されて「倒れた」と書かれていないので、「肩を押されただけ」に読めます。「見上げた」でそれとわかりますが、読者の理解が遅れ引っ掛かります。

    男性が女性に肩を押された程度ではまず倒れないので、ここは「突き飛ばされた」とした方がわかりやすいです。「倒れた」ことも体を支える部分で明言すべきです。

    >足音に混じって何かが擦れ合う音が聞こえる。

    これは意味が分かりません。何が擦れる音?

    >いつかのドラマで見たような装備の人々は

    不特定のドラマ基準だと流石にイメージが広すぎるので、ここは特定すべきかと。「ドラマで見た機動隊のような」とか。

    >ダン、と音が鳴る。それが銃声だと気づいたのは彼女の額に穴が空いた時だ。
    >ぐらついた体はしかし倒れず、和樹越しに撃った相手である機動部隊の隊員を睨みつけた。

    男の背中越しに、寄りそう女を撃つとか、普通は誤射を恐れてやりません。まして専門職の人間が。非現実的です。

    せめて位置関係を「機動隊>男>女」ではなく、「機動隊>女>男」にすべきです。

    >額の穴からは一筋の血が流れて、その白い顔を汚した。

    ここはもうちょい雰囲気を作れそう。

    >彼女は立ち上がり、機動部隊へと肉薄する。

    「肉薄」はすぐ近くまで接近するイメージです。
    想定距離にもよりますが、まず距離を詰めた上で、「肉薄する」とした方が想像しやすいかなと。あるいは高速移動の描写をした上で「肉薄する」とするかですね。

    >「――虚絡こらく」

    刀の名前なのか、技名なのか気になります。

    >男が鍵を回すかのように手首を捻り、刃の向きが水平から垂直へと変わる。

    描写はかっこいいですが、回す意味は不明ですね。
    刃の向きは上なのか下なのかが気になるところ。
    剣筋の描写がないので、バトル好きとしては想像のヒントとして欲しいところ。

    >彼女の体が、三つに分割されて落ちた。

    ここも、どう分割されたかの説明が欲しいところ。
    理由は上に同じです。
    「どう斬ったか」を書かないのは正解ですが、「どう斬ったか」を想像させるヒントは大事ってことです。

    >一瞬、鋭い光が奔ったように見えた。
    >「あ、」
    >和樹は一拍、理解が遅れた。あまりにも現実離れしていたからだ。
    >彼女の体が、三つに分割されて落ちた。

    悪くないバトル描写ですが、速度を求めるならまだ速くできます。
    今でも十分考えられていますが、徹底するなら、こうです。

    「鋭い光が奔り、彼女の体が三つに分割された。
     「あ」
     和樹は一拍、理解が遅れた。あまりにも現実離れしていたからだ。」

    ・「結果を先に書く」と、スピード感が増す。
    ・「落ちる」より割れた瞬間のみ書く方がインパクトがある。
     書かずとも「落ちる」のは想像できる。
    ・「理解が後から追いつく」意味でも、結果を先にした方がよい。

    >血が広がって、和樹の手前まで来た。

    銃を撃つ距離なので、そこそこ離れてますよね。
    なら、血が川のように流れて来る表現の方がいいのでは。
    その血が、主人公の膝や床に着いた手に辿り着く感じにしたら、何かしら情緒的な暗喩にできそうな気もします。

    >やっぱり、赤い血と色白の彼女のコントラストは美しかった。彼女に命が亡ないこと以外は。

    いやあ、流石にこの場面を詩的に飾るのは逆効果でしょう。
    男の悲しみまで薄いように感じられます。
    むしろ「コントラストなんて目に入らなかった」くらいの方が、気持ちを表現できるのではないでしょうか。

    >「永山和樹。君を保護しにきた」

    ううむ。怪物の追跡どころか名前まで。
    これを非現実的と取るか、超調査力と見るべきかは悩ましいところ。

    >和樹は赤に手をつく。はじいた赤が頬に付着した。

    この表現はいいですね!

    >「僕が食べられたって良かったのに」

    むしろなんで、ここまで和樹が食べられずに済んで来たかの方が気になりますね。この緊急事態下で我慢できないほどの食欲なのに。

    その辺り含めて、ちょっと同情の気持ちは薄いです。

    > 僕は何を忘れているんだろう。

    ここは変です。
    本当に忘れてる人間は、「忘れている」ことを認識できません。
    せいぜい「何か忘れているような気がする」かと。

    >コーヒーを一口飲む。舌に触れたその味は、いつもと変わらず苦かった。

    忘却に対する不安とかすかな気付きの暗喩なら、「変わらず苦い」よりも「いつもと同じはずなのに、やけに苦い」方が適切という気がします。


  • 【19】怪物(六花ヒカネ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330654639185690


    ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    イマイチですね。あまりに平凡すぎる。
    とくに怪物に焦点を当てた内容とも感じられません。
    設定もよくあるやつですし。

    叫刀や黙士の方がオリジナリティがあるので、そっちに寄せたタイトルの方が内容的にも合っているという気がします。


    ・文章について
    おおむね悪くはない感じです。
    時々引っ掛かる点はありますが、ほぼ無理なく読めました。誤字脱字もほぼありませんでしたし。

    映像的な文章表現の試みも、あちこちに見て取れます。すべて成功してるわけではないですが、何も考えず書いている人に比べれば、一歩前に出ている印象です。

    とくにシーンを締めくくる最後の一文にこだわりが感じられ、高く評価します。私も同じタイプなので、そのセンスは伸ばして欲しいところです。

    その上で、さらに希望するなら、表現をより豊かにすることですかね。
    一人称ということもありますが、どうさても全体的に平坦で、起伏に欠けます。一話だと赤島の感情の起伏や怪物の描写など。

    語彙を増やし、凝った言い回しや独特の視点を模索してみましょう。同じ場面でも切りとり方次第で、様々な演出が可能です。

    基本は出来ているので、指摘した穴に気をつけつつ、色々試してみる段階ではないでしようか。読者視点でチェックしながら、試行錯誤してみてきださい。


    ・内容について
    オムニバスなので、まずは個別に書きましょう。

    >Case.赤島瞬二
    主人公は黙士になったばかりの若者で、同じく新米の隊員との会話で、黙士になった過去を語るという展開ですね。
    これ自体はわかりやすく、何も知らない読者に近い目線で説明できるので、悪くないと思います。

    主人公である赤島も、平凡ながら元気がよく、読者の代理人として問題ないキャラだと思います。読者の浮かべる疑問点にも高確率で応えていますし、物語のナビゲイターをしっかり務めているかと。説明がわかりやすく好感が持てるという時点で、十分に合格です。

    話の展開はいかにもよくある、捻りの足りないものですが、まあ一話目はシンプルな方がいいかも。
    それより叫刀や黙士など、オリジナル要素の説明がほとんどないことの方が気になります。ここはかなりの肝なので、序盤にヒントを散りばめ、期待感を煽るべきです。まあここは後述しましょうか。

    読みながら気になった点を、個別に書いていきます。

    >黄鷺の名前について
    戦隊もの然り、キャラものでは名前と特徴は連想しやすい方が基本的にはいいです。赤島が炎の剣というのがわかりやすい例ですよね。

    ですが黄鷺は全身黒ずくめで、今のところ黄色との関連性は感じられません。
    まあ絶対リンクさせるべきというルールもないのですが、では彼女のキャラに名前が合ってるかと言えば、正直、あまり馴染んでる気もしません。

    もしか未使用だった叫刀の特性に合わせてるかもですが、むしろ一話目でこそ、その片鱗を見せてもいい気がします。

    >叫刀と黙士
    ネーミングは好きな部類です。
    これで名前と能力が繋がり、さらにはテーマまで深掘りされていけば文句なしと言うところ。ただ、二話時点まで見た限り、その兆しが見えないのが気になります。

    叫刀は、黙士選びに叫ぶシーンがあるくらいで、バトルでは特に叫ぶ
    感じがありません。炎の刀とか、よくある奴です。

    黙士に至っては、今のところ完全に名前だけです。
    ここら辺、一話がなりたてのキャラなのですから、障りだけでも見せて欲しいところ。現時点では、「平凡な能力もの」の範疇なので。

    例えば、そうですねえ。
    叫刀は叫びのような黙士の「思い」を具現化するとか。そのために使用者の感情を食いつぶしていくとか。

    黙士の方は、抜刀中は声を奪われ、言葉を話すことが出来なくなる。まるで刀の奴隷のようになってしまうので、厳重にロックがかけられ、時間制限で強制納刀される仕組みになってる、とか。

    まあこれは私が今適当に考えたもので、六花さんにもまだ見せていない、独自のアイデアがあるのだろうとは思いますが。

    いずれにせよ、一話目に期待感を押し出すのは重要です。隠し過ぎると、真実が明らかになる前に読むのを止められる可能性があります。

    読者は面白くなるまで待ってはくれないと考えておくべきです。読んでもらえたタイミングで、最大限に琴線を刺激するのが最重要。少なくとも私はそう考えています。

    >「私があなたに接触してからのようです。このことから我々はあなたが、新たな黙士もくしである可能性が高いと考えています」

    設定が開示されていないので確定は出来ませんが、いまいち説得力を感じません。

    「黙士」だとわかるのはいいんです。互いに黙士なので。感覚的に通じるものがあるんだろう、とか想像できます。
    でも特定の「叫刀」が、直接接触すらしていないのに叫び出すのは変です。どうやって赤島のことを知ったの?となります。

    条件が合う相手と接触するたびに叫ぶんでしょうか。黙士になりたがらない人間の方が多そうですし、記憶は消せても叫ぶ刀は黙らないんでは?と思うんですが。あくまで想像ですが、色々問題が多そうな設定です。

    ここら辺、しっかり設定があるならそうとわかるよう開示した方がいいです。全部でなくてもそれとわかる程度は。

    私なら、判別できるのは「黙士の才能があるか」までにします。例えば「黄鷺の叫刀が震え始めた」とかで。
    そして赤島が研究所に呼ばれてから叫刀が叫び出し、灼赫に選ばれる、という展開の方がスムーズに読めるかな、と。

    >怪物について
    タイトルにもなっている割に、怪物の描写に熱を感じられません。デザインも適当な感じです。
    毛むくじゃらの方はもはやデカい犬くらいの印象で、まるで怖くないですし、爬虫類の方もデザインが多少違うかなくらいです。序盤のやられ役とはいえ、怪物に焦点を当てる予定ならおろそかにすべきではありません。ガンダムで言うザクを目指して、アイデアを投じるべきかと。

    例えば個性付けの基本として、攻撃方法を変える手法が考えられます。対する主役のアクションも変化し、読者を飽きさせない工夫です。或いは二匹登場させず、一匹目が叫刀との共鳴で檻から逃げ出し、赤島と再戦闘させるという展開もありでしょう。これなら毛むくじゃらを造り込むだけで済みますし、一度目は逃げるしかなかった相手へのリベンジということで、燃える展開と言えます。


    >Case.永山和樹
    さて、二話目の方ですが、こちらは一話より私の評価は低いですね。

    内容的には謎めいた少女をかくまい、心を通わせた男の逃避行とその末路、という感じですが、とにかく主人公たち気持ちが舌足らずで伝わってきません。せめて二人が出逢った経緯と過ごした時間について、ダイジェストでいいので回想が欲しいところ。疑問の大部分は氷解するはずです。回想に抵抗があるなら、疑問に応じるヒントを随所に散りばめる必要があるでしょう。

    とくに「なぜ少女はいままで主人公を襲わなかったのか」「少女が人を殺したのはこれが初めてか」「人食いと知っての上で暮らしていたのか」などは、明言はされずともそれとわかるヒントを読者に与えなければ、読後にすっきりできないと思います。

    あと、一話と二話で、怪物としての共通点がまるで見当たらない点も気になります。
    怪物がタイトルでテーマとするなら、何かしらデザインや特性に同一性、方向性を与えていくものです。でなければテーマを表現できないので。
    もちろんまだ話は序盤で、これから出てくるのかも知れませんが、三体のデザインや特徴に共通点を設けることで、伏線とすることは可能だし、重要かなと。少女は倒す前後に本性を現すとかにすればいいですし。

    一応、あらすじには「人食いの怪物」とあったので、これがテーマかなとも考えたのですが、一話目にはヒトコトも語られてなかったし……もしそうなら一話に加えるべき要素ですね。

    締めくくりの書き方は、こちらでもよかったと思います。コーヒーは指摘しましたが、雰囲気という意味での方向性は間違ってませんし。


    ⬜️総評
    ・文章は中程度。締めくくりのセンスが光る。
    ・内容は平凡。命名に設定が追いついていない。
    ・序盤にこそ面白さを詰め込み、期待させるのが大事。

    文章より内容が問題という、珍しいパターンです。もう少し捻りを入れたり、変化球を投げることを考えていいかもしれません。

    オムニバスですが、内容的にはどれも不完全燃焼な部分があります。基本的な設定が開示されていないので、それがわかるまでは評価のしようがないというか。そういう意味では、二作とも独立した短編としては物足りません。

    短編集というからには、それぞれの物語を過不足なく完結させ、その上で残った謎をリレーさせるべきです。
    一話目で叫刀について、二話目で怪物について、三話で黙士について、基本的な情報は全て出すくらいがちょうどいいかと。その上でテーマの深奥に一歩づつ迫るような感じが合うのではないか、と思いました。

  • 【20】月光(春野カスミ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330662883428561


    九月に入っても、ぼちぼち参加者が来られます。
    なんだかんだで二十回目の作品は、春野カスミさんの「月光」。

    ジャンルは現代ドラマ。ピアノにまつわる、かなり重い話ですね。
    高校生で重い話を書かれるのは珍しい気もしますが、どこにでもありそうな作品よりはチャレンジが感じられて好ましいです。ちょい前に神について書いてた高校生もいましたし。

    ただ、テーマが重い作品だと、どうしても年齢的に不利になる点は否めません。壮絶な生涯とかなら別ですが、普通はどうしても人生経験が足りてないものですから。

    とはいえ、高校生には高校生の武器があります。大人になると失われがちな感性、若さ故の大胆さや意外性とかですね。冒険しすぎると失敗するので、武器とするには矛盾があるんですが、要は冒険した後、おかしなことを書きすぎていないか再確認すればいいんじゃないかと。まだ未熟な自分自身を疑い、何度でも振り返るという意識が、良作とトンデモを分ける気がします。
    あくまで何作か高校生作品を読んだ私の見解であり、年齢に関係なく自戒すべき話とも思いますがね。

    おっと、春野さんのアンケート回答はこんな感じです。


    梶野様、初めまして。春野カスミと申します。
    ぜひ、私の拙作を評価していただけないでしょうか。辛口OKです。激辛希望です。カクヨム甲子園に応募する作品、批評をいただけるとありがたいです。
    お願いしたい作品はこちらになります。
    「月光」
    https://kakuyomu.jp/works/16817330662883428561

    特に意見が欲しい部分。
     推敲できる箇所があれば教えてほしいです。
    アドバイス。
     完全にそっくりそのまま移すわけにはいきませんが、参考程度にお聞きしたいなと思います。

    以上です。依頼内容は過不足ないでしょうか…?
    あ、字数は6000字ほどです。
    よろしくお願いします🙇

    ありがとうございます! よろしくお願いします🙇
    はい! ぜひ激辛な批評をお願いします。
    アドバイスの件は、コメントをいただいた上で、「例示は不要、アドバイスだけ」という形でお願いさせていただければと思います。
    よろしくお願いします!


    アドバイスは欲しいが例示は不要。
    それで激辛希望ですね。熱心で大変よろしいかと。
    まあ私は高校生だからと言って指摘の内容は変えていたりしません。
    文章力の低さを許容したりはしますが、後は言い回しを丁寧にしてるくらいです。正直な内容を書いてるのは同じなので、そこはお気になさらず。

    ちなみに私、音楽の素養はゼロに等しいので、音楽ネタの突っ込みはほぼ出来ません。一応前知識くらいは調べますし、素人なりの疑問は呈するかもですが、その前提の意見だと考えて頂ければ。

    それではじっくり感想、始めたいと思います。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。

    >短調のはずなのに、その旋律にはどこか希望を感じた。

    音楽に疎いので調べましたが、短調は暗い曲になるんですね。
    知りませんでした。

    >ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2 『幻想曲風ソナタ』、通称“月光”。

    ここは「第一楽章」限定なので、そう追加したほうが。
    第二第三は短調じゃありませんし。
    ちなみにこれ書く間、BGMは第一楽章にしてました。

    >だけど僕は、その時はじめて、他人の弾くピアノに魅せられたのだ。

    コンクールに出るレベルの子供が、「ピアノに魅せられたことがない」のは多少違和感があります。大抵は誰かしらのピアノに魅せられて始める気がしますし、練習段階でも名曲に触れるものだと。

    >音粒ははっきりしているのに、どこまでも繊細で、それでいて鮮烈な、光の中にいるような。

    なかなかよい表現。

    >“月光”は短調の曲のはずなのに、彼女のピアノは、どうしてこんなにも、軽やかな音を放つのだろう。

    これはコンクール的にはどうなんでしょうね。異色扱いされそうな。
    二人の成績が散々だったのはここに起因したとか? その辺りの説明が聞きたいところです。主人公的には絶賛なのに、審査員には受けなかった理由を。

    あと、この彼女のオリジナリティが、月光に限られたものかどうかも気になります。曲は月光だけではないので、このスタイルが合致する曲も当然あるでしょうから。

    >他の演奏者たちは、疎ましそうな視線を向けるだけだった。

    これは主人公にですかね。それとも彼女に対して?
    意味合いが違ってくるのでわかるように書いたほうがいいかも。

    >彼女は皮肉じみた発言をした。別に構わない。
    一人称としては固い言い回し。
    全体的に主人公の口調が固いですかね。

    >私は今日のコンクールに懸けてるの。

    「懸ける」に違和感を覚えて調べてみましたが、なかなか判断が難しいですね。
    一般的には「賭ける」が用いられますが、「懸ける」も間違いではありません。むしろ新聞の校閲サイトでは「人生をかける」はこちらが正しいとする説もあったりで、その意味合いならこちらの方が正しいようにも思います。

    ただ、この物語の展開から「今日のコンクールに人生を懸けてる」という感じは、はっきり言って伝わりません。普通に考えてコンクールは他にもありますし、まだ高校生ですから。

    まあここら辺は後述するとして、私は「賭ける」を推しておきます。読者に違和感を覚えさせないために。

    >「私は今日のコンクールに懸けてるの。他の参加者だって、少なからず似たような思い入れを抱いているはず。私の演奏を褒めるのは結構だけど、まずは自分の演奏に集中すべきじゃない?」

    演奏前の緊張からピリピリしてるのかと一読目は思いましたが、よく考えたら演奏後ですねこれ。

    >「ちゃんと、聞いてるからね」
    この二人の関係性が、いまいち読み取れません。

    ・二人は小学三年生から知り合い。
    ・彼女の月光は光のよう。
    ・主人公は彼女の音も彼女自身も好き。
    ・彼女はこのコンクールにかけている。

    ここまでが確定情報で、台詞から読み取れるのは、

    ・主人公は思ったことを口にするタイプ。
    ・それがへらへらして緊張感がないと彼女に思われている。
    ・彼女の口ぶりは厳しめ。
    ・彼女も彼を意識している。どういう意識かは不明。

    ここの「彼女の意識」が読み取れない感じ。
    明言する必要はないですが、もうちょっと二人の関係性を示唆するヒントが欲しいところ。全てを一話目に入れる必要はないですが、それが感じ取れる台詞の方が続きを読みたくなると思います。

    >まだ誰も聞いたことのない、“月光”を。

    この日のコンクールも月光なんですね。
    いわば「運命の一曲」の再来みたいなものですから、そこはもっとクローズアップして話に取り上げていいかも。コンクールは毎回月光でもないでしょうし。

    >第1楽章
    音楽ものでは定番のサブタイトル。
    悪くはないですが、もう一工夫あってもいいかも。

    >「12時になった。演奏会を始めようか」
    今は宿直の先生とかいないもんですかね。
    音とか照明とか近所に伝わりそうですが、まあここは目をつぶりますか。

    >僕は彼女の“月光”を聞きながら、そんなことを言った。荘厳でいて美しく、物悲しい音色は、聞いた人の心に不思議と夜の月の情景を思わせる。

    あれっ。
    彼女の奏する月光は、「希望」とか「光のよう」でしたよね?
    ここだけ演奏変えてるんです?

    >「“月光”という名前だからだよ」

    前話でも書かれていますが、「月光」は通称で正式名称ではないですね。
    ウィキで調べた限りだと、月光ソナタという愛称は音楽評論家のコメントに由来し、ベートーヴェン自身は快く思っていなかったとか。

    ここら辺の史実を説明に混ぜ込めば、説得力とマメ知識を増やせるはず。

    >夜の音楽室を照らすのは、月光だけ。その光景は、不気味でありながら幻想的でもあった。

    ああ、月光の中で弾くなら、明りはつけませんね。
    幻想的でいい雰囲気作りだと。

    >するとどういうわけか、目に浮かぶのは月夜に踊る妖精の姿だ。

    ここで「月夜に」と書いたら、彼女の説と食い違います。
    「月」は省くべきです。

    >先生の目を盗んで学校に忍び込むなんて

    えっ、先生いるんです?
    さすがにピアノの音は漏れませんかね。防音だとしても。

    >教室の机の中に手紙が入っていた時は、……いや、正確には、手紙を書いたのが彼女だと分かった時は、本当にびっくりした。

    私は二人が同じ学校なのにびっくりしました。
    てっきりコンクールでだけ顔を合わすライバルみたいなもんかと。

    >最初は目を疑ったけど、でも僕はこれが彼女からの手紙であることを確信した。

    このご時世に手紙とか使う辺り、二人はスマホで繋がったりしてないんですかね。つまり友人関係はごく浅い?
    主人公の言動を見るにそうは思えませんが、誰にでもフランクな性格なのかも。

    >君と僕の2人きり、おそらく最初で最後の音楽の授業だ。

    ここは一読目に「何故。最初で最後?」と思ったものですが、最後まで読むと納得ですね。最後かもと思うのは理解できます。

    ここの疑問を取り払うなら「最初で最後」に傍点を振ってもいいかもしれません。謎めいた言葉として、次話への引きも強まります。

    >第2楽章

    >あの“月光”は、他の参加者の演奏とは比にならないほど優れていた。けれど、彼女の演奏は、賞を得ることができなかった。

    ここが主人公の主観なのか、客観的な評価なのかは知りたいところ。
    敗北が今回に限らないなら、何かしら評価を得られなかった理由があるのでしょうし、そこは触れた方がすっきりすると思います。

    彼女の敗北が何によって生じたのか、はたまたただの運なのかは、この後の展開の感想に大きく影響してきます。

    >「答えを聞いているんじゃないの。私が聞きたいのは、君がこの曲を聞いて、何を感じたか、だよ」

    ここの「答えを聞いてるんじゃない」はよくわかりません。
    主人公の答えが月光の概要とかなら、この反応もわかるんですが。
    「絶望」とか「底知れぬ恨み」も、「何を感じたか?」ですよね?

