転生したら最弱魔王~クセ強だけど最強の味方にだけ無双できる俺、ボスに祭り上げられたけどスライムすら倒せません~
小田千耀
第1話
やっと、支配できる側に立てた。
いわゆる『転生』というものだと自覚して一番初めに思ったものが、それだった。見覚えのない豪華な部屋の中で、目を覚ます。窓ガラスに反射した見覚えのない顔で、察しの悪い自分でも気が付いた。
「おはようございます。魔王様」
部屋の外に出ると、丁度廊下を通った青年が頭を下げてきた。何とも言えない高揚感の直後、青年の姿と、意味の分からない言葉に驚く。
「早速ですが、貴方が仰っていた地位交換バトルを申し込んでいる者がいます。昨日の場所で準備を」
「ちょっと待って」
頭に小さな角が生えた、整った顔立ちの青年。上等そうなマントも含め、明らかにコスプレではなかった。そして、人間でもなかった。
『ここはどこ?私は誰?』なんてテンプレのような言葉を言おうとして、ためらう。折角の支配体制で、わざわざ自分が下になるような言葉を言うミスはしたくない。
「ああ、わ、わかった。準備?してくるからちょっといまは待っててくれ」
「承知いたしました」
部屋に吸い込まれるかの如く戻って、ベッドに寝転がった。もはや最初の頃の『やっと、支配できる側に立てた』なんていうカッコつけた独白をしている場合ではない。
帰りたい。一刻も早く。あの支配されていたという名のただの陰キャ生活に。
「何があったんだ……ここはどこで俺は誰なんだ!帰りたい!うわああああああぁぁ!」
カッコよさも、最初の何文かの余裕もすっかりなくなって、いつの間にか叫んでいた。ベッドの上でバタバタと足を動かす。
よくある異世界転生最強主人公ものなら、カッコよく現状をすぐ悟っているはずだった。それなのに今は、いつ、どこ、なに、誰すらも分からないまま、みっともなく布団の上で転がっている。
「飛び入り参加の魔王さまぁ?早く戦いを始めましょうよ」
ノックの音と共に、長いコートを着た眼鏡の青年が入ってきた。いかにも参謀キャラ、みたいな姿だ。
「飛び入り参加……?ああ、そそ、そうだ。俺が、飛び入り参加?の、魔王……?」
「何を仰っているのかさっぱりわかりませんが、さっさとやりましょう」
コートを外し、ワインレッドの細渕眼鏡を丁寧に外す。コートの下は、裸だった。
「え?」
綺麗に割れた腹筋、盛り上がった胸筋、厚みのある肩回り。今まで見たことがないぐらいに鍛えあがった体だ。
「さぁ!やろうぜ魔王様よぉ!昨日のアレはまぐれだったって、泣きながら言わせてやるぜ!」
「あ、あれってなんだよ。お、お前が弱すぎて全然覚えてないなー」
適当にいうと、明らかにイラついた様子でマッチョの男が壁を叩いた。ヒビが入る。
口調もキャラも、どうやらコートを脱ぐと変わるらしい。
「いきなり魔王軍に乗り込んできては、唐突に『新魔王は俺だ』とか『支配してやる』なんて恥ずかしいセリフを吐きながら攻撃してきたじゃねぇか。俺らの攻撃は効かねぇままお前が魔王手続きを済ませて元魔王さまの部屋で寝て、今というわけだ」
「俺すげー」
「自慢すんなよ。地位交換バトルでいつでも魔王を交代できるようにしたのはお前だからな。いつでも立場が変わると思っておけ」
詳細までは分からないが、要するにすごく強くて新魔王になったらしい。俗にいう『最強主人公』というやつだ。と、心を弾ませる。
ニヤニヤしつつ、男が放り投げた剣を掴んだ。
「わかった、勝負してやろう」
初めての廊下を歩いて、ようやく部屋が二階だったと気づきつつ階段を降り、少し開けたところに出た。
大剣を構えた男が、炎を纏わせながら走ってくる。受けようか、なんて思う間もなく、剣は俺の体に当たった。
不思議と、痛みはない。体がふらつくこともない。
「ちくしょう……昨日とおんなじ能力無効じゃねぇか」
「そ、そうだ。昨日と同じだ!」
オウム返しをして、ようやく笑う余裕も出てきた。ニヤリ、と笑って見せる。
「キメェ笑いすんじゃねぇよ」
残念ながら、かっこよくはないらしい。少し落ち込みつつも、男に走りかかった。カス当たりのはずなのに、男がよろめく。
