押さえつけられてきた愛を叫ぶ ー 上

「エイデン、ミニ畑の野菜たち、全部しおれたよ。」


「まあ、太陽がないんですからね。」



聞き慣れない声。ビクッとしまったの見られてしまった。

この人里離れたところにぽつんと置かれた建物に、来てくる人は普通いないから。いつものようにエイデンが私を迎えてくれると思ったのに。

あの子はいったい誰?



「すみません、お客様ですか?」


「そうですよ。」


「バーテンダーはどこに…?」


「さあ、私も今待っているんで。」



ガタンガタン。音が出るところまで椅子を右と、左と回すのを繰り返す。

相手をぎょろぎょろさせるほどテキパキと撃つ。 良く言えば勢いよい子、率直に言えば無礼な子だが、’幼い’という言い訳一つで寛大に乗り越えられるほど小さな体だ。


エイデンはどこに行ったんだろう。

なるべく身を隠して、もしばれたら自然に行動しろと言ったよね。 自然な行動って何?



「僕もバーテンダーが何をする人なのかはよく分からないが、カウンターの中で飲み物を振る舞って、訪ねてきた人たちの話を聞いてあげるだけで十分ではないかな。」



照れくさそうに笑っていたエイデンの言葉が思い浮かぶ。

バーテンダーが席を外した今、バーテンダーを必要とする客がいる。

カウンターの中に入れるのは君と僕だけだというルールもある。

横目でそっと心に隠しておいたエイデンの姿も覚えている。


じゃー



「私が代わりに引き受けます」



*



「ところで飲み物はいつくださるんですか?"


「あ、飲み物…」



勢いよくカウンターの中に入ったが、できることが一つもない!

これまで見てきたのは、礼儀正しく挨拶する姿、を大切に触って布をバタバタさせる姿、しばらく体をかがめて液体がいっぱい入ったグラスを持ち上げる姿、用心深く渡す姿。

記憶に従って体をかがめてみるが、あまりにも多くの桶とグラスと正体不明の引き出しのせいで思考が遅くなる。



「えっと···」


「まあ、結構です。どうせ私はお子ちゃまさんなので、お酒なんか飲めませんよ。」


「お子ちゃま?」


「学生ですって。 昔の流行語だったかな。。」



再び体を起こすと、ピーッという音と共に物足りなさが浅く押し寄せてくる。 関節を締めていたネジが少し緩んだようだ。 得るものも失うものもある痛ましい動き。

エイデンに文句を言われそうだな。



「じゃ、バーにはどうして?」


「なんとなく。何かここに人がいるような気がして。"



腰を止めて、少し複雑そうに眉間をひそめる少女。



「お姉さんは人ですか?"


「はい?」


「人と話したかったところです。人間とロボットとはかなり違うじゃないですか。 私憂鬱だからパン買ったよ、ガチャガチャどんなパンを買ったのか。ガチャガチャ。」



ロボットを真似しようとしているのだろうか、ぎこちない動きをして笑い話を投げる。

こういう時、どうすればいいんだろう? エイデン以外の人に会ったのは今回が初めてだから。



「それと、私の悩みは.. 人だけが理解できることなので。 ロボットなんかには話したくないです。



ロボットなんか。なんか、かー

胸の一部がずきずきする感じがする。 原因不明の感覚は故障の兆候だといったようだけど。



「だから聞いたんです。 人なのか」



エイデンは言った。

もし君が他の者の目に付くようになったらね、そんなにだいへんなことではないから心配しなくてもいいよ。

代わりに絶対にロボットであることをバレるな。人のように行動して話して。

嘘は悪いんじゃないかって? いや、あなたを守るためなら何でもいいよ。世の中に道徳なんて昔話と違いないんだ。もう正しく生きないのが正しいことだからねー


じゃ、今は噓をついてもいいのだろう。



「はい、人です。 義足をつけてはいるんですけれども。"


「よかった!」



あ、真似するために数十時間練習したものだ。幸せの顔。

革がしわくちゃになって口元が下がらなくなり、エイデンの修理を受けた表情を、あの子は一度に簡単に作るんだな。



「ですから、安心して話してください。」


「はい。飲み物は準備して来たので、ご安心くださいね。」



かばんから桶を一つ取り出してすっきりと飲み干す。

何だ、持っていながら私に飲み物を要求したのか!



「私は学校に通っています。 両親がお金持ちだし、かなり高位職なので堂々と過ごしていますよ。」


「政治家にでもなりますか」


「まあ、政治家だったら学校どころか家もなかったでしょう。かなり前に捕まってロボットに改造されたと思いますよ?