    >だけど僕は……あれはピアノのアリアであり、号哭だと思ってる

    「号哭」は「声を上げて泣き叫ぶこと」とあります。号泣と同じく。
    ヘビロテでこの曲を聞く限り、「泣き叫ぶ」よりは「すすり泣き」「嗚咽」の方が近い気がします。あくまで私の感性ですが。

    >「へぇ。それは演奏者の感想だね。私にその発想はなかったよ。

    彼女が演奏者ではないような発言です。

    >「魂が震えたの。ピアノのあんな音色は聞いたことがなかった。今思えば、あれは確かに、ピアノの泣く声だったかもしれない」

    ふううむ。
    でも、その時のコンクールの成績はボロボロだったんですよね。二人とも。

    >君の演奏を聞いてから、自分の演奏がつまらなくて仕方なかった。楽譜どおりの演奏……別にミスをしたわけじゃない。

    あれっ?
    彼女の演奏は独創的なものだと解釈してたんですが。
    それこそ、月光が光って見えるくらいに。

    >あの時、私の音は、完全に壊れちゃったんだ。私のピアノ、人生。私という存在までもが

    つきあい十年くらいありますよね、この二人。
    初見から密かにコンプレックスを抱いてたのはわかりますが、それがここに来て絶望に至るには、何かしら理由が必要だと思えます。

    そもそも彼女の他の成績はどうなのか、という話もありますし。月光の評価だけがピアニストの全てではないのでは。

    >まさか。それで君は、1週間前のあの夜──。
    さすがにもう読者も察してる頃合いなので、強調しなくていいと思います。

    >あの夜も、この音楽室で月光を弾いた。
    常習なのか。

    >「そうじゃないわ。私の“月光“は、悲しい曲じゃない。

    そのはずですよね。

    >彼女がもっと早くこのことに気づいていれば、こんな結末を迎えずに済んだかもしれない。

    ???
    意味がわからなくなってきました。
    彼女は小3から、希望の曲を弾いてたんですよね?
    主人公だけがそれを見抜いて、彼女は自覚してなかったとか?
    いや自分が弾く曲で、そんなことはあり得ないでしょう。

    >君の才能が、私の才能を覆い隠してしまうから。
    ここまでの二人の成績の描写がないので、どの程度の絶望なのかよくわかりません。主人公がモーツァルト並みの天才なら共感しますが。

    >君のピアノは、他の誰とも違う。私も、誰かとの違いが欲しかった。

    ここまでの説明を見る限り、どう見ても人と違うのは彼女の方で、主人公の感性は普通寄りだと思えます。

    >「そのために、君はあの日、この窓から飛び降りたのか?」

    何度もヒント与えてたので、ここはそうインパクトないですね。
    でもまあ、驚かせるのが主眼の物語ではないので、これくらいに収めるのが正しい気もします。

    それよりも、一週間前に飛び降り自殺の起きた音楽室を、閉鎖もせず警備もつけず、まんまと侵入許してる辺り、学校側の管理体制を疑いますねw


    >第3楽章

    >「死にたくなるくらい、素晴らしい演奏だったよ」
    演奏的には共感できませんが、理由付けとしては一応納得。

    >それよりも僕は、彼女に会えたことが嬉しかった。
    「死にたくなるくらい素敵な演奏だった」と言った翌日に自殺した幽霊から夜の音楽室に誘う手紙が届いたら、普通に恐怖しか感じないと思うんですが。

    >自分の思いすら、伝えられずにいるのだ。
    おっと、相手を好きという設定を忘れてました。
    あまりに触れられてこなかったので。

    「好きな相手に自分が原因で死なれてしまった」というショックは、計り知れないものがあると思われますが、この主人公からはそんな悲哀はまるで感じられません。

    >あの時、私は少しだけ、ベートーヴェンに近づけた気がしたんだ。

    そもそもの話、この曲ってベートーヴェンが恋する相手に捧げた曲ですよね。解釈的にはまず最初にそれが来ると思うんですが。一番好きな曲なら当然知ってるはずですし。

    そこからどう解釈を広げるかは、確かに奏者次第だと言えますけど。

    >「君は、死についてどう思う?」
    これ、主人公が聞くんですかい。
    てっきり彼女の方が聞いてるんだと、一読目は思っていましたが。
    うーん。なんというか、好きな相手にする質問かなあ?と。
    逢えるのは今晩きりだろうと知っての上なら、なおさらです。

    >意味が分からなかった。けど、ここで「どういうこと?」と聞くのはあまりに無粋な気がしたから、やめておいた。

    ここはすごく共感します。
    まあ、主人公の質問もたいがい「どういうこと?」ですが。

    >「死は、みんなが言うほど悪いことかな? 私はそうは思わない。食べたり、寝たり。死はその延長線上にある。死こそ、生命の営みだと思う。生きているから死ぬ。死とは、生の象徴だ。後ろめたいことなんか、何もない。死んでみて、やっと分かったんだ」

    この意見自体にはわりと賛同なんですが、ライバルの才能が原因で自殺した幽霊に言われても、まるで響きません。生から逃げた言い訳のようです。

    >「僕は、君のピアノが好きだった。君の笑う顔とか、怒る顔とかが好きだった。君の“月光”が好きだった」

    せめてここに至る前に何かしらの感情の吐露は欲しいところ。
    「彼女が好き」と口で言ってた程度だったので、盛り上がりに欠けます。

    >「君の“月光”は、誰のものとも違うよ。
    ううん?
    彼女の演奏が他と違うことは、主人公でなくともはっきりわかる類のものですよね? 演奏の違いなんですから。審査員や他のピアニストなら違いがわかる類のものでしょう。
    ここで「僕だけがわかる」的に説明されることに、困惑を覚えるばかりです。

    加えて、あれだけ無駄に彼女の演奏を褒めちぎっていた主人公が、そういった話を一度も彼女にしていないという展開は無理がありすぎます。十年近いつきあいで、引かれるくらい褒めていたのに、です。

    私はてっきり、コンサートに不利とわかりながら「希望の月光」にこだわり続ける彼女に対し、王道の演奏をする主人公は常に勝ちながらも、彼女の演奏に惹かれている、という関係なのかなと思っていました。
    でなければ、色々と辻褄が合わないので。

    >あぁ、私にも、あったんだ。自分のピアノが。
    平凡な奏者ならともかく、特徴的な演奏をする人間が、自分の個性に無自覚なんてことは、ありえないかと。

    >彼女は僕を責めたりはしなかった。「なんでもっと早く言ってくれなかったの」とか、そんなことは言わなかった。ただ、「そっか」と悲しく目を細めるだけだった。

    ここら辺も、悲恋の締めくくりとしてはとてもいい部類のはずなんですが、ここに至る経緯の説明が少なかったり、意味不明だったりするので、いまいちのめりこめません。勿体ない。

    >最終楽章

    >「こんな私のピアノでも、好きになってくれる人はいたんだね」

    序盤からくそ褒められてた気がしますが。

    >「君の意見も教えてよ。君は死をどう捉える?」
    この状況から、一体何故その質問が出てくるのか。
    幽霊への告白直後ですよ?

    >「死は……終わりだ」
    好きだった幽霊相手に断言する、その強心臓に乾杯。

    >「死んだら、それまで。そのあとはもう、故人に世界は観測できない。そう。それこそ、君みたいに幽霊にでもならなければね。だからこそ、死は同時に救いでもある」

    むしろ幽霊が実在したら、その手の前提は全部吹っ飛ぶと思いますけどね。死後の世界とか、天国と地獄とか。
    幽霊なんて、死が救いにならない象徴じゃないですか。

    >「私が死んだのは、別に君のピアノに絶望したからじゃない。君のピアノに、もっともっと近づきたいって思ったからだよ。やっと分かったの。“月光”の、本当の顔」

    ぶっちゃけ言葉の意味はさっぱりですが、字面をそのまま信じるなら、「希望の音」は捨てるって意味になりますね。主人公に近づくんですから。

    >私の“月光”は、希望の音。君のは絶望。何もかも違う。だから教えない。私は分かったよ、生きる理由が。だからもう一度、始めるの

    「何もかも違う」って、「もっともっと近づきたい」と矛盾してません?

    希望の音を奏でる彼女が死んだのが、この話の一番不可解な部分ですが、この説明を聞いてもまったく理解できません。

    >彼女は、生まれ変わりとかいう迷信を信じているのだろうか。

    まあ幽霊がいたら、転生とかもあるのかなと思えなくはないです。
    ただ、そういう選択を前向きに捉えられる感覚が、私には皆無です。
    主人公と同じく。

    >僕が月光を弾き始めると、彼女は再び涙を流した。僕は胸が痛くなった。痛くて、悲しくて、苦しかった。ピアノも、彼女も、ずっと泣いている。僕が鍵盤を叩くたび、永遠に、泣いている。まるで、ピアノにこう言われている気がしたんだ。「お前のピアノじゃ、彼女は救えない」と。

    文章は確かで、感動的なシーンなのに、やはり空回り感。
    ここに来て唐突に悲壮感を描くのではなく、序盤から重みを増していく風に書いていく方が、この場面の刺さり具合は違ってくるはず。

    >数十メートル離れた地面には、濃くて赤い、血溜まりがあった。彼女は死んだ。それは、彼女の二度目の自殺だった。僕は彼女を二度殺したのだ。

    ここ、よくわかりませんが、幽霊が飛び降りて血だまりになったってことですかね? 
    だとしたら幽霊が飛び降り自殺するのも、血だまりが出来るのも謎過ぎます。幽霊なんですから。

    まさか、一週間前の自殺現場が、そのまま放置されてる設定じゃないですよね。それは有り得ないと思いますが。

    >そして、部屋の真ん中に鎮座する黒いグランドピアノをめちゃくちゃに叩き壊した。

    ここもやるせない感情の爆発と言う意味では、悪くない締めくくりなのですが。途中で感動の電車から振り下ろされたので、「荒れてんなあ」くらいの感想です。つくづく勿体ない。

    >そう広くはない室内に、ピアノの号哭が鳴り響いてやまなかった。

    ここは「号哭」でいいと思います。
    でも、月光の演奏と、ピアノをバットで破壊する音が同じってことはないでしょ? 私が言いたいのはそういうことです。


  • 【20】月光(春野カスミ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330662883428561


    ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    平凡の極みですが、内容的にはこれしか、ではある。
    難しいところですが、もう一捻りあってもいい、かも。

    ・文章について
    高校生としては、文章力は十分かと思います。
    少なくともこの手の一人称を書く上で、問題があるようには思いません。誤字脱字もなく、しっかり調べて文章を書いていることが伝わります。

    とくに感動的なシーンは、卒なくしっかりと書けていると感じました。文章力なしではなかなか出来ないことです。ここは評価してよいかと。内容のマイナスで相殺されてしまったのが勿体ないですが。

    あえて注文をつけるとすれば、これぞという個性がないのが弱みですかね。派手さというか、華がない。
    今作のような作風なら問題ないですが、もっとエンタメに寄った作品を書く時には、そこを強化する必要が出て来るのでは、と思います。

    ・内容について
    月光という名曲に重ねて、二人のピアニストの生と死、懸ける思い、死生観なんかを重ねるのは、テーマとしては面白くなりそうだと思います。一読目は、かなり期待して読みました。

    それがすんなり感情移入できず、後半は感動シーンも幾つかあるのにまるで乗り切れなかったのは、そこに至る物語の構造が、色々矛盾してるのが原因です。さらには説明不足も。

    二読目でそこら辺を洗いながらストーリーを追ってみましたが、むしろ疑問は深まるばかりで、「読みながら感想」も随分長くなってしまいました。

    以下、主要な疑問点を書き出します。
    希望通り例示はしませんので、解決策はお任せします。

    >二人の関係がよくわからない

    序盤に出て来たもの以外、ほぼ二人の関係についての情報が出ないのはかなり問題です。

    この物語は幼少から知己である二人のピアニストの葛藤やコンプレックス、心のすれ違いを元に進んでいきますが、「何故コンプレックスなのか」や「何故自殺に至ったのか」という部分の現実的な説明がありません。そもそも二人の関係性が希薄なので、心情を想像する前提であるピースが欠けているのです。

    序盤に私が欲しいなと思った情報は、こんな感じ。

    ・高校生になった二人の、現時点での世間的評価
    ・二人のこれまでのコンクールの成績
    ・小学生以降の二人の人間関係。距離。
    ・二人はライバル関係なのか、腕の差は歴然なのか。

    二人がどんな風に高校生になり、その中でどう交流し、どんな関係を築き、互いにどう思っているのか。
    この文字数で書き切る必要はないですが、それを想起させる描写をすることは出来るはずです。台詞のやりとりや回想をこまめに使えば、補足は容易だと。

    中盤にも謎がバンバン出てきますが、こちらは「読みながら感想」を参照してください。以下に目についた大きな矛盾を挙げていきます。

    >彼女の希望の音

    冒頭から主人公が絶賛している彼女の演奏ですが、何故か終盤、主人公が打ち明け、彼女が初めて知ることになってたりします。無駄に褒めまくる主人公が、十年近くそこに触れないのは不自然です。

    そもそも、彼女の個性的な演奏が、対外的にどう見られているのかという描写がありません。主人公には負けても、二位の位置をキープしているのか。橋にも棒にもかからない成績で、主人公が個人的に気に入ってるだけなのか。ここは感情移入という部分で、かなり重要なポイントです。

    彼女が自分の個性について理解していない、という話もぶっ飛ぶレベルの謎展開です。普通に考えて、自分の演奏が他と違うことは長くやっていればわかることですし、先生も指摘するでしょう。その上で意思をもって希望の音を選んできたと思うのが自然ですし、そうでなければテーマが成立しません。

    「自分の感性を信じて希望の音を続けてきたが、主人公の演奏に一度も勝つことが出来ず、ついに折れた」という筋であれば、一応理解できますが、上記の三つはそこに矛盾します。

    主人公に「彼女がコンクールで勝てなかった理由」を語らせるなど、何かしら客観的な情報が欲しいところです。でないと彼女の悩みが、世間に理解されないことなのか、主人公を超えられないことなのか、判然とせず、情報として整理されません。筋道が通らず、ごちゃごちゃのままなんです。

    >彼女が自殺した理由
    これもなんだかよくわかりません。
    最初は主人公に負けたことが理由と思われました。
    これはこれで「そんなことで死ぬ?」という感じの共感しづらい理由ですが、まあ芸術家ですしそういう人もいるかなとは一応思えます。

    ただ、彼女自身が途中からそれを否定し、代わりに出た説明が「死は悪いことじゃない」とか「月光の真実に近づいた」とかなので、もはや謎理論を聞かされてる気分になり、悲哀とか同情から遠ざかる感じです。そこは主人公の戸惑いに共感します。

    そもそも、希望の音を奏でる彼女が絶望の音の主人公に焦がれ、死を選んだりする展開に違和感があります。
    希望を失わないからこそ、希望の音が出せるものだと思うんですが。それが自殺するなんて、矛盾もいいところだと。

    例えばコンプレックスから己を見失い、最後のコンクールでは希望の音が出せず惨敗、そして自殺という流れなら、十分に納得できるし、おおいに共感もするんですが。

    普通は絶望の音を奏でる側が、希望の音の光に耐え切れず、死を選んでしまうものだと思います。

    第一、こんな悩みを長年抱えながら、希望の音を奏でられ続けますかね? 内面が演奏に出るという前提ですが、その点から見てもこの展開は不可解です。

    >主人公の感情表現の不足
    全体的に台詞が固いせいもありますが、感情表現が極端に少ないです。とても片思いの相手を、自分が原因で失くした直後とは思えません。主人公に感情移入しづらい原因です。

    これが例えば彼女が死んだ一年後とかなら、それなりに落ち着いて、普段同様の落ち着いた会話ができても違和感がないのですが、一週間後は早すぎます。むしろ「幽霊でもなんでも彼女に会いたい」と暴走するくらいの方が、人間らしいとさえ思えます。

    彼女を好きという設定も、何度かつぶやく程度なので、さして強い感情に感じられず、設定の一部という感じ。私は後半忘れかけていました。ラストの感情の爆発を生かしたいなら、彼女への恋心を最大限描いた上でないと、読者は共感しづらいのではないかと思います。

    >死生観について
    正直、蛇足の一歩手前みたいなやりとりだと思います。
    作者の強い主張があるわけでもなく、幽霊相手に「死の意味」を語るのは、宇宙人相手に宇宙を語るくらい無理筋でしょう。物語の深みに寄与もしていないですし、月光とのつながりもはぐらかされているくらいなので、この部分をあえて生かす必要がないと思われます。

    >テーマについて
    今作のストーリーの柱は、
    「月光(ピアノ演奏)」「二人の関係」「生と死」だと思いますが、後半はそれぞれが互いに干渉しあい、互いに良いところを潰し合ってる印象があります。

    ぶっちゃけ「生と死」は大胆に削り、その分を二人の関係に充てた方が物語はすっきりまとまり、テーマの理解も深まると感じました。
    無論、「希望の音」関連の矛盾をどうにかした上で、という話ですが。


    ⬜️総評
    ・素材は面白そうだが、矛盾てんこもり。
    ・文章はしっかりしている。感動シーンも上手い。
    ・「読者に何を伝えたいか」を見つめ直すべき。

    「骨切を忘れたハモ」という感じ。
    すごく美味しそうなのに、小骨が多すぎて味を楽しむに至れません。
    文章はしっかりしてるので、まずテーマについて再検討を。
    設定的に矛盾してたり、違和感があるところを洗い出してください。
    簡略化したあらすじを書いて検討すれば、いろいろ問題点が浮かび上がるはずです。

    整理が手に余るなら、不要な要素を抜いてシンプルに仕立て直すのも手です。初心者が複雑な題材に手を出して失敗するのは、ジャンルを問わずあるあるですから。


  • 【21】月光〜ベートーヴェンの、最後の演奏会(春野カスミ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330663214070578


    二十一回目は、「月光〜ベートーヴェンの、最後の演奏会」。
    春野カスミさんの作品です。
    ……はい、前回と同じ作者の方ですw

    再登場となった経緯ですが、軽く説明しますとですね。
    前回の感想を受けた春野さんは、翌日には、改訂でなく同じ設定から完全新作を書き上げられ、改めて感想を求めて来られました。
    いや、たいした情熱です。若さってすごい。

    熱意には熱意で応えるのが梶野のモットーです。
    感想を引き受けるのはもちろん、新作の方も「じっくり感想企画」に参加してはどうかと打診しました。
    かくして「じっくり感想」初の二連続参加が実現した次第です。
    本来は一人一作品が原則で、さすがにそこは曲げられません。
    今回のみ特殊ケースだと思ってください。後続もいませんし。

    春野さんのアンケート回答はこちら。


    梶野様、ありがとうございます!
    例外で感想を書いてもらえるということで、性懲りもなくやって参りました〜💦
    連絡に時間が空いてしまいすみません! 今学校が終わったもので…(>人<;)
    改めまして、今回お願いしたい作品はこちらになります。

    「月光〜ベートーヴェンの、最後の演奏会」
    https://kakuyomu.jp/works/16817330663214070578
    ・特に評価して欲しいところ
     前回と同じく、推敲できる箇所はないか、教えてほしいです。あと、前作を踏まえて矛盾点が解決されているかどうか、知りたいです!
    ・アドバイス
     こちらも前回同様、アドバイスありの例示なしでお願いします。
    ・転載
     今回もぜひ、よろしくお願いします🙇

    タイトルについては、前作と区別するためにサブタイトルをつけましたが、これはもう一回精査するつもりでいます。一応、今回のタイトルの評価もお願いします。

    以上の内容で参加させてください。
    今回は本当に、また感想を書いていただけるなんて嬉しいです。よろしくお願いします🙇


    前回はかなり矛盾に突っ込みましたからね。
    どれだけ解消されてるかは当然チェックしたいところ。
    他は例示なしのアドバイスあり。了解です。

    締め切りがあるということで、こちらも飛ばして行きましょうか。
    じっくり感想、開始します。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。


    >第1話
    楽章単位は止めたんですかね。
    確かにこちらでは、この方が合ってるかも。

    >彼は死んだ。突然死んだ。理由はまるで分からなかった。

    なかなかインパクトのある出だしでいいかと。

    >彼のお母さんは、色のない目で私を見つめていた。ひどく、静かな怒りだった。

    いい表現。葬式の親族ってこんな感じですよね。

    >私は逃げるように、小走りでその場を後にした。雨は静かに、私を責めた。ただ、責め立てた。

    表現はいいですが、「私は」が被っているので、何とかしたいところ。

    >黒き平滑。
    ここは凝りすぎて意味がわかりません。

    >ああ、虚しくてたまらない。彼は死んだ。突然死んだ。理由はまるで分からなかった。

    虚しいと思えるのは真実を知った後で、この段階では彼女には悲しみと驚きが先に立っている気がします。

    「理由がわからない」というのは「胸にチクリと刺さった」という場面と矛盾に思います。思い当たる何かがあったから、胸に来たわけで。
    確信はないが思い当たることはある。もう理由がわからないわけではない。それぐらいのニュアンスを表現してみては。

    >……そうしているうちに、いつのまに夜が来た。

    この一文は不要です。
    次から夢のシーンなので、夜になったことに気づかないほうが自然ですし、彼女の気持ちの乱れの表現にも繋がります。

    >第2話

    >ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2 『幻想曲風ソナタ』、通称“月光”の第1楽章。楽聖ベートーヴェンが作曲した、様式破りのソナタ。私と彼の、勝負曲。

    説明が過不足なくなりましたね。

    >夜の月の歪な光
    いいセンスの言葉選びだと思います。

    >死んだはずの彼と話しているこの状況が、私には全く気にならなかった。

    相手の死を隠さないことでストレートに本題に入れる分、重みは減ってますね。ここはバーターなので判断は作者次第ですが、私は評価します。重みは他でも補えますし。

    >「月光と聞いて夜の月を思い浮かべるのは当然だよ。この旋律に、夜の月を明確に表す音は存在しない。もっとも月光というのは通称で、詩人ルートヴィヒ・レルシュタープが「スイスのルツェルン湖の月夜の波に揺らぐ小舟のよう」と形容したことばに由来しているという説が濃厚だけど」

