ウィーゼル市警察署の地下。

 死体安置所は、昼間でも薄暗い。ライトの白い光が金属製の台とタイル床に反射し、冷気が皮膚にまとわりつく。


 ステンレス台の上に置かれた遺体。ベンソン宅から運び込まれた犠牲者達だ。


 検視官助手のエリンは、手袋をはめたまま記録用タブレットを確認していた。彼女の隣で死体を調べているのはケビン・モリス。歳は五十代半ば、白髪交じりの短髪。ウィーゼル警察の科捜研に欠かせないエキスパートだ。


 ケビンが奏でる鼻歌(本人はレクイエムだと言っている)、ロードが長い端末。

 死体がこれほどなければいつもの光景だ。


 メンソールに頼らなくても良いほど慣れてきた彼女だが、今回の事件で運ばれてきた遺体には度肝を抜かされた。


 遺体はどれも損傷が酷く、数が多い、そして状況が理解不能なまでに特異だ。いくらケビンでも恐らくこれだけの遺体を捌くのは初めてだろう。遺体の数も残忍さでも、この事件は間違いなくウィーゼルの中で最高記録だ。


「すまなかったね」検視を済ませると、ケビンは遺体に優しく語りかけた。「もう終わったよ」


 ケビンはそう言って、白いシーツを遺体の胸元まで引き上げた。その手つきは丁寧だ。



「ここって何でこんなに不気味なんだ?」

「そりゃ、毎日死体が運び込まれてくるからだろう」


 検視室に足を踏み入れる二人の警官。エリンはタブレットから視線を離し、やっきりとため息をついて笑う。


「マイクにデイビッド、よく来たな」


 まるで孫を迎える祖父のようにケビンは微笑んで二人を見た。


「どうも」デイビッドは挨拶すると、エリンの前に手を出した。「メンソールを早く」


「いい加減に慣れなさいよ」


「死んでもムリだね」


 エリンはふと笑い、メンソールの箱をデイビッドに差し出す。


「進捗はどうです?」


 デイビッドにメンソールを催促しながらマイクはケビンに聞いた。


「ようやく全ての遺体の検視を終えたところだ」


 ケビンは手袋を外し、指先をゆっくりと揉みほぐした。長時間の検視でこわばった関節が、小さく音を立てる。


「それにしても、ここにいつも来るのは君たちだね。殺人課の刑事達はなにしとる?」


「上でコーヒを飲んでますよ」と、デイビッド。「俺達は彼らの雑用係」


「遺体の状況を聞いてくるように“脅され”てましてね」と、マイク。「死亡推定時刻は?」


「身元が判明しているベンソン夫妻の遺体は死後数日、それ以外は数週間かそれ上だ」


「数日から数週間? あり得ない……」デイビッドが眉をひそめた。「現場で見つかった遺体はどれもベンソンに撃ち殺されたんだ。ベンソン夫妻よりも腐敗が進むわけない。だろ?」


 デイビッドの言葉にエリンは肩をすくめた。


「だが、遺体は嘘をつかん。確かに夫妻以外の遺体は酷く腐敗していた。それにだね、もっと驚く事として遺体の胃から人の──」


 ケビンの言葉をエリンの端末の甲高いピープ音が遮る。


「おっと。先ほど照合をかけたDNAデータがデータベースにヒットしたようです」そう言ってエリンはデイビッドたちを見た。「ようやくね。待ちくたびれちゃった」


「それで結果は?」と、ケビン。


「ええっと──え?」エリンの表情が強張った。「そんなの嘘だわ……そんなはず……」


「どうしたんだね? エリン君」


 エリンは端末の画面をケビンに見せた。


 画面に浮かんでいたのは21歳の男性。

名前はエリオット・ジョンソン。

 422便の搭乗者名簿に載っていた乗客達の親族から提供されたDNAデータと今回のデータが合致したことで、システムはエリオット・ジョンソンの名前を画面にはじき出したのだ。




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アウトブレイク 惨劇の町 モドキ @modoki-modoki

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