少し剣先を上げて、剣を振りあげた。
「俺の勝ちだ」
振り下ろすフェイントをかけて、体制を崩したところを剣先で突く。勝ちは勝ちだ。そう宣言すると、男は悔しそうに顔を歪めた。
そして、地面を一回蹴ってから踵を返し、魔王城へと戻っていった。俺もその後を追って、城に戻る。元魔王の趣味なのか、城の外見は改めて見ると『The 魔王』というような、禍々しいものだった。
「敵軍兵士がやってきたぞ!」
見張りの兵士が叫ぶ声が聞こえる。視線を向こうにやると、スライムが何匹か跳ねてくるのが見えた。
「あれが敵か?」
「どう見てもそうだろ。馬鹿なのか?」
負けた腹いせにか煽られる。魔王軍じゃなかったのか?スライムも魔物だろ?と突っ込みたくなる気持ちを抑えて、剣に手をかけた。
「とりあえず、俺が行ってくる」
キリっとした表情で、俺はスライムへと向かう。「相変わらずキモイ顔だな」と罵られた。
「スライム!俺が殲滅してやる!」
そういって、剣を抜いた。スライムに、思いっきり切りかかる。
倒れたはずだった。確かに倒れていた。……俺が。
「雑魚じゃないか?アイツ」
「ああ……最強の魔王になると思ったけどな」
「残念ですね」
顔の上で、誰かがしゃべっていた。目を開ける。
「スライムごときに我らが黒の器官の四天王が出てくるとはな……まぁ、魔王さまがやられてしまったなら仕方がない」
さっきのマッチョ、転生したての時に出会った青年、それとは別にもう2人が立っていた。
「行くぞ貴様ら!」
青年が剣を抜く。そして、中段に構えて叫んだ。
「刃をいっぱい飛ばすやつ!」
思わず聞き返したくなるほど、ダサい名前だった。初めて聞いて自分の耳を疑い、確かに言ったと確信してからは青年のネーミングセンスを疑うほどだ。
しかし、攻撃はすごかった。スライムがあっという間に倒されていく。さっきのマッチョも、大剣を振り回して攻撃していた。
俺が勝てたのはまぐれだったのかと思うくらい、強い。
隣のフードをかぶったおそらく味方が、あとから援軍としてきたモンスターを次々と倒していく。呪文の言葉なのか、プルプル、と何かつぶやいている。
少し離れたところでは、セクシーなお姉さんがいた。周りでは、モンスターが倒れている。
お姉さんが妖艶に微笑むたび、モンスターの動きが止まる。そのたびに、お姉さんが倒していった。
「幻滅しましたよ。まさかこんな雑魚だなんて。黒の器官の新魔王とは思えませんね」
「ちょっと待ってくれ。流石に2度目だから突っ込みたいんだが、『黒の器官』ってなんだ。1回目は見てくれている人も『誤字かな』と見逃してくれたけど2度目はムリだぞ」
青年が首を傾げる。メタは通じないらしい。
「俺が付けました。組織より器官の方が大きいかなぁ、って」
「某アニメかよ!」
このツッコミにもまた、首を傾げられて終わる。通じないらしい。
「昨晩は挨拶ができませんでしたね。四天王幹部の1人、リオンです」
「俺はガルドだ」
左の青年が、強いけどネーミングセンスがないやつ。右のマッチョが、参謀キャラに見せて脳筋のやつ、と記憶する。
「僕の名前はゼット。魔法使いです。あの、人の影を使って呪文を唱えてます。変なこと言ってるかもですけれど、お気になさらずに……」
フードを深くかぶったこの人物は、ゼットというらしい。ぷるぷると言っていたのは、あのスライムの影を使っていたからなのだろう。
妖艶なお姉さんが、顔を外した。顔に仮面をつけていたらしい。さっきまでの妖艶な表情とは打って変わって、死んだ魚のような眼だ。
「アイリンです。よろしくおねがいします。魔王様。」
よくわからないが、変な奴だろうというのは想像に容易い。
こうして、最強主人公のはずが最弱魔王だった俺の転生物語のようなものが始まった。
転生したら最弱魔王~クセ強だけど最強の味方にだけ無双できる俺、ボスに祭り上げられたけどスライムすら倒せません~ 小田千耀 @tukitohisui
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