愚国礼賛

ソウ=エターニッチ=サフル

愚国礼賛

星々は、正しい国を一つも持たなかった。

それでも人は、正しさの名で国を作り続けた。


広場に集まった民衆は、新しい政府を作ろうとしていた。

そこへ、五つの影が歩み寄る。

それぞれが自らを「最も優れた統治」と名乗り、民衆の前に立った。


民衆の前に立ち、金糸で縫い上げられた外套をまとった人物が静かに息を吸った。

その姿は、まるで千年の歴史そのものが歩いてきたかのような威厳を帯びていた。


「民よ。私は“君主制”という名の秩序だ」


声は柔らかく、それでいて抗いがたい重みを持っていた。


「私の美徳は明快さにある。

 お前たちは迷わずに済む。

 判断は私が下す。責任も私が負う。

 ゆえに国は揺らがず、血筋と伝統が未来を導く」


民衆の間に、安堵にも似たざわめきが広がる。

確かに、誰かがすべてを決めてくれる世界は、心地よい。


しかし、数名がこう追求した。

「もしも貴方が愚かな選択をしたらどうすれば良いの? 私たちで選択できないの?」


君主は反論した。

「民からすれば愚かな選択だろうと、私からすれば伝統と国を守ることができる。民衆が迷えば時間がかかるだろう?私が全て決させてもらえば千年の安定を約束しよう」


民は静かに聞いていた。

「また私の血筋は尊い。だが、皆は血筋は選べぬ。

ゆえに、お前たちの未来もまた、選べぬことがある。だが、それでも良いのだろう?

民の声は時に騒がしく、時に危うい。

だからこそ、私はお前たちの代わりに迷い、代わりに誤る」

最後の一言は、祝福のようであり、呪いのようでもあった。


民衆は自由を求めて一部の者が反発し、民衆が君主制から距離を置いたその瞬間


群衆の中から軽やかな足取りで一人の人物が前へ進み出た。

質素だが清潔な衣服をまとい、どこか親しみやすい笑みを浮かべている。


「やあ、民のみんな。私は“民主制”だよ」


声は明るく、まるで友人に話しかけるような軽さがあった。

先ほどの君主制とは対照的に、威厳よりも親近感をまとっている。


「私の美徳は、何より“自由”と“平等”だ。

君たち一人ひとりの声が、国の形を決める。

君たちの選択が、未来をつくる。

君たちの意思こそが、正統性そのものなんだ」


民衆の間に、希望のようなざわめきが広がる。

自分たちが国を動かせるという感覚は、甘美だった。


しかし、群衆の中から慎重な声が上がる。


「でも……私たちが間違えたらどうなるの?

