翠香の大使スプラッシャー!
家守るい
第1話『少年とふしぎな生き物』
「うーみーはなんて青いんだー」
魔法のようにきらめく海と、すこやかな緑に囲まれた萃香島。潮騒に負けないくらいの元気な歌声が渦巻いていた。
「景くん、朝から楽しそう」
「そりゃあ、頑張って掃除したからな!」
潮風がそよぐ海辺で、赤毛の少年――明石景は金髪の少年を連れて歩き出す。
「あ……ちょっと待って」
「いってぇ……。悪い、トオル」
「この子、海から来たのかな?」
急に立ち止まる湖南トオルの肩にぶつかった景は頭を下げた。
言われてみれば確かに、クラゲにもてるてる坊主にも似て似つかない物体が倒れていいる。
「知らない」
このような生物がいると聞いたことがなければ、ぬいぐるみとして売られているところを見たこともない。
(変なヤツ)
気持ち疑る景の傍ら、トオルは大事そうに生き物を抱えている。丸くてふんわりと包み込むその手つきはまるで母親のようだ。
「景くん、いま何時かな?」
「朝の7時」
「じゃあ、まっすぐうちに連れていこう」
トオルに促され、景は左腕のスマートウォッチを見る。急げばギリギリ間に合うかもしれないと思った。
「……おまえらしいぜ」
時間に余裕があると言えたわけではないけれど……。
仕方ないなと思って、トオルの後ろについていく――そんな景の癖毛を南風がぐっと引っ張って離さない。
「いっ……!?」
自分たちを足止めしようとするかのように。
――私はぬいぐるみではない。
「ひぃっ!?」
ひらひらとした足で蹴り上げるぬいぐるみに、全身でおののくトオル。
したたかな男性の怒声を聞きつけた景はとっさに叫んだ。
「トオル、こいつ……生きてるぞ!」
「ほんとだ……、あったかいね」
これまでぬいぐるみかと思っていたものが、腕の中で息吹を返しているところが恐ろしい。トオルは物珍しそうな目で生き物を見つめている。
「……どうやら、寝ている暇はないようだな」
「へ?」
「君たちに私の姿が見えているのなら、緊急事態といえよう」
勝手に連れ去ったことに文句を言いたかったのか、それとも……。
ごしごしと目をこすり、仁王立ちをする生き物。景とトオルは「は!?」と声を上げた。
「コイツどうすんだよ!」
「僕に聞かれても困るよぉ……」
景がおそるおそるトオルに掛け合うと、しどろもどろな答えが返ってくる。第一発見者は誰だよ……と問い詰めたくなったところで、やめた。
(落ち着け、オレ……!)
トオルを泣かせてしまうのは嫌だから。
「おっと……こうしちゃいられない」
唖然とするふたりを前に、例の生き物が立ちふさがる。
「おい、そこの少年ふたり」
「はい!?」
「私を連れていってくれ」
どうやら自分たちを逃がすつもりはないらしい。
「そんなこと言われても、オレたち今から学校なんだけど」
「細かいことはどうでもいい」
景はすかさず、学校にぬいぐるみを持っていくのは校則違反であることを告げる。それでも相手は聞く耳を持たない。
「景くん」
「……わかったよ」
しまいにはトオルにも説得され、景は歯を食いしばって諦めた。
「学校ではお静かに頼むぜ」
「ルールを守らないと、僕たち退学になっちゃうかもだから……」
「ああ、わかった」
最終的にはトオルが話を丸めてくれたおかげで、その生き物はようやく納得したようだった。
「おっと……これじゃ遅刻だな!」
「急がないとね……!」
予鈴のチャイムを聞きつけた景は、トオルを引っ張って走る。生き物は透明体になって景のスクールバッグの中に消えていく。
ふたりが翠香学園に着いた頃には門が閉まりそうだったが、「会長たちが遅れたのは相応の理由があるのだろう」と先生たちに許してもらえたことは言うまでもない。
母なる海とともに迎える常夏。
始業の鐘とともに、少年たちの勇姿が砂浜に刻まれようとしていた……。
(つづく)
翠香の大使スプラッシャー! 家守るい @RuiNatsuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。翠香の大使スプラッシャー!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます