『俺達のグレートなキャンプ238 巨大・凶暴なムラソイを釣ろう(湖で!?)』
海山純平
第238話 巨大・凶暴なムラソイを釣ろう(湖で!?)
俺達のグレートなキャンプ238 巨大・凶暴なムラソイを釣ろう(湖で!?)
「いやいやいや、ちょっと待って。石川、今なんて言った?」
富山が両手を前に突き出して、制止のジェスチャーをする。目を見開き、眉間に深い皺を寄せている。彼女の声は若干上ずっていた。その表情は、まるで信じられないものを見た人間のような、困惑と恐怖が入り混じったものだった。
湖畔のキャンプサイト。朝8時。爽やかな風が湖面を撫でている。テントの前に設置された折りたたみチェアに座った石川は、満面の笑みを浮かべたまま、釣り竿を磨いている。その手つきは実に慣れたもので、布で丁寧にリールを拭いながら、鼻歌まで歌っている。その鼻歌は演歌調で、妙に場違いな雰囲気を醸し出していた。
「だから~、湖に巨大なムラソイが現れたんだって! 200センチ級! これはもう釣るしかないでしょ!」
石川が興奮気味に答える。彼の目はキラキラと輝いており、まるで宝くじに当たった人のような表情だ。両手を大きく広げて魚のサイズを示す仕草をする。その動きは大げさで、まるでコメディアンのようだった。
「ムラソイって...あの、海にいるムラソイだよね? 岩礁に住んでる、根魚の。それが湖に? しかも200センチ!? 人間より大きいじゃん! というか、それもうムラソイじゃなくてゴジラとかそういう類のやつじゃないの!?」
富山が額に手を当てる。深いため息。肩が大きく上下している。彼女は疲れた表情で首を左右に振った。こめかみを指でマッサージしながら、「また始まった...」と小さく呟く。その声には諦めと疲労が滲んでいた。
千葉がコーヒーを飲みながら、目を輝かせて話に割り込んでくる。コーヒーカップから湯気が立ち上っている。
「すげー! 湖のムラソイ! それって新種ってこと!? めちゃくちゃロマンあるじゃん! 石川さん、どこ情報ですか!? もしかしてUMA!? 未確認生物!?」
千葉の声は弾んでいる。前のめりになって石川に詰め寄る様子は、まるで少年のようだ。コーヒーカップを持つ手が小刻みに震えている。興奮が抑えきれない様子だ。目がギラギラと輝いており、既に冒険モードに入っている。
「昨日の夜、トイレ行く途中に他のキャンパーさんに聞いたんだよ! その人マジで震えてて! 『湖に...湖に化け物が...』って。で、詳しく聞いたら、200センチ級の巨大ムラソイだって! しかも超凶暴らしいぞ!」
石川が力説する。両手でジェスチャーを交えながら、まるで実況中継のように話す。声のトーンが一段高くなっている。その様子はまるで熱血スポーツ解説者のようだった。
富山が深く、深く息を吸い込む。目を閉じて数秒。心を落ち着かせようとしている。そしてゆっくりと目を開けた。その目には、かすかな希望の光が宿っていた。
「ね、石川。その人、お酒飲んでなかった?」
「飲んでた! めっちゃ飲んでた! 焼酎のボトル抱えてた! でもね富山、酔っ払いの証言ってけっこう信憑性あるんだよ。だって正直になるじゃん、酒飲むと。嘘つけなくなるっていうし!」
「それは詭弁!!! というか逆! 逆だから! 酔っ払いほど幻覚見るから!」
富山の叫び声が湖畔に響き渡る。その声は切実で、まるで魂の叫びのようだった。近くのテントから、ちらりと覗く人影。びくりと体を震わせる富山。彼女は周囲を気にして、慌てて声のトーンを落とした。両手で口を押さえ、周囲に謝罪の視線を送る。
「いや、でも富山さん。確かに湖の方、なんか騒がしくないですか? ほら、あっちの方」
千葉が湖の方角を指差す。確かに、湖畔の別のエリアで、何人かのキャンパーが集まって、何かを指差しながら騒いでいる。その様子は、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。人々の顔は青ざめており、明らかに何かに怯えているようだった。