    「」内の台詞は『』にするのが原則ですが、まあこれはそこまで厳密なルールでもないのでいいかな。

    月光の由来を入れたのは好判断。
    書き方次第では「解釈は人それぞれ」の枕にもできそうですね。

    >彼とは、小学生以来の仲だ。
    彼との過去語りが追加されましたね。
    うん、やはりこうでないと。

    >そんな楽譜の解釈(読み方)があるのか
    ここのルビは「よみかた」とひらがなの方が自然かと。

    >……そう。それなら、付き合ってあげるよ。君と私の2人きり、おそらく最初で最後の音楽の授業に。

    前作の改善流用ですが、ここは削るべきです。
    彼女の性格にそぐわない上、すでに死んでいることが明言されているので、傍点で匂わせる意味がなくなっています。

    >第3話

    >近づけない。彼の演奏にはどう足掻いても、近づけない。

    ここは言葉を重ねるより変えたほうが綺麗に思います。

    >だから、というのはどうかと思うけど、私には「正しいピアノの弾き方」が分からなかった。正しい月光が、分からなかった。

    悪くない理由付けです。

    >父が勝手に参加を申し込んだコンクールで
    これが可能かどうかはわかりかねますが、読者の疑問に先回りしておく感覚は大事です。この感覚を全体に張り巡らせましょう。

    >彼が賞をとった直後、私は彼に言った
    ここはもっさり感。
    「彼」を二度使わない工夫を。

    >「……ピアノの泣き声か。いい表現だ。その通りかもしれない。ねえ、また君に会えるかな」

    二人の語り口が現在と変わらず、子供に見えないことに違和感があります。彼はともかく彼女の方は、子供らしい台詞にした方がらしくなるはず。

    >「ベートーヴェンは、想っているのに結ばれない女性であるジュリエッタにこの曲を送った。叶わない想い。僕の月光も、だいたいはそんな感じだよ」

    模範というか教科書的な回答は、むしろこっちだと思います。史実からの推測ですし。
    彼ならではの解釈は「絶望」なので、ここは前後を入れ替えたほうが筋が通ります。

    >第4話

    >結果は散々だったけど。彼はコンクールに出るたびに入賞を繰り返した。

    「私の結果は」と主語を入れて、彼と対比させたほうがわかりやすいです。

    >きっと、ベートーヴェンに寄り添ったピアノだからなのだと思う。

    うーん。彼のスタイルは絶望というオリジナルで、そこに彼女は惹かれていたはずです。「寄り添った」という表現には若干の違和感を感じます。ベートーヴェンや世の音楽家の理解が絶望という話なら別ですが。
    ここは「自分(彼女)に比べて」という意味合いを強めてみては。

    >月光だけではない。モーツァルトのアイネクライネ・ナハトムジークも、ショパンの子犬のワルツも、彼の手によって弾かれるピアノは、まるで当時の作曲者たちが現代に甦ったようだと評判だった。

    月光以外に触れるのはいいと思います。前作で気にはなってた部分なので。

    ただこうなると、彼の特徴が「絶望の解釈」なのか、「再現の巧みさ」なのかでわかりづらくはなりますね。月光だけが独特なのか、絶望という解釈が巧みな再現と評価されてるのか、はたまた完成度が高いのか、そのあたりの解説はあった方が理解しやすいかも。

    >当然、審査員は私の演奏を快く思わなかっただろう。だけど私は、自分が一番信じられるその可能性を、無視できなかった。だから自分の演奏に、その感情をぶつけた。

    自然な展開でいいかと。

    >父が勧めたのは、動画投稿サイトだった。
    なるほど、こういう展開で来ましたか。
    今風ですしありそうな話です。とてもいい追加要素だと思います。

    >そして彼からも、反応をもらった。
    この展開も微笑ましくてよいです。
    こういう譜石あればこそ、悲劇が光るというものです。

    >そしてそのコンクールが終わった日の、満月の夜。

    「コンクールが終わって」が前文と被っています。

    >そしてそのコンクールが終わった日の、満月の夜。彼が、自宅のレッスンルームにて、首を吊って死んでいるのが発見された。

    もう少し雰囲気が欲しいところ。
    満月の夜に死ぬのはいいとして、発見は翌朝にする方がリアルかと。「月が沈む」ことが彼の死の暗喩にもなりますし。

    >雨音が葉を揺らすような音だった。
    表現は巧みですが、ここは「声」の方が。

    >分かった気がしたよ
    分かったのは今なので、「分かった気がするよ」ですね。

    >「君はどうして、首を吊ってしまったの?」
    ちょっと生っぽい言い回しで嫌な感じです。
    「死んでしまったの?」くらいで十分かと。

    >「ねえ、それじゃあ君は、私にとってのベートーヴェン、なの?」

    この二人に例えると、解釈が恋愛感情の意味に寄りそうな気もしますが、まあ彼の補足があるからいいですかね。両方の意味とも読めますし。

    >——……あるいは、あのピアノを弾く彼だからこそ、その感情を黒く染めてしまったのかもしれない。彼のピアノは、ベートーヴェンをリスペクトする重苦しい絶望の音色だから。その救いようのない音を奏でる彼だからこそ、私のピアノは彼にとって毒でしかなかった。

    この内容は、彼女でなく彼の口から端的に出した方がいいと思います。後述。

    >希望が強く光り輝くほど、その絶望の影は濃くなる

    これも三人称ならありですが、一人称だと他人目線に見え、かえって彼女のショックを弱めてしまいます。台詞のやりとりだけで十分これが伝わるよう工夫してみてください。

    >「嬉しくない!!」
    >私は涙ながらに叫んだ。
    そう、これくらい人間らしい方が共感できます。

    >「ねえ……何で死んじゃったの……」
    ここから繋ぐのは、前よりよくなってますね。
    台詞も自然ですし。

    >「…… 死は、みんなが言うほど悪いことかな? 私はそうは思わない。食べたり、寝たり。死はその延長線上にある。死こそ、生命の営みだと思う。生きているから死ぬ。死とは、生の象徴だ。後ろめたいことなんか、何もない。でもね、死にはひとつ、弱点がある。それは、生きている人と、もう二度と触れ合えないってこと」

    ここははっきりと駄目出しします。
    長すぎるし、彼女の言葉になっていません。
    「触れ合えない」より先に、「ピアノが弾けない(聞けない)」ことに触れませんかね、彼女なら。

    意味合いはそのままに、傷心の彼女がこの場で言えるだろう言葉に訳してみてください。こんな演説めいた内容ではないはずです。

    >「君は、私のベートーヴェンだよ」
    耳障りのいい台詞ですが、意味は不明です。
    この返しは、自分をジュリエッタになぞらえての返答ですよね?
    恋愛的な意味なら「袖にする相手」ということになりますし、音楽的な意味だと理屈が通りません。
    ジュリエッタ視点抜きにしても、彼女はベートーヴェンをリスペクトしないスタイルですし。

    最初に聞き返した時とは意味合いが違ってくるので、特に伝えたいテーマがあるなら、補足を加えてもいいかも。でなければ省くべきです。

    ちなみに「私もベートーヴェンだったよ」ならアリですよ。
    それなら意味が通じるので。

    >「君の月光が、希望の音が輝いた。それに伴って僕の音は、どこまでも深く、沈んでいく。いつしか、分からなくなったよ。自分が今まで、どんな月光を弾いていたのか。情けないだろ? 嗤ってくれ」

    ここで彼の死因が出ていますが、ちょっと抽象的すぎてよくわかりません。自分の演奏を見失っていたら、彼女にはわかりそうなものですし。ちょっとここは後述。

    >……やっぱり、彼のピアノを叩き壊したのは、私だ。
    最後の場面と重ねるための表現だと思いますが、「叩き壊す」は全く場面に合ってません。
    というかピアノの破壊自体が彼女のラストに向いていないと思います。ここも後述。


    >「私……君のピアノを殺したんだ」
    死んだ彼の方に悲壮感がないので、ちょっとちぐはぐですが、まあ自責の念が見せたものと思えば納得できます。

    >第6話

    >目が覚めた。ひどい夢だ。
    全体的に前作より重さに欠ける感じがありますが、夢オチという部分が原因の一つですね。どうしても現実に起きたことに対してインパクトが減ってしまうので。

    >電気をつけていない薄暗い部屋で私は、その月光をたいへん恨めしく思った。

    何故恨めしく思うのかわかりません。

    >ああ、もういっそ、塗り替えてしまおうか。私の音、彼の号哭に。

    今作では「号哭」は出てきてないはずです。

    >だってもう、弾けないのだから。彼が死んでから、ピアノの弾き方を見失ってしまったのだから。

    ここら辺の心情は共感。それくらいには衝撃でしょうね。

    >もういいじゃないか。彼のピアノと、眠ってしまってもいいじゃない。

    ここら辺もわからないでもないです。

    >「今からいくね。待っててね」
    この後のピアノ破壊と自殺宣言は、あらゆる意味で納得いきません。悪い意味で前作に引き摺られていると思いました。後述。


  • 【21】月光〜ベートーヴェンの、最後の演奏会(春野カスミ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330663214070578


    ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    「月光」よりはマシですが、まだ微妙。
    いいタイトルって、また瞬間に「これ!」と感じるものです。

    ・文章について
    前回とほぼ同じなので割愛します。
    詳細は「読みながら感想」を参照してください。

    前回同様、しっかり書けてますが、一晩で仕上げたせいか、やや勢い任せな部分があり、多少スリップ感はありました。
    私の指摘と照らし合わせながら、再点検してみてください。

    ・内容について
    最初にアドバイス希望にあった矛盾についてですが、今作では9割は解消されていました。お見事です。
    残る部分は細部のすり合わせと、ラストですかね。
    細部については説明の仕方や解釈について、作者自身に揺れがあるのではと思える部分。
    ラストシーンはこの作品のテーマにも等しいので、なかなか口を出しづらいのですが、私の見解とは大きく違ったので、批評ではなく感想として書いておこうと思います。

    物語そのものは彼女に人間味が加わったことで、前作より格段に共感しやすくなりました。
    前回と同じ三つのテーマ、「音楽」「恋愛」「死生観」の内、多すぎるなら死生観を省くべきとアドバイスしましたが、今作は死生観ではなく恋愛を省いた形ですね。これはこれでアリだと思います。前よりすっきりしました。

    矛盾が解消され、キャラも身近になり、理解しやすくなった反面、物語としての重さはかなり減りました。前作の過剰なまでの重苦しさは、内容の難解さ(矛盾で)も相まって、独特の空気感がありましたが、こちらはかなり軽量になっています。これを劣化したと見るか、狙い通りと見るかは作者次第ですが、重さが何故消えたのか、補うならどうするか、も後で考えてみましょう。

    それでは、気になった部分を個別に。

    >——……あるいは、あのピアノを弾く彼だからこそ、その感情を黒く染めてしまったのかもしれない。彼のピアノは、ベートーヴェンをリスペクトする重苦しい絶望の音色だから。その救いようのない音を奏でる彼だからこそ、私のピアノは彼にとって毒でしかなかった。

    この内容は、彼女でなく彼の口から端的に出した方がいいと思います。
    希望に溢れた人間というのは、影の思考を理解できません。光で傷つく者がいるという事実は、彼から明言されなければ納得できる話ではないはずです。

    「私のピアノは毒だった」なんて、すぐに結論を出せるわけがありません。生涯をかけて追い求めてきた音なんですから。なのでこの部分を彼女が言うのは微妙に思います。

    絶対に信じたくないけど、死んだ彼の言葉だから信じざるを得ない。これが普通の感覚です。
    彼が死因を明言しない限り、他の理由を探してしまうでしょうし、読者的にもはっきりと、彼女の月光が原因だと知りたいところです。

    例えばここで、彼のこれまでの人生を振り返らせ、積もり積もった彼の中の絶望が、彼女の月光の成功によって限界を超えてしまった的な描写をすれば「いつから?」のアンサーにもなります。

    >「君の月光が、希望の音が輝いた。それに伴って僕の音は、どこまでも深く、沈んでいく。いつしか、分からなくなったよ。自分が今まで、どんな月光を弾いていたのか。情けないだろ? 嗤ってくれ」

    ここで彼の死因が出ていますが、ちょっと抽象的すぎてよくわかりません。彼が自分の演奏を見失っていたら、彼女にはわかりそうなものですし。

    彼が死を選ぶ理由は幾つか思い当たるのですが、ざっくり要素を挙げれば、

    ・強い光に対する闇の空虚さに気付いた
    ・強まる光に対する恐怖
    ・光に駆逐される闇からの解放
    ・強まる光に抗じるため、闇に潜り過ぎた
    ・絶望を極めるには死を知る必要があった

    などが考えられます。(あるいは複合かも)
    微妙にどれもニュアンスが違うので、はっきりと作者の中で見定めてから、それが滲んで伝わるような台詞を選ぶべきです。

    本作の彼の対応を見るに、彼女に対する恨みや悪意は皆無のようです。
    つまりどのような理由であれ、彼女が帰結するのは自責の念に他なりません。なので、どれを選んでも微妙な対応が変わるだけで、ラストに至る経緯は同じだと言えます。一番ドラマティックになるものを選ぶべきかと。

    なお、途中で「彼のピアノが溺れてしまった」と述する場面がありましたが、これをそのまま通すなら、最後のコンクールの成績を変更し、彼に賞を取らせないのも手です。彼女の月光を聞いたことで、彼の演奏が壊れてしまったことの証明にできますから。奨励賞を優勝にするかは悩ましいところですが。

    >重さについて
    前作に比べ、重さの減った今作ですが、その理由を挙げておきます。

    ・彼の死が最初から明言されている
    ・夜の音楽室という舞台がなくなった
    ・幽霊でなく夢落ちに変わった
    ・月光の演奏シーン、演奏の描写がない
    ・矛盾が減り、話がすっきりした

    もし暗さや重さを積み増したい場合は、上記の部分を復活させれば、ある程度重さを取り戻せると思います。

    変更しやすいのはまず舞台。
    コンサート会場だけだと怖くないので、月光が差し込む夜にするとか。無人の会場に二人きりという部分をもっと強調するとか。
    夢なので舞台は自由に変更できるのは強みですね。

    月光の演奏シーンも、どこかに差し挿めば効果的だと思います。
    なんといっても月光の物語ですから。
    とくに今回、彼の月光は絶望モードなので、重さもひとしおのはず。
    彼女に与えるダメージもかなりのものでしょう。

    矛盾を戻すのは無理として、彼の死の明言は私は正解だと思っています。もしいじるとしたら、夢を夢と見せないことでしょうか。
    「一週間前のコンサート会場」と説明すると、一発で夢とわかりますが、そういった説明なしで物語が進めば、状況が読み切れず、読者に不安を与え、重さに繋がるかと。夢とわかるのは最後でいいですし。

    >ラストについて
    まず、批評として言えば、今作でバットでピアノを壊す展開は無理があります。
    前作と同じラストですが、今作では主役が女性です。バットがあってもグランドピアノを破壊するのは腕力的に無理がありますし、発想的にそこに至るように思えません。あれは極めて男性的な感情の発露です。前作と同じラストにこだわらず、今作オリジナルのシーンを模索すべきです。彼女の向かうべき場所が見えるようなラストシーンを。

    さて、ここからは一読者としての感想です。
    希望の音を追い続けた主人公が、その才能故に尊敬するライバルを死なせてしまう。
    テーマとしては前作以上にハードなもので、主人公がピアノを壊したり(無理だけど)、自殺しようと決めるのも無理はないとは思います。

    一方で、「死んで終わり」というのは、いかにも安直な解決法だと感じました。絶望して、自分のピアノを捨てて、彼の後を追うことを願う。綺麗なようで何も生まず、感じられません。

    正しいはずの行動が誰かを傷つけたり、喧嘩になったり、縁が切れたりすることは、大なり小なり人生にはつきものです。自己主張は必ず誰かを傷つけます。表面化するかどうかだけの違いです。彼のピアノの絶望も、これまで彼女を傷つけなかったということはなかったはずですし、他のライバルも多かれ少なかれ傷つけられていたでしょう。

    それは悲しい現実の一面であり、打ちのめされる気持ちは痛いほどわかります。ですが、出した結論が「後追い自殺」というのでは、彼女の人生は何だったのか、という話です。この一点はまったく共感できません。

    傷ついても泥を被っても、人は選んだ道を歩くしかないんです。
    迷っても落ち込んでも、出口が見つかるまで何年かかってもいい。
    ピアノを辞めても、引きこもってもいいでしょう。こんな事件からすぐに立ち直れる方がおかしいですから。
    そういう絶望や苦悩の中でこの話が終わるなら、まだしも納得できます。死を宣言してしまうのは、個人的に完全にNGです。

    何より、彼女は希望を追い求めてきた人間のはず。
    異端の感性ゆえに評価されないという闇の中で、希望の音に縋ってここまで来たはずです。「明けない夜はない」ことを誰より知っている彼女ならば、この無限の闇の中にも光を見出せるのではないか、と私などは期待してしまいます。

    人の命を奪うのがピアノなら、人の命を救うのもピアノのはず。
    彼女を救うものがあるとすれば、それこそ彼女が追い求めた「月光」なのではないか、と。

    そのかすかな光、兆しだけでも感じ取れるようなラストが一番ではないかと、私は思うところです……あくまで個人的な感想ですが。


    ⬜️総評
    ・矛盾はほぼ除去され、呑み込みやすい話に。
    ・前作から減った暗さ、重さが課題か。
    ・ラストシーンは個人的に受け入れがたい。

    細部の突っ込みはしましたが、大きな穴はなくなりましたね。
    ただ、ラストシーンだけは個人的に低評価。
    そこさえ改善されれば、かなり読める作品になると思います。
    あくまで私的な希望ですが、何とかして欲しいところです。
    (脳内では理想的なエンディングを考えたんですが、約束なので例示しません)

    ともあれ、一晩で改訂どころかリメイクを書き上げる筆の早さと熱量は大いに褒められます。その熱を、今度は作品を煮詰める方向に向けてください。
    良作になることを期待します。


  • 【22】深夜放毒(ゆげ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330662283997497


    二十二回目はゆげさんの作品、「深夜放毒」です。
    まずはアンケート回答をご覧いただきましょう。


    こんにちは。
    企画お疲れ様です。

    梶野さんの感想を読んだり、気になる作品にお邪魔したり、楽しく勉強させていただいています。
    今回は参加は厳しそうだと思っていたのですが、盛り上がりを拝見してやはり自分もという気持ちになり、少しずつ書いておりました。
    参加表明させていただきます。
    (間に合ってよかったです)

    ・特に意見が聞きたい部分。

    一話目にちょこちょこ疑問に思われる描写があるかと思います。掘り下げて突っ込まれるかもしれませんが、それが伏線として機能しているのか、それとも不自然に感じられるのか、梶野さんの感想を伺いたいです。

    ・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。

    ぜひお願いしたいです。

    よろしくお願いいたします。


    ゆげさんは前回の「じっくり感想」の参加者で、それ以来何かとご縁が続いている関係です。
    ですが、とある理由で(私も詳しくは知りませんが)カクヨムのアカウントを消し、休筆しておられました。最近、ようやくアカウントを復活され、リハビリ的にぼちぼちと書いておられる感じで、今回の企画も応援いただいたり、参加者の作品を読みに行かれてはいるものの、ご自身の参加はまだちょっと……という感じでした。

    ですが私は、ゆげさんがいずれ参加されると、どこかで期待していました。
    確信というほどではないですが、奇妙な予感があったので。
    なので個人的には、満を持してのご登場です。
    俳句とかを除けば、久しぶりに書かれた小説のはずです。

    ですが……先に謝っておきます。
    ようやく復活されたゆげさんが相手でも、私は優しい言葉なんてかけられません。
    感想は正直に書きますし、問題を感じれば突っ込まざるを得ない。
    この習性は病気なので変えられません。相手が余命わずかでも、正直な感想しか言えないと思います。多分。

    とはいえ、ゆげさんは、そんな私のことを百も承知で参加されたはず。
    その点も、奇妙な確信があります。
    なので遠慮なく、忌憚ない感想を書かせていただきましょう。
    まあ、要するに通常運転ってことです。

    謝るといえば、もう一つ謝っておきたいことがあります。
    実は今作を読む前に、タグを見ちゃったんですよ。
    そこにがっつり答えが書いてあって、伏線をリアルに楽しめない体になってしまいました。考えが足らず、本当に申し訳ない。

    ということで、今回の「読みながら感想」では、例のアレは知ってる前提で読んでるものと考えてください。
    もちろん、最後にアンケート回答にはお答えしますので。

    それではじっくり感想、開始します。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。

    >インスタントラーメンと、トマトと卵
    インスタントラーメンが、袋麺かカップ麺か気になるところ。
    まあ袋麺とは思いますが、早めに明記した方がイメージしやすいかと。

    >幼い私は兄のラーメンにどれだけ勇気づけられていたことか。

    これくらい強い印象なら、「たまに作ってくれる」ではなく「いつも」の方が合ってそう。

    >両親、特に父は私のことを娘だと認めてくれたことなんて一度もなかった。

    ここから始まる過去語りは、現実と分ける意味で、何かしら差別化した方がいいかも。
    前後を二行空けるとか。
    入りは気になりませんでしたが、ため息のところでちょっと引っかかったので、ため息前に二行開けるくらいでちょうどいい気がします。なくても大丈夫ですが、読みやすさを優先するなら。

    内容的にはごく自然で、問題はまったく感じません。

    >両親はその分だけ年老いていて、あれほど怖かった父の背中が前よりも小さくなって見えた。

    「両親はその分だけ年老いていて」は、後の描写で十分だと思います。
    あえて入れるなら母親の変化でしょうか、白髪増えたとか。

    >駅まで迎えに来てくれた両親は初め、
    用法は「初め」で正しいですが、私ならひらがなに開きます。

    >実家ではおしゃれなんて絶対に許されなかったから。長い髪をふわっと巻いて、きらきらのトレンドメイクをしていた私は、まるで別人に見えたに違いない。

    ここら辺、とても上手い書き方ですね。
    話に無理なく、巧みに事実を隠せています。

    >私がメイドカフェで働いていると知ったときの驚いた母の顏、震える父の拳。

    ここもお見事。

    >「わあ、しわっしわのかっさかさだよ、見て」
    ネギとか生姜って、使い切らないと忘れ去られがちですよねw

    >でもね、私がトマトに手こずっているのはたぶんネイルのせいじゃない。久し振りの実家だから? それとも兄がじっと私を見ているから? 手が震える。

    ううむ。
    ここら辺の感情表現は見事ですね。文句なしです。

    >「うーん、あんまり期待しないで楽しみにしとく」

    ありますよね。こういうやりとりw

    >でも、野菜室に冷えたトマトを見つけたときにピンときた。あ、これだって。

    この次の行、「職場近くの~」から先は改行して、『西紅柿雞蛋麵』の段落を独立させた方が、読みやすく印象も強まります。

    >味付けは付属の調味料を使うから絶対に間違いない。

    それはどうかとw
    トマトに合わせるとなると、それなりに種類を選ぶ気もします。インスタントも味はたくさんありますし。
    私なら「多分、大丈夫」くらいにしときます。

    >兄は小さいころから優等生だった。真面目で正直で、そして優しい。いつも後ろにくっついて回る私を、兄は邪険にすることなく甘やかしてくれた。

    ここから無断欠勤の話に飛ぶのは違和感があります。
    会社の話に繋げるなら、兄の普段の仕事ぶり、真面目さ、職種を語るべき。
    このエピソードは、兄を頼って家出した時くらいに回した方が自然です。