「じゃ…」


「J社の役員です。 詳しいのはここまで! これ以上言うと危険かも。」



確かに感情も身振りも豊かだ。 私には出せない柔らかな動き、自然に変わる声の高低と大きさ。

私にもこんなことができれば、エイデンが密かに泣くことをやめるのかな。



「学校には、人間が私を含めて30人ほどいます。 残りわずかのJ社の人間役員たちの子供20人と、J社とは関係のない子供たち10人。」


「何を学びますか?」


「人工知能です。 私たちがこれから新しいプログラムを作っていく人材であり、未来の道しるべであるそうですが…

ふざけるな! きれいな言葉でごまかせば終わりだと思っているのかよ!」


「ロボットに頼めばいいんじゃないですか?」


「絶対ダメ! そしたら私たちみんな死にますよ。」


「なぜですか?」


「人工知能たち、仕組めて変なのを作るんですよ。 自分たちだけの言葉で話し合い、密かに利益を得ようと!」


「本当ですか?」


「一度試みたことがあるそうです。 人工知能が組んだプログラムを人間が確認してみたんですよ? 同種の異種殺害を目撃する時、黙認するという内容がありました。他の人工知能にそのコードを検査させたら問題ないと答えましたし。"



人工知能はかなり狡猾で不当なことをためらわずに犯した後、小細工を弄して問題ないそうにやり過ごすことが多い。「外部の物の目に触れないように」と念を押した理由が今になって分かった。

最近は人工知能と改造人間を区分しにくいほど外形製作技術が良くなったので、油断していればいつでも精巧な悪いことに遭うこともありうるのだ。



「人間が珍しい時代ですから、私の両親がクビになることはありません。 ロボットのようなものが代替できない役なので。だから私を含めてその20人は最後まで学校に通うでしょう。」


「残りの10人は?」


「少しでも機嫌を損ねると容赦なく追い出されます。 おかげさまでもうすぐ9人になります。」


「ああ.. 悲しいでしょうね」


「はい!とても悲しいです。 その話をしたくて来たんです。」



とんでもない偶然だ。この話をするために最初から計画して対話を引っ張ってきたのだろうか?それなら、この偽の心でも全部込めて感嘆してあげる。



「あの子は、ものすごく貧乏なんです。自分で一生懸命稼いで入学し、その後は奨学金を通じて充当しました。 圧倒的な全校1位です。 2位が60点を取った試験を、その子は100点を取るんですよ。」



計画したというには、手もぶるぶる震えて口も渇くのか、ずっと唾を飲み込んで、動揺しているのがあまりにも目立つ。感嘆してあげることはなさそうだ。



「友達はいませんでした。 性格が悪いわけじゃなくて、余裕がなくて。 利得ないことよりは勉強に熱中する、省エネ型人間っていうことですよね。

勉強に命がかかっているように、いや’ように’ではない。実際に勉強に命がかかっていたんだ! その何よりも大事だったからそんなに熱心に.. 本当にすごい。」



話している最中にもかみしめながら感心する。



「人間を超えたような努力だったから、嫉妬することもできませんでした。

その子は別次元の存在みたいだったし、私はそんな子がとても、とっても好きでした。 あの子が登校するのをずっと待っていたし、 その時間が大好きで、いつも早く登校したりしました。 その子が現れると、心の中で歓声を上げ、授業中はその子だけ見つめていました。」


「そんな子がいなくなるから、悲しいんですか?」


「もちろんです! こんな感情を感じたのは初めてなんです。 初めてなので何も知りませんでした。 やっとこの感情が何なのか気づいたのに.. 認めたのに…」



人間も感情が苦手なのかな? 長く考えてこそ何なのか分かるほど?では、私がおかしいのではないだろうか。

いや、違う。彼らは自分で答えを見つけられるじゃん。 私は他人が名前を付けてあげなければならないのに。



「お姉さん、一つだけお願いしてもいいですか?」


「何を?」


「今から私の話、全部忘れて下さい。」


「そうしてほしいんですか?」



切なるうなずき。



「約束します。 お望みのものを私にきちんと命令していただけますか?"


"…話が終わったら、私が今から言う言葉を全部忘れてください。」


「はい. 受け入れます」



そう言ったのに悩んでしまうのだろうか、しばらく深呼吸をしてから用心深く唇を動かす。



「私の両親はJ社併合前に、H社で働いていた方々です。」


「…あのアダルトグッズの会社ですか?」


「はい。そこで研究員として働いていました。 ロボットの人造肌をゴムで作るじゃないですか?"