石川がニヤリと笑う。その笑みは自信に満ち溢れており、まるで名探偵が事件を解決した時のようだった。
「な? 絶対何かいるって! これは『俺達のグレートなキャンプ』238回目にして、最高の企画になるぜ! 伝説のキャンプだ!」
富山が天を仰ぐ。両手で顔を覆う。指の隙間から漏れる声。
「どうして...どうして毎回こうなるの...普通にキャンプできないの...? お願いだから普通に...普通にバーベキューとか、焚き火とか、そういうのじゃダメなの...?」
「よし! じゃあ早速準備するぞ! 千葉、大物用の仕掛け持ってきて! 富山は安全確保! 200センチ級となると、引きずり込まれる可能性もあるからな! ライフジャケットも用意しろ!」
「引きずり込まれるって何!? もうそれ釣りじゃなくて戦闘じゃん! 命懸けの! というか何でライフジャケット!? 釣る側が溺れる前提なの!?」
富山が絶叫する。その声は悲鳴に近かった。しかし石川はもう聞いていない。既にタックルボックスをガサゴソと漁り始めている。千葉も目をキラキラさせながら、装備の準備を始めた。二人とも完全に戦闘モードに入っている。
富山は諦めたように、深い深いため息をついた。肩を落とし、力なくチェアに座り込む。その姿は、まるで敗北を悟った将軍のようだった。
湖畔。30分後。
石川たちのキャンプサイトには、ありえない量の釣り道具が並べられていた。大物釣り用の頑丈な竿が5本。リールも大型のものばかり。そして何故か、銛、網、ロープ、さらには浮き輪まで用意されている。その光景はまるで漁船の甲板のようだった。
「石川、銛って。銛って何!? あと浮き輪!? 何するつもり!?」
「いやー、万が一釣り上げられなかった時の保険だよ。グレートなキャンプに失敗は許されない! あと浮き輪は、万が一湖に落ちた時用! 安全第一!」
石川が銛を振り回しながら答える。その様子はまるで古代の狩人のようだ。目には闘志が宿っている。額には既に汗が滲んでいる。気合が入りすぎているのだ。
周囲のキャンパーたちが、明らかに石川たちの様子を注目し始めている。ヒソヒソと話す声。指差す人々。スマホを向ける若者たち。SNSに投稿しようとしている者もいる。
「あの...すみません」
声をかけてきたのは、隣のサイトの中年男性だった。キャンプ歴が長そうな風貌。立派な髭を蓄えている。表情は困惑と興味が入り混じったような複雑なものだ。その目は、石川たちの装備を見て、明らかに戸惑っていた。
「何か...大物を狙われるんですか? というか、その銛は...」
「ええ! 湖に現れた200センチ級の巨大ムラソイです! 超凶暴らしいんで、万全の装備で臨みます!」
石川が胸を張って答える。その堂々とした態度に、中年男性が目を丸くする。口をパクパクさせている。
「ム、ムラソイ...? 海の魚ですよね? この湖は淡水ですが...しかも200センチって...」
「そこがミステリーなんですよ! だから釣る価値がある! 未知との遭遇です!」
千葉が横から補足する。その表情は真剣そのもの。本気で信じているようだ。拳を握りしめ、熱く語る姿は、まるで冒険家のようだった。
中年男性が困惑した表情で富山を見る。助けを求めるような視線。富山は力なく首を横に振った。「私も止めたんですけど...」と小さく呟く。その表情は、まるで人質のようだった。目は虚ろで、既に諦めの境地に達している。
「あ、あの、私も見たんです! 昨日の夜!」
突然、若い女性キャンパーが声を上げた。20代前半くらい。友人らしき女性二人と一緒にキャンプをしているようだ。彼女の顔は青ざめており、明らかに怯えた様子だった。声が震えている。
「本当ですか!?」石川の目が更に輝く。まるで少年のようだ。
「はい...湖で泳いでたら、何か巨大な影が...それで慌てて岸に上がったんです。友達も見てます! すごく速くて、大きくて...」