    >寝ぼけたままぼんやりと電話に出た私は、まるで心臓を直接掴まれたかのような衝撃に飛び起きた。どこか緊迫した重々しいその声は確かに私の名前を呼んだ。咄嗟に「番号が違います」そう言おうとしたのに、全く声が出ない。ものすごいスピードで心が凍り付いていく。うっかりしていた。実家の電話番号に気付かないなんて。

    ここの描写は微妙。
    名前を呼ばれて「番号が違います」は無理があるというか、「(名前が)違います」くらいがよくある対応では。あと、装飾がやや多いです。私なら、

    「寝ぼけたままぼんやりと電話に出た私は、緊迫した声に飛び起きた。未登録の番号だが、確かに私の名前だ。驚きすぎて声が出ない。うっかりしていた。実家の電話番号に気付かないなんて。」

    >少しの間があった後、父は続けた。
    「少し間を置いて、」の方が。

    >普段の勤務態度から、心配した社長がじきじきに兄のアパートを訪ねた。

    朝に出社しなくて、その日のうちに社長が訪ねてくるのは、流石にリアリティがないです。
    二日や三日連続で出社しなければ、異常事態だと思うのもわかりますが。
    社長が訪ねるのもかなり不思議に思いますが、まあ小さい会社だったり、個人的な親交があるとかならアリですかねえ。あるいは家が会社のすぐ近所とか。

    >兄のスマホはまだ電源が入っている状態だった。

    ここはどうやって確かめたのか気になるところ。
    おそらく電話をかけた結果だと思われますが、「電話は通じても出ない」のか、「電波の届かない地域か電源が入っていない状態」なのか、あるいは「お客様都合で使えない」のか。
    父が連絡した上での情報でしょうが、ざっくりでいいので説明したほうがわかりやすいはず。

    >冷静に考えて、行方が分からなくなってまだ一日も経過していないはずだった。

    ここの根拠がよくわかりません。
    この日は月曜なので、週末が休日なら、一日以上空いている可能性があります。土日休みならなおさら。前日が仕事なら、「兄は日曜出勤したのち」などと添えるべきです。

    >私の電話番号も、兄とは近くに住んでいることも、両親は把握していた。私が知らなかっただけで、私の周囲にはまだつながりが残っていたのだ。

    ここら辺、リアリティがあっていいですね。

    >最近の履歴にいたっては、互いの誕生日に「おめでとう」と「ありがとう」が交互に並んでいるだけだ。

    ここら辺もすごくリアルw

    >バッグにスマホを突っ込み部屋を飛び出す。
    ここは「兄の家へ向かった」とした方が、話が早いです。

    >やっとの思いで到着した兄のアパート、私はただドアの前で途方に暮れていた。

    とりあえず、中に入れるかどうかは確かめるものかと。

    >「……え、お兄ちゃん見つかったって……?」
    ここら辺のあっさり解決する展開も、リアリティが感じられてよいと思いますね。

    >ストレスとプレッシャーによる心身の不調。
    「兄は失踪中どこにいて、何故電話に出ず、今連絡が通じたのか」の説明がざっくりとでも必要です。

    >私たちはタクシーに乗った。
    アパートから遠くないのにタクシーを使うのは、歩けないほど憔悴してるということですかね。ここら辺も、病院に来るまでの経緯がわかれば想像しやすくなるはず。

    >今はその鉢も枯れて、積み重ねたゴミ袋の陰に埋もれている。

    これは会社がブラックな予感……

    >私は静かに立ち止まった。
    「私は静かに中に入った」の方がスムーズ。

    >「部屋、綺麗になってる。たか、あ……えっと……ごめん」

    ま、普通はここで気づくかと思います。
    バレたら困る筋書きでもないですし、頃合いではないかと。

    >本当はこんな姿誰にも見られたくなかったよね。

    ここら辺の兄妹らしからぬ気遣いも、彼女の生い立ちの説明があるので、共感できます。ああいう人生を送っていれば、知られたくない気持ちに意識も向くだろうなと。とてもいい場面だと思います。

    >それから帰りの電車で、人目もはばからずにずびずび泣いたんだっけ。

    ここは「ずびずび泣いた。」で切る方が自然。

    >目が覚めたときの不っ細工な顔を見て今度はげらげら笑ったんだった。

    ここも「笑った」の方がいいです。
    ここまでの回想中、過去語り的な言い回しはなかったので。

    この後の締めの一文で、回想であることは十分に伝わります。

    >深夜放毒

    >麺とかやくをぽこぽこと沸騰する赤いスープに入れ

    おっ、麺もまとめて茹でちゃうタイプですか。
    まあ深夜飯にそこまで手間暇かけませんかねw

    >途端にたちこめるとんこつの香りが食欲を刺激する。

    飯テロ開始。

    >今まで食べたことない味だけど、すっごく美味しいよ、これ。

    トマトラーメンも昔に比べて普及しましたよね。
    酸味を卵の甘さで中和する感じが好きです。相性がいい。

    >私も箸を握り直し、丼に手を添える。まずはスープから。うん、美味しい。濃いとんこつスープなのに、トマトが溶け込んでさっぱりしている。卵もふわっふわだ。でも何と言っても葱だろう。もちろん新鮮なものには味も食感もかなわないけど、萎びていたせいか噛み応えがあって、それが逆に絶妙なアクセントになっている気がするのだ。

    確信的飯テロw

    >嫌いなものは最初に食べてしまおうとするのは、小さいころからの兄の癖だ。

    兄の真面目な気質が伺えていいですね。

    >胸がつきんと痛くなる。
    「つきん」ってなんだ?と最初は思いましたが、「ずきん」を軽くしたものですかね。
    そう思うと、アリな擬音に感じられます。

    >初めてだらけで不安と緊張でいっぱいだったころ

    ここは「初めてだらけで」は抜いた方がいいです。全文の例で十分です。

    >『西紅柿雞蛋麵』(xi hong shi ji dan mian)、発音が難しすぎて、何回食べても読み方は全然覚えられないのだけど。

    一字ごとに振ってる辺り、ルビにこだわりが感じ取れます。
    「読み方が覚えられない」という言葉で、地味に嫌味を消しているのもお上手。

    >今は倉庫でのアルバイトもしている。
    ここもヒントですね。

    >兄の『いつか』は社交辞令なんかじゃないこと、私はよく知っている。だからきっと『いつか』本当に遊びに来てくれるんだと思う。そしたらそのときは、本物の『西紅柿雞蛋麵』を一緒に食べに行くんだ。

    特別な表現があるわけでもないのに、この部分にいたく感動しました。

    >「ううん、辞めないよ。実際仕事は大変だけどね、すごくいい会社なんだ。社長にも恩があるし、今の会社が本当に好きだから」

    ブラックの洗脳入ってないか気になりますが、まあ社長が気にかけてくれたり、すぐ休みくれる部分で大丈夫ぽい、かな。

    >ゆっくり体調を整えながら、兄は資格のための勉強を続けている。ずずっ、ずずっと二人分のラーメンをすする音が響く。

    ここを一行にまとめると、ラーメン食べながら勉強してるようにも見えます。
    勉強の話は既に出てるので、ここは省いていいかと。

    >私も私だ。「久し振りに帰ってきたらどうだ」なんて言われて、のこのこ戻って来るなんて。

    ここら辺の家族との距離感が絶妙ですね。

    >『妹が作ってくれた』
    この展開はポイント高いです。
    私ならここに感動シーンを集中させるかも。
    でも、自分に名付けた名を兄が初めて呼ぶと言うシーンもいいので、現状がベストな気もします。まあ贅沢な悩みですね。大変エモい場面だと思いました。

    >なんで。なんで。もう無理だ。どでかい何かが一気に押し寄せてきて、あっという間に決壊した。

    まさに押し寄せるような感情表現で、圧巻です。

    >堰を切ったように涙が噴きあげる。
    でも「噴きあげる」はどうかと思いますw
    「溢れ出る」あたりで十分だと。

    >そうだよね。間違いなんてないのかもしれない。でも私は。男の子として生まれてきてしまったこと、例え間違っていなかったとしてもすごく悔しい、悔しくてたまらないんだ。

    ここら辺のくだり。単純に「間違ってない」で終わらない、終わらせられない思いが詰まっていて、息を呑みました。絶賛します。

    >家の中にも残っているたくさんの、かつて孝志だったころの痕跡が、私を責め立てる。

    細かい指摘ですが、「家の中に残されたたくさんの、」の方がいいはず。

    >全部、見ないふりをして、私は必死に心を保っていた
    ふううむ。そういうものなんですね。

    >今はそれで十分なのかもしれない。
    ここら辺のバランス感覚が、大変好ましい。

    >兄を元気づけたいなんて、おこがましかったんだ。励まされたのは私のほう。私は自分が癒されたいがために、兄とラーメンを食べているのだろうか。それとも、私たちはただ傷の舐め合いをしているだけなのだろうか。わからない。

    ここら辺も絶妙なバランス感覚だと思います。

    >最後に丼をかかえてトマト色に染まったスープをすする。はあっと息を吐いて顔を上げると、先に食べ終えていた兄と目が合った。お腹が満たされる。生きていることを実感する。兄の笑顔が照れ臭い。私はわずかに残っていたスープを一気に飲み干した。お腹の底が、ずっしりと温かかった。

    最後、私なら「温かくなった」にしますかね。
    それ以外は文句なしの締めくくりです。
    心を揺さぶられる、よい作品でした。


  • 【22】深夜放毒(ゆげ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330662283997497


    ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    中国語で「飯テロ」くらいの意味ですね。
    オリジナリティは抜群ですが、残念ながら今作にはそぐわないと
    感じました。どうしても「放毒」はキツいイメージが先に立ちます。
    これが猥雑なコメディならベストマッチなんですけどね。

    もっとゆったりした、味わい深いタイトルの方が合うのではないかと。
    「西紅柿雞蛋麵」の方をタイトルに格上げすることを私は推します。夜に食べる手作りのラーメンが、テーマを内奥してる気がしますし。
    「深夜放毒」は、一話目のタイトルにどうでしょう?
    別に二話目のタイトルを考える必要はありますけど。

    ・文章について
    前回同様、派手でも個性的でもない、でも味のある文章ですね。
    いかにもゆげさんらしく、懐かしい感じがします。

    去年の参加作品と比べて、伏線の貼り方や仕込みが上達したように思います。
    男の娘については、残念ながら先にタグを見てしまったので、リアルタイムの驚きは得られなかったんですが、分析する限り、問題なく隠せており、ヒントも過不足なかったかと。
    特に両親との過去のくだりを、肝心の要素を抜いて語りながら、読者に違和感を与えない工夫は秀逸で、舌を巻きました。

    文章に執着する人間にしかわからないかもですが、相当のこだわりがないとあんな文章は書けないはず。いや、大したものです。

    繊細かつ大胆な主人公の感情表現も、ストレートに胸にくる感じで絶賛します。
    不幸な半生と今の自由、まだ抜けない棘のような両親と実家の存在が、余すところなく描かれていました。まあここは内容にも被りますが、平易で味わい深い文章表現あってこそだと。この組み合わせは、なかなか強烈でしたw

    細部は突っ込みましたが、例によって重箱の隅なので気になるところだけ見てもらえれば。
    この上手い人への定番コメントを、ゆげさんに書いてる時点で、成長が窺えるというもの。感慨深いです。

    ・内容について
    完成度の高い、感動的な物語だと思います。
    正直、ここまでお見事な作品が出てくるとは思いませんでした。

    ゆげさんの作風である、素朴さや素直さでヒューマンドラマを内包する作りは変わることなく、完成度を高めて来たのですから、誉める他にありません。

    今回は特に、物語の設定におけるきめ細かな配慮、読者の望む情報の過不足ない、そして巧みな配置を高く評価します。前回突っ込んだ部分ですが、見事に克服してきた感があります。細部には穴もありましたが、ほぼほぼ問題ないレベルでした。

    男の娘の主人公と心を病んで休職した兄との交流に、思い出の深夜ラーメンを合わせてくるのもいいセンスです。夜中にラーメンを食べたことのない人はまずいないでしょうが、あの独特の安心感、満足感は強い共感を呼べますし、この物語のテーマにもマッチしています。

    台湾料理という変化をつけつつ、材料がなじみ深いので味を想像しやすく、身近に感じられるよう計算されてるのもお見事。まあ計算じゃないかもですが、だとしたらセンスだという話です。前作同様に食べ物の描写は的確で、グルメものとしても楽しく読めました。

    性同一性障害、でいいんでしょうかね。
    結構重いテーマではありますが、これをふんわりとかき卵のように包み込んだ、柔らかな語りが魅力的です。そして時々見え隠れするトマトの酸味。その苦みが、単なるハッピーエンドではない現実味を与え、物語を奥深くしていると感じました。
    これをあらかじめ計算づくで書き上げられたなら、脱帽ものです。

    細かなツッコミは「ながら感想」で終えてしまっているので、こちらで特筆すべき部分はまったくないくらいなんですが、あえて言うなら「男の娘」タグですかね。
    前述した通り、タグを先に見てしまったせいで、仕込みを楽しめなかった面はあります。私ならタグを消してしまうと思いますが、「男の娘」の話をこそ読みたいという読者もおられるでしょうし、悩ましいところ。
    まあ、これは二択の問題なので、ゆげさんが決められるべきことだとは思いますが。

    ・アドバイス回答について
    >一話目にちょこちょこ疑問に思われる描写があるかと思います。掘り下げて突っ込まれるかもしれませんが、それが伏線として機能しているのか、それとも不自然に感じられるのか、梶野さんの感想を伺いたいです。

    「男の娘」に関する部分ですよね。
    先にタグを見てしまったので主観的ではないですが、客観的に読む限り、問題があるとは思いませんでした。むしろ見事に隠されているなと舌を巻いたくらいです。
    まあ、ゆげさん的にどこでバレる想定かにもよりますが、梶野的には太鼓判を押せると言っておきましょう。


    ⬜️総評
    ・兄妹の傷ついた心に、夜のラーメンが効く。
    ・素朴だが巧みな文章力。伏線の隠し方も絶品。
    ・ハッピーエンドに収まらない現実味が味わい深い。

    読んで心温まる、そしてそれだけではない作品でした。
    完全復活を名乗るに相応しい出来栄えではないでしょうか。
    絶賛します。


  • 【23】雌雄無色(冬場蚕)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330659348681604


    予告した月曜日をちょっと過ぎました。申し訳ない。
    二十三回目は冬場蚕さんの作品、「雌雄無色」です。
    作品ジャンルは、「百合」。

    ……百合率、なんか高くないですかね?
    世間で流行ってるんですか?
    それともコンテストとかの都合?

    まあ百合にもソフトからハードまで色々ありますが、今作はガチ寄りの作風だと見ました。
    問題は、結構大きなどんでん返しがあったこと。
    なので、本当に作品を楽しみたければ、この感想を読む前に本編を読んでおくことをお勧めします。出来るだけ隠しましたが、やはりネタバレに触れずに感想は書けませんからね。

    冬場蚕さんのアンケート回答は、こちらになります。


    梶野さん、初めまして。
    冬場蚕と申します。
    忌憚ないご意見をいただきたいです。

    1)特に意見が欲しい部分
      面白いと思ったかどうか、価値があると思ったかどうかを知りたいです。

    2)「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
     ぜひいただきたいです。

    こういった企画に参加するのが初めてで、不手際などありましたら申し訳ありません。

    よろしくお願いいたします。


    ……ふむふむ。まあいつも通りでよさそうですね。
    価値のなんたるかなんて、梶野が決めることではありません。
    梶野が認めなくても世間で売れてる作品なんて五万とあります。誰に何を言われても自分を信じる。これもまた大事なことです。独善にハマると底なし沼ですけど。
    重要なのは、何を価値とするのか、自分の中ではっきりしておくことではないでしょうか。

    それではじっくり感想、始めたいと思います。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。



    >私が誰を好きでも、誰にも関係がないはずなのに、誰もが私と鈴子の関係を嘲笑った。

    それを差別と知ったのは中学生のとき。
    この一文は改行した方が、前後の印象が強まりそう。

    真実から振り返ると、「私と鈴子の関係」という表現は不適切にも思われます。誰も鈴子のことを知らないのですから。

    噂になるとすれば主人公が自分から漏らすことくらいですが、だとすれば何故「女性が好き」という誤解を解かなかったのかという話になります。この部分は上手い説明が必要でしょう。例えば「私は噂に抗おうとしたが、何を言っても笑われる空気なので諦めた」とか。

    >「差別じゃないよ。これは区別だから。異常者と関わりたくないのは普通でしょ」

    今どき、性趣味が理由でここまで大規模ないじめになるとはちょっと思えませんが、まあそういう地域もあるかもしれません。私なら他にも何かしらいじめられる理由をつけて補強しそう。態度とか家柄とか。

    >善意の皮を被った自覚のない悪意に、いっそ笑えてしまった。

    なかなか辛辣でいいと思います。
    この友人の態度や台詞は、いかにもいそうで悪くないです。
    テンプレ通りではありますが。

    >私はその手を振り払い、残りの学校生活もいじめられて過ごす覚悟を決めた。

    そこまでして登校に固執する理由がいまいちわかりかねますが、まあ誇り高い性格なんでしょうね。

    >好きなところはいくらでも出てくるが、どれだけ出しても不十分だし、不適切な気がした。無口なところも、歯並びがいいところも、名前が鈴子ということすら愛していたけれど。

    悪文寄り。
    私なら「好きなところはいくらでも言えるが、どれだけ並べても足りない気がした。無口なところも、歯並びがいいところも、鈴子という名前も愛していた。」

    >同じくらい違うベクトルで鈴子のことを好きな私にも良くしてくれた。

    「違うベクトルで同じくらい鈴子のことを好きな」の方が読みやすいはず。

    >だから、私は私の愛のため、どれだけつらくたって、中学校を一度も休むことなく卒業した。

    流石にこの感覚は理解できません。学校と鈴子は全く無関係では?

    >私はあえて中学の同級生が誰も選べないような、偏差値の高い高校に進学した。

    「あえて」の意味がわかりません。
    普通は可能な限り偏差値の高い学校を目指すものです。ランクを下げたとかなら「あえて」もわかりますが。

    >頭のいい人なら偏見もないだろうという偏見もあった。

    皮肉が効いていて、いい感じ。

    >私はいずれ県外に出る。具体的には大学に進学するタイミングだ。

    進学しなければいいのでは?
    鈴子のそばにいる以外、他にやりたいことがあるようにも見えませんし。

    >当然、そこに鈴子を連れて行くことはできない。

    どちらの意味から見ても、常軌を逸した発想です。
    まあ主人公が壊れかけている描写としてなら、一応納得はできます。

    >温厚な鈴子の母も、このときばかりは渋い顔をした。いや、誤魔化すのはやめよう。あのとき、あの人は、はっきりと嫌な顔をしていた。

    どっちの意味でもそりゃそうだとしか。
    私が母親なら合鍵渡したのを後悔するレベル。

    >夫に先立たれた私には、鈴子しかいないの。

    いや、それ以前の問題でしょう。

    >それにもうあの子も長くないわ。
    一読目は「親の言うことか!」と思いましたが、飼い犬ならまあわかります。逆に上手いかも。

    ただ、主人公がこの発言を完全にスルーしてるのはおかしいです。進学で別れる以前の大問題のはずですが。話の帳尻を合わせるなら、削るべき発言でしょう。

    >私と鈴子の関係を嘲笑い、蔑み、見下してきた世界に、持て余すほどの怒りが湧いた

    ここも一読目は共感できたんですが、噂が誤解だとわかると腑に落ちません。作られた怒りのように思えます。

    >もし鈴子と私が、誰にでも理解される関係だったらきっと、事故に遭ったときすぐに電話をもらえていた。

    それはどうでしょう。
    ぶっちゃけ母親の配慮にも一理あるので、あくまで母親個人の感覚の問題なだけと思えます。
    相手が男性だったとしても連絡をためらいそう。急死ならなおのことです。合鍵を渡してることから見ても、二人は家族同然のつきあいなんですから。

    「普通の恋人同士なら連絡がもらえた」と確信させる確には、このケースでは難しい気がします。
    「主人公は母親と親しくはなく、鈴子の死を遅れて知らされ激しく憤るが、逆に母親に引かれてしまう」ような展開でないと。

    >そもそも鈴子への愛情を誰かに共有できたはずだし、お母さんだってもっと私の気持ちを重く受け止めてくれたはずだ。

    いやあ、母親は最大の理解者に思えますよ。
    何年も鈴子のために毎日通い詰める隣人に合鍵渡しちゃうんですから、相当な深さの理解だと。普通なら不審者扱いでしょ、こんな人。

    >身を引き裂かれるような悲しみが、脳が溶けそうな怒りが、血の吹き出しそうな悔しさが、涙を作り続けた。

    文章自体はとてもいいと思います。
    ただ、怒りの出どころがふわふわしてて、よくわかりません。ここまで激しい怒りなら方向がはっきりしていそうなものですが、そうでもないし。いじめはこの件は無関係ですし、母親もここまで恨まれることしてませんしね。

    >構内ですれ違う誰も彼もが刹那的な楽しみに身をやつし、過去の挫折も苦悩も、栄光でさえ擲っている。

    擲つ(なげうつ)はルビが欲しいところ。

    Fランクならともかく、そこそこ上の大学なら、こんなことはないと思いますがねえ。もちろんこういう人がいるのは間違いないですが、全てではないはず。周囲に集まるのはやはり類友が多いものです。

    ま、主人公の主観であると言えばそれまでですが、主人公の人生の薄さが気になります。

    >いつまでも鈴子の死を心にぶら下げて規則的な苦しみに悶え、

    「規則的」より「周期的」の方が。

    >周りと合わせて人生を謳歌することもできず、

    平穏だった高校でもそんな話はなかったので、元々そんな望みがあったようには見えません。

    >かと言って首をくくれるほどの情熱もなく、私はいつでも中途半端に死んでいた。

    そもそも、そこまでして大学に通う意味が、この主人公には感じられないというか。このメンタル状態で通学する必要があるのかとすら思えます。

    >男子からはAVを見させられ、逐一感想を聞かれた。

    普通に問題行動だと思いますが。
    クラスの女子がこれに全スルーとか、あります?

