エピローグ「名もなき石碑の前で」

 遥かな未来。

 王都を見下ろす丘の上に、二つの石碑が並んでいた。

 一つは大きく、立派な彫刻が施されている。

『炎の王 イグニス・フォン・ドラグノフ ここに眠る』

 もう一つは、その隣に寄り添うように建てられた、シンプルだが手入れの行き届いた石碑だ。

『王の魂の半身 ルッツ・アークライト ここに眠る』

 ある春の日、歴史の授業の一環で、子供たちがここを訪れていた。

「先生、このルッツって人は、Ωだったの?」

 生徒の質問に、教師は微笑んで首を振った。

「いいえ。彼はβでした。何の魔力も持たない、普通の人でした」

「えーっ? じゃあなんで、最強の王様の奥さんになれたの?」

「それはね……」

 教師は空を見上げた。

「彼が、誰よりも強い心を持っていたからです。そして、王様はそんな彼を、世界中の誰よりも大切にしていたんですよ」

 風が吹き抜け、丘の上の花々が揺れた。

 石碑の周りには、今でも誰かが供えたのだろう、色とりどりの花と共に、一瓶のラムネ菓子が置かれていた。

 その甘い香りは、時代を超えても変わらず、二人の愛の物語を優しく語り継いでいるようだった。

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偽りのΩは最強のβ~フェロモン無効の転生武道家が、狂犬王子の求愛を物理で回避する~ 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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