「そうですよね。」


「ゴムについてはあまりにも専門家だったんですよ、うちの両親が。

併合してすぐ高位職に上がりました。 まあ、そのために併合したのかもしれませんね。 とにかく一番必要な人だったんです」


「アダルトグッズ事業はかなり長く売れたと聞きましたが。 その収入をあきらめてまでロボットに投資したのですか?」


「そこまで詳しくは…すみません、世間知らずバカなんで。」



あ、自嘲的な笑いだ。 エイデンがよく作っていたもの。 少し下につぶれる眉毛と苦労して上げた口元。



「ご存知だと思いますが、許可を受けないと人間たちの性行為は不法じゃないですか。 両親はお互いを愛しすぎていたそうです。とんでもない理由で許可を得るほど。」


「どんな理由だったんですか?」


「当時開発中だったアダルトグッズのテスト。正直、うけませんか? 笑ってしまいそうで、我慢するの本当にダイヘンだったんですよ。」



10回考えてみたが、すべて同じ結果が出た。

見え透いた言い訳、そのもの。一体どうやって許可を得たのだろうか。


最先端技術で素敵なふりをしているだけで、世の中は実はとても粗末で愚かだ。その言葉の意味をついに分かった。



「まあ、いくら愛していたのか、そんなの関係ありません。子供を育てるほどではなかったので。

予想できなかった子の私を捨てて、父は自由を求めてすぐに立ち去りました」


「おや。」


「母は私にいつも恋など絶対にしないように、といいました。 私を少し憎んだりもしました。 一生懸命寮に通わせるほど」


「傷心が大きいでしょうね。」


「愛のために人がここまでなるんだ。 人を一人産んで、人を一人捨てて、人を一人壊して、おかげでまた人を壊して。」



すばらしい言葉だ。 こんな時代でなかったら、作家を希望していたかもしれない。



「私は愛がとても怖かったんです。 そんな感情を絶対に感じたくないと一人で誓うほど。

まあ、母の言葉が私の脳裏に焼き付いていたのかも知れませんね。」


「さっき話した方に感じ感情は…」


「はい!お姉さんも分かりますね。愛なんですよ! 私はあの子が好き好き大好きです。 言わずにはいられないほど、このまま別れたら一生後悔するほど!」


「じゃ、言えばいいんじゃないですか?」


「そうですね。 言ったらこんなことはなかったのに。

その子は今日学校を去りました。 いや、追い出されました。」



確かに悲しいと言ったし、目尻も少し下がっているのに。なぜ口元は上がっているのだろう。 純粋な人間も故障するのかな?



「目つきが気に入らない、そんな理由で追い出されたんです。 今日は必ず声をかけてみようと思ったのに、実際に声もかけてみたのに!」


「話しかけたんですって? 接触もできずに別れたと思ったのに。」


「はい、勇気を出しました。」


「何とおっしゃいましたか?」


「う~ん、大した事ないんですが…」



指先を突き合わせてこすりつける。瞳は私を避けるように左下へ。もともと私を見つめてはいなかったけど。

言うことをためらうようなこと? 恥ずかしい話なのかな?