人気や表面上の取り繕いだけで選んでしまったら?」


民主制は笑みを崩さず、肩をすくめた。


「もちろん、間違えるさ。

民が揺れれば国も揺れる。

その不安定さこそが、私の本質なんだ」


軽やかな声なのに、どこか底知れない影があった。


「貴方たちの中で最も多い声が反映されるんだ。

だから、少数を気にしなくてもいいんだよ

それでも民意で配慮するというのなら、私は動けなくなる」


民衆はざわめき、君主制と民主制のどちらがいいかで割れた。


「ちょっと待ってよ。意見が半分に割れると私も真っ二つになっちゃうんだ。

愚かな選択をしないでよ。私まで愚かになっちゃう」


慌てる民衆制はその場から逃げだそうとして、君主制とぶつかった。


民衆が驚いて目を向けると、

そこには整った身なりの人物が静かに立っていた。

豪奢ではないが、無駄のない仕立てのスーツ。

その姿は、個人ではなく“制度そのもの”が歩いてきたかのようだった。


「落ち着いてくれ、民よ。私は“共和制”だ」


声は穏やかで、どこか事務的な響きがあった。

感情よりも理性を優先する者の声だ。


「私は民衆にも、一人の暴君にも頼らない。

君主のように血筋に縛られず、民主制のように感情に流されもしない。私が信じるのは“制度”と“法”だ」


民衆の間に、安心とも退屈ともつかない空気が流れる。


「私の美徳は“均衡”だ。権力は分け合い、監視し合い、誰も独りで国を動かせない。

ゆえに暴走は起きにくい。ゆえに安定する」


その言葉は理屈としては正しい。

だが、どこか冷たさもあった。


民衆の一人が手を挙げる。

「でも……誰も独りで動かせないってことは、誰も責任を取らないってことじゃないの?」


共和制は一瞬だけ目を伏せ、すぐに淡々と答えた。

「その通りだ。責任は分散される。

だからこそ、誰も暴走しない。だが同時に、誰も決断できないこともある」


別の者が続ける。


「議論ばかりで、何も決まらないこともあるんじゃない?」


共和制は微笑んだ。

それは自嘲にも似た、乾いた笑みだった。


「議論は私の誇りであり、弱点だ。

民の声を拾い、代表を選び、代表がまた議論し、調整し、妥協する。

その過程は美しい。だが、時間がかかる。

時に、永遠に決まらない」


民主制が横から口を挟む。

「ねえ、それって私より優柔不断じゃない?」


共和制は肩をすくめた。

「民意をそのまま反映する君とは違う。

私は“民意を加工する装置”だ。だからこそ、純粋ではない。だが、暴走もしない」


君主制が静かに言う。

「つまり、お前は実態に合わなっても装置としてあり続けるのだな」


共和制は否定しなかった。

「私は制度のために動く。民のためでも、王のためでもない。制度こそが国を守ると信じているからだ」


その言葉は正しく、同時にどこか空虚だった。


民衆は共和制の安定に惹かれつつも、

その“決められなさ”に不安を覚えた。


「一人の人間が全責任を追って、制度を変えればいいんだ。勇気がある者が犠牲になるだけで良いんだ」


民衆が共和制の言葉に揺れ、ざわめきが広がったその時だった。


「ならば、私が決めてやろう」


低く、鋭く、空気を切り裂く声が響いた。

人々が振り返ると、そこには軍服のような重厚な衣をまとった人物が立っていた。

背筋は真っ直ぐで、視線は一点の迷いもない。

まるで“決断そのもの”が形を取ったような存在だった。


「私は“権威主義”だ」

その声は、命令でもあり、宣告でもあった。


「君主制は血筋に頼り、民主制は民意に揺れ、共和制は議論に沈む。だが私は違う。

私は迷わない。 私は揺れない。 私は決める」


民衆の間に、緊張と期待が入り混じった空気が走る。

権威主義は一歩前に出た。


「お前たちは決められないと言ったな。

ならば、私が決めよう。最も効率的な道を、最も速く。反対者がいようと、迷う必要はない。私が排除する」


その言葉は、安心にも恐怖にも聞こえた。

民衆の一人が震える声で尋ねた。


「で、でも……私たちの意見は……?」

権威主義は即答した。


「必要ない。

意見は遅い。議論は無駄だ。民意は揺れる。だから私が決める。それが最も早く、最も確実だ」


民主制が眉をひそめる。


「ちょっと、それって……民の自由はどうなるの?」


