不死の法 ひそかなる書付

太陽SUN

不死の法

このこと、代々口にすべからず、されど忘るれば禍なり。

ゆゑに老いたる者、夜半にのみ筆をとり、ここに記す。


不死にならまほしき者は、次の三つと一つを、この地に持ち来たるべし。


一つ、丑の心の臓。

一つ、丑の頭。

一つ、丑の肝。

一つ、みづからの右の人差し指の爪。


しかして、これらを定めの作法にて合わせなば、魂は衰へず、永き時を越ゆるといふ。

老いは遅く、病は遠ざかり、死はその身を忘るると伝はれたり。


されど、ここに大いなる戒めあり。


用ゐる丑が生まれし時より、死に至るまでを見届けしものに限るべし。

縁なき丑、よその丑、あるいは奪ひし丑をもって行へば、魂はたちまち腐り、

人としての形を保つこと能はず。


その例として、藤原許君といふ者のこと、古き者ども語り伝ふ。

許君、欲に目くらみ、おのれのものならぬ丑を用ゐ、この法を試みたり。


その果て、身は死せず、されど心は獣となり、

夜ごと里に出でて人を襲ひ、十五人を食ひ殺したりといふ。

言葉を失ひ、知恵を忘れ、ただ吠え、ただ噛むのみ。


つひに捕らへられ、牢に入れらるるも、鎖を噛み、壁を裂き、

人の声に狂ひて暴れしと、古老は語れり。


ゆゑに、この法を知る者は、知るのみとすべし。

試みること、決してあるべからず。


――これは戒めなり。

不死を願ふ心こそ、人を最も早く人ならざるものへと導くゆゑなり。

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