彼女の友人二人も頷く。三人とも震えている。その様子は演技には見えなかった。一人は涙目になっている。
「ほらー! やっぱりいるじゃん! 富山、どうする!? これ確定じゃん!」
石川が勝ち誇ったように富山を見る。その表情はドヤ顔で、親指を立てている。
富山が長い長いため息。そして、観念したような表情で答えた。目を閉じ、何かを悟ったような表情だ。
「...分かった。でも、絶対に無理はしない。危険だと思ったらすぐ撤退。いい? 約束よ? 指切りするわよ?」
「了解! さすが富山、話が分かる! やっぱり長い付き合いだな!」
湖畔の岩場。午前10時。
気づけば、石川たちの周りには15人以上のギャラリーが集まっていた。皆、興味津々の表情で、石川が餌をつける様子を見守っている。まるで見世物のようだ。スマホのカメラを向ける人、双眼鏡を構える人、メモを取る人まで現れた。
「餌は何使うんですか?」中年男性が尋ねる。
「イカです! ムラソイはイカが大好物なんで! でもこれ、普通のスルメイカじゃないんですよ」
石川が大きなスルメイカを取り出す。しかし、それは異様に大きい。30センチはある巨大なイカだ。
「これ、ネットで取り寄せた特大サイズ! 相手が200センチなら、餌も特大じゃないと!」
「その理論おかしくない!?」富山がツッコむ。
石川が慣れた手つきで針にイカをつける。その手つきは職人のよう。周囲から「おお...」という感嘆の声が漏れる。ギャラリーの中には、拍手する者まで現れた。
千葉が双眼鏡で湖面を監視している。真剣な表情で、まるで軍の偵察兵のようだ。
「石川さん、あそこ! 3時の方向、水面が波立ってます! 何かいます!」
「よし! 投げるぞ! 皆さん、下がってください!」
石川が大きく竿を振りかぶる。そして力いっぱい投擲。筋肉が隆起し、額に青筋が浮かぶ。「うおおおお!」という気合の声。餌が弧を描いて、千葉が指差した方向に着水する。水しぶきが上がる。その飛距離は50メートル以上。ギャラリーから歓声が上がる。
静寂。
湖面を見つめる石川たち。そしてギャラリーたち。誰もが固唾を呑んで見守っている。風の音だけが聞こえる。鳥の鳴き声も止んだ。まるで時が止まったかのような静けさだ。
「...来ない」
富山が呟く。ホッとしたような、でもどこか残念そうな、複雑な表情だ。
「まだだ! まだ諦めるのは早い! 魚は気まぐれだからな!」
石川が竿を握り締めたまま、じっと湖面を見つめる。その眼差しは真剣そのもの。まるで求道者のようだ。額の汗が一筋、頬を伝う。
5分経過。10分経過。
ギャラリーの中から、諦めて戻っていく人がチラホラ。「やっぱりガセか」「時間の無駄だった」という声が聞こえる。
「やっぱり、幻だったんじゃ...」
富山が言いかけたその時。
ググググググッ!!!
竿が大きく、激しくしなった!!! まるで弓のように曲がっている! 折れるんじゃないかというほどだ!
「来たァァァァァ!!!」
石川の絶叫。周囲がざわめく。戻りかけていた人たちが慌てて駆け寄ってくる。転びそうになる老人を若者が支える。
リールが猛烈な勢いで回転している。糸が出ていく。ジージージーという音。物凄い引きだ。石川の体が前に引っ張られる。
「石川! 落ち着いて! ドラグ緩めて!」
富山が叫ぶ。彼女の顔は緊張で強張っている。両手を握り締めて、石川を見守る。
「分かってる! これは...これはデカい! マジでデカい! 重い! クソ重い!」
石川が必死にリールを巻く。腕の筋肉が浮き出ている。顔が真っ赤だ。歯を食いしばり、額からは滝のような汗。その表情は鬼気迫るものがある。
「千葉! ロープ用意! 富山! カメラ! 記録だ!」
「了解!」
千葉が素早くロープを取り出す。富山は慌ててスマホを構える。手が震えてブレている。
その時だった。
ザバァァァッ!!!
水面が爆発したように弾け、巨大な魚影が飛び出した!!!
