その電車は廃線になりました。
久部花洛
第1話 その電車は廃線になりました。
列車の座席で、外を眺めた。緑一面が、窓一杯に広がり、遠くで海が見えた。東京も、かつてはこんな時期があったのだろう。
私は窓に頭を預けた。目をつぶって、暗闇に吸い込まれた。
◆
「あのすみません」
肩を揺すられた。腕の先には、メガネをかけた男が立っていた。
「なんでしょう…?」
そう聞くと、彼は私と向かい合って座った。
「ずっと眠ってらっしゃるから。具合でも悪いのかと思いまして」
腰を掛けると同時に彼はそう言った。私が慌てて、時間を見ると、三時間は軽く経っていた。
「今の駅はどこなんです?」
私が聞くと、男は鼻で笑って
「怪談はお好きでしょうか?」
思わず、え?と声が漏れてしまった。男は続けた。
「お好きなんですよね。その本」
男が指差した方には、私が駅で買った本があった。怪談集。確かに、私は怪談が大好きだ。
「えぇ、まぁ」
私ははにかむように言った。
「なら、私にお一つ、怪談を話させてくれませんか?」
男が聞いた。私は答えることが出来なかった。
廃線になった電車
「ある電車に乗った時のことです。岡山に行ことしたときのこと。乗る電車を間違えまして、逆の方面に行ってしまったのですよ。そこで一度、駅に降りまして、別の電車を探すことになりました。ですが、そこは田舎で、電車が来るまでにかなりの時間がかかるのです。けれど、なんとしたことか。私は気付いたら、寝てしまっていました。疲労のせいでしょう。終電間近、電車もきっともう来ないと思ったそのとき、一本の電車が音を立てて、私の前にやってきたのです。私はその電車の終着駅も気にせず、慌てて、そこに乗りました。今、思えばもう少し確認すべきだったのかもしれません。
「電車の中はとてもがらんとしていました。終電間近ですから、当たり前でしょう。私は、適当な場所に座り、そのままちょうどいい駅まで待つことにしました。ですが、電車はいつまでたっても止まらないんです。次の駅は、次の駅は、とアナウンスは繰り返していましたが、必ずその駅を通りすぎてしまいます。そんなとき、私の心臓は次第に脈打ち、頭には色んな考えが巡りだしたのです。そんなさながら、私は車掌室に向かいました。
「「あの、電車が止まらないんですが…」」
そう言って、車掌室を見ると、そこには誰もいないんです。ひとりでに電車が動いている。私の体は動きませんでした。この状況を理解できなかった。私は他の車両に向かって、無謀ながら、走りました。そうすると、中に車掌らしき人物がいたのです。私はすがる思いで、彼に聞きました。
「「この電車はどこへ向かってる?」」
そしたら、彼はうつむいたまま、私に言いました。
「「……楽園…」」
私の目の前には、先のない線路が見えました。私は、必死に頭を回転させ、緊急停止ボタンと書かれた赤いボタンを、全身の力を込め、押しました。汗は額を流れ、目の上を垂れましたが、閉じることは出来ませんでした。電車は、落ちる一歩手前でーー停止しました。
「車掌らしき男は、私を睨み、チッと言ってから、車掌室に戻っていきました。私は、開いた扉から、東京駅へと降りました。そこには、人だかりができ、朝日が眩しすぎるぐらいに指していました。
「私は駅を去りました。あなた、知っていますか?あの電車は今も走り続けているのですよ。みんな、同じ場所に向かって」
◆
男は、席を立った。私はとっさに彼に質問を投げ掛けた。何故こんなことを思ったのか。だが、聞かずにはいられなかった。
「あなたは車掌ですか?」
そしたら、男はニコッと笑って、私に聞いた。
「この電車の終着駅は、ご確認されましたか?」
その電車は廃線になりました。 久部花洛 @HAIJIN_618786
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