    私は男性なので女性の反応はわかりかねますが、男に関して言えば百合への反応は理解かスルーですよ。いじめに加担する展開が想像できません。他の理由があるとしか。

    >「大丈夫? 具合悪いなら一回でよっか」
    >そう言って私の手を引いた。

    思い出させる展開としては順当。

    >「私は、あなたの秘密を知ってる。だからそんな邪険にしないで」

    いきなりのクズ発言でびっくりします。
    なんなんだこのキャラ。

    >そして、残虐にする。
    ここは改行せず、前文から続けたほうが流れが綺麗だと思います。

    >「改めて、あのときは本当にごめんね。私ずっと後悔してたんだ。あのとき私が、ちゃんと分かっていればいじめなんて起こらなかったかもしれないのに……。祥子ちゃん、まだ女の子が好きなんだよね。まだって言い方も失礼か。ごめん。鈴子ちゃんだっけ? 付き合ってたんだよね。まだ続いてるの?」

    超早口で言ってそう。
    クズ発言がなければ、まだしも耳も貸せるんですが。

    >「そうだね。死別だけど」
    普通に考えれば、こんな相手に絶対言いたくない話だと思いますが、まあ騙すための撒き餌なんでしょうかね。

    >そんな、足とか胸とか出しちゃってさ
    そういうのを「夏らしい、涼やかな格好」とは言わない気がします。足はともかく、胸は。

    >「なんで目逸らしちゃうの? 詩織ちゃんかわいいのに」

    この先の口説き場面は、悪趣味過ぎて辟易。

    >「そんな悲しいこと、もうこれからは私が言わせないから。私だけはあなたを分かってあげられるから」

    ちょっとやられ役が鼻につきすぎますね。

    >私はあとでしてあげようと思って、こう言った。

    ここは流石にやりすぎだと思います。
    主人公は詩織に一発かます気しかないので、内心でこんなことを考えるとは思えません。ましてや趣味でもないんですから。

    >唇を離し、私はささやくように続けた。

    やっちゃうんですか。大学のカフェで。
    「過去をバラされたらヤバい」と思ってついてきたのに。そんな嗜好もないのに。
    果てしなく理解不能で、共感が一切なくなりました。

    >「そっか、言ってなかったっけ。鈴子はゴールデンレトリバーの名前だよ」

    一読目は完全に騙されました。
    その点は褒められるんですが、どうもカタルシスがないというか。話の本質から遠ざかったというか。

    >しまった、という顔したが、それ以上に彼女の中で嫌悪感が勝ったようだ。口を洗い流すように、ジュースを一気に飲み干した。

    えっ、ペットとキスする人、結構いません?
    まあ衛生上よろしくないとは思いますが、ここまで嫌悪感が出ますかねえ。眼の前で犬とキスした後とかならまだしも。

    それより、普通はまず「犬が好き」の程度について訊ねそうなものです。頭から信じられる話でもないでしょうから。

    >言いかけたのを、キスして遮った。詩織は私を突き飛ばすようにして離れた。

    主人公がキス連発するのも謎過ぎますが、この状況でキスされてしまう相手も大概です。普通は距離を置きます。

    ここまでの嫌悪感を引き出したいなら、「犬と性的関係にある」ところまで振り切った方が、納得できると思います。

    >女同士の恋愛が普通だと思う人がいるし、犬との恋愛が普通だと思う人もいるの。

    犬との恋愛というか、犬(メス)との恋愛、なんですよね? でないと「女の子」と連呼していたこととの整合性が取れないので。

    >詩織は震える手でおしぼりを受け取ると、グロスが取れるほど執拗に唇を拭った。

    ここはなかなかいい描写。

    >「……もう二度と話しかけてこないで。金輪際。一生」

    啖呵はかっこいいですが、私には「大学中に犬好きの噂が広まる」未来しか見えません。こんなことして大丈夫?

    ううーん。
    読後感はなかなかに最悪ですね。
    狙ってこれだと言うなら何も言えないんですが……ううーん。


  • 【23】雌雄無色(冬場蚕)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330659348681604


    ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    意味がわかるような、わからんような感じ。
    加えて字面が地味で印象薄く、タイトルとしては褒められません。

    何より、このタイトルには真の結末は示唆されていません。あとから見て「なるほど」と腑に落ちるようなタイトルがいいのでは。

    私の提案としては、「シリウス」をタイトルに絡めてみてはどうでしょうか。
    シリウスは冬の大三角の一角で、ギリシャ語で「焼き焦がすもの」「光り輝くもの」を語源とする一等星。おおいぬ座の星で、英語では別名Dog star、中国名は天狼。
    この話の象徴として、ぴったりだと思います。

    ・文章について
    安定感があり、書き慣れておられる印象です。
    一人称の今作に限れば、指摘が必要な個所はほぼありませんでした。
    誤字脱字のチェックも行き届いています。

    会話や文章の繋ぎにもおかしな点は見られず、安心して読めました。
    少なくともこういった作風で書く限り、文章面でアドバイスすることは私からはないと思います。

    ・内容について
    うーん。評価が非常に難しい感じですね。

    言葉を飾らず率直に言わせてもらえれば、今作を読み終えて最初に出た感想は「胸糞が悪い」でした。

    鈴子以外の世界から目を背け、恋欲から暴走する主人公。
    差別よくないといいながらナチュラルに差別し、脅迫までかます詩織。
    ぶっちゃけどちらもクズに感じられ、まるで共感できません。
    二人が最後にやりあう展開も、糞みそなやりとり以外の何物でもなく、詩織がやり込められて胸がすくこともなければ、主人公に同情するでもなく、ひたすら空虚でした。

    ただ、この胸糞悪さこそが、作者の狙いだとしたら、それは成功してると言えるでしょう。私の個人的な好みではありませんが、そういう方向の物語や終わり方が好きという向きもあるかもしれません。ですので、もしそれが主旨だという話であれば、私の評価はここまでとなります。私は不条理系や悪趣味系の小説の造詣は深くありませんので。

    そうではなく、もし何かしらのテーマやエンタメ性があり、それを伝えることに失敗しているという前提であれば、私なりにアドバイスも出来るかと思います。

    以下、思いついた問題点を書き出してみましょう。

    >テーマが見えない
    この物語の感想が空疎なのは、「作者が何を伝えたいのか」が不明瞭なことです。

    私は一読目、百合物というタグを受けて、真面目に主人公の気持ちに寄り添い、出来るだけ気持ちを汲もうとしながら物語を読み続けました。話はどんどん重くなり、主人公は報われること話は進み続けましたが、世に認められない恋をした主人公がその果てに何を見出すのか、或いはどんな人生を選ぶことになるのか、つまり「何かしら結論が出ること」を期待して読んできました。

    ですが、この話の山は「恋人が女性ではなく犬だったこと」で、ラストも詩織に八つ当たりするだけでした。

    「恋人が犬」という真実それ自体は、なかなか面白いです。
    精査しましたが致命的なミスもなく、見事に隠しきっています。
    (設定的にどうなの?とは思いましたが。後述)

    ですがその事実は、百合小説だと思って読んできた読者にすれば裏切られたようなものであり、私のように何かしらのテーマを期待していた者にも、「確かに意外だけど、それ意味ある?」という受け取り方でした。

    私も最近書いた小説で、似たような酷評を山ほどもらったので書いてて胸が痛いのですが「、どんなに意外性のある展開でも、読者の期待に応えない限り、何の意味もない」のです。
    驚きはあっても感動はない、と書けばわかりやすいでしょうか。

    もしこれが、「犬が好き」という事実によって、別の側面、別のテーマが立ち現れて、ここまでの彼女の主張が一気に別の色を帯びて輝き始める……という感じならいいんです。むしろ絶賛ものです。

    でも残念ながら、今作はそうではありません。
    三度ばかり読み返したものの、彼女の主張はいわゆる差別などの表層的な意見に過ぎず、詩織にしても単なる俗物と言うだけで、結論らしい結論も伝わってきませんでした。

    物語が深まらなかった最大の原因は、鈴子の正体を隠したことにあると思います。
    彼女が犬であることを隠すため、物語の筋書きや描写は、大幅に制限されます。それ故、突き詰めた展開が選べなかったのではないかと。
    なまじ一人称語りで話が重そうなので、そっち方向のテーマを追求するものだと思っていただけに、せっかくのどんでん返しも肩透かしの印象しか与えなかったのだと。

    もし「鈴子の正体」というどんでん返しで読者を驚かせることを主体にするなら、ショートショートとしてごく短く、淡々と物語を進めることを私なら選んだと思います。その方がオチの切れ味が増すので。

    逆に性的少数者への差別をテーマとするなら、オチを隠し通すことより物語を深める方に舵を切った構成にした方が間違いなく面白くなったはず。勘のいい読者なら「ああ、そういうことか」と悟られるのを前提に、きっちりと主人公の愛憎と世界の歪みを書き切るべきだと思います。どんでん返しに執着しなければ、そこまで持っていけそうなものです。

    >詩織について
    現時点でも「性的少数者でも趣味が違えば相互理解は難しい」的なテーマは見いだせなくはないのですが、詩織のキャラが屑過ぎてまったく伝わっていません。どんなテーマを扱うにせよ、詩織のキャラ改善は必須だと考えます。

    本来、詩織は「自分が善人だと思ってる差別主義者」という立ち位置で、悪意がないのが最大の悪というスタンスを取るべきなのは作者もわかっておられそうなものですが、脅迫に始まり欲望丸出しの後半の展開で、その善意すら危ぶまれ、テーマを担えなくなっています。ここは初心に立ち戻り、詩織を「普通の人」に戻すべきです。誰にでもある本能的な忌避、悪感情、建前の正義などを体現させてこそ、主人公と対比させられるのですから。

    >鈴子の設定について
    鈴子の描写自体はいかにも少女のように書かれており、巧みだと思います。特に「彼女のお母さん」と説明する辺り。ペットでも「お母さん」と呼ぶことはままあるので、なるほどと感心しました。
    フリルの服などもうまく偽装に使えていると思います。

    反面、主人公が鈴子を好きという前提から、どうやれば「女性が好き」という噂が流れるのかが不可解です。

    主人公は当然ですが、自分を「女性が好き」とは言わないでしょう。おそらく「鈴子が好き」と言ったのを、曲解されたのだと想像できます。ですが、その誤解を解くのは簡単で、「鈴子は犬」と本当のことを言えばいいだけです。「犬が好き」には二種類あるわけで、普通は単なる犬好きとしか思わないでしょう。主人公がどうしても真実を言いたいとかでない限り、言い訳にはまったく困らないはずなんです。

    もう一つは、鈴子の正体をクラスの誰もついぞ調べなかったこと。
    中学ということは、ごく近い地域の住人のはず。何年も主人公をいじめ続ける連中が、相手について追及しないとは考えにくいです。何より、その相手が学校に来ていない時点で、「何かおかしい」と思うのが普通で。噂の元になった以上、名前などある程度の情報が知れれば、誰かしら正体を突き止めそうなものでしょう。

    この話が本当に百合の話だったなら、「女性が好き」という話がたまたま漏れてこんな結果になり、それ故に鈴子の存在自体は知られなかったという展開は全然あり得ます。ですが前提がそうでないため、犬を抜いて「女性が好き」という噂だけが広まるという、かなり無理目な設定が必須になってしまった感じ。

    いっそ主人公に嫉妬したクラスメイトが、根も葉もない悪評を垂れ流したくらいの方がありそうです。それにしたって、彼女が一切反論しないのが謎過ぎますが……

    「百合というだけでクラス全員に苛め抜かれる」という、正直ファンタジー的な設定とあいまって、物語からリアリティが欠落している一因ではと思います。

    ・アドバイス回答について

    >1)特に意見が欲しい部分
    >面白いと思ったかどうか、価値があると思ったかどうかを知りたいです。

    はっきり言って、私は面白いとは思いませんでした。
    理由は前述のとおりです。

    価値についても、現時点では薄いと思います。
    どんでん返しには一定の評価をつけますが、テーマに寄与していないので。

    ですが、指摘した部分を改善し、テーマを見つめ直した上でラストを変更すれば、面白くなりそうですし、直す価値がないとはまったく思いません。料理の方法をミスってるというだけの話だと考えますね。

    >2)「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
    > ぜひいただきたいです。

    すでに幾つか改善案を書いていますが、まとめると。

    ・どんでん返しを主軸にするなら3000文字以下のショートに。
     淡々と物語を運び、犬のオチで切って落とす。

    ・差別のテーマに正面から向かうなら、どんでん返しに固執しない。
    ・詩織はあくまで凡人、「善意ある差別者」を徹底する。
    ・主人公も筋道だった思考を持たせ、不幸の中で成長させる。
     達観でも諦観でもいい。壊れてもよい。ここはテーマ次第。
    ・主人公がそこに至る経緯を克明に描く。
     母親が鈴子の死を伝えなかった部分を、もっと抉り込む。
     母親と決裂する、「気持ち悪い」呼ばわりされるなど。
    ・そこで主人公が得た「何か」を、詩織に披露する展開で締める。

    ざっくりとですが、私が書くとしたらこんな感じにすると思います。
    何かしら参考になれば幸いです。

    ⬜️総評
    ・どんでん返しはよいが、胸糞オチは変わらず。
    ・文章はよい。安定して読める。
    ・テーマと構成がちぐはぐで、互いを殺している。

    まずは「何を伝えたいのか」を見直してみては如何でしょうか。
    もし私が見落としていたと思われたなら、「こういう意図で書いた」とおっしゃってください。もう一度、その認識で読み直しますから。
    その上で、「ここがこうだからそう感じられなかった」くらいは書けるかと思います。

    私も苛められた経験があります。
    なので共感できるならしたいところです。
    例え主人公が壊れてしまっても「そうもなるよな」と納得できるなら、物語としては成功してるわけで。

    この感想を奇貨として、この作品が蘇ることを祈ります。


  • 【24】軍人に絶対なりたくない先住民族が、軍隊で下剋上していくお話
    作者(蜂蜜の里)
    https://kakuyomu.jp/works/16816927861851827000


    二十四回目は、蜂蜜の里さんの「軍人に絶対なりたくない先住民族が、軍隊で下剋上していくお話」です。長い。

    蜂蜜の里さんは、例によって企画登録時にアンケート回答をされておらず、あわや抹消になる寸前で気付かれたようです。
    今回、一手間かかる参加方式にしたのは、投げっぱなしの無反応が大半だった前回の反省を踏まえてでしたが、そのおかげか今回は無反応はただ一人(返事を考えているのかも)だけです。

    ろくに説明文を読まない人を未然に弾けるアイデアということで、来年もこの方針でいこうと思っております。

    さて、蜂蜜の里さんの返答はこちら。


    はじめまして、「先住民族…」で参加した、【24】の蜂蜜の里と申します。
    こちらのページを今発見し、慌ててコメントさせていただいております。

    読んでいただき、(改善点だらけ、というもの含めて)感想をいただければ、それだけでとてもうれしいので、ご意見、ご感想、アドバイス等、どうかよろしくお願いします!


    ……うーん。改めて読むと、何も質問に答えていませんね。
    ま、いつも通りの対応でいかせていただきましょうか。

    ちなみに作品も総文字数13000近くで軽くオーバーしてる上、未完結の連載作というアレっぷりですが、まあ今回だけは見逃しましょう。
    おかげで多少締め切りオーバーでしたが、そこはお許しあれ。

    それではじっくり感想、開始します。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。


    >合衆国の英雄

    >南北戦争以来の英雄、先住民族出身のエナペーイ・トールチーフ将軍が欠かせないだろう。

    ワタシの知らない人物かと思い調べましたが、どうも創作上の人物のようですね。先住民族出身の将軍というのも素人的には「ほんまかいな」と思われ、歴史上にモデルがいるのかとざっくり調べましたが検索で見つからず。

    まあ私は知識がないので検証はできませんし、創作なのでどんな設定でも問題はありませんが、リアリティの観点から言うと首を傾げるのは事実です。荒唐無稽な作風ならいざしらず。この後、数奇な運命を経て先住民族から将軍になる話が展開するなら手のひらを返すんですが。

    >差別を決して許さない公明正大な人柄、またその妻カミラ夫人とも非常に仲睦まじい家庭人だったことはあまりにも有名で。

    この程度の話で、歴史に残る名大統領に並ぶ知名度が得られるとはちょっと思えません。

    >戦争における英雄というだけでなく、
    >人種のるつぼで平等主義を精神的支柱におく合衆国の良心でもあった。

    具体的に何をした英雄なのか、知りたいところです。
    一将軍、つまり軍人が国の良心と呼ばれることは普通はないでしょうから。

    >次の章はパーティシーンなので、登場人物がたくさん出ますが、主人公のカミラとアニー、チャールストン大佐、そしてカミラとアニーの父親だけ覚えていただければ大丈夫です!
    >他は(たぶん)この章のみの登場人物です。

    この注釈を見た時点で読むのを止めた読者もいたはず。
    というか、私ならここで読むのやめます。
    「私は下手くそです」と公言してるようなものなので。

    覚える必要のないキャラなら、出さなければいいだけです。
    序盤でキャラを絞るのは基本中の基本。
    会話相手の名前を出さずモブ扱いにするとか、パーティの場面から始めないとか、やり方はいくらでもあるはずです。
    「覚えなくていい」なんて書く前に手を尽くしましょう。

    >また、文章内では便宜上「南部」と呼びますが、より正確には「南部連合(Confederate State of America)」です。

    プロローグがしっかり書けてるなら、この説明も本格派なのかなと期待できるのですが……すでに嫌な予感しかありません。

    >彼氏作るために、パーティに来ました!!
    いきなりラノベになった感。

    >アニー・ウェブスターは、自己中心的とまではいかないが、かなり自分中心に物事を考える女の子だ。

    こんな微妙な説明はいりません。ない方がマシ。
    自己中心的な性格は会話や行動で示すべきです。

    >世界は私のために回ってる、
    >別にそんなことを思ってるわけじゃないけど、
    >でも実際、なんだかんだうまくいくんじゃね?

    読点で改行する意味がわかりません。句点にしない理由は?

    内容も適当で、冒頭からキャラへの興味を失くさせます。まだしも「世界は私のために回っている」と断言したほうがキャラが立つというものです。

    >アニーは赤髪をゆらして、
    >パーティ会場を見まわした。
    いちいち突っ込みませんが、文頭1マス下げはするのかしないのか、徹底してください。

    >銀やガラスの燭台がキラキラと輝き、会場はまるで昼間のように輝いてる。

    描写が少なすぎます。せめて会場の広さや客の多さなど、出来れば当時の文化を踏襲したセッティングが欲しいところ。

    >彼氏欲しい。
    前後の行を開けすぎです。
    そこまで強調すべきネタでもありません。

    >アニーは、
    >自己認識ほどはモテないのか(というか、14歳では当たり前なのだがそのことにアニーは気づかない)、
    >今まで誰かに愛を打ち明けられたことがなかった。

    カッコを使って説明を書くのは、文章表現の放棄に等しいです。上手くなりたいなら、絶対にカッコは使わないくらいの気持ちで工夫してください。砕けた一人称ならまだしも、三人称の小説ではまず見ませんので。

    >(物語のミスター・ダーシーみたいな人がどこかにいるはず!!)

    誰?

    >カミラの緩やかなウェーブのかかった、星々の輝く闇夜のような黒髪と、対照的な真白のドレスが、お辞儀とともにふわりと揺れた。

    まず年頃を書いてください。話はそれからです。

    >キラキラと輝く黄金色の髪に、青い瞳。
    >マリンブルーの軍服に背の高いその身をつつみ、微笑む、その姿。

    なんというか、判で押したような描写。

    >(なお、アニーの心の中には、
    >ウェディングマーチがすでに流れていることを、付け加えておく)

    ギャグならこういう表現もありだと思いますが、ここだけですよね?

    >まるで、幼児が大人っぽい話し方をするのをほめる大人みたいに聞こえるのは気に食わないが、

    ここから

    > でもチャールストン少佐、私を好きそう!
    >まずは第一関門はクリア、といったところか。

    と結論する精神構造が理解できません。
    「子供扱いを後悔させてやるわ」とかならまだしも。

    >「初めまして、ケイド・チャールストン少佐と申します。ウェブスター将軍配下におります」

    普通は自己紹介に階級はつけません。他称ならわかりますが。

    「初めまして、ケイド・チャールストンと申します。階級は少佐。ウェブスター将軍配下であります」くらいで。

    >「どうかしらね。母は、南北の現在の対立関係は、母の祖国で内戦が起こる前の雰囲気に似ていると言っているわ」

    読者にわからない状況を、読者にわからないだろう例えで説明してるんですから、伝わるわけがないです。

    >カミラとアニーは異母姉妹で、カミラのお母さまは南アジアのクルージャ出身だった。

    地の文で「お母さま」て。

    >「こわいわね。でも、戦争はそりゃ避けたいけど、メリーランド州やバージニア州が、まだ北部に残っているのは、正直に言って不思議だわ。リンカーン大統領の言うような、奴隷解放に必ずしも賛成できないし。うちの奴隷たちの扱いを、『アンクル・トムの小屋※』のようなものだと思われては困るわ。たぶん、どこのおうちもそうだと思うし、『アンクル・トム』はあまりに悪意があると思うの」

    アンクル・トムくらいは知ってますが、北部の状況とか以前に主人公たちはメリーランドとかバージニアがどことか、どこまで北部なのかとか全然わかりません。
    そもそも主人公たちはどこの州の人間で、南北どちら側なんですかね?

    前提の説明をすっ飛ばしてるので、まるで耳に残りません。

    >なんか、難しすぎてわかんないけど。
    読者の代弁者としては、アニーの無知設定は悪くないと思います。
    ちゃんと機能してくれれば、ですが。


    >実は、星条旗好きなんだよね(なんとなくテンションあがる)

    >産業革命が進んで、しかも移民の多い北部には、奴隷の人たちの低賃金の労働力がさらに必要で、だからこその権力争いの面がある

    この説明だとよくわからないので、軽く調べました。
    奴隷解放することで、自由になった奴隷が北部で働くことを期待した、みたいな話ですね。まあそうはならなかったようですが。

    >カミラって、勉強もできるんだよね。
    何に対しての「も」なんでしょう?
    とくに説明はなかったことにはずですが。

    >そんなアニーとは裏腹に、少し怒った様子になったが、マーガレットはすぐ気を取り直したように笑顔になった。

    悪文。
    「そんなアニーとは裏腹に、少し怒った様子だったマーガレットはすぐ気を取り直した。」

    >いや、専門の軍人たちは
    「専門の軍人」とは?
    軍人は専門職だと思いますが。

    >「私もカミラも、だいぶ突っ込んだ話をしていたと思うけど、あなたには負けますわね。そんな真正直では、軍人さんとして生きづらいのではなくて?」

    当時の世論の説明がないので、突っ込んだ話と言われても「へー」くらいの感じです。

    >「わかりますか?そうなんですよ。だが、こういう自分は変えられない」

    単に軍人に向いてないだけでは……

    >(もちろん、マーガレットには、アニーがチャールストン少佐ねらいだということはすぐにバレてしまったが、まあそれはいい)

    説明すると余計に陳腐になります。

    >マーガレットと二人でしばらく話していた、
    >そのしばらく後に。
    >トランペットの音が大きく鳴った。
    >わ、びっくりした。

    小学生の作文ですか?

    >その声を聞いた、
    >アニーと、そしてアニーから少し離れた場所にいたカミラは、縁台の方へと歩み寄った。

    不要な描写。

    >リンカーン大統領は、自身の妻メアリーとウェブスター家が縁台に立ったことを確認し、口を開く。

    「縁台」って野外の腰掛けですよね。
    「演台」だと思うんですが、それにしても何故、家族が演台に??