「うわああああああ!!!」
ギャラリーから悲鳴が上がる。何人かが尻もちをつく。老人が「な、なんじゃあれは...」と震える声で呟く。
それは、確かにムラソイだった。しかし、そのサイズは異常だ。本当に200センチはある。人間の大人ほどの大きさ。そして、その目は―――明らかに殺気を帯びていた。ギラギラと光る眼光。まるで獰猛な肉食獣のようだ。
「マジで...マジでいた...」
富山が呆然と呟く。スマホを持つ手が、ガタガタと震えている。顔面蒼白だ。
巨大ムラソイが、再び水中に沈む。しかし、その引きは更に強くなった。石川の体がズルズルと前に引っ張られる。
「うおおおお! 千葉! 後ろから押さえろ!」
「はい!」
千葉が石川の腰に腕を回して、後ろから支える。二人がかりで踏ん張る。足が地面を削る。砂利が飛ぶ。
ギャラリーの中から、「頑張れー!」「負けるな!」という声援が飛ぶ。完全に見世物と化している。
「富山! お前も!」
「え!? 私!?」
「いいから来い!」
富山が渋々近づく。千葉の後ろから、石川の腰を押さえる。三人で綱引きのような状態だ。
「せーの! 引くぞ!」
「うおおおおお!!!」
三人が一斉に引く。竿がギシギシと悲鳴を上げる。石川の顔は真っ赤で、首の血管が浮き出ている。汗が噴き出し、シャツが濡れている。
ズズズズズ...
少しずつ、糸が巻き取られていく。巨大ムラソイが、岸に近づいてくる。
「よし! いい感じ! もう少し!」
その瞬間だった。
ドバァッ!!!
再び水面が爆発し、巨大ムラソイが飛び出した! そして―――
ブンッ!!!
巨大な尾びれが、まるでバットのように振り抜かれた!!!
「うわっ!」
石川たちが咄嗟に身を屈める。尾びれが頭上を通過。その風圧で、石川の帽子が吹き飛んだ。
「今の...攻撃!? 魚が攻撃してきた!?」
富山が絶叫する。目を見開き、口をパクパクさせている。完全に理解の範疇を超えている。
「やべえ! こいつ、マジで凶暴だ!」
石川が叫ぶ。しかし、その目は輝いている。恐怖よりも興奮が勝っているようだ。
巨大ムラソイが再び水中に潜る。しかし、今度は水面下を高速で移動している。水面に波紋が広がる。その速さは異常だ。まるでイルカのようだ。
「左! 左に来ます!」
千葉が叫ぶ。
石川が竿を左に向ける。しかし―――
ドガァッ!!!
水面から飛び出した巨大ムラソイが、体当たりをかましてきた!!!
「うわああああ!!!」
石川が吹き飛ばされる! 千葉と富山も連鎖的に倒れる! 三人が砂利の上に転がる!
「いったああああ!!!」
富山が悲鳴を上げる。肘を擦りむいている。血が滲んでいる。千葉も膝を打ったらしく、顔を歪めている。
「大丈夫か!?」
石川が起き上がる。しかし、竿はまだ握っている。離していない。その執念は凄まじい。
巨大ムラソイは、まだ糸の先にいる。水面をバシャバシャと叩いている。まるで挑発しているかのようだ。
「くそ...やってくれるな...」
石川が立ち上がる。服は泥だらけ。額から血が流れている。転んだ時に石で切ったようだ。しかし、その目は燃えている。
「石川! もうやめよう! 危険すぎる!」
富山が止めに入る。しかし、石川は首を横に振る。
「ダメだ! ここで引いたら、グレートなキャンプの名が廃る! それに...」
石川がニヤリと笑う。
「...面白くなってきたじゃねえか!」
「面白いとか言ってる場合!? 血出てるから! 額から血!」
富山が絶叫する。しかし、石川はもう聞いていない。再び竿を構える。
「千葉! 銛持ってこい! 正面から勝負だ!」
「了解!」
千葉が銛を取り出す。その長さは2メートル以上。まるで槍だ。
ギャラリーがざわめく。「おいおい、マジか」「止めた方が...」という声。しかし、誰も止めに入らない。皆、興奮している。スマホを構え、動画を撮影している。
石川が再びリールを巻く。腕に力を込める。筋肉が膨れ上がる。歯を食いしばり、「うおおおお!」と雄叫びを上げる。
ズズズズ...
糸が巻き取られる。巨大ムラソイが岸に近づいてくる。水面下に、巨大な影が見える。
「来るぞ...!」
石川が身構える。千葉も銛を構える。富山は両手で顔を覆っている。指の隙間から覗いている。
ザバァッ!!!
