クラスの人形姫が義姉になりました。

冬のひなぎく

1章 卯月

第1話

「陽太、大切な話があるの。」


「ん?どうしたの改まって。」


 高校生活に慣れ始めたとある日の夕食中のこと。

 普段から誰に対しても底抜けの明るさで接している母が、こんなにかしこまっているのはかなり珍しい。


「お母さんね、再婚することにしたの。」


「ぶふぉぉ」


 その後聞いた話に、食後のお茶は喉を通らなかった。


 ………


 俺、朽木陽太くちきようたは普通のオタク男子高校生だと思う。友達は1人だけいるけど、これ以上増やしたいとは全く思わない。


 そもそも、クラスでは陰キャ扱いされてるから、話しかけてくる人もいないだろう。


 そして、高校の入学式から1ヶ月、昨日の母の発言のせいで、今日の授業内容はほとんど頭に入らなかった。


「お前今日様子がおかしくね?」


「そう見える?」


 放課後、いの一番に話しかけてきたのは、唯一の友達である谷山総士たにやまそうしだ。

 文武両道の体現者とでも言おうか、スポーツ推薦で入学したくせに頭もいい。なんなら顔も整っているから、入学から今日までの1ヶ月で、両手の指では数え切れない程の女子生徒から告白されている。


 正直なんで俺みたいな地味な奴に喋りかけてくるのか分からないというのが本音だ。まあ、暇だから拒むことは無いのだが。


「なんか心ここに在らずあらずというか。」


「いや、ちょっと昨日とんでもないことを母親から聞かされてしまってね。」


「なんだそれ。でも、沙羅さんって普段からとんでもないことをバンバン言いそうだよな。」


「うちの母親に対する偏見が凄いな。」


「いや、この前お前ん家行ったとき、そんな感じだったぞ。お前とは似ても似つかぬ話し方だしな〜」


「だろうね」


 総士は陽キャの権化みたいなやつだ。母親とも出会って3秒で意気投合していた。


「んで、とんでもない話ってなんだ?」


「ちょっと耳貸して」


「ん?」


(おれさ、姉が出来るらしい)


「は?!てことは―」

「しーっ!」


 これはかなりセンシティブな話でもあるし、人様の耳に容易に入れていい内容ではないだろう。


「まあ、あんまり詮索するのは良くないよな。でもいいな〜。おれも上の兄弟ほしいな。」


「そうか?まあ、同学年らしいけどね。」


「まじか……その子の名前とか聞いてないのか?」


「正直、イントロの衝撃が強すぎてあんまり覚えてない。」


「ま、まあ確かに。いきなりそんなこと言われたらな誰でも混乱するわな。それで、いつになるんだ?」


 多分その子といつ会うのか聞いてるんだろう。


「この後、予約してあるレストランで一緒にご飯食べるらしい。その時が初対面だと思うよ。」


 正直、いきなり「明日会うからオシャレな服に着替えて待っててね。」とか言われても困る。そもそも、レストランに合う服なんて持ってたっけ……


「ん?ご飯って……あぁ、今日その子と会うのか」


 ん?ということは、再婚がいつになるのか聞いてきたのか。まあ、母の性格だし、直ぐに籍を入れるんだろう。


「俺も昨日の今日でかなり急な話だと思ったよ。でも、母さん楽しそうに話してきたから何も言えなくてね。」


「それはそうだな。まあ、また明日どうなったか聞かせてくれよ。」


「うん、また明日。」


 どんな子なんだろう、少なくとも母を大切にしてくれる人でなければ受け入れられない、どこの学校に通っている人なんだろう。


 新しく出来る義姉への期待と不安で、慣れた下校路を歩む足取りがやけに重かった。


 ………

 ……

 …


「はぁはぁ、もう、陽太のせいで遅刻ギリギリじゃない!」


「母さんがあれでもないこれでもないって服選ばせるからだろ!」


 オシャレがあまり分からなかったおれは、白いワイシャツに制服のズボン、学校のものとは違う青いネクタイをつけていた。

 しかし、仕事から帰ってきた母に、退勤時のサラリーマンかっ!て言われ、俺の選んだ装備1式は没になってしまったのだ。


 結局、黒いワイドパンツに白いワイシャツ、春物のベージュのカーディガンとなった。俺のクローゼットにこんな服が入っていたとは……


 あーだこーだ言いながら、予約しているというレストランに到着した。

 全国に数店舗あるというチェーン店で、そこまで格式高いお店では無さそうだが、マナーくらいはしっかり意識しておいた方が良さそうだ。


「…一ノ瀬で予約してます。」


「4名様ですね。お連れの方は先に中でお待ちになられておりますので、ただいまご案内いたします。」


 母と受付の方がそんな会話をしている。どうやら、既に中で待っているのは一ノ瀬という名前の方らしい。

 その2人が近いうちに、俺の父と姉になると思うと、さすがに緊張してきた。


 案内係の人の後ろをとぼとぼついていくと、個室に案内された。


 コンコンッ


「お連れの2名様がお越になられました。」


「どうぞ〜。」


 15年生きてきて一度も聞いた事のない、低くて穏やかな声だ。長年、様々な経験を積んできたかのような落ち着きさえ感じる。


「お待たせしてすみません蓮二さん!」


 母はいつもの明るさで、扉を開けながら一言詫びを入れていた。

 横開きの扉が、カラカラと静かに音を立てながら開かれていく。


「はは、時間通りなので気にしないでください。」


 現れた白いテーブル席には、紺色のスーツを着て、髪をきちんと整えている40くらいの男性が座っていた。


 母は何故か蓮二と呼ばれている男性の隣に腰掛けていた。

 じゃあおれはどこに座ればいいのかと反対の席を見ると、なにやら見覚えのある女性がいた。テーブルの上に、スマホをの横向きに置いて、画面をじっと見つめている。


 長くて綺麗な黒髪の内側から、白い束が数本見え隠れしている。左右対称で整った顔立ちに、薄い藤色のガラス玉をはめ込んだような綺麗な瞳。

 そんな彼女の名前は――


「一ノ瀬 灯葉とうはさん?」


「ん、えーと、朽木〜、朽木………はるとくん?」


「実は、陽に人と書いてようとって読むんですよ。」


 名前を覚えられていなかったのは残念だが、ボクは彼女を知っている。交友関係が少なく、陰キャな俺でも知っているくらいの有名人だ。

そんな彼女は、


――クラスで"人形姫"と呼ばれている――

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2026年1月15日 06:00

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