    >大切な家の半分※
    脚注いらないです、ここ。

    >私たちやマーガレットが住んでるメリーランド州も、南部って言ってもいいけどね。
    >だから、南部か北部かって、すごい微妙だよね。

    まず最初にこの情報を出すべきでしょう。

    >誰よりも聡明、かつ慈悲深く素晴らしいクリスチャン精神を持つ、我らが最高司令官

    普通はまず強さを称えませんかね。軍人なんですから。

    >あれ、なんか、おかしいな。
    >傷だらけの合衆国の国旗を見てたら、胸がドキドキ高鳴ってきた

    全然、共感できません。
    恋人探しにパーティに来たキャラですよね?

    >「我々は、正義を前に、嘘はつけない!真のアメリカ人として、国をふたたび一つにすることを、今ここで神に誓おうではないか!!」

    大統領に皮肉を言うとか、気骨ある老人かと思いましたが、全然そんなことはなかった。

    >その熱気のまま、軍服姿の若い男たちがウェブスター将軍を取り囲み、そのままウェブスター将軍は若者たちに胴上げをされた。

    アホみたいな展開ですが、アメリカ人ならやりそうだから困る。

    >なお、この闘いでの死者は北部側1名のみであった
    調べたら戦闘での死者はゼロですね。
    戦闘後の礼砲が暴発して死んだそうで。


    >こいつ初対面だけど、好きになれない

    >「もう一回、いや、4回くらい、パーティ開かないかな?」

    漢数字か英数字か、統一してください。

    >ペンシルベニア州のゲティスバーグ郊外にある父方の祖母の家に、休暇がてら向かう予定だった。

    ゲティスバーグはおろか、ペンシルバニア州の位置も、何ならワシントンD.C.の位置も知らないので、まったくイメージが湧きません。

    >「戦争は、あらゆる力の総決戦であることは古代から変わらないし、その生産能力については、北部は南部を圧倒しているわ」

    パーティで戦争反対的なことを言ってたはずですが、開戦に何の感慨もない辺りが、人間らしさを感じさせません。

    >「ええ。不安要素といえば、ここ、メリーランド州やデラウェア州、ケンタッキー州、そしてバージニア州を始めとした、奴隷制度容認の立場につく、北部側の地域かしら。
    >これらの地域が最終的にどう動くかで、戦局は変わるわね」

    南北戦争の基本をすっ飛ばして、考察から入るのやめてもらえませんか?

    >外から、馬がいななく声と足音が聞こえ、来客かと二人で窓に寄った。

    家の中のシーンだったんですね。
    描写が皆無なので、まるでわかりませんでした。

    >「Lieutenant MacGuire, working under General Websters’ headquarters! (マグワイア中尉、ウェブスター将軍司令部に所属しております)」

    何故に突然、英語表記?

    >うわ、うさんくさ。
    > 目が死んでる。
    なんか速攻で見抜いてますけど、根拠何かあるんですか?
    目が死んでるとかでなくて。

    >初対面で人を判断する性格を、カミラにいつもたしなめられてはいるが。
    > この人、なんか好きじゃない。

    別に直感でもいいんですけど、もう少しこう、説明を……

    >ウェブスター将軍に直訴するため、こちらに立てこもる恐れがございます。

    「直訴に来る」ならまだわかりますが、何故に「立てこもる」必要が? 飛躍が過ぎるとしか。

    >少し考え込んだカミラは、そっと微笑んだ。
    >その瞬間アニーは、今までの人生で一番、カミラを美しいと思った。

    人生で一番なら、それに相応しい表現を。

    >「お父さまの、signature(サイン)ですね」
    だから何故英語……?

    >ネイサン、ご令嬢たちに付き添うように」
    この家には、姉妹しかいないんですかね?
    使用人なり私兵なりいそうなもんですが。軍人の家ならなおさら。
    なんで怪しい来客を放置してるのか、意味不明です。

    >「アニー、おそらくあの男たちはお父さまの敵だわ。時間との勝負なの。馬で、ポトマック川まで向かって、ワシントンD.C.に船で向かいましょう」

    この家に姉妹二人しかいないなら、そういう選択も仕方ないかなと思いますが。他の人間は何をやってるんですかね。
    軍人なら武器の備えとか、当然のようにありそうなものですが。

    >ポトマック川の船渡しに向かってひたすら走って、走っても、到着まで、まるで永遠のようだ。

    地理の説明がないので、そう言われてもちんぷんかんぷんです。
    せめて距離とか、何時間かかるのかくらいお願いします。

    >返事した男が、のんびりとした眼差しを、のろのろとこちらに向けたが、動こうとはしない様子に。

    敵に買収されてるのかと思いましたが、単に怠けてるだけですか。
    というか、地元じゃ有名じゃないんですかね。将軍の令嬢って。

    >「すまないが、急いで出立してくれないか。レディたちは何か事情がありそうだ」

    こう書くと二人を置いて出立しろ!に聞こえます。
    まだチケット売ってる段階でしょ。
    というか、こういう船って定期便じゃないんです?

    >さすがの船員も目を見張り、若者からお金を受け取って、せかせかと動き始めた、

    何故、この若者が金を出す必要が?

    >「サッシュの銃をお借りします」
    >そう言って、カミラの腰につけていた銃をさっと奪った。

    ただの泥棒では?
    自前の銃はないんですかね。アメリカなのに。

    >「戻らなければ、お前たちの家の人間を、皆殺しだ!!絶対に、許さないぞ!!」

    あ、家の人いたんですね……何やってたです?

    >生まれて初めて、出会った理不尽な悪意で。
    >思わず体の向きを男たちの方に向けたアニーを、
    十四歳のお嬢様が理不尽な悪意に初めて触れたら、怒りより恐怖が先に立ちそうなものですが。

    >「早く安全な場所に!
    >お家の方々の、身の安全のためにも!」

    完全にただの気休めですね。
    人質に取られてるようなもんでしょ。

    >その言葉を聞いたカミラが、アニーを足速に船内へ連れて、強く抱きしめられた。

    途中で主語が変わってます。

    >そうされるうちに、胸の内に広がっていた殺意と怒り、そして恐怖が、だんだんと収まってくる。

    こういう場面は、殺意と怒りと恐怖を描写してからにしてください。

    >そうして出立した、小型の蒸気船は、
    >いったん海に出てしまえば、あとは速いスピードで進む船に任せられる。

    文章の繋ぎが無茶苦茶です。

    >「こちら、お返しいたします」
    何のために借りたの?

    >「本当に、何てお礼を申し上げれば良いのでしょう。私たちを守ってくださって、ありがとうございました」

    いや、特に守ってはいないでしょ。
    船員を急かしたくらいで。せめて銃撃戦くらいしてほしい。

    >歳を取った方の船員が、コーヒーを差し出してくれる。

    船員二人の船で、コーヒーのサービスが!?

    >コーヒーを持つ自分の手が、震えている。
    >船に乗っているから、その振動のせいかと思ったが、身体の内側から来る震えのようで、船に乗るまではまるで夢の中にいるみたいだったのに、やっと実感が湧いてきたようだった。

    なんでここのアニーの心情だけ三人称なんですかね。
    ずっと一人称で内心をぶちまけて来たのに。

    >「これから、合衆国はどうなるのかしらね」

    合衆国の前に自分たちの心配をすべきかと。
    あと置いてきた家の人間とか。

    >メキシコ戦争帰りだが、腹は壊すし、いいことなしだったしなあ

    戦争に行って「腹を壊す」が一番の記憶というのも凄い。

    >「じいさんの戦争話はうんざりだ。俺はうんと金持ちになって、両親や妹たちに楽をさせてやるんです」

    こういう若者の感覚はありそうな気がします。
    現代だと噴飯ものですが。

    >「13と12です。かわいくて、もう」
    >「わかるわ」
    でもこの会話の流れで、カミラが若者を諭さないのは謎。
    優しくて頭がいい設定ならなおさら。

    >家の皆のことは、司令部の皆さんにお任せするのがいいと思うわ

    自分の家に警備も置かない時点で、将軍の才覚にケチがつく感じ。
    私なら最低限警備は置いて、それでも抗えないほどの人数や武装でやって来てるとかにしますかね。

    >「到着ゲートからワシントン砦まではどのくらいかしら」

    まず、目的地までの時間を教えてください。

    >ポトマック川の景色を眺めているようだ。
    「いったん海に出たら」とあったので、もう海かと思ってました。
    おどろくほど描写がないですね、この小説。

    >さっきのあの助け方は、本当にかっこよかった。
    どれ?

    撫で付けられた短い黒髪に、深い藍色のスリーピーススーツの立ち姿。

    > 太陽の光にキラっと耳元が光り、目を凝らすと、ターコイズと銀の小さなイヤリングが両耳についている。

    なんで若者の描写を二度に分ける必要が?

    >「私たち、ペンシルベニア州のゲティスバーグ郊外にある祖母の家に避難する予定ですの」

    私が敵なら、ここまでの出来事は全て、この男を将軍の娘と懇意にするための策略ですね。将軍の傍に近づけるように。

    >(というか、そもそも開戦はしているのだろうか。あまりにもいつも通りすぎて、新聞記者の騒ぎ過ぎのようにも思える)

    二人の生活や環境の説明が一切ないので、アニーの見方が正しいのか間違ってるのか、まるでわかりません。

    >「リー大佐※をはじめとした、優れた多くの軍人の出身地。このアメリカ合衆国の、象徴とも言うべき州。この州を心の支えとする者は、あまりにも多い」

    ここの説明はまだしもわかりやすいですが、地理的状況がわからないので、相変わらずふわっふわです。

    >「僕たち先住民族への弾圧といい、おろかなことだ」

    どういう気分でこれを言ってるのか謎ですが、いずれ出自とか出て来たら納得できるんでしょうかね。


    >パパ、なんか隠してる?

    >父、ウェブスター将軍の司令部は
    一人称でも三人称でもおかしい表記。
    一人称なら、アニーは「パパ」呼びですし、三人称なら「アニーの父」と書くべきところです。

    >飾り気のないと言うのを通り越して、薄暗く、古びた気味の悪い部屋だった。

    部屋より前に、司令部がどんな場所にあるとか、全体の説明が欲しいところ。

    >優しく勇敢だったあの学生
    学生なんて情報、出てきました?

    >ワシントン砦の一室にあるウェブスター将軍司令部は、無骨で飾り気のない、日当たりの悪い部屋にあって。

    何故、同じ描写を繰り返すのか。

    >パパ、なんか影が薄い。
    「影が薄い」には、確かに「生気がない」意味もありますが、よく使われるのは「存在感に乏しい」方で、この書き方だと悪口のように読めます。
    私なら誤読を避けるため、別の表現を選びます。

    >パパの心身を蝕んでいるのだとしても。
    アニーが「蝕む」なんて難しい漢字を使うとは思えません。

    >娘たちが心配だからというのなら、彼の性格ならばむしろ無事な姿を見て安心するところだと思うのだが、それがウェブスター将軍の親心というものか。

    真っ青になるのが親心……意味が分かりません。

    >「……私への交渉材料の一つだろうね。前時代的なことだ」

    その前時代的な手を、まるで警戒しない時点でどうかと思います。

    >「私は軍人には向いていないわ。臆病なんですもの」

    ここの会話は悪くないです。
    ただ、読者がそう思えるような描写がここまで一切ないので、そこまでの思い入れに至れないという大問題がありますが。

    >「ああ、だめだだめだ。もしマグワイアがお前たちをまた襲ってきたらどうするつもりかね。

    というか、逃走兵って普通に重罪のはずですよね。
    家族を狙うような裏切者を国内に放置してていいんです?

    >ペンシルベニアへの道はむろん、北部のあらゆるルートを歩む術を持っておりません。

    地理がわからないんで謎ですが、検問的な意味で?
    あのクソ広いアメリカでです?

    >本当は母上もここに連れて来たいところだが、母上は家を離れるのを嫌がっているし、公私混同にもほどがあるからね」

    娘を住ませる時点で十分に公私混同だと思いますが。

    >さっきはマグワイアのことを心配して
    心配なんかしましたっけ?

    >「言い換えるわ。お父さまはなぜ、マグワイアが私たち姉妹に、お父さまに執着してると思っていらっしゃるの?」

    ここまでの会話と、この質問が繋がっているように読めません。
    父親の言い分がおかしいのはわかりますが、この質問とは別の問題としか思えませんが。

    >「軍人は、いかなる機密事項も外部には漏らしてはならぬ。……復唱せよ!」

    さっき、部下がペラペラ国内事情をしゃべってたような……

    >「いいわ、お父さまがそう仰るならば、ここに残ります。アニー、それでいいわね?」

    この後の展開は、そう悪くないです。
    父親の主張もカミラの疑念も、筋が通っているので。

  • 【24】軍人に絶対なりたくない先住民族が、軍隊で下剋上していくお話
    作者(蜂蜜の里)
    https://kakuyomu.jp/works/16816927861851827000


    ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    6話まで読む限り、タイトル通りの展開になるのはかなり先の展開になりそうです。
    この手の長文タイトルは、内容をそのまま書くからこそ意味があるので、タイトルから読み始めた読者は、かなりがっかりするのではないかと。

    この先の展開は知りませんが、アニーを主体にした長文タイトルに変えるか、長文をやめ、全体を包括するようなタイトオルに変えるかすべきだと思います。

    ・文章について
    なかなかにお粗末ですね。
    私が読んだ中でも、ワースト3には確実に入ります。
    とりあえず思いつく問題点を書いていきましょうか。

    >文法が無茶苦茶
    日本語文章を冒涜するレベルの無茶苦茶さです。
    文頭1マス下げをやったりやらなかったり。
    句点で行を切ったり。
    無駄に巨大な改行を入れたり。

    ラノベなのでそこまで厳しいことは言いませんが、読みづらく目に余るレベルです。
    何より、今作のような歴史上の事件を扱う物語でこの文章力だと、調べた内容自体を疑われかねません。論理を裏打ちするのは、確かな文章力です。小学生の作文で真実を書いても、なかなか信用はされないようにです。

    >一人称と三人称が乱雑に入れ替わる
    三人称は「神の視点」なので、場面場面で一人称的な描写を入れたり、個人の気持ちを吐露させたりは許されます。
    ですが、今作の場合は、比率がおかしすぎます。
    一人称の合間に三人称をやってるようなもので、これなら一人称を徹底した方がまだましかと。

    おそらく何も考えず、適当に書いているのだと思いますが、まずはその辺を統一することを学んでください。

    >描写が極端に少なく、場面を想像できない
    とくにこの題材においては、厳しいものがありましたね。
    これがテンプレファンタジーとかなら、描写がなくても適当に想像できます。テンプレから踏み出さないので。

    ですが、今作の舞台は西武時代のアメリカで、テンプレからは大きくかけ離れています。描写なしに詳細なイメージを浮かべられるのは、西部ものが好きな読者に限られるかと。文化や風習も現代とは違いますから、当然説明が必要になるはず。奴隷制度や先住民族という繊細な題材を扱うなら、なおのことです。
    この話の魅力のなさの半分くらいは、描写がなさすぎて物語の世界に入り込めないことが原因だと思います。


    南北戦争という渋いチョイスとの落差が激しすぎるので、意図してラノベに寄せている可能性もなくはないですが、ここまで破壊的な文章を書く必要もないので、おそらく素なのでしょう。
    ひとまず歴史を調べる際に読んだ書籍の文体を真似て、小説を書いてみてはどうでしょうか。
    もしくは、普通のラノベ的なファンタジーから始めるとか。
    難しい題材は、まだ無理があるように思えます。

    ・内容について
    こちらも文章に負けず、なかなかのひどさです。

    >歴史知識が前に出過ぎ
    先にいい点を言っておくと、南北戦争というあまり扱われないジャンルを選んだこと。そしてちゃんと調べていることですね。
    私も軽く調べましたが、説明の下手さはともかく、内容的には問題は感じられませんでした。
    大真面目にウソぶっこいてる書き手とかたまにいますから、そこは評価したいところです。

    ですが今作の場合、調べたものを出したい、見せびらかしたいという気持ちが勝ちすぎです。
    いわゆる設定厨に近いもので、物語を丁寧に描くことより、調べた史実を披露したい欲が露骨に出ていて、かえって物語の面白さを阻害しています。

    その説明もアメリカの歴史をある程度知ってる前提のような書かれ方をしているので、前知識がある人以外は、けっこうな確率で置いて行かれるはず。
    ド素人の私も例にもれずです。一応南北戦争くらいはウィキで調べてきましたが、それでも怪しいレベル。普通の読者がわざわざ調べてくれるとは思えませんので、そうなると対象読者は西部好き、アメリカ好きに限られるかと。そんな人が多くないのは言うまでもありません。

    もし作者が「好きな人にだけ読んで欲しい」というスタンスならこれでも構いませんが、だとすれば極度にラノベに寄せたキャラ作りやタイトルも不必要なはず。見る限り、「南北戦争を舞台にしたラノベ」を読んでもらいたいと感じられましたので、そっちの方なら失敗している、という話です。

    失敗の理由は、まず素人相手の説明が出来ていないこと。
    基礎的な用語(州とか)から伝えないと、素人は理解できません。
    中学生に読ませるつもりで、細かく階段を刻んで一つづつ教えるべきです。難しい歴史とか史実なんてもっともっと後。まずはチュートリアルです。

    >アニーがナビになっていない
    本来、アニーという頭のよくないキャラは、そういった前知識のない読者のナビゲイターに最適のはずです。ドラえもんでいうのび太ですね。
    それが機能していないのは、カミラがうまくドラえもんをやれてないからです。彼女の語る国内事情は、アニーを納得させるように書かれていません。アニーも「よくわからん」まま話が進むので、読者も曖昧な理解のまま、さして面白みを感じず、読み進んでしまいます。簡素化、とにかくわかりやすく噛み砕いて、読者に理解させることが最重要です。

    >描写が致命的に足りていない
    文章でも書きましたが、未知の場所を舞台にする小説の魅力の一つは、自分の知らない時代や国について知ることです。風俗、衣装、自然、歴史、ジョーク、なんでもネタになります。

    ですが、今作ではとにかく描写が足りておらず、その魅力を引き出す気配すらありません。
    姉妹がどんな場所で暮らし、どんな生活をしているのか。それが描かれないまま、逃走兵に追われて逃げ出しても、読者には場所が移った程度の感覚しかありません。二人の暮らしをちゃんと描写して、初めて「家を追われた」という悲劇を噛み締められるのです。

    >キャラが弱い
    二人の個性も描写がほとんどなく、あってもテンプレ的で、ラノベの悪い部分だけ採用したような感じです。感情の起伏や姉妹のやりとりも、一応あるにはありますが、どうにも薄味で印象に残りません。記憶に刻まれる鮮烈なシーンがないんです。

    アニーのような型破りなキャラがいるのは、けして悪いことだとは思いません。むしろ型破りな部分をしっかりと描くことで、読者に馴染みの薄い北部アメリカの案内をさせる展開は大いにありです。当時ではありえない、現代人なら思わずうなずいてしまう言動を取らせれば、「背景はよくわからんけど、このコは可愛い」という読まれ方もされるはず。今作はその段階に至っていません。主役のパワー不足です。

    南北戦争とか置いといて、ひとまず「アニーが活躍する話」を書くことに全力を注いでみてはどうでしょう。タイトル的にいずれは主役が変わるのかもですが、それまでに読者に飽きられては元も子もないでしょうから。

    >物語の展開について
    キャラを掘り下げる前に進んでしまう感じです。

    最初のパーティなど、恋の相手を探すというネタで数話費やしてもいいくらいです。逆に顔見せだけが必要なら、恋愛に焦点を当てる必要がありません。話を面白くしたいなら、あの手この手で彼氏を作ろうとするアニーの悪戦苦闘ぶりをじっくりと描くべきでしょう。そうすればカミラやチャールストンの人となりも伝わり、思い入れもしやすくなるはず。私ならそうします。

    マグワイヤの来訪から逃走については、ながら感想でも書きましたが、将軍の娘が暮らす屋敷にしては警備がザルすぎて困惑します。北軍の最高司令官がポンコツという話ですから、なんとかすべきでしょう。それなりの警備がいる前提で構成を組み直すべきかと。

    船のシーンは、まあ運命の出会いということで黒髪くんのご都合主義な登場は不問にしますが、せめて銃撃戦なり舌戦なりで、彼のかっこよさをアピールすべきでしょう。その前の逃走場面も、西部劇なら
    アクションシーンとして見せ場になっているところです。アニーの乗馬の技前、カミラの奸智などを描ければ、十分に盛り上がる展開に出来そうです。

    砦についてからの展開は、まあ先がわかりませんが、ひとまずよいとしましょう。ちゃんと伏線回収されるという前提で、ですけど。

    とりあえず、現時点では背景説明はくどく、物語自体は薄味で面白くない、という二重の意味でダメなパターンになっています。

    これがせめて物語に惹かれるものがあれば、よくわからないアメリカの話でも我慢したり調べたりしてついてきてくれる読者を「期待できるものですが。まずは、そちらを狙ってみてはどうでしょうかね。

    ⬜️総評
    ・文章はお粗末。題材とラノベが不協和音。
    ・マイナージャンルへの挑戦は買うが、まだ早い。
    ・設定資料より読者の目を意識するべき。

    知識はともかく、物語を書く上での基本が圧倒的に不足している印象。
    同じ舞台や設定でも、もっとごく短い、登場人物の少ない、文字数も少なくていい短編で練習してから、長編を手掛けるべきではと思います。複数の短編を繋げて長編にするという意識をもってみてはどうでしょう。もっと盛り上がる作品を書けるようになるはずです。


  • 【25】二日生きた以上(終楽章)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330663415040274


    暦は秋のはずなのに、なんですかこの暑さは。
    こんばんは、梶野カメムシです。
    ひっそりと参加者の途切れない「じっくり感想企画」、二十四回目の作品は、「二日生きた以上」です。作者は終楽章さん。

    ジャンルはえーと、現代ドラマで百合で文芸部の話ですね。
    方向は重めで、文学寄りといいますか。
    それにしてもまた百合ですか。百合イヤーなのか今年は?