巨大ムラソイが再び飛び出した! そして―――
背びれを立てて、石川に突進してきた!!!
「危ない!!!」
千葉が咄嗟に銛を構える。巨大ムラソイの背びれが銛に当たる。ガキィン! という金属音。背びれには毒があるのか、銛が一部溶けている!
「毒!? 背びれに毒!?」
富山が絶叫する。もう何が何だか分からない。魚の常識を超えている。
「くそ! 千葉、交代!」
石川が竿を千葉に渡す。そして銛を受け取る。額の血が頬を伝う。しかし、その表情は笑っている。
「面白え...! こんな魚、初めてだ!」
「楽しんでる場合!? というか完全に戦闘じゃん! もう釣りじゃない!」
富山のツッコミも虚しく、石川は銛を構える。
巨大ムラソイが再び水中から飛び出す。今度は口を大きく開けている。その牙は鋭く、まるでサメのようだ。
「食らえ!」
石川が銛を投げる! 銛が回転しながら飛ぶ! そして―――
ドスッ!!!
巨大ムラソイの脇腹に刺さった!!!
「やった!」
しかし、巨大ムラソイは怯まない。むしろ、更に凶暴になった。暴れる。水しぶきが上がる。まるで台風のようだ。
千葉が必死に竿を保持している。「うわわわわ! 引きが強い! 強すぎる!」顔を真っ赤にして、歯を食いしばっている。腕がプルプル震えている。
「富山! 網!」
「えええ!?」
富山が慌てて網を取り出す。しかし、それは普通の釣り用の網ではない。漁師が使うような巨大な網だ。どこで用意したのか。
「こんなの使えないって!」
「いいから! 頼む!」
石川が富山の手を取る。その手は汗でびっしょりだ。しかし、力強い。
「...わ、分かった」
富山が観念したような表情で、網を構える。手が震えている。
千葉が巨大ムラソイを岸に引き寄せる。顔は汗だくで、シャツが絞れるほど濡れている。「もう...限界...!」という声。
「今だ! 富山!」
「えいっ!」
富山が網を投げる。しかし―――
バシャァン!!!
巨大ムラソイが尾びれで網を弾いた!!!
「嘘でしょ!?」
富山が呆然とする。網が宙を舞い、別のキャンパーの頭に被さる。「うわっ!」という悲鳴。
「すみません!!!」
富山が慌てて謝る。顔は真っ赤だ。
その隙に、巨大ムラソイが反撃に出た。猛烈な勢いで水中に潜り、竿を引っ張る。千葉の体が前のめりになる。
「うわああああ! 落ちる落ちる!」
「千葉!」
石川が千葉を後ろから羽交い締めにする。しかし、二人とも水際まで引きずられる。靴が水に浸かる。
「石川さん! もうダメです! 手が...!」
千葉の手が限界だ。指が痙攣している。握力が尽きようとしている。
その時だった。
「もう! 知らない!!!」
富山が叫んだ。そして、水に飛び込んだ!!!
「富山!?」
「え!? 富山さん!?」
ザブン! という音。富山が湖に入る。服のまま。そして、水中で巨大ムラソイに掴みかかった!!!
「つかまえた!!!」
富山の声。水中から聞こえる。彼女は巨大ムラソイの胴体に両腕を回している。必死に抱きついている。
「富山! 無茶だ!」
しかし、富山は離さない。「もうヤケクソ! 早く引き上げて!」という叫び声。
石川と千葉が全力で竿を引く。二人の顔は真っ赤で、血管が浮き出ている。「うおおおおお!!!」という雄叫び。
巨大ムラソイが暴れる。富山の体が振り回される。「うわわわわ!」という悲鳴。水しぶきが舞う。
「富山! 頑張れ!」
「頑張ってる! めちゃくちゃ頑張ってる!!!」
富山の声が水中から聞こえる。彼女の顔は半分水に浸かっている。髪はびしょ濡れ。しかし、離さない。その執念は凄まじい。
ギャラリーが総立ちで応援している。「頑張れー!」「負けるな!」「すげえ!」という声援。拍手。口笛。まるでスポーツの試合のようだ。
石川と千葉が渾身の力で引く。二人の足が地面を削る。砂利が飛び散る。
ズズズズズ...