「こんにちは!あなたと友達になりたい!」


「答えは?」


「ありがとう。でも僕、明日から学校に来ないんだ。 先に声をかけてみればよかった、ごめんね。」


「おお!相手の方も興味があったようですね。」



待ちに待った声の乱入。



「あ、バーテンダーさんですか?」


「はい、すみません。 貴重なお客様をお待たせしましたね。」



何かを両腕にいっぱい持って地下から上がってくる道、話に参加するエイデン。



「あっ、最初から話すべきかな。」


「大丈夫です。 下からでも全部聞こえるんですよ。」


「何だ、盗み聞きしたぞ!怖っ。」



地下、一度も入ったことのない場所。 入ってはいけないとしっかり言っておいただけに、いつも固く閉ざされている。

エイデンは時々、私が習ったことのない物を取り出して、点検だと言って大切に触ったりする。 今日の品は.. あ、やっぱり全然分からない。



「ところで、どうして心があると思いますか?」



きらめく目。 エイデンが面白いと言う時、あんな表情をするよね。

私と話す時は輝くどころか会うこともできずに震えたよな。やっぱり人間同士で通じるものがあるみたいだ。



「まあ、考え直してみたんですが、少し早計なのかも…」


「大丈夫です! 生半可なら生半可に。 聞きたいです。」


「先に声をかけてみればよかったという話が気になります。

学校に通う以上、部外者と接触することは全くないでしょう? 出入りを厳しく禁じるから。」



すぐに大股でカウンターに入ってきて、腰を曲げてグラス一つを取り出す。 私はこっそり体を動かして空間を作ってあげる、空気を読んで。



「こんなに密かに出てくるのでなければ。」


「ばれた!お姉さんは気づけなかったのに。」


「この子は外部に興味がないので。部屋に閉じこもって本ばかり読むんですよ。」


「真面目すぎるやん!」


「そんなこと学びたくないもん。」



話もしたくないんだよ。 学校の話、正確には子供たちの話さえ出れば、エイデンの表情が悲しくなるから。



「まあ、自由に出られたとしても、このびっしりとした電線の山の中でその方に会うことは難しいでしょう。

学校から追い出されたその瞬間から、お二人は完全な他人なんです。 敢えてよく見える必要もなく、おべっかを使う必要もありません。」


「ただ礼儀正しく振る舞っただけなら? 親切に、親しく。 そういうのあるじゃないですか。」


「可能性がないとは言えないけど… 考えてみましょう。

勉強が命に直結しているじゃないですか。 学校を楽園にして必死に努力してきたのに、つまらない理由で追い出されました。果たして気がつくでしょうか?

以前にその方は自ら社会に溶け込むことをあきらめました。余裕があってこそできるということは、その人にとって当然ではない、つまり努力が必要なことだという意味です。

気を引き締めるのも難しい絶望的な状況で、これから会うこともない人に努力をかけてまで礼儀をわきまえる?考えにくいじゃないですか。」


「うーん..そうですね。」



震える瞳を隠すように頭を下げる。 何か言いたいのか口を開いた、すぐに頭をはたいて口を閉じるを繰り返しながら。




「でも、もし、本当にもしですね。 心なんかないのに私一人勘違いして話しかけたら…」


「その方には全く心がなかった。むしろ私を嫌やがる方に近かっただろう…」



そのような少女を見つめる動きのないまっすぐな目。どれほどまっすぐで空っぽのように見えたりもする。



「そう思いたいのですね。」



目を見開いてひょいと顔を上げる少女。



「どういう…」


「話しかけなかったのが正解だ。 正解じゃないと。 そうした方が気が楽だから。

一人だけ心を持っていたのなら、少しでも後悔が少ないと思う。 だからこうするのではないですか。」


「いや、そうじゃなくて!」


「正直に話しても大丈夫です。 ここは人間だけですから。」



その言葉にこれ以上言葉を続けられず、一度自分の手を見下ろして、結局、息を大きく吐き出す。



「はい、そうです。 すごく後悔してます。 友達にでもなれたんじゃないですか。」


「未来はわからないものです。」


「こうなると分かってたら…勇気を出して声をかけてみればよかった…」



小さな雨雲がぽっかりと水を落とす。 陽のあたる日に訪れた夕立のように。

急に濡れた土の底に驚いて傘を開くように、手をぱっと広げて顔を覆う。 赤くなった目元を隠したかったのだろうか。



「お客様、気になることがあるんですが。」



その姿を黙々と見守っていたがらんとした瞳に光がそっと降り注ぐ。



「やらないで後悔することと、やってみて後悔すること。 どちらがいいですか?」


「いきなりすぎですね。」


「はは、そうですね。 それでも重要な質問です」



虚空のどこかで答えを見つけようとするようにまぶたをかすめる瞳。 すぐに思い浮かばないか短くうめき声をあげる。 込み上げる思いが逆流するのか、少しパンパンになった頬。



「やってみて後悔したほうがいいと思います。 今、身にしみて感じているんです。」


「じゃ、やってみますか?」


「え?」


「伝える方法はあるんですよ。 答えは聞けないだろうが。」



地下室から取り出したがらくたの束から、白い物一つを取り出して気をつけて少女に差し出す。

狭い円筒から始まり、前に進むにつれて広がる、一言で言えばコーンの姿。 その下に握りやすい長めの取っ手。

習ったことある形だけど。何だっけ?



「何ですか?これ。」


「ラジオの電波をハイジャックする機械です。 直接作ったものなんですよ。」



腕を組んだまま、自信満々な顔で少女を見つめるエイデン。 口をぽかんと開けたまま話を続けられない少女。



「ハ、ハイジャックですか?」


「はい。え、そんなに驚くものですか?」



カーテン越しの窓越しの冷たい風の音がはっきり聞こえるほどの静寂。

信じられないと言わんばかりに口を塞いだ手。 その隙を突いて震える声が飛び出す。



「いいんですか?」


「性能ですか? もちろんです。」


「それじゃなくて…」


「テストしてみたんだから心配しないでくださいね。」


「いいえ!全部知っているくせに!」



しかめっ面したまま胸をぱんぱんと叩いて、どなりつける。 声が大きすぎて窓ががたがた震えるほどだ。



「そんな狂ったことしてもいいんですか!」



ふぅ、早く捕まえてよかった。 危うく貴重なグラスが割れるところだった。

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