    そんな終楽章さんのアンケート回答はこちら。


    梶野さん、初めまして。
    終楽章と申します。
    この企画にお邪魔させて頂きたく、コメントさせてもらいました。

    この企画に出会った時は、自分が探していた企画そのものだと舞い上がったものです。しかし条件が一万字以下だと書かれているのをみて、酷く落胆致しました。ですけれど、このまま何もせずに終わりたくはないと思い、コメントを送らせて頂きました。二千字も条件を超えておりますが参加をご検討して頂けますと幸いです。お手間をかけることとなり申し訳ございません。

    長くなりましたが、もしも参加できない場合は潔く作品を取り下げますので、その際は参加できない旨を伝えて頂きたく存じます。

    最後に、もし参加出来ることとなった時のために質問への回答も載せておきます。辛口希望、激辛でも大丈夫ですので、もし感想を書いて頂けるならそのようにお願いしたいです。

    ・特に意見が欲しい部分。
    人の心の動かし方というところに注力して書いたので、それが上手くできているか意見を頂きたいです。

    ・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
    必要ありません。

    こういう場には不慣れなため、不手際等ありましたら申し訳ございません。


    ──ふむふむ。
    高校生なのでオブラートを、と思いましたが、なくても大丈夫そうですね。
    そして梶野の例示は不要、と。
    まあ内容的にも私が書きそうな話ではないので、助かる感じです。
    例によって文学的な素養はほとんどない人間なので、悪しからず。

    それでは、さっそく行ってみましょうか。
    じっくり感想、始めたいと思います。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。


    >シナリオ1 隕石落下
    小説なら「第一稿」の方がいいのでは。

    >始まりは一本のニュースだった。
    作中作を評価しても仕方ないので感想は割愛しますが、長々と書いてある割には中身のない出だしだと思います。

    >私達がいる教室には、まだ冷たい風が吹いていた。

    「まだ」が意味不明です。
    何に対しての「まだ」です?

    >貴女は少し俯きながら、強く手を握りしめていた。

    二人がどういう関係で、この行動にどんな思いが込められているのか、さっぱり読み取れません。

    >間違いなく私は、貴女のその声を、貴女のその表情を生涯忘れられないだろう。

    なのでこの一文も、ひたすら陳腐に見えます。

    >けれど、書いている途中の小説、言わば未完成で隙間から作者が見えるようなもの

    プロットにならこういう感想も頷けるところですが、書き出しだけでそんな風に思ったことがありません。冒頭は一部であれ完成原稿ですし。

    >ぱぁっという効果音が付きそうな程顔を明るくさせた。

    ここら辺の表現は、後半の彼女と食い違って見えます。まるで別人のようです。

    >「隕石落下で地球滅亡するのは使い古されたものかもしれないけれど、綺麗な終わり方で素敵だと思う」

    「大袈裟な表現」としてはテンプレですが、案外ないんですよね隕石で滅亡する小説。荒唐無稽すぎて。

    それより、書き出しを読んで締めくくりのように評価しているのが違和感があります。普通は「ここからどうなるの?」と聞くものだと。

    >その空間に罅を入れるように
    広く読んでもらいたいなら、難読漢字にはルビを振るべきです。

    >私がそう返すと、貴女は固く閉ざしていた口に僅かな隙間を開けて、ほぅと胸に手を当てながら息を吐いた。窓際の一番後ろの席に向かい合って座る私たちの空間は、まるで硝子で囲われた世界の様だった。その空間に罅を入れるように貴女の席がギィとなく。それから貴女は息を吸って、窓から入ってくる光と、照らしているのかもわからないほどぼんやりとした人工光をその瞳に集約させて、私に向けた。そして、綺麗に手入れされて、艶めく小ぶりな唇を開いた。

    とくに意味のないところで凝った長文を用いても、くどく感じるだけです。

    >「何よりね、一瞬だよ。何も、ないの。痛みも、苦しみも、悲しみも、後悔も」

    修辞過多でムダに長い文章に対して、この主張の薄さは、いっそ清々しい。

    そもそも隕石が落下するまでは一瞬ではないので、悲しみも後悔もあるでしょう。書いた小説でもそうですし。

    >心臓が叫びだしそうなほど鼓動した。

    意味がわかりませんし、まるで共感できません。
    死にたい気持ちを小説に載せてるのだとも読めますが、内容的にはただの与太ごとですから。

    >「だけど、きっとそれだと寂しいよ」

    本当に、何にもなってない台詞です。


    >シナリオ2 病気蔓延

    >始まりは何の変哲もないただの風邪の流行だった。

    今度は現実味のある話ですね。

    >風邪かと思われたその症状は、一週間たっても二週間たっても治らず、何かがおかしい、と思った時には手遅れだった。

    何が「手遅れ」なのかわかりません。
    かかった人間が? つまり致死率百パーセント?
    それとも人類滅亡という意味での手遅れでしょうか。

    >風邪のような症状が出た人はそれが風邪なのかその病気なのか判断する方法がなく、自分は死んでしまうのだろうかと怯えながら死んでいった。

    せめて、どういう感染経路で広がるのかくらいは知りたいところ。
    コロナもそうでしたが、感染者が多いほどサンプルは増えるので研究は進みます。

    >おかしいと思った私は、絶対に開けるなと言われていた扉を開けて、部屋に入った。そこには数週間前とはまるで別人のような母が倒れていた。

    同居してると推察しますが、数週間部屋から外に出ず、家族が手助けしなければ病気に関係なくこうなりますよ。

    >もう母は息をしていなくて、私は茫然としながら救急車を呼んだ。

    普通は風邪が三日も治らなければ病院に行かせます。
    ましてそんな病気が蔓延してるなら余計に。

    >そして次に誰が死んでしまうのか、恐れながら日々を生きている。

    ぶっちゃけ、世界規模に流行したコロナでさえ、こんな感じにならなかったことはご存じのとおりです。医療関係者とか必死でしたし。

    >新しい小説が書かれた原稿用紙の裏から顔を上げた私に

    「裏から顔を上げる」の意味がわかりませんでしたが、数行後に「原稿用紙の裏に小説を書いた」とありますね。

    普通、原稿用紙は数十枚がセットですし、裏を使う理由も薄いので、読者が想像しやすい動きになっていません。さして意味もなさそうですし、新しい原稿用紙で十分では?

    >私は原稿用紙に奪われた貴女の視線を手繰り寄せることもできず、机の上に映る窓で象られた淡い夕陽を指でなぞっては、その温かさを感じたり、夕日に照らされて空気に溶ける様に光る貴女の髪を目で追ったりしていた。そして漸く向けられた貴女の視線は固く、貴女はその白魚の様な手で裏返しにされた原稿用紙を私に差し出した。私は赤子を抱きかかえる様に、それを受け取った。

    全編この調子で進むんですかね。
    素晴らしく冗長で嫌になってきました。
    耽美が過ぎて、目が滑りそうです。

    >「病気が蔓延するのは、間違いなく何時か起こり得ることだから、現実性があっていいと思う」

    その根拠は一体。
    「過去にもあったことだから」ならまだしも。

    >実際、人間やその他の生物が進化する様に、ウイルスも進化していく。その為、将来的に人間が対応出来なくなる可能性も十二分にあるだろう。

    ウイルスの進化は原則として症状は軽く、感染力は高くなる方向で進みます。死んだり重症になると、それ以上感染が広がらなくなるので。その結果が現在の「風邪」ウイルスです。

    まあ私も、コロナ流行の時に得た知識ですが。

    >しかし、それが容易に想像出来ることだったからこそ、私は目を逸らしたくなってしまった。

    容易に起こるなら、人類はここまで生き残っていません。

    >それは余り褒められることではないかもしれないけれど、その気持ちがあるからこそ人は生きていけるのだと思う。

    メメント・モリ(死を想え)という考えもありますけどね。

    >「やっぱり、さっきの隕石落下よりも現実的なところはポイントだよね。夢だけだといけないから」

    毒にも薬にもならないコメントですね。

    >「でも一番いいところは自分の死ぬタイミングが分かることだよね。それが怖いって人もいるかもしれない。じわじわとウイルスが自分の体を侵していくのを、目に見える症状で日々感じながら生きていくのは怖いことかもしれない。でも、それが分かると死ぬまでにやりたい色々なことをできるし、死に場所だって選べる。手紙だって残せるし、最後に会うこともできるかもしれない。自分の家で死ねるかもしれないし、景色の綺麗な場所で死ねるかもしれない」

    隕石の時の「いいところ」と真逆のことを言ってますし、病気でいつ死ぬかなんて正確には誰にもわかりませんし、感染症なら死に場所なんて選べませんし、突っ込みどころ満載ですね。

    >けれど私は、貴女の言葉を破いて、押しつぶして、丸めて、塵箱に捨ててしまいたかった。

    私もちょっと今、そんな気分です。

    >「だけど、きっとそれだと苦しいよ」

    せめて議論が前に進むような発言で締めてほしいところ。


    >シナリオ3 世界大戦

    >始まりは国が出した宣戦布告だった。
    一国の開戦で世界大戦になるなら、現実も世界大戦中ですね。
    ま、そうならないとは言い切れないのも事実ですが、現実がこんな描写の世界になっているかという話です。

    >けれど、不純物の多いそれを吸った私の肺は、もう落とせないほどに汚れが積もっていた。

    戦争と何の関係があるのか、意味不明です。
    原爆でも落とされましたか?

    >まるで作り物の世界のようになってしまったこの世界は酷く窮屈でつまらなかった。作り物の世界ならいっそ理想郷にでもしてくれればよかったのに。

    過去の戦時の話を読む限り、こんな空気ではまるでなかったように私は感じましたけどね。戦争は容易に命を奪いますが、だからこそ強い生命力を育てるものです。でないと生き残れないので。

    >耳を劈くような音が鳴り響いた。時が止まっていたような世界は一気に加速し始める。

    描写が適当で、物語に入り込めません。
    よくも悪くも小奇麗な夢物語という感じ。
    おっと、つい作中作に感想を書いてしまった。

    >だけど、きっとそれだと苦しいよ。
    この後の長い長い一段落、まるまる不要ですね。
    緻密に背景を書き込んだ四コマ漫画のようです。

    >「人と人との争いが起きている世界の醸し出す寂しさの表現が美しくて、いいと思う」

    私と真逆の感想で、いっそ笑えてきました。

    >私は、大規模な争いが起きることは一つの未来として確かに存在していると思う。

    ここは同意。
    日本に限っても時間の問題でしょうね。

    >けれど、それは呼吸をしてもうまく酸素が取り込めなくなる様なことではないのだろうか。

    むしろ「酸素の奪い合い」だと思いますね。戦争って。

    >「戦争ってすごく怖いし、本当に良くないことだと思う。でも、一番人間私たちらしい終わり方だとも思うの。人間が人間であるから、私たち人間の間で争いが起こるし、そうやって醜くて、泥臭くて、不器用で、傲慢で……そういうところも含めて人間らしいと、私は思うから。だから、こういう終わり方もきっと私たちが人間である限り考えなくちゃいけないし、そういう終わり方もまた、私たちが人間だったことの証明にもなると思うの」

    死にたがりほど夢みがちなのは何ででしょう。
    現実逃避の一環でしょうかね。

    >今度は利点ではなくて、強張っていた肩が脱力したことによって下がる。

    利点の意味がわかりません。

    >れどそれと同時に、貴女の言葉は聊か見通し過ぎているように感じて、それは深海で揺蕩う様なことなのではないかと想像してしまった。

    夢見がちなボケにポエムなツッコミというコンビで、まともに読んでいられません。

    >「だけど、きっとそれだと悲しいよ」

    またこれか。
    ちょっとした拷問のようです。

    >シナリオ0 自己殺人

    >じゃあ、自分の終わりを考えるなら、いったいどんな終わり方がいい?」

    ただこれだけの話の枕に、無価値な六千字を読まされたことに怒りを禁じ得ません。読んだ時間返して。

    >あれだけ私達の間を駆け抜けていった風は何時の間にか止んでいた。あぁ、こういう時のことを天使が通ったというのだろうか。

    あの謎の風、比喩でなく現実だったんです?
    「天使が通った」なんて表現、初めて聞きましたが、調べると、
    「会話や座談がとぎれて、一座の者が黙り込むことをいうフランスのことわざ」とのことで。

    説明しないと大半の読者は知らないと思われます。
    そもそも「風」が何かわからないので、例えに例えを重ねる意味不明な展開になっていますが。

    >そんなくだらないことをするのは、穏やかな表情をする貴女の目に光が一切映っていなかったからだった。

    小説書いてた時も「死に方探し」で同じだと思うんですが、いよいよ本気になったとか、そういう表現ですかねえ。
    ここで急変する意味がわかりませんが。

    >「私はね、誰かに、何かに殺されるくらいだったら、自分で死にたい。自分の意志で『死』という選択肢を選びたい。自殺を正当化しているだけだって思われるかもしれない。でも、自分のことはいつだって自分で選びたい」

    「葬送のフリーレン」(漫画)で、人間と似て非なる思考を持つ魔族に対して、主人公が「話すだけ時間の無駄だ」と切って捨てる場面があるんですが、まさにこれ。

    >それが育ち切るまでに如何にか出来なかったのか、なんて唇を噛んだ。

    死にたい理由も二人の関係も語られてないので、完全に他人事ですね。「二人で勝手にやってください」という気分。

    >気が付けば、何もないのに死にたいって思うようになっちゃった。

    いい精神科医を紹介しますね。

    >貴女の抱えているものは、貴女が抱えているものの中で一番大きいものは、これだと思った。誰にも理解されることのない、自分の内面的な話。

    誰にも理解されない内面を、主人公が理解するという矛盾。
    まあどっちみち読者は蚊帳の外なので、どうでもいいんですが。

    >あの人は袖を引くことすらしてくれなかったから。

    私はリアルに袖を引かれたことがありますが、死神とそう大差ない経験でしたよ。

    >「だからやっぱり私は、自分で死にたいよ」

    この先まだ、この人の話につきあわないといけないのかと思うと、私も死にたくなります。人生がもったいない。


    >シナリオゼロ 他者殺人
    「0」がゼロになる意味がわかりません。
    「他者殺人」も意味不明。普通は「自殺幇助」ですね。

    >子供携帯で電話をかけてみる。大変な時だけ掛けてと

    「かけて」か「掛けて」かで統一を。

    >なのに、着信音はリビングで鳴り響いた。
    主人公はリビングにいるものだと思っていましたが、違うんですかね? 「机の上に飲みかけの飲み物」がありましたし。玄関から最初に向かった部屋でリビングでないとすれば、どこ?

    >ベランダの柵に手をかけて覗いた先には、あかくそまった「なにか」があった。

    「昔住んでいた家」とあったので一軒家かと思ってましたが、この描写を見る限りマンションの上階ぽいです。二階から落ちたくらいで人はこんなふうになりませんし。

    >気に入っていた見晴らしがよく辺りを見渡せるこの部屋は、どうしてこんなところにすんでしまったんだろうという後悔のごみ箱になった。

    やはり高層階のようなので、家でなくマンションとかにした方が。
    「住んでしまった」って、主人公が選んだわけでもないでしょう。

    >「今度こそ」とは思っていなかったけれど、「もしも」とはずっと思っていたのだから。

    言葉は綺麗ですが、よく考えるとたいした違いはないですね。

    >ただ、貴女と母は似ても似つかないと、心の中だけで言い訳をさせてほしい。母は、きめ細かな黒髪のストレートではなくて、艶やかな黒髪で少しウエーブがかった髪をしていたし、前髪を綺麗に切りそろえたお下げではなくて、センターパートの前髪に、髪を片側に流すように一つにくくっていた。切れ長の目は母の美しさをより際立たせていて、亡くなる前はやつれてしまっていたけれど、美人で自慢の母だった。ぱっちりとした目をした貴女はどちらかといえば可愛いらしく、守ってあげたくなるような自慢の親友だ。

    なぜここで母との外見比較? しかも長文? 
    必要性がなさすぎて、新時代のギャグかと思いました。

    >「でもそれだと結局自分が自分を殺してるよね」

    「自分で選択したい」という論ですから、おかしくはないです。

    >貴女は先程までの背筋を伸ばした姿勢と、破滅的にも見えるような凛々しさを崩して、目線を彼方此方に飛ばした。それは百合が零れ落ちる様だった。

    ここに来て比喩も崩壊気味。

    >「それだと意味が無いんじゃないの?」
    > 言葉に詰まるような音が聞こえそうな程、貴女は視線を逸らした。
    >「……まあ…………そうだけど」

    いや、その理屈はおかしい。

    >向かい側に座っていた貴女の方へ一歩一歩近付く。

    机を挟んでの向かい側ですから、一歩で十分では。

    >体には貴女の足が何回も当たったけれど、こんなのは痛くも痒くもない。

    椅子に座った相手の正面から首を締めたら、腹は完全に無防備なので、相手が少女とはいえ「痛くも痒くもない」は流石に嘘くさいです。

    それよりこれだけ暴れれば、椅子ごと彼女が後方に倒れる方が自然です。首を締めるには押す動きが必要ですから。
    もしくは壁際まで追い詰められた描写をすべきところ。

    >温かな皮膚の感触と、硬い骨の感触と、血管から伝わってくる鼓動を感じながら

    喉を締めても骨の感触はない気がします。
    まずは肉の感触が先でしょう。

    >その後に臀部がじわじわと熱くなっていくのを感じた。そして、もう手には温かいものはなく、ただ冷たくてかたい感触が伝わるばかりだった。そこで漸く自分が突き飛ばされたことを自覚して、貴女が噎せている音に、口元を緩めた。

    アクションの書き方は、はっきりと下手ですね。
    迫力もなく、わかりづらいだけです。

    この場合、チョーク(首絞め)から力づくで逃れるには、胸か腹に蹴り(理想は両脚の)をブチ込んで引きはがすしかありませんが、首を掴んでいる主人公は勢いを逃がせないので、その痛みは尋常ではないはず。「尻が痛い」で済むとはまず思えません。


    >シナリオ? 自己救済

    >貴女が私に殺されるという選択をすればいい。それを許されるくらいの関係性だって私は思っているから」

    普通はこの問いかけを首絞める前にしますね。
    ま、インパクトという意味では前後してもいいとは思いますが。

    >貴女は「それ」を私に許してくれる。
    たった今、突き飛ばされましたけどね。

    というか、そういう関係だという前提でなお、「死にたい」と言ってるんですよね。つまり主人公の存在は生に値しないと。

    >本当は貴女自身が貴女の心臓を粉々にしなくてはいけないけれど、誰だって振り下ろす手には躊躇いが生まれるものだと思うから。

    この理屈は間違ってませんが、その結論が「だから私が殺す」のはずでは。

    >「私は理想の終わり方なんて何もないけれど、私が終わる瞬間まで貴女と一緒に居れたら嬉しいよ。でも、終わるにはね、まだやり足りないことがあるから。いつか、いつかね、鮮明に想像したって、殺されかけたって、死にたいって思う日が来ると思うの。その時はね、一緒に死のう。大丈夫、私も一緒にいるから。だからね、それまではもう少しだけ一緒にいようよ」

    別にこの説得の方法が間違ってるとは思いませんが、この程度では解決しないのが「死にたがり」だと思いますかね。
    三日後には同じ話を繰り返すのが、この手合いなので。
    最後には親友にさえ愛想を尽かされるタイプですね。

    むしろ「一緒に死ぬ」という部分に縋られて、最悪の結末になる気がします。本当にそれでいいなら何も言いませんが。

    >隣から小さく
    >「――――」
    > と聞こえた。

    「ごめんね」ですかね。
    ここは悪くない描写かと。

    >違う、違うの。貴女を救ってあげたいって思ってたし、今でも思ってる。でも、私にも貴女は救えないから。だけど、そんなことは言えなくて、だから笑って

    ここだけ情緒的ですが、いいと思います。
    というか、全体通してこれくらいの描写の方がいいです。
    無駄な修辞の嵐よりよほど感情移入できます。

    >「小説はさ、あそこから思いっ切りハッピーエンドにするのはどう? 甘ったるくて胸焼けしちゃうくらい」

    でも、このオチはひどい。
    百合の茶番につきあわされた気分です。


  • 【25】二日生きた以上(終楽章)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330663415040274


    ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    意味が全然わかりません。
    「小説を見せる」という部分にも、とくにかかってないですし。

    エピソードタイトルも、全体的にピンと来ません。
    とくに「ゼロ」や「?」は無茶苦茶で、普通に数字を並べた方がまだましです。

    ・文章について
    「ぼくとっても文章が上手いんだ。すごいでしょ!」
    と得意げにしてる小学生のような文章です。

    刺身抜きで、けん(大根の細切り)だけを延々食わされている気分になりました。技術はあるけど味気ないところとか、まさにそんな感じ。

    別にセンスの全てを否定はしません。
    それなりに悪くない表現もありました。普段なら個別で拾い、誉めるなり叩くなりするところですが、今回、ほとんどそれをしなかったのは、全編にわたるクソ修辞が鼻につきすぎて、誉める気が失せたからです。ゴミ袋に多少使えるものが入っていても、いちいち確かめないように、です。

    一言で言えば、内容に対して装飾が過剰すぎ。冗長すぎ。
    鼻くそをほじるシーンでも華美に描きそうです。
    文章以前に引き算以前に力の加減を知らないレベルで、習字で言えば
    「抜き」を一切使わず、クソぶっとい書を書いてるよう。言うまでもなく下手な奴です。読みづらく、かえって滑稽に映ります。

    ここぞという場面で力を入れるのは構いません。
    ですが、他は意図して簡素に書くようにしなければ、強調の意味がなくなります。文章の全てにアンダーマーカーを引いたら、強調の意味がないでしょう。そういうことです。

    唯一、締め付近の感情描写は毛色が違っていて、幾分マシに思いました。ここだけは褒められます。(締めくくりの台詞はともかく)

    全編、これくらいを基調に強弱を意識して書いた方が、主人公の気持ちがストレートに感情が伝わり、よい塩梅になると思いますね。


    ・内容について
    昔、「人の見た夢の話ほどどうでもいいことはない」という説明で夢オチ作品を斬ったことがありますが、「死にたがりの話」もそこに加えたくなりました。

    過去話も詳細もない「なんとなく死にたい」みたいな人間の話は、余人にはどうでもいい話です。本当に辟易とします。
    リアルで「死にたがり」と関わっていた経験から、私の感想が辛くなっている点は否めませんが、書き手として見ても難しい題材で、面白くしにくい分野だと思っています。

    何故かというと、「死にたがり」には答えがないので。
    読んでも何も得られず、終わりも救いもない。
    個人的には全篇通して、本当に読むのがしんどかったです。
    おそらくは時間の無駄だろうことが想像出来ましたし。

    逆に作中で救われる展開だと、「その程度で死にたい連呼してたの?」となるので、逆効果という。
    この手の小説を好む読者は、たいてい同じような体験や憧れを持ち、共感を前提にするので、そこで裏切られたような気分になるのではと思います。現実から見ればご都合主義ですし。暴力で改心させるは誰でも考えますが、それで上手くいけば誰も苦労しません。

    結果、死にたがりの話と言うのは、多分に雰囲気小説になりがちです。
    物語で面白さを保障できないので、文章でごまかすわけです。
    今作はまんま、このパターンにはまってる気がします。
    文章がアレすぎて、雰囲気小説にすらなれていない感はありますが。

    物語の展開は「チープすぎる」で終わってしまうので、他に気になった部分について。

    >小説を読ませる
    これ自体は悪くない演出のアイデアだと思いますが、さして違いのない薄い小説と同じような反応を三度も繰り返す展開は、冗長が過ぎて胸焼けがしました。この程度の内容なら、連作する必要はないというか、むしろ害があります。

    ・方向の違う小説と解釈によって、彼女の悩みの深奥をあぶり出す。
    ・出だしでなく全体のあらすじにして、結末までを書く。
    ・本編と文章を意図して変える。
    ・小説から始まり小説で終わる。首絞めに頼らない。