少しずつ、巨大ムラソイが岸に上がってくる。富山も一緒に。彼女の服は泥だらけで、顔には擦り傷がある。
「もう少し...!」
石川が歯を食いしばる。額の傷口から血が滴る。しかし、止まらない。
「うおおおおおお!!!」
最後の力を振り絞って、引く!!!
ズドォン!!!
巨大ムラソイが、完全に陸に上がった!!!
富山も一緒に地面に転がる。「はあ...はあ...」と荒い息。全身びしょ濡れで、泥だらけ。
巨大ムラソイが地面で暴れる。バタバタという音。しかし、もう水中ではない。動きが鈍い。
「よし! 今だ!」
石川が飛びかかる。巨大ムラソイの頭を押さえつける。千葉も尻尾を押さえる。
巨大ムラソイが最後の抵抗を見せる。尾びれで石川の顔をビンタ!!!
バシィン!!!
「ぐはっ!」
石川の頬が赤く腫れる。しかし、離さない。「この野郎...!」と呟きながら、力を込める。
千葉が尻尾を必死に押さえている。「重い! めっちゃ重い!」という声。汗が滴る。
富山がよろよろと立ち上がる。そして、ロープを取る。
「もう...もう疲れた...でも...」
彼女がロープを巨大ムラソイに巻きつける。手際よく、しっかりと。何度も巻く。
「よし! 固定した!」
ギャラリーから大歓声が上がる!!! 拍手! 口笛! 「やった!」「すげえ!」という叫び声!
石川、千葉、富山の三人が、その場に座り込む。全員、息が荒い。汗だく。泥だらけ。血まみれ。
しかし、三人とも笑っている。
「...やった...やったぞ...」
石川が呟く。その声は震えている。しかし、笑顔だ。
「すごかった...マジですごかった...」
千葉も笑っている。涙目だ。感動している。
「...もう二度とやらない...絶対に...」
富山が呟く。しかし、その顔も笑っている。達成感がある。
三人が巨大ムラソイを見る。それは確かに、200センチ級のムラソイだった。鱗は美しく、しかし傷だらけ。脇腹には銛の跡。激闘の証だ。
その夜。
キャンプサイトには、巨大焚き火が焚かれていた。そして、その上には―――巨大ムラソイが丸焼きになっている。
「うまそう...」
石川が呟く。彼の額には絆創膏が貼られている。頬も腫れている。しかし、表情は満足そうだ。
千葉も腕に湿布を貼っている。しかし、目は輝いている。
富山は全身筋肉痛らしく、動きがぎこちない。しかし、その顔は穏やかだ。
周囲には、あのギャラリーたちも集まっている。皆、興奮した表情で、巨大ムラソイの丸焼きを見つめている。
「じゃあ...いただきます!」
石川が巨大ムラソイを切り分ける。その身は、驚くほど白く、美しい。
一口食べる。
「...!!!」
石川の目が見開かれる。
「うまい...! めちゃくちゃうまい!!!」
千葉も食べる。「マジで! これ最高!」と叫ぶ。
富山も恐る恐る食べる。そして―――
「...美味しい」
彼女が呟く。涙ぐんでいる。
「あの苦労が...報われた...」
三人が顔を見合わせる。そして、笑う。大声で笑う。
ギャラリーたちも一緒に食べる。皆、「うまい!」「最高!」と口々に言う。笑顔が広がる。
焚き火の炎が、夜空を照らす。星が瞬いている。
「やっぱり、グレートなキャンプだったな」
石川が呟く。
「ええ...まあ...認めます」
富山が小さく笑う。
「次は何やります?」
千葉が尋ねる。その目は、既に次の冒険を見ている。
「そうだなあ...」
石川が夜空を見上げる。
「次は...湖で巨大タコでも釣るか!」
「却下!!!」
富山の叫び声が、夜空に響き渡った。
しかし、三人の笑い声は、止まらなかった。
『俺達のグレートなキャンプ238』は、こうして幕を閉じた。
そして、次なる冒険が―――既に始まろうとしていた。
完
『俺達のグレートなキャンプ238 巨大・凶暴なムラソイを釣ろう(湖で!?)』 海山純平 @umiyama117
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