月明り、白い肌、赤い鮮血。

赤須 紫陽花

月明り、白い肌、赤い鮮血。

彼女のことは最初公園で見かけた。


 夜中の2時過ぎそこらの時間だった。親は僕に無関心だし、そもそもほとんど家にいないので、こんな時間に出歩いていても誰も僕を心配する奴なんていない。ただ、なんだか無性に夜の空気を吸ってみたい気分だったのだ。

 そうして歩いている中で見つけたのが彼女だった。

夜の空気は重く、冷たくて、それでも心地よい風が吹く。

そんな空間に、彼女はいた。

身長は低くてまだ幼い見た目だ。せいぜい中学生ぐらいだろうか。そして何よりも印象的だったのは雪のように白くて、透き通った肌だ。それが月明かりに照らされて、美しく輝いていた。それと対比するように、髪の毛はどこまでも黒かった。コレを漆黒というのだろう。

 彼女は公園のブランコに乗ってしばらく地面を見ていたり、空を眺めていたりした。

その様子を僕はじっと見ていた。

今考えると、見惚れていたのだと思う。


 しばらく彼女はそうしてからブランコから飛び降りこっちに向かってきた。

まずい、見ていたのがバレたか?


「こんばんは」


 それだけ言って彼女は僕の横を通って行った。か細く、触れたら崩れてしまいそうな声だ。

彼女が通ったところから少し良い香りがする。それを夜の風はさあっと拭って行った。


 僕は、彼女の声を反芻し、くるりと体の向きを変えて、帰路に就いた。

 彼女のいた公園では、まだ夜風でブランコが揺れていた。


 それから来る日も来る日も僕は夜中に家を出て例の公園に赴いた。すると彼女は毎日いるのだ。そして地面を見たり、空を眺めたり、ブランコを少し漕いだりしてから、僕のことを横切って帰ってゆく。

律儀にも、僕にしっかり挨拶をして。


 謎の行動をする彼女の神秘性が美しいと思った。彼女はまるで生きる芸術品だ。彼女の全てが美しい。


 彼女を観察しに行くのが僕の日課になった。変態じみているし、ストーカーであることも否めない。だがそれでも彼女を見ることがやめられないのだ。


 ある日いつものように夜中に起きて、例の公園へ向かって行った。すると今回は少し様子が違った。彼女の他に誰かがいる。そう思った矢先、怒声が響いた。


「良い加減にしろ!お前はほんっとに俺をイラつかせるよなぁ!俺のことが怖いから毎晩こんなところに来んだろ!」


 家族なのだろうか、一方的に怒りを彼女にぶつけている。その後、か細い声がさらに力無く聞こえてきた。


「…そ、そんなこと思ってな…」

「嘘つくんじゃあねぇ!あぁ⁉言いたいことあんなら言えよ!だからムカつくんだよお前はぁ!」


 その瞬間大きい拳が振り上げられ軌道に乗って彼女にふり注いだ。



ドチャッ。



生々しい音が、あたりに響いた。そして空中に赤く綺麗な鮮血が飛んだ。


「泣くんじゃねえよ!クソ野郎が!」


 そう言って男は彼女の髪の毛を掴んでまた思いっきり殴りかかった。真っ黒な、艶のある、髪の毛を掴んで、何度も何度も、殴っていた。



ドッ、ドチャッ、ガシ、バキャッ。



 様々な音が鳴っていた。そうして、彼女が壊れていくのがわかった。

僕はそれを、ただじっと見ていた。


「…クソが…」


 疲れたのか男はそう言って殴るのをやめた。

彼女の髪の毛を掴んだまま、男の右手からは彼女の顔から赤い糸がねちょりと引いていた。男は彼女の髪の毛を離して、そのままどこかへ去って行った。


 僕は我に帰って彼女に駆けつけた。



 ちょうど月明かりが当たっていた。彼女は虚な目をして倒れている。全身はあざと血だらけだった。鼻からは鼻血が出ていて顔にもあざができていた。


 彼女が月明かりに照らされる。


 白い肌と、鮮血。そしてそれを彩るかのように散りばめられた、あざ。

それら全てが調和を保っていて美しかった。本当に綺麗で美しくて、可愛かった。


 美しい美しい美しい美しい。

 可愛い可愛い可愛い可愛い。



 とても気持ちがいい。



 ああ、君はそれで良い。ずっとそんなように惨めで、弱くて、辛い思いをしていてくれ。そのほうが美しいから。可愛いから。


虐めたくなっちゃうから。


 僕の脳裏には、月明かりに照らされる彼女のどこまでも白い肌と、それを彩る赤い鮮血が、ずうっと焼き付いている。

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月明り、白い肌、赤い鮮血。 赤須 紫陽花 @akasuazisai

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