    これくらいの工夫は欲しいところです。

    >オチの一言
    読む限り、主人公の言葉で彼女に刺さったのは「一緒に死んであげる」だけなので、ハッピーエンドを示唆するような最後の台詞とそぐわないと感じました。心中がハッピーだと思うなら別ですが。

    その前の部分の方がよく書けているので、この台詞はない方がよほど読後感がよいです。書くなら流れに即した台詞にすべきでしょう。


    ・アドバイス回答について
    >人の心の動かし方というところに注力して書いたので、それが上手くできているか意見を頂きたいです。

    人というのがキャラのことなのか、読者のことかわからないので両方書きますが。

    キャラの心の動きは、全編を通してまるで伝わりませんでした。
    内容の薄さに加えて、大仰な文章が理解を阻害しています。
    唯一救いがあるのは、前述したラスト前で、あそこだけ評価します。

    読者=梶野の心が動いたかどうかは、ここまでの感想でお判りいただけるかと。

    ⬜️総評
    ・クジャクの羽を刺したカラスのような文章。
    ・共感性ゼロの「死にたがり」の話とチープな結論。
    ・読んだ時間かえして。

    雰囲気小説として、希死念慮のある読者には刺さるかも。
    それにしても冗長が過ぎるとは思います。読むのが本当に苦痛でした。
    表現を積み増すのではなく、削って味を濃縮して欲しいところ。
    相応のテーマが見出せるなら、この文章でもマッチする可能性がなくはないですが……


  • 【26】夏、君を待つ(なべねこ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330664014785881


    いよいよ企画も終わりかと思っていましたが、まだ参加者がおられました。
    二十六回はなべねこさんの作品、「夏、君を待つ」です。
    ジャンルは現代ファンタジー。
    ざっくり読んだところでは、ジュブナイル寄りな感じですね。

    なべねこさんのアンケート回答はこちら。


    初めまして、なべねこと申します。感想をいただきたく、『夏、君を待つ』で、企画への参加を希望します。

    ・特に意見が欲しい部分。
     推敲できる部分があれば教えていただきたいです。
     キャラクターの魅力があるか、ないならその出し方についてのアドバイスをいただきたいです。
     

    ・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
     ぜひお願いします。

     手続きに不備があれば申し訳ございません。
     小説を書き始めてまだ少ししかたっていないため、ぜひご意見いただけるとうれしいです。よろしくお願いします。


    ふむふむ。小説初心者の方なんですね。
    これはオブラートマシマシの方向でいきますか。
    指摘希望は推敲とキャラクターの魅力、と。
    了解です。それではさっそく感想に移りましょう。


    ⬜️読みながら感想
    二読後の感想を、読みながら書きます。

    >「来栖、今年の夏はどこに行くんだ?」
    >「去年と同じだよ。ボクを待ってくれてる人がいるからね」
    > 尋ねてきた者はポカンと頭の上にはてなを浮かべていた。

    この答えに何故ポカンとするのか、よくわかりません。
    私だったら「現地で恋人でもできた?」とか思います。
    そこまで突拍子もない話でもないですし。

    私が書くとしたら、聞き方を変えると思います。

    「来栖、今年の夏はどこに行くんだ?」
    「日本だよ」
    「また日本? 同じ国ばかりで飽きないか?」
    「いいんだよ」
     そりゃ、わかんないよね。だってこれは。
    「だってこれは、ボクらの約束だから」

    みたいな。

    あと、ここは回想で次から本編に入るので、空行は一行でなく二行入れるべきです。もしくはマークなどを挟むか。場面転換はわかりやすく伝えた方が読みやすくなります。

    >今日から一週間、ボクはここで夏を過ごす。暑すぎて死にそうなので、まずは公園で水をもらおう。

    この書き方で始まると、来日した直後のようです。
    それなのに公園の場面に続くので、「来日してすぐに、何故公園へ?」と疑問が湧きます。普通はもっと他に寄るでしょう。まともな社会人なら公園で水を飲まないでしょうし。

    まあまともという部分は、後に出てくる来栖の正体で多少緩和されるのですが、読者的には違和感を抱えての読み始めになるので、いい出だしとは思えません。

    >この国の水はおいしいんだなぁ。
    外国人であることが確定しますが、すると何故、名前が日本名なのか気になります。

    >「えっと、ボクは来栖。今日から一週間だけ、ここらへんで暮らすんだぁ。で、何の本読んでるの? 君の名前は? 趣味は?」

    「ここらへんで暮らす」て、公園でってことです?
    初対面でこの自己紹介をされて、気を許す相手が早々いるとは思えません。怪しさ大爆発です。私ならまず高校生に突っ込ませます。

    というか、何故こんなに高校生に食いついてるのか。
    かっこいいから、だけでは理由に欠けるかと。

    >「で、ボクの質問にも答えてくれる?」
    この書き方だと、来栖が先に質問に答えたようですが、そんなことはないはずです。

    >「えーっと、俺は玲央です。この本は、なんか外国語のタイトルなんで、ちょっと読めないんすけどおもしろいですよ……あとなんでしたっけ」

    初対面で名乗るなら、普通は苗字からですね。
    フルネームで名乗り、勝手に玲央呼びする方が現実的ではあります。

    洋書なら別ですが、タイトルが読めない本ってまずない気がします。ルビなり読み方なり併記されているのが普通かと。
    もしくはこの高校生が極端に英語に弱いとかかもですが、そんな人がタイトルの読めない本に手を出すかというと、別の疑問が。

    というか何の疑いもなく答えるのは、素直過ぎて逆に怖いです。

    >ちょっと待って。読んでる本のタイトルくらい調べろよっ。そう言いたいけど、今は黙っとこ。

    むしろ、あけすけに突っ込んで、会話を膨らませる方がいいですね。
    何故、タイトルも読めない本を選んだのかとか、来栖ならタイトルを読めるのでは、とか。キャラの描写にもつながります。

    >「つまんないからですよ。勉強はある程度できるし、テストだけちゃんと受ければいいので」

    出席日数って、今の高校にはないんですかね?

    >頭いいのかな。うらやましい。ん、ちょい待ち。
    そもそも来栖は何歳くらいなんですかね?
    口調見るに子供か高校生くらいまでって印象ですが。
    でもさっき、「同僚が」って言ってましたよね。
    社会人だとすると、童顔なおっさんてイメージです。

    >「ドイツ語かなんかのタイトルなんで」
    英語でなければなおさら読みがつくかと。売上に響きますから。

    >あ、なるほど。ボクとは住む世界が違うなぁ。
    「来栖はドイツ語が読めない=どこの国から来たのか」
    の情報を出すべきタイミング。

    >「なるほどね。玲央さ、君かっこいいから彼女の一人や二人くらいはいるんじゃないの?」

    話がぽんぽん飛びますね。

    >「まぁ、モテなくはないですね。でも、知らない人が声かけてくるとかいうの、怖いじゃないですか。

    今まさにその状況だと思いますが、怖がってる風に見えません。

    >俺は向こうのこと何にも知らないし。だから彼女なんていませんし、作ったこともないですよ」

    恋愛の全てがナンパで始まるわけでなし。
    女友達からつきあう展開の方が普通では。かっこいいなら女友達ができないわけでもないでしょうし。

    >ボクでもさすがに知らない人には声かけたことなんてないし。

    これはギャグで言ってるんですかね?

    >「ボク? あ、この髪の毛か。確かに人間っぽくはないよね、青いし」

    最初に突っ込みそうなものですが、まあ相手の外見について偏見はよくないですからね。あえて黙ってたのかも。

    >すごい。目までこんなに短い時間で気付く人は初めてだ。
    > そう、ボクの目は金色で、髪の毛は薄めの青。
    >「えへへっ。こんなに気付いてくれる人は初めてでうれしいな」

    見たら普通気付くと思います。金の瞳とか。

    >これは生まれつきだし、ボクは違和感とかないけど、黒髪黒目の人から見たらびっくりするよね。

    文頭1マス下げが抜けています。

    >「結局人間なんですか?」
    普通の高校生なら、まず髪染めとカラコンを疑うかと。
    それ以前に、来栖の外見描写がここまで髪と目の色しか出ておらず、そこ以外は人間ぽいなのかどうかすらわからりません。
    なので「実は人間じゃない」と言われても「ふーん」という感じです。

    >「どう思う? 玲央、当ててみてよ」
    >「え……人間、じゃ、ないと思います」
    >「ご明察」
    ここで謎を引っ張らず、あっさりバラすのは正解だと思います。
    高校生のテンション的にも。

    >「ボクの名前は、さっきも言ったけど来栖。でもって人間じゃない。ボクは遠い遠い雪国から来た、この国でいう精霊みたいなやつだよ。この国に避暑する人がいるように、ボクも寒さから逃げてきたってわけ」
    >「なるほど。避寒みたいな感じですか」

    この台詞で突っ込むところ、そこ?
    というか、精霊が寒さを避ける必要ってあるんですかね。
    まあ春や夏の精霊とかならあるのかもですが……
    そもそも精霊の意味自体がふわっふわですけど。

    というか、雪国の精霊が日本の夏に来るって、そっちのが拷問の気がしますが。せめて春か秋にすればいいのに。

    >「それにしては一週間っていうのは短くないですか?」

    ここは読者も疑問に思っていたので、ナイス突っ込み。

    >「体感が違うんだよね。ここでいう一週間は、ボクの国でいう一か月だから」
    >「不思議、ですね」

    こういう説明をするなら、「ボクの国」でなく「ボクの世界」にした方が理解が早いかと。「遠い国」でなく「遠い世界」なら、色々納得も出来ます。

    >「それでね玲央、いつもはボク、仕事ですっごーく疲れてるんだけど、せっかく来たからには遊びたいんだよね。なんかおすすめの場所に連れてってよ」

    話の展開急すぎますが、「精霊だから」と言われればしょうがない気もしてくる。

    > 玲央が口をぽかんと開けてこっちを見てるのは、すごくおもしろかった。

    まあ、この反応はわかります。
    しかし普通なら、こんな得体のしれない人物につきあわないでしょうね。人つきあいが嫌いそうな玲央ならなおさら。そこが何故埋まるに至ったのか、その点の描写は欲しいところです。


    >第2話

    >「すっごーい! こんなにきれいな景色初めて見たよ! 緑も多いし、海も見えるし、いいところだね!」

    台詞なので詳細までは言いませんが、もうちょっと読者が想像して共感できるような景観描写が欲しいところ。
    私なら「高台からの風景」とか、わかりやすい場所にします。

    >ボクは生まれて初めて見る、雪のない景色への感動に浸っていた。
    えっ、年中雪国なんですか?
    それ避寒の意味あります? 一ヵ月でも足りないような。

    >ここは玲央が連れてきてくれた広い公園。
    公園から広い公園に移っても変化に欠けます。
    舞台変化は視覚的に読者に訴えるので、もっと違いを出す意識を。

    >ボクは感動と興奮により、テンションはマックスだった。

    登場時から大差ない気がします。

    >「じゃあさじゃあさ、明日は遊園地に行きたいんだけど!」

    玲央はそろそろキレていいと思う。

    >「それならいいですけど、なんでそこまでして俺と行きたいんですか?」
    >「え。楽しいからかな。玲央おもしろいし」
    > 今日だってボクが聞いたこととかには全部しっかり答えてくれるし、何よりしゃべってて楽しい。

    この説明を見ても、玲央の何が面白いのか伝わりません。
    大半は来栖の主観ですし、無理やりつきあわされていても、返答くらいはしそうですし。「つきあいがいい」くらいしか情報がないです。

    本来は公園で遊ぶエピソードを省略せず、何か一つでも二人のやりとりや距離が近づく場面を描いて、来栖の台詞と玲央の心情に読者が共感できるようにすべきです。

    >「そうですか。楽しいなら、良かったです」
    ここら辺の返事も、普通すぎてよくわかりません。
    人嫌いな性格だったはずですが、何故こうも素直なのかと。

    > この時、ボクは全然気づいてなんかなかった。一度仲良くなったとき、そこを離れるのが、どんなにもつらいことか。

    そこまでの関係性とは思えないので、共感が追いつきません。
    恋愛感情があるとかならまだしも。

    >次の日、ボクたちは水族館に行った。その次の日は、玲央が嫌がっていたけど、最後にはいいよって言ってくれた遊園地……。ボクが自分の国に戻るまでの一週間、本当に遊び尽くした。遊園地に水族館、おいしいグルメや映画、それにかわいい服も買ったし、玲央からおもしろい話もたくさん聞いた。

    お金は来栖が出してるんですかね。

    >この一週間で、玲央はボクに結構心を開いてくれたと思う。自分から話しかけてくれることも増えた。

    ここら辺も、何かしらその兆しが感じられるエピソードが一つくらい欲しいところ。
    今の時点では、
    ・来栖:玲央を振り回し、観光しまくっている。
    ・玲央:何故か来栖につきあっている。

    なので、そもそも何故そこまで来栖に付き合うのか、玲央の気持ちが伝わらないので。お人よしな性格とかのキャラならわかるんですがね。


    >第3話

    >公園とはいっても、あそこはただの公園ではない。

    公園が二つ出てくるので、ちょっとややこしいかも。
    まあ「連れて行ってくれた」とあるので大丈夫ですかね。
    「ただの」でないのは、思い出深いからでしょうか。

    >「俺、この一週間ほんとに楽しかったです。学校に行ってない分、人としゃべる機会なんかめったにないし。だからっ」
    > そこで玲央は顔を上げた。
    >「だからまだ、ここにいてほしい……っ!」

    何故、ここまで入れ込んでるのかも謎ですが、男同士の友情でこのやりとりは過剰に過ぎる気がします。
    恋愛ならともかく、男同士はもっとサバサバしたものです。
    間違っても「ここにいて欲しい」とか言いません。

    というか、学校行けば?

    >時間というのは残酷だ。
    >時に絆をも引き離す。

    この場合、残酷なのは空間=距離ですね。
    時間関係ないです。

    >「でも、」
    ここを独立させる意味はないと思います。
    そこまで劇的な場面でもなく、効果も薄いので。

    >こんなに玲央がボクと一緒にいたいって思ってるとは、気づかなかったな。

    文頭一マス下げを忘れています。

    >「でも、また来年、絶対ここに来るよ。その時にまた、」

    意図してやってるとは思いますが、読点で切るのは違和感が先に立ちます。私なら「その時に……」とします。

    >最初から別れが来るなんてわかってた。それでいて、こんなに楽しく過ごしてしまった。思い出を作ってしまった。

    そりゃそうだ、としか。

    > 玲央、本当にごめん。それから、
    ここの読点切りはOKです。

    >「はい。絶対来てくださいね。俺、待ってますから」

    いったい何があって、こんなワンコみたいな彼になったのか。

    >俺は待っている人がいる。
    「俺には」。

    あとこの文章の前は、一話と同じで二行開けかマークにした方がいいです。

    >もう、その季節になった。俺はよく行く景色がきれいな公園に向かう。

    ちょっともたついた文章。私なら、
    「夏が来て、俺はあの公園に向かう。」

    >待ち合わせしたわけじゃない。でもなんとなく、わかる気がした。
    広い公園という話なので、ちょっと違和感。
    スポットを特定しておいた方が説得力が出るかと。
    もしくは最初に話しかけられたベンチとかの方が。
    それなら「どこに行く?」も自然ですし。

    >「今日はね、この公園見たい! 案内してくれる?」

    もう案内いらないでしょ。

    > ずっと、この時間が、続けばいいのに。
    うーん、最後まで薄味。
    玲央がなぜ来栖に惚れ込んだのか、最後まで理解できませんでした。
    というか精霊の設定、いりましたこれ?


  • 【26】夏、君を待つ(なべねこ)
    https://kakuyomu.jp/works/16817330664014785881


    ⬜️全体の感想

    ・タイトルについて
    内容に即していますし、雰囲気もあります。
    悪くないタイトルだと思います。


    ・文章について
    少なくとも今作においては文章的な破綻は見られません。
    初心者としては十分、綺麗に書けていると思いました。

    課題をあげるとすれば、描写の少なさですね。
    二人の心理、場面場面の描写、二人の交流具合、関係の移り変わりなど、欲しい描写はたくさんありましたが、全てスルーされています。
    短編で多くを語る必要はないですが、読者の想像が捗るよう、最低限の場面やヒント、フックは撒いておくべきでしょう。

    ここは内容と被りますが、文章力不足による自信のなさの表れも一因と見ましたが、どうでしょうかね?
    難しい描写を放棄することは、より面白くなる要素を捨てることを意味します。「問題ないが薄味」という感想は、そこから来ているものだと思います。

    「書けるものを書く」のはけして間違っていませんし、私だって似たようなものです。
    ですが、初心者の間は挑戦も大事です。チャレンジなくして成長なし。失敗こそ経験値の稼ぎ時です。大胆に書きたいものにチャレンジしてみてはどうでしょう。小さくまとまるのは、書き慣れてからで十分だと思います。


    ・内容について
    ひたすらに「薄味」ですね。
    いい話ではありますが、それだけという感じ。
    話の起伏がなく、二人の関係に説得力がないので、感動に至りません。「よくある話」以前の問題です。

    以下に、感じた問題点を並べてみます。


    >来栖の設定
    物怖じせず人懐こいキャラは、精霊ぽくてよかったと思います。

    ただ、精霊という設定の必要性が、現時点では皆無です。
    目や髪が特殊という描写も、最初に出ただけで本筋には無関係でしたし、他の設定や描写はゼロ。何のための設定だったかわかりません。
    来栖が北欧の観光客でも問題ないですし、はっきり言って今作には不要な要素です。

    ですが、読者としては精霊という設定が出た時点で期待が高まります。
    「人ならぬ者との出会いから始まるひと夏の思い出」って出だしなら、不思議で奇妙な交流のお話が読めると思うじゃないですか!

    でも、そういう部分が一切なく、ひたすら観光して終わりなのが今作です。なまじ精霊にして期待させたので、裏切られた気分になります。「期待外れだったな」となるわけです。

    私なら、精霊という部分を最大限生かすと思います。
    たとえば掌サイズだとか、雪の精霊で暑すぎて死にそうとか。
    それが原因で起こるトラブルを通じて、玲央と来栖が近づいていく展開を描いた上で、最後の場面にもっていくかと。

    これにしても至ってスタンダートな手法ですが、今作はそれ未満ですからね。
    最低限、この程度の話を盛り上げる工夫が必要です。

    >玲央の設定
    初対面の際の情報では、
    「頭がいい」「本好き」「人間嫌い」「不登校」と、「ハンサムな引きこもり」みたいなイメージです。

    まず、こういうキャラが来栖に一週間もつきあうとは到底思えません。私ならまず玲央に断らせ、来栖の話術なり魅力で否応なく丸め込まれる……という展開にすると思います。例えば「ごはん奢るから」とか。スカしてても食欲には勝てませんから高校生w

    そういう感情の動きの説明がないので、玲央はなんとなく案内させられ、なんとなく仲良くなり、そして何故か最後には別れたくないとか言い出す、謎のキャラになってしまっています。

    この点の改善としては、まず心境の変化を場面を通して描写すること。「だんだん仲良くなった」と書かれても、読者の感想は「ふ-ん」です。何があって仲良くなったのか、どんなやりとりがあったのか。そこをこそ読者は読みたいわけです。全てを書く必要はありませんが、要所要所、気持ちに変化が出るシーンは追加すべきですね。

    もう一つは、玲央の闇について。
    1話で軽く「闇があるっぽい」と触れられていましたが、ここまで仲良くなる展開なら、この闇もしっかり設定し、物語に絡めるべきでした。

    例えば、人嫌いで不登校になった直接の理由。
    来栖と打ち解けた段階で玲央がそのことを打ち明け、来栖がいつもの口ぶりと精霊らしい視点で、他愛なく悩みを解いてしまう……という場面があれば、あの心酔ぶりも多少共感できるようになるかと。

    「最初は嫌々だったが、次第に仲良くなった」の描写は必須です。特別にシーンを増やさなくても、例えば「四日目までは来栖の希望だったが、五日目からは玲央が場所を提案してきた」という風に書けば、玲央の打ち解けぶりを間接的に表現できます。

    そういえば、玲央はいつのまにか「さん」をつけていますが、これも
    気持ちの変化シーンの後なら、より効果的でしょうね。

    >物語のボリューム不足
    今作のストーリーの主旨は「精霊と人嫌いな高校生の出会いと別れ」ですが、これだけではボリューム不足です。
    普通は他の面白い要素でメインで組み、サブとしてこの要素を併せる感じです。そこが足りていないので薄味なわけです。言っても観光案内しかしてませんからね。

    「私ならこう書く」の一例として、一話目を読んだ時点での、私の想像したあらすじ予想を書いてみましょうか。

    「来栖は北欧出身の雪の精霊。
     クリスマスには多忙を極めるサンタを手伝い、雪となって世界中に舞い降りてプレゼントを配るが、玲央の幼少時、プレゼントを配り忘れていた。
     最近になってミスが発覚し、その後始末のために来日、来栖に接近している。
     玲央はサンタが来なかったことが遠因で人嫌いになっており、来栖は責任を感じるとともに、彼が子供(18歳未満)のうちに、代わりのプレゼントを渡せないものか、そして彼が今も「よい子供」なのかどうか、交流を通して調べ始めるが……」

    という感じの前提で二人の交流を深め、起承転結の転でその事実を明かし、二人の別れの場面と「彼がプレゼントに望むのは何か」を結にもってきて、ハッピーエンドにまとめる──てな感じで妄想しましたね。
    こうなると完全に別の小説ですが、これくらいのボリュームがあった上での「出会いと別れ」であるべきだと思います。


    ・アドバイス回答について

    >・特に意見が欲しい部分。
    > 推敲できる部分があれば教えていただきたいです。
    > キャラクターの魅力があるか、ないならその出し方についてのアドバイスをいただきたいです。

    これは上記した通りですね。
    来栖のキャラはいいと思いますが、設定が無意味。 
    玲央は気持ちが描写不足で、設定も活かされていません。
    気持ちの変化をしっかり描き、メリハリをつけた方が盛り上がると思います。


    ⬜️総評
    ・いい話ではあるが、薄味。起伏に乏しい。
    ・初心者にしては読みやすい。課題は描写。特に感情表現。
    ・読者を呼び込む工夫を増やすべき。もっとカロリー高めで。

    端的に言えば、「話が小さすぎて感動できない」というところ。
    ボリュームがないので、話に起伏が生まれていません。
    謎や秘められた真実。言えない過去。告白などなど。
    読者の興味を惹く要素は、この世に幾らでも転がっています。
    一つでも二つでも取り込む努力をするのが、成長の近道だと思います。手を出し過ぎるとヤケドしますが、まあそれも経験です。

    小さくまとまらず、何でも挑戦して書いてみてください。
    自分に何が書けて何が無理なのか。
    その限界を知ってからが、本当の物書き人生のスタートです。

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