権威主義は冷たく笑った。


「自由は混乱を生む。

混乱は弱さだ。弱さは国を滅ぼす。

ゆえに、自由は制限する。沈黙こそが秩序だ」


共和制が静かに言う。

「だが、君が倒れたら国も倒れるのではないか?」


権威主義は胸を張った。

「私が倒れぬようにすればいい。反対者を抑え、情報を統制し、力を集中させる。それが安定だ。それが強さだ」


その言葉は確かに“決断”の力を持っていた。

だが、同時に逃れられない影のような重さもあった。


民衆が権威主義の権威を、個人か、機構か、歴史か

様々なもので悩んでいると誰かが一言漏らした。

「それって君主制のように富は一極集中しますか?」


「もちろん権威主義なのだから、権威ある物に注がれるべきで、それ以外はどうでも良いだろう?」


民衆はざわめいた。


「何を犠牲にするかだ。

権威ある物に注ぐべきで、それ以外は要らないだろう?権威あれば皆従うからな」


「必要な個人、必要な機構、権威以外の歴史を捨てるってこと?」


「他人聞きの悪いことを言うな

権威あるものは発展するんだぞ?それ以外はなくても十分だろ」


民衆は権威に富が集中し、柔軟性を失うことを憂いた。


民衆が権威主義の言葉に怯え、

しかし君主制にも民主制にも共和制にも決めきれず、ざわめきが渦を巻き始めたその時だった。


「――ならば、権威そのものを無くせば良い」


静かだが、揺るぎない声が響いた。

人々が振り返ると、そこには統一された制服をまとった人物が立っていた。

豪奢でもなく、質素でもなく、ただ“均一”であることを象徴するような姿。


「私は“共産制”だ」


その声は、個人ではなく“集団の意志”が語っているようだった。


「君主制は血筋に偏り、民主制は民意に揺れ、共和制は制度に縛られ、権威主義は力に集中する。

だが私は違う」


共産制はゆっくりと手を広げた。


「私は“平等”を基盤とする。

権威を一つに集中させるから争いが生まれるのだ。

ならば、権威を消し去り、すべてを皆で共有すれば良い」


民衆の間に、期待と不安が入り混じったざわめきが走る。


「富も、土地も、労働も、責任も。

すべてを均等に分け合う。

誰かが突出するから不満が生まれる。ならば、突出を許さなければ良い」


権威主義が鼻で笑う。


「突出を許さない?

つまり、優れた者も押し潰すということだろう?」


共産制は淡々と答えた。


「突出は不平等の種だ。

平等のためには、均一化が必要だ。個人の差異は、集団の調和を乱す」


民主制が抗議する。


「それじゃあ、少しの自由すらなくなるんじゃないか」


共産制は首を横に振った。


「自由は平等を壊す。だから、自由は“管理”されるべきだ。

皆が同じであれば、誰も苦しまない。

誰も取り残されない。誰も上にも下にもならない」


君主制が問う


「誰が責任を負うんだ?」


すると、共産制は自信満々に答えた。

「一人の失敗は皆の失敗でもある。私の失敗は一人の失敗でもある。だから責任を個人で負う必要はない」


民衆にとって凄く魅力的に共和政が見えた。

しかし、共和制によって目を覚ます。


「だが、異論はどう扱う?」


共産制は一瞬だけ沈黙し、

その後、揺るぎない声で答えた。


「異論は“分裂”だ。分裂は不平等を生む。

ゆえに、異論は統合されるべきだ。

皆が同じ方向を向くことこそ、真の平等だ」


その言葉は、優しさと圧力が同時に宿っていた。


民衆は、

「誰も取り残さない平等」と「誰も抜け出せない同一化」

の狭間で揺れ動いた。


そこに軽やかなピエロが現れた。

赤と青のまだら模様の衣装、鈴のついた帽子。

歩くたびにカラン、と軽い音が鳴る。

「レッツ アナーキー」


その声は明るく、楽しげで、

しかしどこか底の抜けたような危うさを孕んでいた。


「私は“無政府状態”さ。

君主もいらない。民主もいらない。

共和もいらない。共産もいらない。

権威? そんなの一番いらないね」


ピエロはくるりと回り、両手を広げた。


「だってさ、誰かが誰かを支配するから争いが起きるんだろ?なら、支配そのものを無くしちゃえばいいじゃないか」


民衆はざわめいた。

その言葉は、自由の極致のようであり、混沌の予兆のようでもあった。


アナーキーは続ける。

「君たちは自由が欲しいんだろ?

だったら、私が一番自由だよ。

法律もいらない。制度もいらない。

責任もいらない。上下関係もいらない。

みんな勝手に生きればいいんだ」


民主制がアナーキーに問う

「でも、それじゃあ……私よりも秩序がなくなるんじゃない?」


民衆はどよめいた。

自由に惹かれたが、政府がないと言うことは公共が存在しないということ


アナーキーは笑った。

「秩序?そんなの、誰かが勝手に決めた線引きだよ。

線を消せば、全部自由になる。ほら、簡単だろ?」


共和制が静かに問う。


「だが、誰も決めないなら、争いはどうやって止める?」


アナーキーは肩をすくめた。


「止めないよ。争いたいなら争えばいい。

助けたいなら助ければいい。全部、個人の自由さ」


権威主義が冷たく言う。

「つまり、力のある者が好き勝手に支配する世界だな」


アナーキーはにっこり笑った。

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。

だって、支配するのも自由、逃げるのも自由、壊すのも自由、作るのも自由なんだから」


共産制が静かに呟く。

「それは……平等ではない」


アナーキーは軽く跳ねた。

「平等?そんなの、誰かが作った“形”だよ。

私は形を壊す。壊れた後に何が残るかは、君たち次第さ」


民衆は息を呑んだ。

アナーキーの言葉は、究極の自由と

究極の無責任が同時に存在する世界を示していた。


ピエロは最後に深くお辞儀をした。

「さあ、好きにすればいい。

政府なんて、必要だと思う者だけが作ればいい。

必要ないと思う者は、勝手に生きればいい。私はただ、線を消すだけだからね」


その言葉は、甘美で、危険で、どこか魅惑的だった。


民衆は悩み、腐敗するたびに制度を変えた。

「私なら皆んなの意見を尊重するよ〜」


しばらくして、自由と多様性の名を元に内部分裂をした。


そして君主制と共和制に分かれた。

「民主制の時のような自由はないが、私が決めて導こう」


「民主制と同じような自由を残すか、それとも消すかは君たちの望んだ法の通りだよ」


途中で中央に、共和政と君主制を混ぜた。

立憲君主制が生まれた。


「私は象徴だが君臨せず、法を守ろう」


権威主義がひょっこり顔を出した。

「皇帝と法を権威とする私の親戚だな」


すると、共和政と君主制は声を揃えて抗議した。

「権威ではなく象徴だ」


安定していたがしばらく経つと、全て崩壊した。


立憲君主制はいつの間にか、権威主義に内側から食い破られ

共和制は機構が固定化され、責任を誰も取ろうとせず、政府が固まって壊れた。

君主制は賢い皇帝が死に、愚かな者が国を崩壊させた。


「君主に虐げられし者共よ!

ここに皆が平等な国を作ろう!!」


「権威こそ全てをまとめる!私を敬い、そして成長させよ!」


「レッツ アナーキー。皆んな自由なのさ」


生まれた三ヶ国は争い、更に分裂した。


共和制と権威主義が混ぜられた主義

選挙権威主義


「アナーキー!! 君たちはこうするんだね」

相互主義 個人主義的無政府主義 集産主義的無政府主義


「貴様と混ざって生まれたこれはなんだ!?」

共産制は頭を抱えたくなった。


無政府共産主義が生まれ

「必要そうだから共産制お兄ちゃんにこれ上げる」


共産制は弱っており、生きるのに必要な分を周囲より多く貰った。


「お兄ちゃんもう元気だよね?もう要らないよね」

二重人格で、多く貰った物は圧をかけて次は少なく。少かった人には、多く与えようとして……


「お兄ちゃん!!皆んな働かなくなっちゃたよ〜」


共産制は個人所有を目指す者に革命を起こされた。


「私は帝国主義!!全てを喰らいたい。いただきます」

共産制が崩れ、生まれた帝国主義。

豊かさと繁栄を求めて侵略を開始した。


アナーキーで溢れる地域を次々と呑み込み、最後は拡張する土地がなくなって

「お腹が空いたよ。私のご飯となる国はもう無いの?」


その後も、主義は生まれては淘汰された。

民衆は疲弊し、また集まって話し合うことにした。


「結局、私たちは何を選べばいいの」

後ろに積み上がった制度と主義の死体の山

民主に殺されては、新たに生まれたことを表していた。


「俺は自由に生きたい。物を所持して、自分の限界を試せる国がいい」


「私は制度の元で生きたい。困った時に助けてくれる国で生きたい」


「僕は何もしなくても生きられる。楽園のような国で生きたい」


「自分は皆んなで話し合って物事を決めたいな」


「俺様は全てを決めて、威厳に溢れる生活がしたい」


「何にも縛られず、自由を追求したい」


しかし、どの国が自分にとって有利か考える者にとって……

国の意味を考えられず、個を追求し続ける。


「そもそも国という考え方が無謀なのかなぁ……?」


「私たちって、結局のところ自分の有利な環境を選びたいだけなのかな」


少年は空を見上げた。少女は答えなかった。

星々は、どの国にも属していなかった。


「俺は共和政で勇気を持って声を挙げてみるよ」

責任を被せられ、彼はこの世を去った。


「私は君主制で君主を批判してみるわ」

民衆の見せしめにされ、彼女もこの世を去った。


「僕だけが残されちゃった。二人とは違う方法を試してみような」


民衆は時に愚かになり、時に賢くなり

時に偉大な個を輩出し、時に愚か者を生み出していた。


結局のところ、誰もが正解を追い求めているだけであった。


それでも、己の主義を疑い、また選び直す者がいる限り、世界は愚かに、しかし確かに、前へ進み続ける。



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